Archive for category 色

Date: 10月 2nd, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その11)

「限りなく透明に近いブルー」。
村上龍氏のデビュー作であり、1976年の芥川賞受賞作である。

ステレオサウンド1978年別冊「世界のオーディオ」のパイオニア号に、
村上龍氏のが登場されている。
パイオニアのオーディオ機器を使っているユーザー訪問記事で、
タイトルは「私とおーでぃお」。
村上龍氏のほかには、粟津潔、小室等、立木義浩の三氏も登場されている。
     *
村上 芥川賞の記者会見のときに、新聞記者の一人から、あなたは音楽がお好きのようだけど、ご自分ではこの『ブルー』でどういう音楽をイメージされますか、と質問されたんです。
多分だれもがロックという答えを期待されたんでしょうが、ぼくはキザにも、シューマンのピアノ曲と答えたんですね。あまりにもキザにきこえたんでしょう、新聞にはかかれなかった(笑い)。でも、ぼくはほんとうにそう思っているんですよ。
     *
シューマンのどのピアノ曲かというと、
クララ・ヴィークの主題による変奏曲、クライスレリアーナ、謝肉祭を挙げられている。
好きな曲は「抒情的で、おしゃべりじゃあない音楽」だとして、
バッハも好きで、ブランデンブルグ協奏曲、ゴールドベルグ変奏曲、パルティータも挙げられている。

Date: 6月 25th, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その10)

アバドとアルゲリッチがピアノをはさんで坐っている写真。
検索すれば、すぐに見つかる写真。
2014年11月にドイツ・グラモフォンから発売になった、
このふたりによるピアノ協奏曲集のジャケットにも使われているから、
目にされた方も少なくないはず。

青を基調とした、この写真に写っているアバドとアルゲリッチは若い。
1970年代に撮影されたものであろう。

私は、この写真をiPhoneのロック画面にしているから、
一日のうちけっこうな回数見ているけれど、いまのところ他の写真に変えようとは思っていない。
もう一年半ぐらい、この写真のまま使っている。

アルゲリッチは1941年、アバドは1933年生れであるから、
1971年ごろだとしたらアルゲリッチは30、アバドは38ということになる。
もう少し後のことだとしてもアルゲリッチは30代だし、アバドも40前半ごろといえる。

老いを意識しはじめている年齢ではないはずだ。

日本では青は、未熟、若い色として使われることがある。
青臭い、青二才、青女房、青侍、それに青春がある。

写真のふたりはまだまだ若い、といえる。
いまのアルゲリッチの姿、亡くなる前のアバドの姿を知っているだけに、
まだまだ若いではなく、素直に若い、と感じる。
だから青が似合う。よけいにそう思えるけど、このふたりに未熟さは感じない。

だから、この写真の「青」は、何かと何かの狭間にある色のように感じることがある。

Date: 3月 21st, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その9)

オルトフォンのMC20と同時代に、青のモノが登場している。
ヴェリオン(のちのコッター)の昇圧トランスMark Iがそうだ。

一次インピーダンスが2.5ΩのType P、25ΩのType PP、40ΩのType S、
注文に応じて一次インピーダンスを設定してくれるType Xが用意されていた。

ヴェリオンのトランスは高価だった。
輸入品ということもあっただが、一台15万円していた。
同時期マークレビンソンのヘッドアンプJC1ACが13万5千円だった。

ヴェリオンのトランスはステレオサウンド 46号の新製品紹介のページに出ている。
ここではモノクロだからボディの色はわからないが、
このトランスは第二特集の「最新MC型カートリッジ 昇圧トランス/ヘッドアンプ総テスト」にも登場している。

この記事もモノクロだが、記事の頭に三つ折りのカラーがついている。
テスト機種のカートリッジ、昇圧トランス、ヘッドアンプの集合写真がある。

ヴェリオンのトランスは、濃い鮮かな青で、集合写真の中でも目立っている。
ヴェリオンのトランス(三つ並んでいる)の後方には、ジュエルトーンのヘッドアンプRA1がいる。

RA1が赤ということもあって、この一角がより目立つ。
ヴェリオンのトランスの四つ右隣にはグレースの昇圧トランスGS10がある。

このGS10もフロントパネルが青であるけれど、印象としてはどうしても薄くなってしまっている。
記憶の中でも薄れがちになってしまっている。

Date: 3月 21st, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その8)

ソニーの初代ウォークマンよりも、もっと小さな青のモノといえば、カートリッジがある。
オルトフォンのMC20がそうである。

オルトフォンを代表するカートリッジといえば、いまもつくられ続けているSPUがある。
このSPUの改良モデルとしてS15が出た。その後SL15なり、SL20も登場した。

けれどSPUの後に登場したこれらのモデルは、成功した、とは思えない。
オルトフォンがやっとSPUと並ぶモデルを開発できたのはMC20といってもいい。

MC20の成功がMC30を生み、MC30の成果がMC20にフィードバックされMC20MKIIになり、
この後もMCシリーズは展開し続けていく。

MC20のボディはSL15、SL20と同じであるが、色が違う。
MC20のボディは青だった。

MC30は上級機ということ、そして当時としては10万円ちかい、
かなり高価なカートリッジということもあってだろう、ボディの色は金だった。

MC20MKIIはMC20の改良モデルでもありながら、
MC30の普及クラスモデルとして位置づけだからだろう、
ボディの色はMC30系統であることを思わせる銀だった。

当時MC30は高すぎて手が届かなかった。
それ以外にも出力電圧が低すぎた。
まだ高校生だった私は、仮にMC30を手に入れたとしても使いこなせる自信も、
そのための環境を用意することもできないとわかっていたことも理由としてあった。

MC20MKIIは、私にとってはじめてのMC型カートリッジである。
音も気に入っていた。
MC20よりも、音の魅力もあった。
どことなく素っ気なく聴こえがちのMC20よりも、音楽をずっと魅力的に響かせてくれた、と感じていた。

あの時点で選ぶとしたらMC20よりもMC20MKIIではあったが、
いまとなると青ということでMC20を選ぶかもしれない。

MC20は青がふさわしいカートリッジなのかもしれない。

Date: 3月 17th, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その7)

青で思い出す映画がある。
「ブルースチール(Blue Steel)」だ。
この映画で、キャスリン・ビグローという監督を知った。

「ブルースチール」が何を意味するのか知らずに観た。
映画館の大きなスクリーンに何かが大写しになるオープニングは、強烈だった。

カメラが対象物に触れんばかりに近接して、舐めるように撮っていく。
すぐには何か、わからなかった。
しばらくして、拳銃だと気付く。

すぐに気付かなかった理由は、その何かが青く光っていたからだった。
拳銃の実物は、いまも見たことがない。
拳銃といえばテレビで見るものぐらいで、日本のテレビドラマに登場する拳銃のイメージは青ではなく黒である。
モデルガンも黒だ。

「ブルースチール」を観て、
“Blue Steel”が酸化焼入れ処理を施した鋼のことであり、拳銃の錆防止の表面処理として用いられることを知った。
そういう理由から”Blue Steel”が銃の色を表し、さらには銃そのものを指す言葉としても使われることも知った。

「ブルースチール」のオープニングは、青がいままで感じたことがないほどに官能的な色であることを教えてくれた。

Date: 3月 15th, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その6)

この項を書きながら考えているのは、
ソニーのウォークマンのことだ。

初代のウォークマン(TPS-L2)は、1979年に登場した。
もしこのウォークマンの色が他の色だったら……、
赤とか黄色とか、もしくは無難な黒かシルバーだったら、あそこまでの大ヒットになっただろうか。

初代ウォークマンのボディの色も青だった。
ボディ上部のヘッドフォン端子横のボタンはオレンジだった。

JBLのスタジオモニターの色と同じである。
ブルーのバッフルに、JBLのロゴはオレンジをバックに白抜きの文字である。

1979年、JBLの4343は大ヒットしていた。

ウォークマンの青とオレンジ。
単なる偶然かもしれないし、そうでないかもしれない、と思ってしまう。

Date: 2月 16th, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その5)

「青」で思い出すのは、カラヤンの「パルジファル」である。
カラヤンの「パルジファル」に関しては別項で書いている途中だが、
ここでも、「青」ということでどうしても書いておきたい。

カラヤンの「パルジファル」が、文字通り満を持して登場するまで、
「パルジファル」といえばクナッパーツブッシュの「パルジファル」だった。

「パルジファル」を聴くのは、クナッパーツブッシュの演奏から、と私は思っていた。
いまもそう思っている。

当時は、いまよりも強くそう思っていた。
そういう時にカラヤンの「パルジファル」があらわれた。

ジャケットはクナッパーツブッシュ盤とは対照的に青を基調としていた。
クナッパーツブッシュ盤とカラヤン盤のふたつのジャケットを並べてみて、
このふたつが同じワグナーの「パルジファル」をおさめたものとは、
まったくクラシックの知識のない人ならば、すぐにはそうとは思えないだろう。

私は五味先生の影響を強く受けている。
それは音楽の聴き方においてもである。
カラヤンを熱心に聴いてきたとは、いえない。

そんな聴き手の戯言と思ってもらっていいのだが、
「パルジファル」以降、カラヤンの録音で、青が印象的であるものがいくつかある。

モーツァルトの「レクィエム」がある。
それからワグナーの管弦楽曲集もある。ウィーンフィルハーモニーとのライヴ盤のほうだ。

青を基調としているわけではないが、カラヤンの隣にいるジェシー・ノーマンのドレスがそうだ。
このディスクを、いいディスクだと思う。

「パルジファル」以降、つまり晩年のカラヤンと青との関係、
そういっていいのかとも思い、カラヤンの晩年と青との関係といったほうがいいのか、
はっきりとはわからずにいるが、カラヤンは青という色を、どう捉えていたのだろうか。

Date: 1月 11th, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その4)

1998年に、ロスト・イン・スペースが公開された。
1960年代のアメリカのテレビドラマ、宇宙家族ロビンソンの映画版である。

映画館で観た。
この映画のスポンサーで、もっとも多くの資金を提供したのは、
シリコングラフィックス社だと思う。

映画本編にシリコングラフィックスのロゴが大きく登場するし、
ロスト・イン・スペースの時代(2058年)では、
シリコン・グラフィックスは世界でも有数の大企業という描かれ方だった。

シリコン・グラフィックスは、このころ勢いがあった。
Appleはジョブスが復帰して、iMacをその年の夏発売したとはいえ、
勢いにおいてはシリコン・グラフィックスに負けていた。

シリコン・グラフィックスのワークステーションは、本当に高嶺の花だった。
個人で購入するモノとは思えなかった。

シリコン・グラフィックスのワークステーションも、ブルーだった。
モデルによって色は違っていても、基本的には青をベースにしていた。

オーディオとは直接関係ないけれど、
青ということで、シリコン・グラフィックスを思い出してしまう。
それだけ、印象が強かった。

そういえばiMacも最初に登場したモデルは、ボンダイブルーだった。

Date: 1月 11th, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その3)

エラックのスピーカーシステム、CL310JETが登場したのは1998年だった。

トゥイーターにハイルドライバーの一種AMTを搭載する小型スピーカーシステムは、
数度の改良を経て、いまも現役のモデルである。

どの310がいいのかは私にとっては重要なことではなくて、
1999年に登場したCL310JET Audio Editionが、やはり青である。

CL310JET Audio Editionは日本では50セットの限定モデルだった。
アルミ製のエンクロージュアは、
オリジナルのCL310JETはシルバーとブラックが用意されていたが、
CL310JET Audio Editionでは、シルバーとブルーの二色だった。

エラックはブルーを選んだんだ、とCL310JET Audio Editionの写真を見て思った。
やっぱりブルーなんだ、とも思っていた。

なぜエラックがブラックではなく、ブルーにしたのか。
その理由は知らない。

CL310JET Audio Edition(シルバー仕上げ)を、知人のリスニングルームで聴いた時は驚いた。
小型スピーカーは、それまでいくつも注目製品を聴いてきていた。
セレッションのSL600は買って鳴らしていた。

CL310JET Audio Editionは、また小型スピーカーが新しい時代を迎えたようにも感じていた。
そういうCL310JET Audio Editionだから、ブルーのアルミ製エンクロージュアこそが、
このスピーカーにふさわしい色だと私は思っている。

Date: 12月 30th, 2015
Cate:

オーディオと青の関係(その2)

オーディオと青の関係でいえば、私の世代ではJBLのスタジオモニターである。
サテングレー仕様ではバッフルは黒だったが、ウォールナット仕様のバッフルはブルーだった。

4343のカラー写真を見ながら、「ブルーなんだ」とつぶやいていた。
他にブルーのバッフルのスピーカーシステムがあったかどうかは当時は知らなかった。
だけに、よけいに4343のブルーバッフルが印象に残っている。

4343だけではない、
同時代の4350のブルーのバッフルは面積が4343よりも大きいだけに、もっと強く印象に残る。

そして次に登場したのが、UREIのModel 813だ。
アルテックの同軸型ユニット604-8Gを搭載しながらも、
マルチセルラホーンのUREI独自のホーンに換装している。

このホーンの色が青だった。
このホーンが他の色だったら……、
特にアルテックのホーンと同じ黒だったら、Model 813のインパクトの強さは少し変ってきたかもしれない。

オーディオ機器の評価は音である。
けれど、単純に音だけではない要素が確実にある。

UREIのModel 813の成功の理由は、ホーンの青にあった、とさえいいたくなる。
そのくらいModel 813のホーンの青は際立っていた。

けれどModel 813Aになり、ホーンの外周部にスポンジ状のものが取りつけられるようになった。
音響的には813Aのホーンのほうが優れているのだろうが、
813の、あの薄いホーンと相俟っての青の印象が強く残っている私には、
あのスポンジをむしり取りたくなる衝動にかられる。

そんなことは措いとくとして、このころの私(高校生)にとって、
新しい時代のモニタースピーカーの象徴としての「青」があった。

Date: 12月 30th, 2015
Cate:

オーディオと青の関係(その1)

別項「日本のオーディオ、これまで」で、
オーディオと黒というサブタイトルをつけて何本か書いた。

書きながら、オーディオと青について書きたいと思っていた。

意外と気にしていない人がいるようだが、
ステレオサウンド(Stereo Sound)のロゴは何色がご存知だろうか。

ステレオサウンドの表紙には、毎号”Stereo Sound”の文字がある。
色はその号その号の表紙につかわれている写真によって変る。

1982年1月、ステレオサウンドを初めて訪れたとき、
鉄製の扉の色が青色だったのは、非常に印象的だった。

私がいたころのステレオサウンドの封筒には、青字で”Stereo Sound”とある。
ステレオサウンド(Stereo Sound)のロゴは、青色であることを、働くようになって知った。

“Stereo Sound”のロゴは田中一光氏のデザインである。
この色もそうなのだろうか。

オーディオと青。
“Stereo Sound”のロゴも含めて、私にとっては青は特別な色といえる。