瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その4)
優秀なパワーアンプとは、
スピーカーシステムを鳴らしきれるだけのパワー(単に出力という意味だけでなくパフォーマンスも含めて)をもつ、
ということになるのだろう。
どんなスピーカーをであれ、鳴らしきれるパワーアンプもあることだろう、
一方で、その範囲は狭まるものの、ある種のスピーカーを鳴らしきることのできるパワーアンプもある、といえる。
この場合、前者のパワーアンプの方がより優秀ということに一般的になるけれど、
オーディオを仕事としていなければ、つまりいくつものスピーカーを鳴らすということを目的としていなければ、
自分がそのとき気に入っているスピーカーを鳴らしきってくれれば、充分でありそれ以上を求めるかどうかは、
その人次第でもある。
鳴らしきれるスピーカーの範囲が広かろうと、ある程度限られていようと、
鳴らしきることのできるパワーアンプからすると、決して優秀とは呼びにくいパワーアンプがあることも事実である。
けれど、そういうパワーアンプのすべてが、いい音がしないわけでは、決してない。
たとえばウェスターン・エレクトリックの300Bのシングルアンプ。
このアンプを優秀なアンプとは呼びにくい。
もちろん300Bのシングルアンプといってもピンからキリまであるのだから、
あくまでもここでいう300Bのシングルアンプとは、私にとっては伊藤先生の300Bシングルアンプであり、
すくなくとも同等のクォリティをもった300Bのシングルアンプということに限らせてもらう。
出力が小さいからそれに見合うだけの高能率のスピーカーと組み合わせれば……、というとこになるだろうが、
それでも感覚的には、スピーカーを鳴らしきる、というイメージにもったことはない。
鳴らしきっている、というより、うまく鳴らしている、といった感じなのである。
300Bのシングルアンプは、一方の極にある。
もう一方の極には、いかなるスピーカーであろうと鳴らしきるだけの優秀なパワーアンプ。
パワーアンプという括りではいっしょにできないほど、このふたつの極のアンプの性格は違う。
マッキントッシュのMC275は登場したときは、優秀なパワーアンプの極に属していた、ともいえる。
けれどMC275の登場から50年以上が経ち、
いまでは300Bのシングルアンプの極にぐっと近い位置にいるといえる。