ホセ・カレーラスの歌
ホセ・カレーラスがいったい何枚のディスクを出しているのか、知らない。
ネットで調べれば、すぐにわかることだろうが、数にはあまり興味がないため、
だから、すべて聴いているわけではない。
そういう聴き手である私にとって、
ホセ・カレーラスの数あるディスクの中で、 大切なのは、二枚だ。
一枚はラミレスの「ミサ・クリオージャ」。
はじめて、このディスク(というかこの曲)を聴いた時、
ヨーロッパのクラシックとは違う、こういう美しさもあったのかと驚き、柄にもなく敬虔な気持ちになったものだ。
いまも、ときおり聴く。
もう一枚は「AROUND THE WORLD」。
タイトルどおり、各国の代表的な歌をカレーラスが、その国の言葉で歌っている。
国内盤のタスキで、黒田先生の文章が読める。
これが、また素晴らしくいい。
※
汗まみれの、力まかせの熱唱なら、未熟な歌い手にだってできる。
しかし、声をふりしぼっての熱唱では、ききての胸にしみじみとしみる歌はきかせられない。
充分に経験をつんだ歌い手が表現の贅肉をそぎおとして、静かに、淡々とうたったときにはじめて、
耳をすますききての心の深いところで共鳴する歌がある。
このアルバムで、ホセ・カレーラスのきかせてくれているのが、そういう、味わい深い歌である。
今のカレーラスだけに咲かせられた、いろどり深く、香り幽き秋の花にでもたとえるべきか。
※
この黒田先生のすてきな文章を読みたくて、
輸入盤のほかに国内盤も買ったほどである(国内盤は友人にプレゼント)。