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Date: 11月 20th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その4)

優秀なパワーアンプとは、
スピーカーシステムを鳴らしきれるだけのパワー(単に出力という意味だけでなくパフォーマンスも含めて)をもつ、
ということになるのだろう。

どんなスピーカーをであれ、鳴らしきれるパワーアンプもあることだろう、
一方で、その範囲は狭まるものの、ある種のスピーカーを鳴らしきることのできるパワーアンプもある、といえる。
この場合、前者のパワーアンプの方がより優秀ということに一般的になるけれど、
オーディオを仕事としていなければ、つまりいくつものスピーカーを鳴らすということを目的としていなければ、
自分がそのとき気に入っているスピーカーを鳴らしきってくれれば、充分でありそれ以上を求めるかどうかは、
その人次第でもある。

鳴らしきれるスピーカーの範囲が広かろうと、ある程度限られていようと、
鳴らしきることのできるパワーアンプからすると、決して優秀とは呼びにくいパワーアンプがあることも事実である。
けれど、そういうパワーアンプのすべてが、いい音がしないわけでは、決してない。

たとえばウェスターン・エレクトリックの300Bのシングルアンプ。
このアンプを優秀なアンプとは呼びにくい。

もちろん300Bのシングルアンプといってもピンからキリまであるのだから、
あくまでもここでいう300Bのシングルアンプとは、私にとっては伊藤先生の300Bシングルアンプであり、
すくなくとも同等のクォリティをもった300Bのシングルアンプということに限らせてもらう。

出力が小さいからそれに見合うだけの高能率のスピーカーと組み合わせれば……、というとこになるだろうが、
それでも感覚的には、スピーカーを鳴らしきる、というイメージにもったことはない。
鳴らしきっている、というより、うまく鳴らしている、といった感じなのである。

300Bのシングルアンプは、一方の極にある。
もう一方の極には、いかなるスピーカーであろうと鳴らしきるだけの優秀なパワーアンプ。

パワーアンプという括りではいっしょにできないほど、このふたつの極のアンプの性格は違う。

マッキントッシュのMC275は登場したときは、優秀なパワーアンプの極に属していた、ともいえる。
けれどMC275の登場から50年以上が経ち、
いまでは300Bのシングルアンプの極にぐっと近い位置にいるといえる。

Date: 11月 19th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その3)

マイケルソン&オースチンのTVA1が現代のMC275と、当時いわれたのは、
なにもKT88のプッシュプルで出力がほぼ同じということだけでなく、
シャーシーがどちらもクロームメッキ処理されているということもあった。

KT88とクロームメッキ、ということでいえば、1983年に登場したフランスのジャディスのJA80もまた、
KT88にクロームメッキ・シャーシーの組合せだった。
JA80は、けれどAクラス動作(MC275、TVA1はABクラス)で80Wの出力を得るために、
KT88を4本使用したパラレルプッシュプル。

いま、これら3機種を集めて聴き較べをしてみたら、どういう結果になるんだろうか、と関心がある。
どれも、個性の強い(というより濃い)音を特色としている。
そういう音をベースにしていても、意外にも一色に塗ってしまう音とは違う。

しなやかさをきちんと持っている。
コントロールアンプを替えれば、カートリッジやCDプレーヤーを替えたりすれば、
その音色の違いを、それぞれのアンプ固有の音色の中に反映させる、という意味でのフレキシビリティの高さがある。

意外に思われるかもしれないけれど、MC275もフレキシビリティの高いアンプである。
これは以前書いていることだが、ステレオサウンドの試聴室で、MC275を鳴らしたことがある。

鳴らしたスピーカーシステムはBOSEの901に、アポジーのCaliper Signature、
コントロールアンプはあえて使わずにCDプレーヤーを直接接続。
音量調整はMC275の入力レベルコントロールで行った。

901とCaliper Signatureは、ずいぶんと異る面をいくつも持つスピーカーシステムで、
およそ共通するところはないように見える、このふたつのスピーカーをMC275を実にうまく鳴らしてくれた。

Caliper Signatureはインピーダンスが低いため、
トランジスターアンプでは大型の電源トランスと大容量のコンデンサーによるしっかりと余裕のある電源、
それに低インピーダンス負荷においても十分な電流供給能力をもつ出力段、
そういったことが要求されるわけで、必然的に大型パワーアンプと組み合わされることが多かった。

そういったアンプからみれば、MC275の出力は少ないし、規模も小さい。
リボン型の低インピーダンスのスピーカーシステムを鳴らしきるアンプとは思いにくい。

その印象はそう間違ってはいない。
Caliper Signatureに合うパワーアンプが鳴らしきる、という印象の音なのに対し、
MC275での音には、鳴らしきっている、という印象はない。
けれど、うまく鳴らしてくれる。
鳴らしきるパワーアンプでは聴けない表情をCaliper Signatureから抽き出してくれた。

Date: 11月 18th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その2)

瀬川先生は、JBL4345とジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットのあいだに、
どんなスピーカーシステムを鳴らされていたであろうか、を考えるにあたって、いくつかの要素がある。

その中でまず浮んでくるのは、スイングジャーナルの別冊でつくられた組合せのことだ。
このブログの最初のころに書いているように、そこで瀬川先生はJBLのスピーカーではなく、
アルテックの604の最新型604-8Hをおさめた620Bを指定され、
アンプにはアキュフェーズのC240とマイケルソン&オースチンのTVA1。

この組合せは、
瀬川先生の耳の底に焼きついている音を鳴らした、
604Eをおさめた621AとマッキントッシュのC22、MC275と組合せを思い出させる。

TVA1はKT88のプッシュプル、MC275もKT88のプッシュプルで、
出力はTVA1が70W+70W、MC275が75W+75Wということもあって、
もちろんそれだけでなく音の面でも、MC275の現代版としてとらえられるところがあった。
そういうパワーアンプである。

マイケルソン&オースチンからコントロールアンプもややおくれて登場したけれど、
それほど話題にはならなかった。
TVA1の出来に比較すると、コントロールアンプの出来はそういう程度であったからだ。

まだTVA1しか登場していなかったころ、瀬川先生はアキュフェーズのC240と組み合わせされている。
そのことはステレオサウンド 52号に書かれている。
     *
 TVA1は、プリアンプに最初なにげなく、アキュフェーズのC240を組合わせた。しかしあとからいろいろと試みるかぎり、結局わたくしは知らず知らずのうちに、ほとんど最良の組合せを作っていたらしい。あとでレビンソンその他のプリとの組合せをいくつか試みたにもかかわらず、右に書いたTVA1の良さは、C240が最もよく生かした。というよりもその音の半分はC240の良さでもあったのだろう。例えばLNPではもう少し潤いが減って硬質の音に鳴ることからもそれはいえる。が、そういう違いをかなりはっきりと聴かせるということから、TVA1が、十分にコクのある音を聴かせながらもプリアンプの音色のちがいを素直に反映させるアンプであることもわかる
     *
TVA1の音の個性は、どちらかといえば濃い、といえる。MC275もそういうところをもつ。
それでいて両者とも、意外にもフレキシビリティの高さももっている。

Date: 11月 16th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その1)

11月7日のaudio sharing例会「瀬川冬樹を語る」でも出た話題であり、
私がステレオサウンド働いていたときも辞めたあとも、なんどか出た話題が、
瀬川先生が生きておられたスピーカーは何を鳴らされているか、ということだ。

いまならば、間違いなくジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットを使われている。
ジャーマン・フィジックスのスピーカーシステムにされているか、
菅野先生と同じようにDDD型ユニットを中心としたシステムを自分で組まれるか、
たぶん後者ではなかろうか、とは思うけれど、
どちらにしろジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットを核としたシステムである。
これは断言しておく。

菅野先生がジャーマン・フィジックスのTrobadour40を導入されたとき、
たしか2005年5月だった。
このとき聴き終った後、
「瀬川先生が生きておられたら、これ(Trobadour40)にされてたでしょうね」、
自然と言葉にしてしまった。

菅野先生も
「ぼくもそう思う。オーム(瀬川先生の本名、大村からきているニックネーム)もこれにしているよ」
と力強い言葉が返ってきた。

私だけが思っていたのではなく、菅野先生も同じおもいだったことが、とてもうれしかった。
すこしそのことを菅野先生と話していた。

菅野先生はいまはTrobadour40からTrobadour80にされている。
ウーファーはJBLの2205、その下にサブウーファーとしてヤマハのYST-SW1000が加わり、
スーパートゥイーターとしてエラックのリボン型4PI。

瀬川先生がどういうウーファーと組み合わされるのか、
やはりスーパートゥイーターとしてエラック4PIを使われるのか、
そういう細かいことをはっきりとはいえないし、
もしかするとThe Unicornを中心としたシステムを組まれていたことだって考えられる。

それでも、ジャーマン・フィジックスのDDD型に惚れ込まれていたことだけは、確信している。

だから「瀬川先生が生きておられたら……」で考えるのは、
最後に鳴らされていたJBLの4345とジャーマン・フィジックスのあいだをうめるスピーカーについて、
ということになる。

Date: 11月 11th, 2012
Cate: JBL

なぜ逆相にしたのか(その11)

正相接続・逆相接続による音の違いはどこから生れてくるのだろうか。

いくつかの要素が考えつく。
まずフレームの鳴き。
何度かほかの項で書いているように、
ボイスコイルにパワーアンプからの信号が加わりボイスコイルが前に動こうとする際に、
その反動をフレームが受けとめ、とくにウーファーにおいては振動板の質量が大きいこと、
それに振動板(紙)の内部音速が比較的遅いこともあって、
コーン紙が動いて音を出すよりも前にフレームから音が放射される。

逆相接続にすればフレームが受ける反動も大きく変わってくる、
そうすればフレームからの放射音にも違いが生じるはず。

反動によるフレームの振動はエンクロージュアにも伝わる。
エンクロージュアの振動モードも変化しているであろう。

こういうことも正相接続・逆相接続の音の違いに少なからず関係しているはず。

これを書いていてひとつ思い出したことがある。
アクースタットのコンデンサー型スピーカーが登場したとき、
どうしても背の高い、この手のスピーカーはしっかりと固定できない。
ならば天井から支え棒をするのはどうなんだろう、と思い、井上先生にきいてみたことがある。

「天井と床がつねに同位相で振動している、と思うな」
そう井上先生はいわれた。

同位相で振動していれば支え棒は、
つねに一定の力でアクースタットの天板(そう呼ぶには狭い)を押えてくれる。
しかし実際には同位相の瞬間もあれば逆位相の瞬間もあり、90度だけ位相がずれている瞬間、
かなり複雑な位相関係の瞬間もあるだろうから、
支え棒が押える力は常に変動することになる。

この力の変動はわずかかもしれない。
でも、こういった変動要素は確実に音に影響をおよぼす。
それに支え棒そのものも振動しているのだから、

支え棒の位相がスピーカー本体や天井に対してどうなのか。

井上先生は、さまざまな視点からものごとをとらえることの重要さを教えてくれた。

Date: 11月 11th, 2012
Cate: JBL

なぜ逆相にしたのか(その10)

この項を書き始めたとき、
JBLが逆相なのは、ボイスコイルを捲く人が間違って逆にしてしまったから、
それがそのまま採用されたんだよ、と、いかにもその時代を見てきたかのようなことを言ってくれた人がいる。

本人は親切心からであろうが、
いかにも自信たっぷりでおそらくこの人はどこから、誰かから聞いた話をそのまましてくれたのであろうが、
すくなくとも自分の頭で、なぜ逆相にしたのか、ということを考えたことのない人なのだろう。

私はJBLの最初のユニットD101は正相だと考えている。
逆相になったのはD130から、であると。
これが正しいとすれば、最初にボイスコイルを逆に捲いてしまったということはあり得ない説になる。

ほんとうにそうであるならば、D101も逆相ユニットでなければならない。
私は、こんなくだらない話をしてくれた人は、
D130の前にD101が存在していたことを知らなかったのかもしれない。

また、こんなことをいってくれた人もいた。
振動板が最初前に出ようが(正相)、後に引っ込もうが(逆相)、
音を1波で考えれば出て引っ込むか、引っ込んで前に出るかの違いだけで、なんら変りはないよ、と。

これもまたおかしな話である。
振動板の動きだけをみればそんなことも通用するかもしれないけれど、
スピーカーを音を出すメカニズムであり、振動板が動くことで空気が動いている、ということを、
これを話してくれた人の頭の中には、なかったのだろう。
そして、すくなくともこの人は、ユニットを正相接続・逆相接続したときの音の違いを聴いていないか、
聴いていたとしても、その音の違いを判別できなかったのかもしれない。

スピーカーを正相で鳴らすか逆相で鳴らすか、
音の違いが発生しなければ、この項を書くこともない。
けれど正相で鳴らすか逆相で鳴らすかによって、同じスピーカーの音の提示の仕方ははっきりと変化する。

一般的にいって、正相接続のほうが音場感情報がよく再現され、
逆相接続にすることで音場感情報の再現はやや後退するけれど、
かわりに音像がぐっと前に出てくる印象へとあきらかに変化する。

これは誰の耳にもあきらかなことであるはず。
正相接続と逆相接続で音は変化する。
変化する以上は、そこにはなんらかの理由が存在しているはずであり、
そのことを自分の頭で考えもせず、
誰かから聞いたことを検証もせずに鵜呑みにしてしまっては、そこで止ってしまう。

Date: 8月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その24)

スピーカーのネットワークに並列型と直列型があることは、ずっと以前から知ってはいた。
私が中学生のときは、まだ技術的なことを解説した書籍がいくつも出ていた。
スピーカーに関する、そういう本もいくつもあった。

ラジオ技術から出ていた書籍は、中学生、高校生にとっては、
LPを一枚買うか、それとも本を買うか、迷ってしまうぐらいに、ほぼ同じ価格のが多かった。

ラジオ技術から出ていた一連の技術書は、
当時手に入れることのできる、もっとも充実した内容のものが多かった。

スピーカーの技術に関するのは「スピーカ・システム」というタイトルで、
山本武夫・編著、となっている。

この本でも当然ネットワークについて語られていて、
並列型と直列型があることも書いてある。
けれど直列型がどういうメリットがあるのかについてはふれられていない。

なにも、この本だけにかぎらない。
私が手にした本で、直列型ネットワークのメリットにふれたものは、ひとつとしてなかった。
どれも直列型がある、というだけにとどまっていた。

もっとも現実の製品をみても、
大半(90%以上)のスピーカーシステムは並列型のデヴァイディングネットワークを採用している。
直列型を採用しているのは、数えるほどしかない。
それでも現行製品で直列型を採用しているスピーカーシステムがあるのも、また事実である。

直列型のメリットは、いったいなんだろうか。
実を言うと、私もよくわかっていない。
いちど並列型と直列型の両方のネットワークを作ってみるべきなのだけど、まだやっていない。

ただデメリットは、ひとつ即いえることがある。
直列型では回路構成上、バイワイヤリングは不可能ということ。
そして、これに関連することだが、たとえばJBLの4343のようにスイッチひとつで、
バイアンプ駆動に切りかえるということも、無理である。

Date: 8月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その23)

4つのマトリクスがある、
けれど実際にわれわれが耳にできるもののほぼすべてはピストニックモーションのスピーカーの定電圧駆動になる。
ごく一部のベンディングウェーヴのスピーカーの定電圧駆動が、ほんのわずか存在するぐらいである。

いま定電流駆動による音を聴こうとしたら、パワーアンプを自作するしかない。
どこかのメーカーが定電流出力のパワーアンプを製品化することは、まずありえない。

もし私がアンプメーカーを主宰していたとしても、
定電流出力アンプに大きなメリットを感じていても、現実の製品としてパワーアンプを開発することになったら、
それは定電圧出力のパワーアンプということになる。

なぜ、定電流出力のパワーアンプにしないかといえば、
いま現在市販されているスピーカーシステムのほとんとはマルチウェイ化されている。
フルレンジだけのシステムも少数ながら存在しているけれど、マルチウェイのシステムばかりであり、
これらのシステムには当然のことながら内部にLC型デヴァイディングネットワークをもつ。
しかもこのネットワークの大半は、並列型によって構成されている。

定電流出力のパワーアンプにとって、
この並列型ネットワークがスピーカーユニットとのあいだに介在することがネックとなるからだ。

ネルソン・パスによる自作派のためのサイト”PASS DIY“をみていくと、
定電流出力にふれてあるPDFがある。
Current Source Amplifiers and Sensitive Full Range Drivers“、
Current Source Crossover Filters“、
このふたつのPDFは定電流駆動に関心のある方はいちど読んでほしい、と思う。

タイトルからもすぐわかるように、マルチウェイのスピーカーの定電流駆動に関しては、
“Current Source Crossover Filters”にもあるように、
LC型デヴァイディングネットワークは直列型でなければならない。

Date: 7月 31st, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その22)

電圧伝送・電圧駆動という、いわばひとつの決りごとがある。
この決りごとのおかげがあるからこそ、といえる面があれば、
この決りごとがあるために、といえる面も、少ないとはいえ、やはりある。

電圧伝送・電圧駆動という決りごとがあるからこそ、
これだけのオーディオ機器のヴァリエーションと数がある。
これまでにいったいどれだけのオーディオ機器が世の中に登場したのか、
その数を正確に把握している人はおそらくいないだろう。
そのくらい多くの機種が登場している。

それだけのオーディオ機器が世に登場したことによるヴァリエーションの豊富さがある一方で、
技術的なアプローチとしてのヴァリエーションということになると、
果して電圧伝送・電圧駆動が圧倒的主流で良いのだろうか、と思うわけだ。

特に思うのはスピーカーと、その駆動に関して、である。

世の中のスピーカーは、
電圧伝送・電圧駆動が主流なのと同じくらいにピストニックモーションによるものが主流である。
ホーン型、コーン型、ドーム型、リボン型、コンデンサー型……、
その動作方式にヴァリエーションはあっても、
目指しているのはより正確なピストニックモーションの実現である。

けれど1920年代からドイツでは非ピストニックモーションといえる方式のスピーカーが生まれている。
ベンディングウェーヴと呼ばれるスピーカーである。
ベンディングウェーヴ方式のスピーカーは、ずっと、そしていまでも少数である。

スピーカーに関しては、
ホーン型とかコーン型とか、その動作方式で分類する前に、
まずピストニックモーションかベンディングウェーヴかに分類できる。

そしてスピーカーの駆動についても、
真空管アンプかトランジスターアンプかという分類もあり、
回路や出力段の動作方式によって分類する前に、
定電圧駆動か定電流駆動かに分類できる。

つまりスピーカーとアンプの組合せでみれば、
現在圧倒的主流であるピストニックモーションのスピーカーを定電圧駆動があり、
ベンディングウェーヴのスピーカーを定電圧駆動、
ピストニックモーションのスピーカーを定電流駆動、
ベンディングウェーヴのスピーカーを定電流駆動、
──この4つのマトリクスがある。

Date: 7月 30th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(余談・D123とアンプのこと)

JBLのフルレンジユニットの歴史をふりかえってみると、
最初に登場したD101、
そしてJBLの代名詞ともいえるD130、その12インチ・ヴァージョンのD131、8インチ口径のD208があり、
ここまでがランシングの手によるモノである。
これらに続いて登場したのがD123(12インチ)だ。

D123はD130(D131)とは、見た目からして明らかに異る。
まずコーン紙の頂角からして違う。そしてD130やD131にはないコルゲーションがはいっている。
JBLのスピーカーユニットで最初にコルゲーションを採用したユニットが、D123だ。
しかも岩崎先生によると、D123にはもともと塗布剤が使われていた、とのこと。

さらに裏を見ると、フレームの形状がまったく異る。
ラジカル・ニューデザインと呼ばれているフレームである。

同じ12インチ口径でもD131が4インチのボイスコイル径なのに対し、D123は3インチ。
磁気回路もD130、D131の磁束密度が12000に対し、D123は10400ガウスと、こちらもやや低い値になっている。

同じ12インチのD131と比較するとはっきりするのは、D123の設計における、ほどほど感である。
決して強力無比な磁気回路を使うわけでもないし、ボイスコイル径もほどほど。
フレームにしてもスマートといえばスマートだが、物量投入型とはいえない。
なにか突出した技術的アピールがあるユニットではない。

井上先生はD123はいいユニットだ、といわれていたのを思い出す。

このD123はランシングによるモノではない。
では、誰かといえば、ロカンシーによるユニットで、間違いないはずだ。

ロカンシーがいつからJBLで開発に携わっていたのかははっきりしないようだが、
1952年のLE175DLHはロカンシーの仕事だとされている。
ということは1955年登場のD123もロカンシーの仕事のはず。

となるとD123とJBLのプリメインアンプのSA600を組み合わせてみたくなる。
D123が登場したころは真空管アンプの時代だったし、D123とSA600のあいだには約10年がある。

けれど、どちらもロカンシーの開発し生み出したモノである。
ただこれだけの理由で、D123をSA600で鳴らしてみたい、と思っている。
エンクロージュアはC38 Baronがいい。

Date: 7月 29th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その21)

電流に注目したところでは、ご存知の方は少ないようだが、
オーディオデバイスのMC型カートリッジ用のヘッドアンプHA1000はI/V変換方式を採ったものである。
I/V(電流・電圧変換)アンプとは、反転アンプの入力抵抗を省いた構成で、
MC型カートリッジのヘッドアンプとして使用する場合には、
カートリッジのインピーダンスがそのままアンプの入力インピーダンスとなり、
このことはヘッドアンプのゲインが接続するカートリッジのインピーダンスによって変化することでもある。

反転アンプのゲインは帰還抵抗を入力抵抗で割ったのだから、
ハイインピーダンスのカートリッジの場合、ゲインはローインピーダンス接続時よりも下る。

海外メーカーではクレルがコントロールアンプとパワーアンプ間の伝送方式、
CAST伝送も電流伝送である。

このCAST伝送をみてもわかるように電流伝送、電流駆動を採用するには、
単独では無理で必ず組み合わせる機器が指定される(専用となる)。

ヤマハのHA2は専用ヘッドシェルとの組合せだし、
ビクター、テクニクスの試作品のスピーカーシステムは、
パワーアンプとスピーカーでトータルのシステムとして設計・開発されている。
クレルのアンプも他社製のアンプと組み合わせるときには通常の電圧伝送しかない。

電流をパラメータとしたほうがいいのか、電圧をパラメータとしたほうがいいのか。
ここには考え方がいくつかあるだろうし、安易に電流をパラメータとすべきとは言い難いところがある。

つきつめていけば電流をパラメータとすべきなのかもしれない、とは考えている。
けれどもしすべてのオーディオ機器が電流伝送を採用し、スピーカーを電流駆動していたとしたら、
オーディオはここまで発展しなかったはず、とは確実にいえる。

電圧伝送、電圧駆動を採用したことにより、
コントロールアンプとパワーアンプの組合せは自由に選択できるし、
コントロールアンプへも、CDプレーヤー、テープデッキ、チューナーなど、
これらの機器を細かいことを気にせずに接続することができている。

スピーカーとパワーアンプの組合せにしても、そうだ。
極端なローインピーダンスのスピーカーを負荷としないかぎり、
スピーカーとパワーアンプの組合せは自由である。

かなり入力インピーダンスの低いパワーアンプが過去を含めてわずかとはいえ存在していたから、
そういうアンプと管球式のコントロールアンプを接続する際には注意が必要となるくらいで、
コンシューマー用機器を使う場合には、
送り出しのインピーダンスが接続される機器の入力インピーダンスよりも十分に低い値となっているので、
原則として、組合せと自由に行える。

この組合せの自由さ、つまりコンポーネントの面白さがあったからこそ、
オーディオはここまで発展してきたといえるわけだから、
電圧伝送・電圧駆動ではダメであるとは、私としてはいいたくない。

Date: 7月 18th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その20)

Standard Speaker System、
試作の3ウェイのスピーカーシステムにつけられた、この名称に、
このスピーカーシステムの開発にかかわった人たちのスピーカーとアンプについての考え方の、
その一部ではあるものの、推し量れることがある。

少なくとも、このStandard Speaker Systemを開発していた時点でビクターは、
スピーカーの駆動方法として、一般的な定電圧駆動ではなく定電流駆動が望ましい、
という判断を下していた、ということだ。

だからこそ一般的な定電圧駆動ではなく、定電流駆動を採用しながらも、
Standard Speaker Systemと、その名称に”standard”をつけている。
standardの意味はいうまでもなく、標準とか基準である。

標準となるべきスピーカーシステム、基準となるべきスピーカーシステムに、
1978年ごろのビクターの開発者たちは、定電流駆動を採用していることを強調しておきたい。

このころ、テクニクスも試作品のスピーカーシステムに、やはり定電流駆動を採用している。
リニアフォースドライブスピーカーと名付けられた、この方式は、スピーカーの徹底した低歪化を目指したもので、
スピーカーの歪をBl歪と電流歪にわけて考えられることから、
前者のBl歪(ボイスコイルに信号が流れることによって生じる磁束密度の変調によるもの)には、
外磁型マグネットの前後にプレートを配することで対称構造としたうえで、
このふたつのプレートの間に磁束コイルをおき、
ボイスコイルの両端に捲いてある制御コイルからの信号により、
磁束コイルに対し専用アンプによる磁束フィードバックをかけている。
電流歪(ボイスコイルがセンターポールやプレートなどのヒステリシスをもつ材質に囲まれているために発生)には、
対称構造としたプレートに対し、それぞれボイスコイルをおき(つまり2組ある)、
こちらも専用アンプでドライヴする、という仕組みである。

磁束フィードバック用アンプも、ボイスコイル用アンプも、定電圧出力ではなく定電流出力となっていることも、
リニアフォースドライブスピーカーの、大きな特徴といえる。

リニア(linear)は、直線の、直線的な、の意味をもつわけだから、
リニアフォース(直線的な力、言い換えれば非直線的な要素のない力)を実現するために、
テクニクスは定電流駆動を選択した、とも受け取れる。

Date: 7月 17th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その19)

アンプとスピーカーの関係について考えてゆくにつれて感じているのは、
現状の、定電圧出力のパワーアンプと、定電圧駆動を前提としたスピーカーシステムの組合せだけでなく、
もういちど定電流出力のパワーアンプによるスピーカーの駆動を再検討してみるべきではないか、ということ。

電圧をパラメータとする電圧駆動、それに電圧伝送が、オーディオの世界では標準の方法として定着している。
それでも電流をパラメータとしたオーディオ機器が、これまでにも登場している。

私がオーディオに関心をもちはじめた1976年以降の製品だけにしぼってもいくつかある。
まずヤマハのヘッドアンプのHA2がそうだ。
ヘッドシェルにヘッドアンプの初段のFETをとりつけることで、
MC型カートリッジの出力電圧を電流変換してヘッドアンプ本体まで伝送していた。

その次には登場したのはビクターのコントロールアンプのP-L10がある。
P-L10は、ヤマハのHA2のように見た目ですぐに特徴的なところがあるアンプではない。
けれど、このコントロールアンプは内部では電流伝送を行っていた。
おそらくビクターではパワーアンプとの接続に関しても電流伝送を実験していた、と私は思っている。
けれどコントロールアンプとパワーアンプをペアで必ずしも購入されるわけではなく、
他社製のパワーアンプやコントロールアンプと組み合わされることのほうが実際には多いのかもしれない。
だからコントロールアンプ・パワーアンプ間に電流伝送を搭載するということは、
他社製のオーディオ機器との使用を考慮すると、そういう冒険はやりにくい。
だからP-L10内部だけの電流伝送にとどまったのではないだろうか。

そう考えるのには、ひとつ理由がある。
ビクターが1978年ごろに発表したスピーカーシステムの試作品が、それである。
試作品だから型番はなく、たしかStandard Speaker Systemと呼ばれていた。

卵形のエンクロージュア平面型のスピーカーユニットを納めた、この3ウェイのスピーカーシステムは、
3台のパワーアンプを内蔵したマルチアンプ駆動てある。
そしてそれぞれのアンプは、すべて定電流駆動となっている。
ウーファーに関しては、さらにMFBもかけられている。

このStandard Speaker Systemは市場に登場することはなかった。
このStandard Speaker Systemのコンセプトを受け継いだスピーカーシステムも現れなかった。
けれど、いまビクターのサブウーファーのSX-DW77はDクラスアンプによる定電流駆動となっている。

Date: 7月 16th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その18)

アンプによってスピーカーは鳴り方を変える。
ときには、まるで別物のスピーカーに変ってしまったかのように錯覚するほどの音の変り方を示すことだってある。

D130は1948年に登場したスピーカーユニットだから、
64年のあいだ、さまざまな時代の、さまざまなアンプで鳴らされてきたことになる。

出力トランスの2次側からのNFBがかけられていない真空管によるパワーアンプ、
とうぜん出力インピーダンスは高い(ダンピングファクターが低い)。
それがNFBが積極的に使われるようになり、同じ真空管アンプでも出力インピーダンスは下り、
ダンピングファクターも高くなっていく。

そしてトランジスターが登場し回路技術が発展していくことで、
D130の登場の1948年では考えられないくらいのNFBが安定にかけられるようになり、
出力インピーダンスはさらに下っていく。
ダンピングファクターが100を超えるアンプは珍しくなくなったし、1000を超えるアンプも登場してきた。

あるジャンルの製品の多彩さをみていったとき、
パワーアンプの多彩さはコントロールアンプのそれをはるかに上回っている。
出力数Wの直熱三極管のシングルアンプもあれば、
1kWを超える出力をもつトランジスターアンプも存在している。
アンプの規模にしても、手のひらにのってしまうのに数10Wの出力をもつDクラスアンプもあるし、
モノーラル仕様で、さらには電源部と増幅部が別筐体で、
それぞれのシャーシー重量が50kgを超える規模のアンプも存在する。

こうしてみるパワーアンプの多彩さ、
いいかえるとパワーアンプという製品としてのダイナミックレンジの広さはなかなか凄いものがある。

実にさまざまなアンプにつながれてD130は鳴らされることで、
それまでのアンプではみせなかった一面を新たに聴かせてくれたりしたことだと思う。
新しいパワーアンプのすべてが、以前のパワーアンプよりもすべての面で上廻っているわけではないが、
それでも良質の、ほんとうによくできたパワーアンプであれば、
D130のような古典的なスピーカーから、新鮮な音を引き出してくれることは、そう珍しいことでもない。
いわばスピーカーそのものが若返ってしまうかのような、そういう音の変化をみせる。

だから高能率スピーカーだから大出力のパワーアンプで鳴らす必要はない、とはいわない。
D130のような非常に高能率のスピーカーを、数100Wの出力のパワーアンプで鳴らしてみる、とか、
D130が登場した時には考えられなかったほどの高いダンピングファクターのアンプで鳴らしてみる、とか、
高能率同士の組合せとしてDクラスのアンプで鳴らしてみる、とか、
固定観念にとらわれることなく、多彩なパワーアンプで鳴らしてみてもいい。

基本的にそう考えている私だけども、D130について考える時、
現代のアンプが、どれだけD130に寄り添うアンプかという観点から見た時に、
どうしても組み合わせてみたいパワーアンプとして、
別項でも取り上げているファースト・ワットのSIT1が頭から離れなくなっている。

Date: 6月 29th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その17)

ダンピングファクター可変機能を搭載したアンプとして、
しかもここではタイトルに「D130」とつけているのだから、
絶対に忘れてはならないアンプにはJBLのパワーアンプがある。

ここでいうJBLのアンプとはいうまでもなく1960年代に登場した
SE401、SE400S、SE460といった一連のシリーズのことである。

これらのアンプにはイコライザーカードが用意されていた。
SE401用は左右チャンネルを1枚にまとめていた。
SE400Sからは左右チャンネルが分けられるようになって、
カードの型番はM11からM25までとF65の計16枚が用意されていた。

これらイコライザーカードを挿し込むことで、
スピーカーシステムに応じた周波数特性、ダンピングファクターが設定される、というものである。
具体的には、どの程度特性が変化するのか、
そのへんに関する資料を私は持っていないので詳しいことは書けないけれど、
これらのアンプと一緒に出ていたプリメインアンプのSA600の出力インピーダンスは0.35Ω、
そのパワーアップ版のSA660が025Ωだから、SE401、SE400Sの出力インピーダンスもこの値といっていいはず。

ということは0.35Ωで8Ω負荷だとダンピングファクターは22.8になる。
16Ω負荷だと、その倍の45.6になる。

このころのJBLのスピーカーシステムは推奨ダンピングファクターが発表されていて、
その値は意外に低いものだったと記憶している。
ただ手元に資料がないし、旧い記憶ゆえ間違っている可能性もあるけれど、
たしかパラゴンは1から4(もしくは1から8ぐらい)だったはずだ。

ただし、このパラゴンがどの時代のパラゴンかははっきりしない。
最初の150-4Cをウーファーとしたパラゴンなのか、途中からのLE15に変更されたパラゴンなのか。

もっとも、この推奨ダンピングファクターが、すべてのアンプに対してあてはまるというわけではなく、
やはり当時のアンプに対しての値であるものだし、
さらにはJBLのパワーアンプを使って、ということとみることもできる。

あくまでも目安のひとつでしかない、と受け止めるべき、この推奨ダンピングファクターではあるけれど、
D130が生れた当時のアンプのダンピングファクターは、決して高い値ではなく、
むしろ低い値、おそらく1から4ぐらいまでだった、と推測できる。

となると、D130をマランツの管球式パワーアンプ、JBLのパワーアンプとイコライザーカードの組合せ、
ヤマハB4といったアンプで鳴らしてみたら、どういう変化をみせるのか──、そんなことを考えているわけだ。