Archive for category トランス

Date: 9月 5th, 2020
Cate: トランス, フルレンジユニット

シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(パワーアンプは真空管で・その5)

タムラのA8713は、一次側、二次側ともに二組の巻線がある。
この巻線の結線を変えることで、
一次側は20kΩか5kΩ、二次側は600Ωか150Ωに設定できる。

9月のaudio wednesdayでは、20kΩ:600Ωで使っている。
20kΩにするか、5kΩにするか。

どちらがいい結果が得られるか、
使用機器によって違ってくるだろうが、
私が、今回の音の変化の大きな理由として考えている、
直流域での抵抗の低さが効いているのであれば、
巻線の直流抵抗は低い方がいい、ということになる。

A8713の一次側(20kΩ)の直流抵抗は、ほぼ1kΩである。
5kΩにすれば、直流抵抗は半分の約500Ωになるし、
一次側の巻線を単独ではなく、並列接続すれば、
5kΩであっても、直流抵抗はさらに半分の約250Ωになる。

池田圭氏は、《Lをパラってみると》と書かれている。
トランスもコイルなのだが、
もっとも単純なコイルでも、同等の音の変化が得られるはずである。

ただ同じ値のトランスとコイルとでは、どちらが音がいいのだろうか。
トランス使用では二次側の巻線は開放のままである。
使っていない。

その巻線がぶら下がっているのは、精神衛生上よくない、と考えることもできるし、
意外にも開放状態の二次巻線があるからこそ、
のところはまったくないとは言い切れないようにも感じている。

このへんのことはこれからじっくり聴いて判断していくしかない。
ならばコイルは、何をもってくるのか。

A8713のインダクタンスは、私が持っているLCメーターでは、測定できなかった。
故障しているのか、と思った。
他の部品を測ってみると、きちんと動作している。

20kΩの結線のままだったから、試しに二次側の巻線を測ってみたら、きちんと値が出た。
今度は一次側巻線の半分だけを測る。
10Hを少しこえる値だった。

私が持っているLCメーカーは20Hまでしか測れないためだったわけだ。

Date: 9月 3rd, 2020
Cate: トランス, フルレンジユニット

シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(パワーアンプは真空管で・その4)

今回使ったケーブルは、私の自作だ。
いま喫茶茶会記で、メリディアンの218に使っているのも、私の自作で、
どちらも同じケーブルを使っている。

なので、今回の比較は、多少長さの違いはあっても、
同じケーブルでのトランスの有無(一次側巻線の並列接続の有無)である。

この実験は、ずっと以前に、
自分のシステムで、まだアナログディスク時代に試している。

今回、ひさしぶり(30年以上経つ)の実験である。
前回の記憶は、けっこう曖昧になっているけれど、
なんとなくの感触は、まだ残っていた。

けれど、今回の音の違いは、あのころよりも大きかったように感じた。
スピーカーもアンプも、なにもかもが違うわけだが、
それにしても、こんなに違うのか、と、私だけでなく、
いっしょに聴いていた人も、そう感じていた。

池田圭氏は、
《たとえば、テレコ・アンプのライン出力がCR結合アウトの場合、そこへ試みにLをパラってみると、よく判る。ただ、それだけのことで音は落着き、プロ用のテレコの悠揚迫らざる音になる》
と書かれている。

昔も、そう感じた。
今回も、まったく同じであるのだが、その違いが大きくなっているように感じた。

児玉麻里/ケント・ナガノによるベートーヴェンのピアノ協奏曲第一番(SACD)で、
ケーブルの比較を行った。

A8713の一次側側巻線が並列に接続されると、
ピアノのスケールが違ってくる。

並列にした音を聴いてから、ない音を聴くと、
ピアノがグランドピアノが、どこかアップライト的になってしまう。
オーケストラもピラミッド型のバランスの、下のほうが消えてしまったかのようにも聴こえる。

もう一度、巻線を並列に接続した音に戻すと、悠揚迫らざる音とは、
こういう音のことをいうんだ、と誰かにいいたくなるほどだ。

Date: 9月 3rd, 2020
Cate: トランス, フルレンジユニット

シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(パワーアンプは真空管で・その3)

その2)で書いていることを、昨晩のaudio wednesdayで試した。

使ったトランスは、タムラのA8713だ。
一次側が20kΩ、二次側が600Ωのライン出力用トランスである。
手に入れたのは30年ほど前のこと。

(その2)か、池田圭氏の「盤塵集」のどちらを読んでほしいのだが、
A8713の一次側の巻線のみを使う。

ラインケーブルに並列に、一次側の巻線が接続されるだけである。
二次側の巻線は使わない。
一般的なトランスの使い方からすれば変則的である。

ようするにCDプレーヤー(もしくはD/Aコンバーター)の出力に、
A8713の一次側の巻線が負荷として接続された状態である。

これならばトランス嫌いの人でも、手持ちのトランスがあれば実験してみようと思うかもしれない。
CDプレーヤーの出力にトランスといっても、
CDプレーヤーが登場してしばらく経ったころに、
ライントランスを介在させると、CDプレーヤーの音が改善される──、
そんなことがいわれるようになったし、メーカーからもいくつか製品として登場した。

いくつか試してことはあるし、
SUMOのThe Goldを使っていた関係で、
TRIADのトランスを使ってバランスに変換して、
The Goldのバランス入力へ、という使い方はやっていたが、
CDプレーヤーの出力に、安易にトランスを介在させるのは、決して絶対的なことではない。

けれと
池田圭氏の使い方は、上記しているように、ちょっと違う。
今回はA8713の一次側は20kΩのまま使った。

一次側、二次側とも巻線は二組あるから、結線を変えれば、インピーダンスは低くなる。
同時にコイルの直流抵抗も小さくなる。

今回のようなトランスの使い方では、
コイルの直流抵抗の低さが、かなり重要になるような気がしてならない。

できればインダクタンス値が高くて、直流抵抗が小さい、
そんなトランスがあればいい。

Date: 5月 13th, 2020
Cate: トランス, フルレンジユニット

シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(パワーアンプは真空管で・その2)

池田圭氏の「盤塵集」に、こんなことが書いてある。
     *
このところ、アンプの方ではCR結合回路の全盛時代である。結合トランスとかリアクター・チョークなどは、振り返っても見られなくなった。けれども、測定上の周波数特性とかひずみ率などの問題よりも音の味を大切にする者にとっては、Lの魅力は絶大である。
 たとえば、テレコ・アンプのライン出力がCR結合アウトの場合、そこへ試みにLをパラってみると、よく判る。ただ、それだけのことで音は落着き、プロ用のテレコの悠揚迫らざる音になる。
     *
ここではテープデッキの出力となっているが、
CDプレーヤー、チューナー、コントロールアンプの出力の場合もだ。

その出力にライントランスの一次側だけを並列に接続する。
二次側は開放のままである。

「盤塵集」を読んで数年後に試したことがある。
タムラのライントランスで、一次側が20kΩ、二次側が600Ωの仕様だった。

たしかに池田圭氏の書かれているとおりの音になる。
音の静けさも変化してくる。

タムラのトランスは、別のことに使うことになり、取り外したが、
また追試してみよう、とは思っている。

なぜ、そのように音は変化するのか。
トランスは一次側の巻線を信号経路に並列にするだけである。

あれこれ、その理由を考えた時期がある。
結局、これも直流域での抵抗が低さが効いているのではないだろうか。

一次側が20kΩだと、直流抵抗はそれほど低くはない。
それでもアンプのライン入力インピーダンスの一般的な値よりはずっと低くなる。

そういえば池田圭氏は、なるべく太い巻線のトランスのほうが、より効果的とも書かれていた。
つまりは直流抵抗がより低いトランスのほうが、ということでもある。

Date: 4月 29th, 2020
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その29)

非反転増幅回路も反転増幅回路も、
OPアンプなので、回路図はシンプルだ。

OPアンプ(三角形の記号)と抵抗(二本)の回路図での説明である。
OPアンプ内部の回路のことがよくわからなくても、
アンプの働き的なことは理解できる。

ある日、気づいた。
反転増幅の回路図を少し描き直すと、
“straight wire with gain”ならぬ、“straight wire with register”になる、ということに。

増幅度をもったワイアーならぬ、増幅度をもった抵抗、ということになる。

反転増幅の場合、入力に直列に抵抗が入る。
この抵抗の出力側にOPアンプの反転入力が接がる。
と同時に、この箇所にNFB用の抵抗も接がる。

一般的な回路図の描き方だと、
入力抵抗の出力側からまっすぐのびたところにOPアンプの反転入力があり、
その少し手前の箇所から垂直に上にのばしたところで、
OPアンプの出力へと接がる抵抗(NFB用)があるわけだ。

回路図的には、
入力用抵抗とNFB用抵抗とは一直線には並んでいない。
けれど、ちょっと描きなおして、一直線になるようにする。

つまり信号経路に二本の抵抗が直列に挿入される。
出力側の抵抗(NFB用)に並列にOPアンプがぶらさがるようなかっこうになる。

こう描くと、まさしく“straight wire with register”にみえてくる。

Date: 4月 29th, 2020
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その28)

“straight wire with gain”(増幅度をもったワイアー)がアンプの理想像、
そんなことが私がオーディオに興味をもったころはよくいわれていた。

アンプの増幅という動作を理解するために、
電子工学を一から学んでいくのがいいのだければ、
中学生の私は、ともかくも極端な理想形を考えた。

カートリッジとスピーカーを、ダイレクトに接続する。
カートリッジの出力レベルも小さいし、
それにカートリッジの大半は速度比例型だから、
高域と低域とではレベル差が生じる。つまりRIAAカーヴが必要になるが、
そんなことはとにかく無視して、スピーカーとダイレクトに接続するモデルを考える。

どんな高能率のスピーカーをもってきても、蚊が鳴くような音さえ出ないだろう。
次に考えたのが、“straight wire with gain”である。

カートリッジとスピーカーを接続するケーブルが増幅度をもっていたら、いいわけだ。
実際のシステムでは、それがアンプということになるわけだが、
現実のアンプは、“straight wire with gain”ではない。

現実のアンプが理想のアンプにはほど遠いから、そう考えたのではない。
アンプに入力された信号が、文字通り増幅されて出力されるわけではないからだ。

電源の直流を、入力信号に応じて変調したものが出力されるわけであって、
入力信号が増幅されているわけではない。

でも、そのことすら、中学生の私は完全に理解していたわけではなかった。
当時、OPアンプの活きた使い方(こんな感じのタイトルだった)という書籍があった。

OPアンプだから、増幅回路を全体を三角形で表わしている。
この本で、非反転増幅、反転増幅回路があることを知る。

いうまでもなく、世の中の大半のアンプは、非反転増幅。
つまり入力と出力の極性は同じである。
反転アンプは、入力が180度反転して出力される。

Date: 8月 15th, 2016
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その27)

アンプは増幅器と呼ばれている。
この「増幅」という言葉が、アンプが不平衡でも成り立つことの理解を阻んでいた。
あくまでも私の場合ではあるが。

増幅ということは、入力された信号が大きくなっていくことだと、まず思った。
増幅の原理がわからなくとも、無線と実験やラジオ技術に載っている回路図を見ては、
入力信号が出力されるまで、回路をどう経由していくのかはわかる。

初段のトランジスター(FET)でまず増幅される。
二段目でも増幅される。
いかにも入力信号が初段でまず大きくなり(増幅され)、
二段目でも大きくなるように理解してしまった。

初段の増幅率が10倍、二段目も10倍だとすれば、
この回路の増幅率は10×10で100倍である。
ということは出力信号の1%は入力信号である──、
でもこれは間違っている。

増幅とは、入力信号に応じて直流を変調していることに気づく必要があった。

Date: 8月 12th, 2016
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その26)

アンバランスという言葉を使ってしまったが、
当時はそんな言葉は知らなかった。
ただただ二本ある信号線の片側が接地(アース)されているのが理解できなかった。

大学で電子工学を学んでからオーディオマニアになった人ならば、
こんなことに疑問を抱かないであろうし、
まわりにオーディオに詳しい年上の人がいれば、
私の疑問に答えてくれたかもしれない(たぶん無理だと思う)。
そのころにインターネットがあれば、誰かに質問して答を求めたかもしれない。

そういう環境ではなかった。
中学校で習うのは理科である。物理ではなかった。
理科の知識では、片側接地の理由がわからなかった。

だからカートリッジでスピーカーを鳴らすというモデルを考えるしかなかった。
ただ運が良かったとでもいおうか、
これがCD全盛のころだったら、そういう考えも起きなかったかもしれない。

1970年代はアナログディスク全盛の時代である。
だからこそカートリッジでスピーカーを鳴らすというモデルの発想ができた、ともいえる。

オーディオ機器のさまざまな動作原理を理解するのに必要な知識が、まだ身についていなかった。
にも関わらず疑問を抱き、その疑問に対して答を求めようとするとき、
こういう極端なモデルの想像は、意外にも、というかかなり役に立つことがある。

Date: 8月 12th, 2016
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その25)

トランスはプリミティヴなパーツである。
にも関わらず理想に近いトランスの実現は不可能であり、
トランスほど、優れたモノとそうでないモノとの差は大きい。

抵抗やコンデンサー、コイルといったパーツよりも、その差は大きい。
しかもきちんと使いこなすためには、意外にもノウハウが必要となる。

それに良質のトランスは昔から高価でもあった。
真空管アンプの出力インピーダンスをただ単に下げるだけなら、
ライントランスを使うよりも終段の真空管をカソードフォロワーにしたほうが、
コスト的に安くなるし、性能的にも優れたなのになる。

それでもあえてトランスを選択する人がいる。

オーディオに興味をもった40年前。
最初に疑問に感じたのは、なぜアンプにしても、すべてのオーディオ機器はアンバランスなのか、
ということだった。

オーディオ信号は交流である。
交流はプラスとマイナスが反転する。
ということはプラスとマイナスは同条件の必要がある。
そうでなければ行って帰ってくることができないのではないか。

まだアンプの動作に関しても何も知らない13歳の私はそんな疑問をもった。

そして次に考えたのは、もっともわかりやすいモデルを考えた。
つまりカートリッジがスピーカーをドライヴすると、という最も単純なモデルである。

イコライザーカーヴがあるのは知っていたけれど、ここでは単純化のために無視する。
とにかくカートリッジが非常に高能率で、スピーカーも同じように高能率である。
カートリッジの出力をそのままスピーカーにつなげば、きちんとした音量と音質が得られる。
そういう、現実には在りえないモデルを想像したうえで、あれこれ考えていった。

Date: 12月 2nd, 2013
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その24)

理想トランスが実在していたとする。

この理想トランスの二次側は開放(つまりなにも接続しない)の状態で、
一次側のインピーダンスはどういう値を示すか。

巻線比が1:1であっても、1:2であっても、1:10でも、
巻線比に関係なく無限大の値を示す、のが理想トランスというものである。

理想トランスの二次側に負荷を接続する。
負荷となる機器の入力インピーダンスが理想トランスの二次側をターミネイトすることになり、
この二次側の負荷の値と巻線比によって一次側のインピーダンスが測定できるようになる。

だが現実に存在しているトランスはすべて理想トランスとは呼べない。
二次側をターミネイトしなくても、開放した状態でも一次側のインピーダンスを測れば、
無限大ということは絶対にあり得ない。

実際のトランスはどんなに良質の材料を使って、
どれだけ注意をはらってつくっても、巻線の直流抵抗をゼロにはできないし、
インダクタンスを無限大にもできない。
コアの磁束密度にしても同様だ。

Date: 11月 29th, 2013
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その23)

トランスのことを書いていて、
トランスを信号系に挿入することの、音の上でのメリットについて書こうとしたときに、
頭に浮んできたのは、音に関する形容詞ではなく、
ついこのあいだのインターナショナルオーディオショウで聴いてきたVOXATIVのスピーカーのことだった。

VOXATIVのスピーカーもそうなのだが、優れたトランス(性能が優れているという意味ではない)には、
池田圭氏が盤塵集に書かれているように、音の味と表現したくなるところがある。

音の色ではなく、やはりここでは音の味と表現したくなる要素が、
VOXATIVのスピーカーにも優秀なトランスを正しく使ったときに得られる音にもある。
そして、この良さというのは、いつのまにか忘れられつつあるのではないだろうか。

Date: 11月 26th, 2013
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その22)

この、少し変ったトランスの使い方の効用について、池田圭氏は次のように書かれている。
     *
このところ、アンプの方ではCR結合回路の全盛時代である。結合トランスとかリアクター・チョークなどは、振り返っても見られなくなった。けれども、測定上の周波数特性とかひずみ率などの問題よりも音の味を大切にする者にとっては、Lの魅力は絶大である。
たとえば、テレコ・アンプのライン出力がCR結合アウトの場合、そこへ試みにLをパラってみると、よく判る。ただ、それだけのことで音は落着き、プロ用のテレコの悠揚迫らざる音になる。
     *
どんなに優秀な特性のトランスであっても、
トランスは何度も書いているようにバンドパスフィルターであるから、
測定上の周波数特性に関しては、トランスがないほうが優秀である。

それにインピーダンス変換ということについても、真空管アンプならばカソードフォロワーにするとか、
トランジスターアンプならばバッファーアンプを設けるなどすれば、
出力インピーダンスは低くすることができる。

コスト的にみても、優秀なトランスを採用するよりも、カソードフォロワーのほうが安く仕上るだろう。
コストを抑えられて性能も優れているとなると、トランスの出番は少なくなってくる。
しかもトランス・アレルギーの人が少なからずいるのだから。

録音系・再生系の信号ラインからトランスを排除していく。
それで、音が良くなるのだろうか。

池田圭氏も書かれているように、トランスには「音の味」が、
個々のトランス固有のものとしてあるし、トランスに共通していえるものとしてもあるように、
私も感じている。

Date: 11月 25th, 2013
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その21)

盤塵集をお持ちの方は、読み飛ばしていただくとして、
盤塵集は1981年に発行された本だから、この本の存在も知らない人が多くても不思議ではないから、
要約して書いておこう。

トランスには一次側と二次側のインピーダンスが同じモノもあるが、
一般的には一次側と二次側のインピーダンスは違う設計となっている。

管球式のコントロールアンプの出力に挿入されることがあるライントランスは、
一次側のインピーダンスが10kΩ、20kΩと高く、二次側は600Ωと低くなっている。
こういうライントランスが手元にあったならば、
トランジスター式のコントロールアンプの出力に接続する。
接続するといっても、トランスの基本的な接続とは少し違う。

二次側は開放とする。
一次側だけをコントロールアンプの出力に対して並列に接続する。
二次側の巻線の片側だけはアースに落しておく。
つまりライントランスのインピーダンスの高い巻線をコントロールアンプの負荷とするわけである。

ライントランスなどは持っていないという人も、
MC型カートリッジの昇圧トランスをひとつぐらいは持っているだろう。
それがあれば、ライントランスとは違い、二次側を同じようにコントロールアンプの出力に並列に接続する。
一次側巻線は開放で、巻線の片側だけをアースに落す。

これだけのことである。
アンプを改造したり昇圧トランスを改造したりすることなく実験できる。
コントロールアンプ・パワーアンプ間のケーブルは手を加える必要がある。
その結果が気にくわなければ、すぐに元に戻せる。

Date: 11月 25th, 2013
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その20)

トランスはバンドパスフィルターである。
どんなに広帯域のトランスであったとしても、バンドパスフィルターであことには変りはない。

トランスというモノを頭から否定する人は、まずこのところが気にくわないらしい。

それから一次側(入力)と二次側(出力)にそれぞれコイルがあり、
それが鉄芯に巻かれている。そしてふたつのコイルは電気的には絶縁されている。
このこともトランス否定の人は気にくわないようだ。

トランス・アレルギーの人はいる。
でも不思議なのは、そういうトランス・アレルギーの人が、
トランスをいくつも経て録音されたディスクを、いい音だと評価していることてある。
ほんとうにトランス・アレルギーであるのなら、
トランスを使っていた時代の録音は、すべて気にくわないはずなのに。

トランス・アレルギーの人は、再生系のどこかにトランスがひとつでも入っていればすぐにわかる、という。
音が悪くなるからだ、と。
そんなトランス・アレルギーの人でも、トランスを使っていた時代の録音をいいと感じるものがあるのなら、
すくなくとも池田圭氏が、盤塵集に書かれている使い方を試してみてはどうだろうか。

Date: 11月 23rd, 2013
Cate: トランス

トランスから見るオーディオ(その19)

トランスそのものはバンドパスフィルターである。
低域も高域も適度なところから下もしくは上の帯域はなだらかにカットされる。

伊藤先生の300Bシングルのアンプに搭載されていたトランスは、後期のモノはパートリッジ製を、
BTS規格のケースにおさめたものだが、
それ以外はマリック製のトランス(日本製)だった。

マリックのトランスを設計しつくられていた松尾氏は、
トランスはフィルター理論によって設計されなければならない。
けれど日本のトランスの多くは、そうではない。
そう言われていた、ときいている。

松尾氏が亡くなられて、伊藤先生の300Bシングルはトランスが変ったのである。

トランスはフィルター理論で設計。
つまりはロスを少なくしていくとトランスの通過帯域は狭くなる。
帯域を広くしていくと、ロスは増えていく。

いわば山の形をしている、どの部分を使うかによって通過帯域が決ってくるし、
その山の中心周波数がどの値に設定されているかも重要である、と。

伝聞とはいえ、信用できる人からの話なので松尾氏の考えとはそう大きくは違っていないはずだ。

そして中心周波数は、いわゆる630Hzあたり。
20Hzと20kHzを掛け合わせた値、40万。その平方根の値を中心周波数としなければならない、ということだ。