Archive for category アナログディスク再生

Date: 12月 6th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その28)

ステレオサウンド 57号からもうすこしテクニクスの小幡修一氏が語るSL10誕生を引用しておく。
     *
一般に高級なレコードプレーヤーをもっているひとは、女子供に使わせない、という思想があるようです。実際、高級機ほどデリケートで心得のないひとには使いこなせないという面もあるし、女子供でなくてもふつうの人には近よりがたいというたたずまいもしているわけです。ところがカセットにはそんなところがない。誰でも手軽に扱えるという強味がある。だから、やがて、音楽再生ソースは高級機はPCM、普及機はカセットということになって、レコードはとりのこされてしまいかねないんです。
(中略)
 PCMとカセットの時代に対抗できるディスクプレーヤーは、本来もっているレコードの性能を最大限に引きだせるもので、女子供でも容易につかえて、しかも、もっていて最高にたのしいというものでなければならない。これについては、世界中の人たちの意見をきいてあるきました。私はすくなくとも年に二回は海外に出かけているので、そのたびにどういうプレーヤーが望ましいかということをきいてまわりもしました。その質問についての答は、現在あるものを対象にしたものばかりで、A社のあの製品のここがいい、B社のはあそこが、といったような答以上を出ない。われわれは、その答にないものをさがしたのです。
     *
いま改めて読むと、問題回避ではなく問題解決であること、
どれだけ多くの人にきいたところで答を得られることはなく、
返ってきた答、つまりは回答を集めてつくり出したのではなく、
解答を自分たちで見つけた結果のSL10の誕生だということがはっきりとわかる。

だから、小幡修一氏はこうも言われている。
     *
アナログディスクというものは実に素晴らしいものだということは改めていうまでもないと思うのですが、PCMとカセットに挟みうちをされてディスクが先細りになるということは、プレーヤーをつくっているものとしては申し訳のないことだ。そういう発想が自然に濃縮されていった結果がSL10になったわけです。
     *
「発想が自然に濃縮されていった結果」、
SL10をいま見ても、そう感じられる。

Date: 12月 5th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その27)

テクニクスはSL10発表の前年(1978年1月)に、SL-FM1というアナログプレーヤーを出している。
32800円の普及型。

このSL-FM1は型番からわかるように、FMトランスミッターを内蔵している。
カートリッジがピックアップした信号をそのままFM信号に変換するわけではなく、
イコライザーアンプも内蔵されていて、SL-FM1の電波(78MHz)をチューナーで受信すれば音が聴ける。
ラインアウトも備えている。
SL-FM1の特徴はそれだけでなく、AC電源の他に単一乾電池6個でも動作する。

テクニクスのアナログプレーヤーはかなりの機種が登場しているが、
FMトランスミッターをもつ機種は、これ一機種だけだったはずだ。

SL-FM1が登場したときは、テクニクスも変なモノを作るな、といった印象で受けとめていた。
けれど、翌年にSL10が、その一年後にSL7、SL15が登場し、
ステレオサウンド 57号の記事を読むとSL-FM1とSl10とには、共通する開発方針があるのがわかる。

57号でテクニクスの小幡修一氏は次のように語られている。
     *
 DD型にこんな進展(大型で重くなり、プレーヤーのSL化)が見えはじめた頃にPCMのことがちらほら話題になりはじめてきたのですね。やがてディスクもデジタル(PCM)化されるという予測は当然あるわけですが、それ以上に、レコードプレーヤーをつくっている者にとって問題にしなければならないのはカセットデッキの目ざましい進出であり、ミュージックテープの伸びです。このふたつの現象は、アナログディスクのよさを見なおすために何かしなければならないということを考えざるを得ない。レコードプレーヤーが昔ながらのままであっていいのかどうかということですね。
     *
プレーヤーのSL化のSLとはいうまでもないことだが、蒸気機関車のことなのだが、
SLはまたテクニクスのアナログプレーヤーの型番でもある。

Date: 12月 4th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その26)

テクニクスのSL10は、世界初のダイレクトドライヴのSP10誕生からちょうど10年目に登場している。
だから型番にも10がつき、SL10となり、価格も10万円。
さらには10月10日に発売されるという、10づくしのプレーヤーである。

SL10の登場の一年後、SL7とSL15が登場している。
ステレオサウンド 57号の新製品紹介のページで紹介されている。
岡先生が書かれている。

岡先生が新製品紹介の記事を書かれるのは珍しいことである。
     *
 テクニクスのSL10が出て一年、その姉妹機のSL15とSL7が発表された。
 予想されていたこととはいえ、SL10ファミリーの展開のテンポが早い。SL10の出現には本当にびっくりした。ぼくは、当時、あちらこちらで〝レコードプレーヤーの革命〟だというようなことを書いた。これは誇張でもなんでもない。半世紀もレコードをいじってきたものとして、このプレーヤーを見て操作してまっさきにうかんだ実感であった。SL10の第一歩はベートーヴェンの第五の開始のffのように颯爽としていた。それはまったくアレグロ・コン・ブリオそのもののような確信に満ちた足どりで歩みはじめた。そして、いまそのアレグロ・コン・ブリオは上声部と下声部を加え、充実感に満ちた和音進行へと展開しはじめた。時がたつにつれ、SL10ファミリーはさらに豊かな和声の響きをもつだろうが、そこまで先走りして考えることもあるまい。
     *
いま読み返してみると、岡先生としてはめずらしい書き出しであることに気づく。
それだけSL10の登場は、レコードとのつきあいの長い人ほど、革命に近いモノであったことが読みとれる。

ステレオサウンド 57号のこのページには、
SL10の開発者である小幡修一氏に岡先生が話を聞きに大阪まで出かけられ、
SL10開発に関する話も別枠で掲載されている。

Date: 12月 3rd, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その25)

電子制御トーンアームについて書いてきていて思い出すのは、
なぜテクニクスが電子制御トーンアームを出さなかったのか、である。

1980年ごろ、ソニー、ビクターと続いて電子制御トーンアームが出てきていたのをみて、
テクニクスも出すんだろうな、と思っていた。
けれどテクニクスからは出てこなかった。
その時は、なぜだろう? とは考えなかった。

いまは、なぜだろう?と 思う。
テクニクスの技術があれば、電子制御トーンアームを製品化するのはさほど困難なことではなかったはず。
テクニクスも、アナログプレーヤーの開発には力をいれていた会社である。

なぜ、テクニクスからは電子制御トーンアームが出なかったのか。
はっきりとした理由はわからない。
けれど、ソニーから電子制御トーンアームが登場したころ、
テクニクスはSL10というアナログプレーヤーを出している。

SL10はLPジャケットサイズのアナログプレーヤーだった。
価格は100000円。
MC型カートリッジ(EPS310MC)を搭載し、ヘッドアンプも内蔵していた。
トーンアームはリニアトラッキング型で、サイズをコンパクト化するために上蓋に装着されていた。

SL10の上蓋は、いわゆるダストカバーではなく、トーンアームの他にスタビライザーもついていたし、
操作ボタンもついていた。
ダストカバーは閉じなくてもアナログディスク再生は可能だが、
SL10の上蓋は閉じなければ再生はできなかった。

SL10はフルオートプレーヤーであることからもわかるように、
SL10のリニアトラッキングアームは電子制御されている。

Date: 12月 2nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その24)

デンオンのDP100Mはデッキ手前右側に、DENON DP-100Mと印字されたパネルがある。
ここを開けると、プッシュボタンが六つ、回転式のツマミが四つある。
プッシュボタンはターンテーブル用で、回転スピードとピッチコントロール操作を行ない、
トーンアーム用はアンチスケーティング量(インサイドフォースキャンセラー量)、アームリフターのスピード、
トーンアームの低域カットオフ周波数、ダンピング量がこれらで調整できる。

このツマミの下に五枚のプリント基板が収納されている。
内三枚はターンテーブルのサーボ用で、二枚がトーンアーム用である。
これらのプリント基板はプラグイン方式となっている。

つまりDP100Mに搭載されているトーンアームを単売しようとすると、
この二枚の制御用のプリント基板も必要となるし、そのための電源も要る。
そうなってしまうと単売は非常に難しい、ということになる。

海外のメーカーであれば、それでもトーンアーム単体を市販するところもあるだろうが、
国内のオーディオメーカーで、それも大手のところでは、まず単体での市販は営業的に許可されないであろう。

ステレオサウンド 61号に載っているトーンアームのプリント基板の写真をみてると、
それほど実装密度が高いわけではない。
1981年の時点でもその気になれば一枚のプリント基板に収められたのではないか。
電源も必要だが、それほど容量は必要としないはず。

実際に単体で市販した場合、
他社製のターンテーブルに装着するには、プリント基板とトーンアームの接続、
電源の配線の引き回しなどをどう処理するのか、の問題が残る。
だが工夫すれば、どうにか解消できたと思う。

DP100M搭載の電子制御トーンアームはどのレベルだったのか。
ステレオサウンド 61号に井上先生が、
《カートリッジによって低域カットオフ周波数調整はシャープな効果を示し、
その最適値を聴感上で明瞭に検知することは、予想よりもはるかにたやすい。》
と書かれている。

このトーンアームを搭載したDP100Mについては、こう書かれている。
     *
DP100MにS字型パイプをマウントし、重量級MC型カートリッジから軽量級MM型カートリッジにいたるまで、数種類の製品を使って試聴をはじめる。基本的には、スムーズでキメ細かく滑らかな帯域レスポンスがナチュラルに伸びた、デンオンのサウンドポリシーを備えている。しかし、カッターレーサー用のモーターを備えた、全重量48kgという超重量級システムであるだけに、重心は低い。本来の意味での安定感が実感できる低域をベースとした、密度の濃い充実した再生音は、DD型はもちろん、ベルトや糸ドライブ型まで全製品を含めたシステム中でのリファレンスシステムという印象である。この表現は、このDP100Mのために用意されていた言葉である、といいたいほどの音質、信頼性、性能の高さをもつ。
     *
リファレンスシステムといいたいほどの性能の高さに、
電子制御トーンアームの存在はどれだけ関係しているのだろうか。

Date: 11月 30th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その28)

アナログプレーヤーの出力ケーブルだけでなくラインケーブル、スピーカーケーブルでも同じことである。
これらのケーブルと電源コードが接近していれば、なんらかの音への影響がある。

信号ケーブルはシールドされているから大丈夫、と思っている人もいるようだが、そんなことはない。
どんなシールドであっても影響を皆無にできることはない。
確実な方法は信号ケーブルと電源コードはできるだけ距離をとることである。
特に信号レベルが極端に低いアナログプレーヤーの出力ケーブルは電源コードからできるだけ距離を確保したいし、
他の信号ケーブルとの距離もできれば確保しておきたい。

いまはデジタル機器がシステムにあることが多い。
CDプレーヤーの電源をオフにしても、
どこかにスイッチング電源を使用しているオーディオ機器があれば、
その機器の電源コードには高周波が流れているとみるべきである。
これも音への影響となってくる。

この影響に関してもシールドがあれば問題ない、ということにはならない。
シールドをあまり過信しないことである。
結局、この影響に関しても距離を確保するのがいい。

つまりアナログプレーヤーの設置は、ケーブルの引き回しを含めて考えなければならない。
電源コードの長さがあまっているからといって束ねてしまう人がいる。
その気持はわからないわけではないが、束ねてしまうことは基本的にはやめたほうがいい。

アナログプレーヤーのケーブルの引き回しには、
コントロールアンプのリアパネルの端子の配置も関係してくる。
このことについては二年ほど前に、「私にとってアナログディスク再生とは(リアパネルのこと)」で書いている。

このケーブルの引き回しに関しては、できるかぎり最初からきちんとしておいたほうがいい。

Date: 11月 28th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その27)

ステレオサウンドの試聴室でこんなことがあった。
ある試聴の準備のとき、ハムが出た。まだCDが登場する前のことだった。
それも盛大なハムである。

アナログプレーヤーは試聴室に常備されているパイオニアExclusive P3。
カートリッジはオルトフォンのMC型だったはず。
昇圧トランスを使っていた。
プレーヤー、トランスの設置場所は通常のまま。
つまりハムが発生する場所ではなかった。

まずアースの配線のミスかも、と疑ってもそうではなかった。
昇圧トランスの向きを変えてもほとんど変化なし。

あれこれやってみた。
原因はパワーアンプだった。
そのときのパワーアンプは国産の、そのブランドの最高級モデルだった。
電源トランスはシールドケースに収まっていた。

にも関わらず、このパワーアンプからは盛大に漏洩フラックスが出ていて、
このフラックスをコントロールアンプに接続されている昇圧トランスからのケーブルが拾ってしまっていたから、
ハムが発生していた。

なにもパワーアンプの真上を昇圧トランスからのケーブルを這わせていたわけではない。
他のパワーアンプではなんら問題の発生しない位置だったにも関わらず、
そのパワーアンプではハムを発生したわけである。

問題となるパワーアンプもさらにケーブルとの距離をとるように設置すれば、
ハムは直接耳に聞こえなくなるが、そうなったとしてもハムが聞こえないというだけで、
漏洩フラックスは確実に音に影響を与えている。

Date: 11月 28th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その26)

少し話がそれてしまったが、アナログプレーヤーの設置をきちんとやる。
ここをおろそかにしたまま、アナログプレーヤーの調整を行っても、いい結果は得られない。
とにかくまずこれまで書いてきたように、水平を出し、きちんとした台にガタツキなく設置すること。

ここまでの設置は、いわば機械的な設置である。
オーディオのシステムは電気を使ったシステムであり、
アナログプレーヤーにもアンプにもCDプレーヤーにも電源コードがついている。

アナログプレーヤーだけのシステムをできるだけ簡潔に構成したとする。
それでもアナログプレーヤーとプリメインアンプは必要となる。
この場合で電源コードは二本。

これにチューナーやデッキ、CDプレーヤーが加わると、
加わったオーディオ機器の分だけ電源コードは増えていく。

さらにプリメインアンプをセパレートアンプにして、
フォノイコライザーも独立したものに、パワーアンプはモノーラルに……、としていけば、
電源コードの数はますます増えていく。

電源コードには交流の100Vが流れていく。
これに対して、アナログプレーヤーの出力ケーブルを流れているカートリッジの信号レベルは、低い。
そうとうに低くなる。
MM型かMC型かでも変ってくるし、MC型でも機種によって信号レベルの差はけっこうある。

また低域は中域よりも録音レベルが低いし、ピアニッシモでも低くなる。
そうなると低音楽器のピアニッシモでは、驚くほど低い信号レベルでしかない。

こういう微弱な信号が通っているケーブルの間近に100Vが流れている電源コード、
それも消費電力の大きなオーディオ機器の電源コードが通っていたら。
それもアナログプレーヤーの出力ケーブルと平行に通っていたら、どういう影響が生じるのか。

Date: 11月 17th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、フラットをもってものごとの始まりとす)

ステレオサウンド 61号から63号まで、
池田圭氏による「フラットをもってものごとの始まりとす」という記事が載っている。
dbxの20/20の記事である。

61号は1981年に出ている。
いまから33年前のことである。

そんな以前の池田圭氏のタイトルの意味を考えている。
「フラットをもってものごとの始まりとす」、
ほんとうにそうだと思うからだ。

RIAAカーヴについての論議も、「フラットをもってものごとの始まりとす」でなければならないのに、
実際は多くの人がフラットであることに対して無関心・無頓着であったりする。

確かにメーカー製のスピーカーシステムであるなら、
それも名のとおったメーカーのモノであるなら、おかしな周波数特性はしていない。
カタログに載っている周波数特性グラフをみても、多少のピーク・ディップはあっても、
時代が新しいスピーカーであれば、大きく見れば平坦(フラット)ともいえる。

だがそれを鳴らしているから、自分の部屋で自分の耳に届いている「音」がフラットだという保証はどこにもない。
それにカタログに載っている周波数特性は、出力音圧レベルのグラフであり、
いわばスピーカーの振幅特性を表しているにすぎない。

私的イコライザー考」の(その12)で書いたことを、またくり返しておく。
振幅項(amplitude)と位相項(phase)があり、
それぞれを自乗して加算した値の平方根が周波数特性となる。

つまり振幅項と位相項をそれぞれ自乗して加算した値の平方根、
これをフラットにすることから、ものごとは始まる。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、聴くこと)

レコード(アナログディスク)は思い入れをこめやすいメディアである。
だが忘れてはならないのは、アナログディスクも工業製品である、ということだ。
大量複製される工業製品であり、工業製品である以上、そこにはなんらかの規格が存在する。

レコード会社が意図的にステレオ以降もRIAA以外のカーヴでレコードをつくっていたとしよう。
だが、レコード会社が録音カーヴについて伏せている以上、
そのステレオLPの再生カーヴはRIAAで、ということになる。

ラッカー盤のカッティング時にカッティング・エンジニアがなんらかの信号処理をすることはすでに書いた。
リミッターをかけることもある。
イコライザーで周波数特性を操作することもある。
つまり、この信号処理の延長でRIAA以外のカーヴを使用した、と私は考える。

RIAAカーヴなのかどうかについて考える時に、レコード会社側に立って考えてみる。
音質的なメリットがあるとして、RIAA以外のカーヴでレコードをつくったとする。
では、そのレコードをどう再生してもらいたいのか。

録音カーヴと逆の特性のカーヴで再生してほしいのであれば、
そのステレオLPのジャケットにその旨を書いておくのではないだろうか。
なんら記載がないということは、仮にRIAA以外のカーヴでつくられたレコードだとしても、
再生カーヴはRIAAで、ということになる。

再生はRIAAカーヴでいいから、録音カーヴについての情報がなにも与えられていない。
そういうことなのではないのか。
カッティング時にイコライザーをいじる。
だが、そのことについての情報は何も与えられない。

どの周波数をどのくらい上げ下げしたのか、
仮にそのことがジャケットに記載されていようと、何になるのか、と思う。
録音カーヴにしても同じことである。

それでも録音カーヴと逆の特性で再生しなければならない、と言い張る人はいる。
そう考えるのならば、そうしたらいいではないか。
だがレコード会社から録音カーヴについて、なんの情報も与えられていなければ、
それはRIAAカーヴで再生することがレコード会社の意図に添う再生であり、
録音カーヴと逆のカーヴで再生することが、レコード会社の制作意図に添う、とはいえない。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、前提はなにか)

EMTのアナログプレーヤー、930st、927st、927Dstは放送局やスタジオといった、
プロフェッショナルの現場で実際に使われてきた。
930stも927Dstもプロ用機器である。プロ用のようなモノではない。

そのEMTにはステレオ再生に関してはRIAAのみである。
ステレオLPの録音カーヴについて疑問をもっている人は、
このことについて一度考えてみてはどうだろうか。

それでもマランツのModel 7は……、という人もいるだろう。
でもModel 7もRIAA以外のカーヴを選択した時にはモノーラルになるようにしたかったかもしれない。
そう考えられないだろうか。
Model 7のイコライザーカーヴ切り替えのためのレバースイッチは、
もともと小信号用のものではなく、一般市販されていた汎用品ときいている。

ここにロータリスイッチを使っていたら、Model 7もEMTのイコライザーアンプのように、
RIAA以外のカーヴではモノーラルになるようにしのではないか、と私は思っている。

このことに関しては、私のようにステレオLPはRIAAという者には、いま書いているように受けとれるし、
いやステレオLPにもRIAA以外のカーヴがある、と疑問をもっている人にとっては、違う見方ができる材料になる。

私がRIAA以外のカーヴがあるのではないか、ということに懐疑的なのは、
カッティングマシンがどうなっていたのか、がある。
ステレオLP用のカッティングマシンに録音カーヴの切り替え機能があったのか、ということだ。
なかったとしても、レコード会社の人が独自のカーヴ用のモジュールをつくり使用することは可能である。

だからRIAAカーヴ以外のステレオLPが存在しなかった、とは断言できない。
だが存在していたとしても、それらのステレオLP(RIAAカーヴ以外のステレオLP)は、
RIAAカーヴでの再生を前提としているはずである。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、把握すること)

なぜ ステレオLPの録音カーヴに対して疑問を抱く人が出てくるようになったのか。
マランツのModel 7のようにイコライザーカーヴを切り替えられるコントロールアンプが存在していたことが、
大きく関係している、と考えられる。

あるレコードがうまく鳴ってくれない、
たまたまその人が使っていたコントロールアンプが、
Model 7のようにイコライザーカーヴが切り替えられるものだった。
試しにRIAA以外のカーヴにしてみた。
RIAAカーヴよりも、いい具合に鳴ってくれた。

これはもしかするとRIAAカーヴではないんじゃないのか……、
そう思うようになっていたことから始まってきたのかもしれない。

そう思うようになってみると、なぜModel 7がイコライザーカーヴを切り替えられるようになっているのか、
そのことについて考えてみるようになる。
ソウル・B・マランツは、
LPのイコライザーカーヴがステレオ以降もRIAAに完全に統一されていないことに気がついていたんだ──、
そんなふうに関連づけていくことだってできる。

けれど果してそうなのだろうか。
Model 7はイコライザーカーヴを選べる。
それもステレオ再生においてもだ。
だがこの機能は、モノーラルLPのための機能であり、
それをステレオLP再生時にも利用できる、ということにすぎないのではないか。

同じくイコライザーカーヴを切り替えられるものに、EMTのアナログプレーヤー内蔵のアンプがある。
四種類のカーヴが切り替えられる。
DIN45 536、DIN45 53、BBC、FLATであり、
DIN45 536がRIAAと同じく75/318/3180μSのROAAカーヴだ。
あとの三種類のカーヴは、そのポジションにすればモノーラル再生となる。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、疑うな)

井上先生に何度もいわれたこと、
こうやって毎日オーディオ、音、音楽のことについて書いていて深く実感するようになってきたことに、
「レコードを疑うな」がある。

井上先生は、このことを何度もくり返された。
それは井上先生自身が、強く実感されていたからなのかもしれない、と最近思うようになってきている。

「レコードは神さまだ、その神さまを疑ってはいけない」
これは何もレコードを神聖化しろ、ということではない。

初めて聴くようなマイナーレーベルのレコードは例外があるかもしれないが、
少なくともメジャーレーベルのレコードに関しては、そのレコードを疑うべきではない、ということになる。

これに関係しているのは、「スピーカーが悪いのではない、鳴らし方・使い方が悪いんだ」がある。
これも出来の悪すぎるスピーカーは例外として存在しても、大半のスピーカーの場合、
スピーカーに非があるよりも使い手側に非があることが圧倒的に多い。

オーディオはさまざまな要素が絡んでいる。だからこそレコードは疑うべきではないともいえる。
レコードを疑ってしまえば、オーディオは基準とでもいおうか、
なにひとつ確かなものがないともいえるからだ。

だから私はステレオLPになってからの録音カーヴはRIAAであり、
ほかのカーヴが使われたとは思っていない。

ただ世の中には例外はある。
ごく一部のレコードで、ステレオ以降もRIAAカーヴではないものが存在していなかった、とは断言できない。
それでもはっきりといえるのは、そういうレコードであってもRIAAカーヴで再生するものである、ということだ。

Date: 11月 12th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは)

1953年6月にRIAAカーヴが制定されている。
1954年から1956年にかけてRIAAに統一されている。

RIAAカーブはRCAが1952年9月から使いはじめたニュー・オーソフォニックのカーヴとまったく同一である。
つまりRCAのLPに限っては1952年9月以降はRIAAと考えていい。

このあたりの事情については岡先生が「マイクログルーヴからデジタルへ」で書かれている。
     *
 アメリカで、RCAを別として逸早くRIAAに切換えたレーベルとしてはエンジェル、アトランティック、EMS、MGMなどで、コロムビア、エピック、ヴォックスは一九五四年二月からと、かなり早く転換した。ロンドンはLL八四七以降がRIAAになっているから、これも五四年はじめ頃からである。そのあとを追って、マーキュリー、キャピトル、バルトーク、ウェストミンスター、ヴァンガードも五四年後半から五五年中にかけてRIAAに切換えている。アメリカのレコードで一九五六年以降に出たものの録音特性は、特別なものを除いては、RIAAになっていると考えてほぼ間違いはないと、おもう。
 このふるいLPの録音特性のことで、はっきりしないのはヨーロッパのレコードである。英デッカのはあまりにも有名だから問題ないとして、ほかのレーベルでは、EMI(HMV、英コロムビア)は米コロムビアと同一のカーヴで録音されていたことぐらいで、DGGやテレフンケン、フランスの各社などはデータがわからない。しかし、RIAAの録音特性はすぐにCCIRやEIAでも承認されているので早い機会にこのカーヴになったものと考えられる。五〇年代前半のヨーロッバのLPは日本で入手できる機会はほとんどなかった。日本プレスのLPも、ごく初期にコロムビアがアメリカからメタル・マザーを取り寄せてプレスしていたものを除いては、RIAA特性になっているはずである。
     *
少なくともステレオLPはRIAA以外のカーヴはない。
にも関わらず、RIAAカーヴ制定後に発売されたLPについて、
その録音カーヴはRIAAではない、という人が、今も昔もいる。

確かにRIAAが制定される以前はレコード会社によって録音カーヴが違っていたのは事実である。
だからといってステレオLPにおいてもカーヴが違う、と考えるのはどうか、と前々から思っていた。

それでも個人で、アナログディスク再生をする際に、
1956年以降のLPでRIAAカーヴのものであっても、他のカーヴのほうが結果として好ましいことはあるだろう。
だからといって、そのレコードの録音カーヴがRIAAではない、ということにはならない。

それに常識として、カッティング時にもカッティング・エンジニアがイコライザーで周波数特性をいじっている。
この場合、RIAAカーヴでカッティングしても、
パラメトリックイコライザー、もしくはグラフィックイコライザーを使うわけだから、
トータルのカーヴとRIAAと少しずれてしまう。
その可能性を無視して、RIAAではない、というのはどうだろうか。

それにもうひとついいたいことは、RIAAかどうかを判断する再生装置の音のことである。

何かを測る時に定規が直線ではなく、曲っていたらどうなるか。
つまり再生装置の音のバランスがきちんと整えられているのであればいい。
けれどそうでなければ、多少なりとも曲った定規ということになる。

その曲った定規で、RIAAカーヴなのかどうかがわかるのか、ということである。
定規(基準)が直線なのか、
ここを曖昧にしたままでの録音カーヴ議論はいつまでも結論が出ない。

それが楽しい、というのであれば、別なのだが……。

Date: 11月 1st, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーのアクセサリーのこと(その6)

年月が経って思うことはもうひとつある。
ターンテーブルシートを交換した時、トーンアームの高さだけは調整した。
針圧、インサイドフォースキャセラーに関してはいじらなかった。
けれど、これでは厳密な意味での比較試聴には不十分である。

針圧も調整し直し、インサイドフォースキャセラーについても同じである。
再調整して、調整前と同じ針圧、キャンセル量となることもあるだろうし、変ることもある。

アナログディスクは剛体ではなく弾性体である。
だから針がトレースした直後は溝がわずかだが変形する。
この変形はしばらくすると元にもどる。

ということはアナログディスクという塩化ビニール盤も、わずかとはいえダンパーと見做すことができる。
ウェストレックスの10A、ノイマンのDSTといったカートリッジには、ダンパーと呼べるパーツが使われていない。

10AもDSTも、一般的なカートリッジとは異る発電構造をしていることもダンパーの有無に大きく関係している。
だからカンチレバーの根元に発電コイルとダンパーをもつ一般的な構造のカートリッジは、
10AやDSTほどにはアナログディスクをダンパーとは見做していないだろうが、
それでもアナログディスクの素材の特質からしてダンパーとして働いている、とみていいだろう。

ならばアナログディスクとターンテーブルシートプラッターの間にあるシートも、
その材質によってダンパー的といえるようになるのではないか。
つまりシートの硬軟によって、適正針圧に微妙に影響するわけで、
そうなるとターンテーブルをシートを交換するのであれば、
つまり比較試聴するのであれば、厚みに応じてトーンアームの高さを調整するのはもちろん、
音を聴いて針圧とそれにともなうインサイドフォースキャセラーもまた微調整しなければならない。

このことはアナログディスクの厚みについても同じことがいえるはず。
重量盤は通常盤よりも厚みがある。ということはダンパーとして見做した場合、
その分針圧に影響しているはずである。

以前重量盤を聴く際に、トーンアームの高さは調整していたことがある。
だが針圧までは再調整しなかった。
これでは不十分だった。

もっともカートリッジの針圧を、カタログに最適1.5gと書かれてあるからといって、
1.5gにきちんと合わせれば針圧調整は終りでしょう、と思っている人には関係のないことでしかない。