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Date: 1月 31st, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その1)

井上先生にはじめてお会いしたのは、ステレオサウンド 64号の新製品の試聴である。

たいてい試聴は午後1時からのスタートなので、午前中に試聴器材をセットし、
新製品の電源を入れウォームアップして、あとは井上先生の到着を待つばかりにしておく。

当時の新製品の担当者のSさんが「井上さんが来られるのは、夜だよ」と言う。
それでもいつ来られるかははっきりしないので、試聴室で、待っていた。
夕方ぐらいかなと思っていたら、あっという間に7時になり、お見えになったのは9時か10時くらいだったか。
これがステレオサウンド編集部で働きはじめて、1ヵ月ぐらいの出来事だった。

すでに何人かの方の新製品の試聴に立会っていたので、このくらいの新製品の数だと、
試聴の時間は、このくらいかな、とある程度予想していた。

予想は見事に、多くハズレた。

このとき、JBLの4411が含まれていた。
横置きのブックシェルフ型で、当時は、スピーカースタンドも、ほとんど市販されているものはなく、
このタイプは、意外に設置に一工夫いる。
4411のセッティングだけでも、どのくらいの時間をかけられただろうか。
長かった。まだ長時間の試聴ははじめてだっただけに、疲れもあったけど、
出てくる音の変化に耳をすましていると、楽しい。

ステレオサウンドに書かれたものだけを読んでいてはわからなかった、
井上先生の魅力、それに凄さを感じはじめた日になった。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: サイズ, 井上卓也

サイズ考(その32)

30cmウーファーを4発使ったスピーカーシステムといえば、
インフィニティが1988年に発表したIRSベータがそうだ。
グラファイトで強化したポリプロピレン採用のコーン型ウーファーを4発、縦一列に搭載したウーファータワーと、
中低域以上はインフィニティ独自のEMI型なので、タワーというよりも、プレーンバッフル形状で、
指向性は前後に音を放射するバイポーラ型。

4発搭載されているウーファーのうちの1基は、MFB方式(サーボコントロール)が採用され、
専用のチャンネルデバイダーに、ウーファーからの信号がフィードバックされている。
このサーボコントロールをオンにした状態で、ウーファーのコーン紙を軽く押してみると、
瞬時に押し戻される感触があり、この機能を実感できる。

サーボコントロールのおかげだろうか、ウーファータワーのサイズは、奥行きがそんなにないのと、
フロントバッフルもウーファーのサイズぎりぎりまで狭められていて、実は意外にコンパクトである。

このIRSベータを、井上先生が、ステレオサウンドの試聴室で鳴らされた音を聴いた。
風圧を伴っていると感じるくらいの低音の凄さを聴くと、大半のスピーカーの低音の再生に物足りなさを覚えてしまう。

IRSベータの試聴がおわったあと、井上先生が、試聴室横の倉庫をのぞかれて、
「おい、あれ、持って来いよ」と言われた。
BOSEの301だった。

何を指示されるのかと思っていたら、301とIRSベータのウーファータワーの組合せだった。
おそらく、こんな組合せの音を聴いたのは、その時試聴室にいた者だけだろう。

井上先生の凄さは、こういう組合せでも、パッパッとレベルをいじり、それぞれの位置も的確に決められ、
ほとんど迷うことなく、ごく短時間で調整されるところにある。

この音も驚きであった。低音再生の深みに嵌っていくだろう。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: 4343, BBCモニター, JBL

BBCモニター考(その5)

JBLの4343のウーファー2231A(フェライトモデルは2231H)は、マスコントロールリングを採用している。
コーン紙とボイスコイルボビンとの接合部に金属製のリング(アルミ製)を装着することで、
比較的軽いコーン紙を使いながらも、振動板のトータル質量を増すことで、f0を拡張している。

マスコントロールリングなしで、コーン紙を厚くして同等の質量とすると、中低域のレスポンスが低下する。
質量の増加を、ボイスコイル付近に集中させているのが、この方式の特徴である。
というものの、やはり振動系の質量は100gをゆうにこえていたと記憶している。
38cm口径のコーン型スピーカーとしても、その質量は重量級といえる。

これを強力な磁気回路で駆動すれば、能率はそこそこ高くなる。

ロジャースPM510の軽量級のポリプロピレンのコーン紙とほどほどの磁気回路でも、
2231Aとほぼ同じ能率を実現している。
理屈の上では、能率が同じであれば、初動感度は等しい。
だが感覚的には同じとは認識しないのではないだろうか。

低能率のスピーカーをハイパワーアンプで鳴らせば、高能率とスピーカーと同等の音圧を得られる。
だからといって、高能率なスピーカーに共通する特質を、そこに聴くことはできない。

数値上でつじつまは合っていても、感覚的なつじつまはどうなのだろう。

Date: 1月 30th, 2009
Cate: アナログディスク再生, 五味康祐

五味康祐氏のこと(その7)

「想い出の作家たち」のなかで、五味千鶴子氏が語られている。
     *
亡くなる前にベッドに寝ていても、毛布をシュッとかけなおして、「折り目正しくなってるか」とたずねるのです。
「ええ、きちんとなってますよ」と言うと安心しました。何かお見舞いの品をいただいても「真心こもってるか」と言います。「とても真心のこもったものをいただきましたよ」と言うと、「そうか、人間は折り目正しく、真心こめていかなきゃいけないよ」と言っていたのをよく覚えております。
     *
「折り目正しく、真心こめて」が、
五味先生がオーディオ愛好家の五条件のひとつにあげられている、
「ヒゲのこわさを知ること」につながっているのは明らかだろう。

漫然とレコードをあてがうことで、センタースピンドルの先端をレコードの穴の周辺で行ったり来たりさせて、
その跡が細く残る。光にあてると、すぐにわかるスジがヒゲだ。

「折り目正しく、真心こめて」レコードを扱うのであれば、
こんなヒゲがつくことはない。
レコードの扱いは、ひいては音楽の扱いである。
それでも、ヒゲがあっても、肝心の盤面にキズがなければ音には無関係とわりきっている人もいるだろう。

あえて言うが、必ずしも無関係とは言えない。
レコードのセンター穴も、アナログプレーヤーのセンタースピンドルも、その寸法に許容範囲がある。
規格によって定められている寸法ぴったりだと、すっという感じで、レコードをターンテーブルの上に乗せられない。
ごくまれにレコードのセンター穴がぎりぎりの寸法のためなのだろう、
レーベル面をぐいっと力を込めて押す必要があったレコードに出合ったこともあるが、
ほとんど全てのレコードがすっとおさまる。

つまりセンタースピンドルとセンター穴の間には、わずかだけど、すき間が生じている。
そのためレコードがかならずしもセンターにきている保証はどこにもない。
ほぼ確実にどの方向かにオフセットしているわけだ。

以前、ナカミチから、このレコードの偏心をプレーヤー側で自動調整する製品TX1000が出ていた。
TX1000で調整前と後の音を聴き較べると、レコードの偏心による
──偏心といっても、ほんのわずかなブレなのに──音の影響の大きさに驚かれる方も少なくないだろう。

TX1000のように自動調整機構がついてないプレーヤーでも、偏心の影響はすぐにでも確かめられる。
同じレコードをセットして音を聴く。そしていったんレコードを取り外して、またセットして音を聴く。
けっこう音の違いがあるのに気づかれるはずだ。
端的にわかるのが、カートリッジを盤面に降ろした時の音である。
通常、ボリュームを絞ってカートリッジを降ろし、ボリュームをあげるが、
レコードの偏心を確かめたい時は、あえてボリュームには触れず、いつも聴く位置にしておく。

偏心が少なく、ほぼ中心にレコードがセットされている時の、カートリッジが盤面に降りた時の音は、
スパッとしていて、尾をひかず気持ちのいいものだ。
偏心が多いと、「あれっ?」と思うほど、この時の音が違う。

使い手の手に馴染んだプレーヤーで、「折り目正しく、真心込めて」レコードをセットしていると、
たいていは、いい感じの位置にレコードが収まってくれる。

これは、私の体験から断言できる。
ステレオサウンドの試聴室で、それこそ多い日は、何度も何度もレコードを取りかえ、ターンテーブルに乗せている。
その回数は、半端ではない。

だから言える。
ヒゲをつけるようなレコードのセットでは、偏心も大きかろう、音も冴えないだろう、と。

Date: 1月 30th, 2009
Cate: 五味康祐, 伊藤喜多男

五味康祐氏のこと(その6)

ステレオサウンドの姉妹誌HiViに伊藤先生が、五味先生のことを書かれたことが、一度だけある。

五味康祐大人、と、そこには書かれていた。

五味先生は大正10年、伊藤先生は明治45年の生まれ。
だから、「五味康祐大人」の言葉のもつ重み、意味合いを想うにつれ、目頭が熱くなった。

伊藤先生も五味先生も、それぞれのモノに、心酔し惚れ抜いた人である、男である。
伊藤先生はシーメンスのスピーカーに、真空管(とくにウェスターン・エレクトリックの300Bに)。
五味先生はタンノイのオートグラフに。

惚れた、でも、惚れ込んだ、でもない。惚れ抜くことができた。

実現せずに終ってしまった、残念なことがあった、ときいている。
五味先生のお宅に、
伊藤先生製作のアンプ(コントロールアンプのRA1501と300Bシングルアンプの組合せ)を持ち込み、
聴いていただこうというものであった。
実現していれば、ステレオサウンドに載っていたであろう。
どういうふうに載っていただろうか。

もしかすると、オーディオ巡礼のなかで実現していたのかもしれない。
それまでのとは逆に、伊藤先生が五味先生のリスニングルームを訪ねられる、
という形でのオーディオ巡礼だったのではないか、と思ってしまう。

五味先生がなんと語られたのか、
伊藤先生と五味先生の語らい、それを五味先生は、どう言葉にされたのか……。

実現には、時間が足りなかった。

Date: 1月 29th, 2009
Cate: 4343, JBL, SX1000 Laboratory, Victor

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その49)

SX1000 Laboratoryのインディペンデントベースを、4343に使ってみたらどうなるだろうか。

4343の底板のサイズは63.5×43.5cm、SX1000 Laboratoryはすこし小さめで、55×37cmだから、
おそらく低域がタイトに締まった感じになる可能性がある。

4343にぴったりのインディペンデントベースがあったとしたら、どうなるだろうか。
4343の良さも悪さも露呈し、そのコントラストがはっきりするような気がする。

インディペンデントベースは、材質の固有音を積極的に音づくりに活かすモノとは正反対だけに、
それまでベースやスタンドの固有音に、うまく覆いかぶされていた欠点は、
よりはっきりと耳につくようになるだろう。
もちろん反対にそういった固有に音にマスキングされていた、良い面もはっきりと浮かび上がってくる。

だから固有音を活かしたベースなりスタンドは、スピーカーとの相性が、ことさら重要になる。
インディペンデントベースは、そんなことはまったくないとはいえないまでも、
ほぼ無視できるくらいに、固有音の少ない材質と構造となっている。

それだけに、スピーカーの使いこなしが、ますます重要になってくるのは、容易に想像できよう。
4343の場合、雑共振、不要輻射などの2次放射を適度に抑えることで、
聴感上のSN比を積極的に向上させていくのも、ひとつの正攻法な手だと言えるだろう。

だからといって、抑え過ぎてしまうくらいなら、いっそ4343ではなく、
他のスピーカーにしてしまったほうがいい、と私は思う。

4343とインディペンデントベースの組合せで使うようになったら、
4343に手を加えることになるだろう。

ここ10年以上、ベースやスタンドといえば、スパイクとの併用が当り前のようになっているだけに、
インディペンデントベースの設計方針、構造こそ、もう一度見直される価値がひじょうに高い。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その27)

LNP2とJC2を聴けばわかるが、同じ匂いがするといってもいいし、同じ血が流れている印象がある。
ことわるまでもないが、LNP2は自社製モジュールの搭載の方だ。

ML2LとML3Lはどうだろう。似ているところは、たしかにある。でも、どこか血がすこし異る、
異母兄弟、異父兄弟といったところか、もしくはいとこ同士か。
血縁関係にはあるが、少なくとも同じ父母をもつ兄弟という感じはない。

ML2LもML3Lも、登場した時は、どちらもマーク・レヴィンソンの設計と発表されていた。
正式に発表されたわけではないが、ML3Lはトム・コランジェロの設計だと思う。
ML7Lがコランジェロが、マークレビンソン・ブランドではじめて設計したアンプと、当時は言われていたが、
ML2L、ML3Lをレヴィンソンの設計と発表したぐらいだから、鵜呑みにはできない。
回路図が入手できるのであれば回路をみて、それ以上に音を聴いて自分で判断するしかない。

ML2Lは、ジョン・カール設計のJC3をベースに、おそらくコランジェロが改良を施したもの、
ML3Lは、コランジェロがすべてを手がけた、最初のアンプであろう。

2台並べて音を聴いてみると、とても同じ設計者の手によるアンプの音とは思えないことに、
すぐに気がつかれるはずだ。そのくらい、このふたつのパワーアンプの音は、性格が異る。

Date: 1月 29th, 2009
Cate: 五味康祐

五味康祐氏のこと(その5)

五味先生の書かれたものを、いくつか読み進めていくうちに感じていたのは、その洞察力の凄さだった。

もちろん文章のうまさ、潔癖さは見事だし、多くのひとがそう感じておられることだろうし、
そのことで隠れがちなのだろうが、歳を重ねて、何度も読み返すごとに、
その凄さは犇々と感じられるようになってきた。

「天の聲」に収められている「三島由紀夫の死」を、ぜひお読みいただきたい。
わかっていただけると思っている。

マネなどできようもない、この洞察力の鋭さが、オーディオに関しても、
こういう書き方、こういう切り口があったのか、という驚きと同時に、
オーディオについて多少なりとも、なにがしか書いている者に、
絶望に近い気持ちすら抱かせるくらいの内容の深さに結びついている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その26)

ML2Lの2年後に、ML3Lが登場する。
200W+200WのAB級のパワーアンプである、このモデルは、ML2L同様、
マーク・レヴィンソンの設計によるものと、当初は発表されていた。

とは言うものの、ML2Lとはずいぶん違う仕上がりだった。
ステレオ構成ということを差し引いても、ML2Lとは違い過ぎる。

LNP2とJC2、コントロールアンプの、この2機種も、構成はずいぶん違うのだが、
イメージには共通するものが流れている。ディテールに対するこだわりは徹底して同じ。

そういう共通するものが、ML2LとML3Lには、ほとんど、というかまったく感じられなかった。
見た目のプロポーションからして、そうだ。
モノーラル構成とステレオ構成という違いがあるのを考慮しても、ML3Lはずんぐりむっくりした感じがつきまとう。

全体に黒を基調として、シャーシー左右にヒートシンク、フロントパネルは電源スイッチのみで、
ハンドルが付けられている。
こう書いていくと、ML2Lと同じことになるのだが、それだけである。ここで止まってしまう。

内部を見ると、さらにML2Lとの印象の違いは濃くなる。
整然と緻密なコンストラクションではなく、各パーツを接ぐ内部配線が雑然とした印象を与える。
平滑用コンデンサーとの位置の絡みがあるとは言え、2つの電源トランスが斜めに配置されているのも、
コンストラクションの詰めが甘い。十分な検討がなされていない、そんな感じをどうしても受けてしまう。

Date: 1月 28th, 2009
Cate: 五味康祐

五味康祐氏のこと(その4)

ステレオサウンドが以前出していたHiFi Stereo Guide、途中からAudio Guide Year Bookに変わった、
この本の編集を担当されていたのは、私がステレオサウンドにいたころはTさん、ひとりだった。

締め切り間際になると、別の部署の女の子が手伝っていたけれど、
ほとんどの作業をひとりで黙々とこなされていた。

Tさんは、五味先生の「西方の音」所収の「タンノイについて」で、
「私の友人でレーダーの製作にたずさわる技術者──かつはHi・Fi仲間である」と語られている、その人である。

以前はアンプの自作も手がけられていたときいたことがあるが、
それらはいっさいやめて、その時はQUADのシステムで
──スピーカーはESLの、それもブラック仕様の方、アンプは44と405のペアで、
アナログプレーヤーはリンのLP12(トーンアームはSMEだったか)を、
昔の電蓄を思わせる特注のラックに収められていた。

Tさんに訊いたことがある。五味先生の補聴器のことについて、確認したかったからだ。

音楽を聴かれる時は、補聴器は使われていなかった、と書かれたものを読んで、そう思っていた。
けれども一部では、補聴器をつけたままレコードを聴かれていた、という者がいた。
どう見ても、五味先生とつき合いのあった人とは思えない者が、そういうことを言う。

だからTさんに確認したかった。
ただ確認だけをしたかったのだ。

そのときTさんが、五味先生とレストランで食事をされていた時のエピソードを話してくれた。

補聴器は、こういうところでは用をなさないことが多い。
ナイフやフォークの振れ合う音、椅子を動かす音といった、周囲の雑音が取捨選択なしに耳に飛び込んでくるからだ。

だから耳元で、「五味さぁーん」とそこそこ大きな声で話す必要があったにもかかわらず、
バックグラウンドミュージックでベートーヴェンの曲が鳴っていると、
同席した誰もが気がつかないのに、五味先生だけが「ベートーヴェンの作品○○だ」と口にされたそうだ。
言われて耳をすますと、確かに鳴っているのに気がつく。
そういう音量だったのに、五味先生ひとりだけベートーヴェンに耳をすまされていた。

「不思議だったなぁ、五味さんのそういうところは」と懐かしそうに話してくださった。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その25)

ML2Lには、製造時期によって細部が異るのは、マークレビンソンの製品としては当然のこととして、
ユーザーの多くは受けとめていることなのだろうか。

私の知る限り、電源トランスが2度変更されている。
最初はEIコア型、そのすぐ後にトランスのうなりを抑えるためにエポキシ樹脂で固めたものがあり、
おそらく中期以降、ケース付きのトロイダルコア型になっている。

出力段のパワートランジスターも、最初はモトローラ製の2N5686と2N5684のペアだったが、
後期のロットには、このトランジスターが製造中止になったあおりで、NEC製のペアに変更されている。

つまりトロイダルコアの電源トランスのML2Lには、トランジスターがモトローラ製とNEC製があることになる。

スピーカー端子も変更されているし、天板も、写真で見ただけだが、まったくスリットのないタイプもある。
おそらく内部パーツも、LNP2LやJC2(ML1L)がそうだったように、頻繁に変更されていても不思議ではない。
むしろ、初期のロットから何一つ変更されていないほうが、マークレビンソンだけに不思議であろう。

どのML2Lが、音がいいのかは、どうしても関心のある人の間では話題にのぼる。
私のまわりにいるひとの間では、
圧倒的にエポキシ樹脂で固めたEIコアの電源トランス搭載のもので、一致している。

山中先生は、このタイプのML2Lを、シリアルナンバー続きで6台所有されていた。

Date: 1月 27th, 2009
Cate: 選択

オーディオ機器を選ぶということ(その1)

天秤の左右の計量皿の上に何が乗っているのか。

一方は「知」、他方には「情」か。
いつの時代も、つねにバランスがとれているわけじゃない。
10代、20代前半のときは、どちらに大きく傾くことも多いような気もする。
齢を重ねることで、「知」も「情」もともに大きくなり、
徐々にではあるが、左右どちからに大きく傾くことは少なくなり、
ブレもなくなることが、人としての成長なのだろうか。

はたまた片方には「憧れ」が、他方には「必要」が乗っているのかもしれない。
「憧れ」が必ずしも、心が真に求めるものではないことは多い。
心に惑わされるのか、心が惑わされるのか、は、わからない。

別の棒に吊り下げられている皿には、「正統」と「異端」が、というように、
その人の内にある天秤には、ひとつの棒と左右ふたつの皿だけではなく、
いくつもの棒が乗っており、それぞれの皿には、なにがしかが乗っている。

齢とともに棒が増えていくのか、それとも外していけるのか。

人間関係やその人の周りを取り囲む、いくつもの情勢によっても天秤は、
時に大きく揺れることもあるだろう。

そんな揺れを完全に無視して、オーディオ機器を選択できる人がいようか。
仮に、そんな人がいたとして、その人と、オーディオの何を、どう語れるというのだろうか。

天秤の揺れのなかで、
心底、惚れ込めるオーディオ機器(これは、もうスピーカーと言い換えてもいいだろう)と出合えるまで、
経済状況が許すなら、そう場合によってはそれすらも無視して買い替えていくことを、
まわりの誰も、とやかく言うことはできない。そうではないのか。

肝心なのは支点がブレないことだ。

オーディオ機器を頻繁に買い替える人に対し、眉を顰める人、批判的な口調の人がいる。
否定的でなくとも、「変るのが、あの人の個性だ」と捉えるかもしれない。

実は変っていない。支点がしっかりしているから、ただ揺れているだけなのを見て、
人は「変っていく」と捉えるだけではないのか。

Date: 1月 27th, 2009
Cate: SX1000 Laboratory, Victor, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その5)

こういう設定そのものが妄想だということは言われなくてもわかっている。

それでも、もし歴代の国産スピーカーの中から、メインスピーカーを選ぶとしたら、
私は、ためらうことなく、ビクターのSX1000 Laboratoryを選ぶ。

ダイヤトーンの2S305こそ、日本的なスピーカーだと言われる人もいるだろう、
いや、ダイヤトーンでも、私はDS10000を選ぶという人、
海外ではじめて認められた国産スピーカーはヤマハのNS1000Mだから、
これを選ぶという人もいてもいい。

価値観も、オーディオへの取り組み方も、人の数だけ違う。

それでも、メインスピーカーとして、これからしばらく、そのスピーカーだけを使うことが前提なら、
スピーカーシステムとしての完成度の高さだけでなく、可能性の大きさも考慮した選択の結果が、
私にとってはSX1000 Laboratoryであり、程度のいい出物があれば、いまも欲しいとさえ思っている。

そのSX1000 Laboratoryを、いま鳴らすとしたら、どういう組合せだろうかと、あれこれ想いをめぐらしている。

Date: 1月 27th, 2009
Cate: 4343, JBL, SX1000 Laboratory, Victor

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その48)

SX1000 Laboratoryの前作SX1000専用スタンドLS1000だと、スピーカーの底面と床との間に空間ができる。
しかもX字型に組まれているため、この空間が三角形のようになり、
不要輻射に一種のメガホンがついたかたちとなっている。
そのためであろう、吸音材を入れた時の音の変化は、やや大きい。

響きの良い木でつくってあるにも関わらず、個性的な面も、すこし持っていると言えるかもしれない。

SX1000 Laboratoryのインディペンデントベースは、LS1000から、一歩も二歩も、
スピーカーとスタンド(ベース)、スタンドと床、スピーカーと床との相関性を考え、
従来のスタンドの構成から、先に進んでいる。

インディペンデントベースは、まずスピーカー本体と同寸法の、重量級の分厚い木製ベースによって、
床をある程度安定化させようする、一種のアブソーバー的なものであり、
スピーカー底面と床との空間を埋め、定在波の影響を抑えようとしている。

もちろんこのベースそのものの不要輻射(2次放射)を抑えるために、
表面処理も考慮されたものに仕上がっている。

この基本ベースの4隅には、それぞれ円筒型の穴が開けられている。
ここに円柱状の脚を挿し込み、これがスピーカーの底面と接する構造だ。
しかも円筒型の穴の内壁には、厚めのフェルトが貼られている。
それぞれの相互干渉と、脚そのものの共振を抑えるためであろう。

4本の脚は、ある意味フリーな状態で、頼りないと感じられるかもしれないが、
SX1000 Laboratory本体が上にのることで、安定する。

SX1000 Laboratoryと4本の脚、脚とベースをネジや接着剤で固定してしまっては、
このベースの意味はなくなる。

専用ベースとしてSX1000 Laboratoryに付属してきながらも、それぞれが独立している意味を考えてほしい。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その24)

ML2Lの定電圧回路は、ディスクリート構成の、JC3のそれと較べるとかなり大がかりである。
±両電源で、20石以上のトランジスターが使われ、直列に入る制御用のパワートランジスターも、
2パラレルになり、出力アップに対応している。
そして、この定電圧回路の出力電圧は、28Vと、JC3から10Vも高くなっている。

JC3は15W+15Wのステレオ仕様、ML2Lは25Wのモノーラル仕様。

想像するしかないが、マーク・レヴィンソンはJC3の音には満足していたのだろう。
ただ15Wという出力は、彼には少な過ぎたのではないだろうか。

この音のクォリティのまま、さらにパワーを求めるために、
1976年1月のCESでのJC3の展示から、ML2Lの発表までの1年以上の期間が必要だったのだろう。

ステレオからモノーラル構成になり、出力トランジスターも2パラレルから4パラレルに、
定電圧回路も、より大がかりで電圧も、当然高くしている。
ほとんど倍の規模になっていると、いってもいいだろう。

電圧増幅段の回路も、JC3そのままではない。
上下対称回路なのは同じだし、初段はFETの差動回路なのも同じだが、
共通ソースには定電流回路がつけくわえられているし、2段目もJC3そのままではない。
細部をブラッシュアップすることで、出力の増加を図りながらも、
クォリティの維持にとどまらず、より良い音のための工夫がこらされている。

そして保護回路も万全になっていると、以前瀬川先生が、週刊FMに書かれていた。
ML2Lは、動作中に水をかけてもスピーカーにダメージを負わせることはないらしい。

JC3に、保護回路があったのかどうかは、わからない。

ML2LがJC3そのままとは言えない。
ただJC3が基本になっていることは、断言できる。
そして、ML2Lのイメージにもなっている、あの外観をつくりだしたのはジョン・カールである。

JC3を、マーク・レヴィンソンの要求をできるだけ満たすようにつくり変えたのが、
おそらくトム・コランジェロ、その人なのだろう。