Date: 5月 5th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その4)

ステレオサウンド 68号は1983年の秋号。
JBLから4345が登場したのは二年前の1981年だし、続けて4344も出している。
このどちらにもメクラ板はない。

JBLも、おそらくメクラ板による音質への影響があることはすでにわかっていたのだろう。
メクラ板がついているのは4343で最後になっている。
(4350の後継機4355には残っているのは4343にメクラ板があるのと同じで、デザインが理由なのかもしれない。)

メクラ板の存在は音に干渉する。
メクラ板の板厚が4343のフロントバッフルの板厚よりも薄いということも、
フロントバッフルの板厚の分だけ奥に引っ込んでいることも、
音への影響を大きくしている、といえる。

ならばメクラ板のないサブバッフルをつくってしまえば、
メクラ板がそもそもないのだから、メクラ板の影響はなくなる。

ステレオサウンド 68号の記事を読みながら、私はそんなことをすぐに考えた。
4343のサブバッフルと同じ材質で同じ板厚で、同じ塗装を施す。
違うのは2405の取り付け穴がひとつだけ、ということ。

メクラ板がなくなった4343の姿を次に思い浮べた。
そこで気づいた。

4343は左右チャンネルとしては左右対称のスピーカーではないけれど、
一本のスピーカーシステムとしてみれば左右対称である、と。

Date: 5月 5th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その3)

ステレオサウンド 68号に、続々JBL4343研究が載っている。
井上先生が講師という役割で、元ユーザーの黒田先生に4343の使いこなしを伝える、というもの。

ステップIで、各ユニットの取り付けネジの増し締め。
この記事は聴感だけではなく、三菱電機の協力を得て測定も行っている。
誌面では4343のサブバッフルのモーダル解析が載っている。
ネジが緩んでいるとき、締めたときの二枚の図があり、視覚的にも増し締めの効果がわかる。

ステップIIではホーンの振動をコントロールしている。
これもダンプの有無による立ち下がり特性と振動特性の変化の図がある。

ステップIIIは、音響レンズの鳴きをコントロールするもので、
ダンプによる周波数特性の変化と振動特性の変化をグラフで示している。

ステップIVでバスレフポートと2405のメクラ板の鳴きを抑えるもの。
メクラ板の鳴きのコントロールとは、ここではブチルゴム(2cm×1cm)を、
セパレータ(ブチルゴムについている白い紙)とともに貼ることだ。

たったこれだけでどれほど音が変るのか──。
黒田先生の発言を引用しておく。
     *
これは見てるとちょっと信じられないですね。
さっき(ポートにブチルを貼ったとき)前に向って広がった感じが出てきたといいましたが、今度は、その広がった分の空気が澄んだという感じですね。さっきまでは湿度が高い感じだったのが、まるでクーラーが入ったように、すっと湿度が下がってさわやかになった。
     *
メクラ板に小さなブチルゴムを貼るだけで、それだけ音が変化するのかと訝しむ人もいるだろうし、
この記事を読んですぐさま試した人もいることだろう。

だがこの記事の最後にあるように、「相当使いこなしてきた上での話」だということ。
いいかげんな設置・調整で鳴らしている4343に同じことをしたからといって、
これだけの音の変化は得られない。

もうひとつ大事なことは、井上先生はこの記事で行ったことをそのまま4343に施せ、といわれているわけではない。
4343がもつ、いくつかの細かな問題点を指摘され、そこに手を加えることで、どういう音の変化が得られるのか。
このことを自分で試してみることで、その音の変化(方向、量)を確認することで、
それまで気がつかなかったことに気づき、使いこなしのステップを上に上がることができる、ということである。

Date: 5月 4th, 2014
Cate: 4345, JBL

JBL 4345(その2)

JBLの4343はステレオサウンド 41号の表紙になっている。
4343は1976年の秋ごろに登場した新製品なので、41号の新製品紹介のページでも取り上げられている。

私が初めて買ったステレオサウンドは、4343が新製品として、さらには特集と表紙にも取り上げられている41号。
けれど私にとって4343は新製品という印象はほとんどなかった。

理由は簡単である。
41号に載っていたオーディオ機器は、そのころの私にとってほとんどが未知のモノだったからだ。
つまり一年前に発売されたモノももっと前からあるモノも、4343のように出たばかりモノでも、
その多くを知らなかった者にとっては、はじめて目にするという意味では、新製品のようなものである。

こんなモノが登場した、というよりも、こういうモノが世の中にはあるんだ、という気持で41号を読んでいた。

4343以降、JBLも新製品を出してきていた。
コンシューマー用スピーカーもあったし、プロフェッショナル用では4301があった。
とはいえ、4343をこえるモノは登場していなかった。

JBLが自ら4343をこえるスピーカーシステムを出す日を、
期待もしていたし、4343に憧れていて手が届かなかった者はまだ来なくてもいいという気持もあった。

4345は、だから待ちに待ったJBLの新製品であった。
私にとって、初めてといえる、JBLの本格的な「新製品」ともいえた。

Date: 5月 4th, 2014
Cate: Jazz Spirit

喫茶茶会記のこと(その2)

Noise Control/Noise Designという手法」で、マッキントッシュのアンプのツマミのことに触れた。
コントロールアンプのC27のことについても書いた。

マッキントッシュの、トランジスター以降のコントロールアンプの中で、C27は好感がもてる。
本格的なマッキントッシュらしいコントロールアンプといえばC29が、同じころにあったし、
上級機としてC32も存在していた。
その後もかなりの数のコントロールアンプが登場している。

C27は、そんななかにあってあまり注目されることなく消えていった印象がある。
それでも私は、マッキントッシュのコントロールアンプの中で、
管球式のC22を別格とすれば、C27は、無理をしてまで欲しいとは思わないけれど、
縁があれば手元に置いときたいモデルである。

私が毎月第一水曜日にaudio sharing例会を行っている四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記がある。
今日、ここの店主の福地さんが、「Noise Control/Noise Designという手法」の(その34)にコメントをくれた。

明日(5月5日)、店で使っているアンプがマッキントッシュのペアにかわる、とのこと。
パワーアンプはMC2505で、コントロールアンプはC27とある。

これがC27でなく、C29だったりC32だったり、さらにはマッキントッシュの他のコントロールアンプだったら、
ここであらためて書くことはなかった。

でもC27である。
だから書きたかった。

Date: 5月 4th, 2014
Cate: 4345, JBL

JBL 4345(その1)

新製品。
いくつになっても新製品の登場には、なにがしか期待するものがある。
その期待は、メーカーにとっては、受け手側の勝手なものでしかないのかもしれないから、
必ずしも、そんな期待が満たされるというわけではない。

それでも新製品の登場にはやはりきたいしてしまうものだ。
特に期待しているメーカーの新製品であれば、なおさらだ。

ステレオサウンド 56号の419ページに、編集部によるJBLの新製品情報が載っていた。
4343の上級機、改良型、次期モデルに位置づけされる4345のことだった。
そこにはイラストも載っていた。

18インチ口径のウーファー搭載の4345のイラストは、
プロポーション的にあまりかっこいいとは思えなかった。

ステレオサウンドで何度も目にしていた4343のプロポーションと比較するまでもなく、
どうしてもずんぐりむっくりした印象が拭えない。

それでも、これはイラストだし、実際登場した来るときには、ずっと洗練されていることだろう、
と期待していた。

次の57号の新製品紹介には4345は、まだだった。
58号で登場した。

カラーページで、瀬川先生が書かれていた。

Date: 5月 3rd, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その2)

JBLは1960年代にハークネスで左右対称のユニット配置を取り入れている。
にも関わらず4343では左右対称にしていない。

4343の前身4341も左右対称ではない。
4341も2405の位置を変えられるようになっているが、
位置を変えたところで左右対称配置にはならない。

4350もユニットの位置を変えられるようになっている。
2405だけではなくミッドハイを受け持つ2440+2311-2308も入れ替えることになる。

4343も4350も出荷時に左右対称配置にしてくれれば、使い手としてはありがたい。
そうしてくれてれば2405の位置を変えたければ、スピーカーそのものを左右で変えればすむ。

4343は79kg、4350は110kg。軽いとはいえない重量だが、
2405の位置を変える手間からすれば4343そのものを左右で入れ替えた方がてっとりばやい。

4343はなぜ2405の取り付け位置をユーザーにまかせてしまったのか。
その理由をあれこれ、以前は考えていた。

まず誰もが思いつくのは、そうしたほうが生産しやすいからだろう、である。

だが細かく考えていくと、ほんとうにそうなんだろうか、と思えてくる。
2405の位置を変えるための穴を余計にひとつあけなくてはならない。
さらにそこを塞ぐための板を用意して取り付ける作業がふえる。
ネジも四本余計に必要になる。

手間もコストも、わずかとはいえ余分にかかる。
そんなことをメーカーがするだろうか。
これは別の理由があるのではないか。

私が出した答は、デザインがその理由である、ということだ。

Date: 5月 3rd, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その1)

4343のユニット配置はインライン配置である。
ただしスーパートゥイーターの2405に関してはインライン配置にしてしまうと、
エンクロージュアの高さがその分必要になるためなのか、
ミッドハイを受け持つ2420+2307-2308の横に取り付けられている。

つまり音響レンズの横に2405はある。
そして音響レンズの、2405が取り付けられている反対側には丸い穴がメクラ板でふさがれている。

ようするに4343は出荷時には左右の指定はない。
ユニット配置は左右対称ではなく左右共通である。
だからそのままの4343を部屋に設置すると、
片チャンネルの2405は外側に、反対チャンネルの2405は内側にくる。

ウーファー、ミッドバス、ミッドハイの三つのユニットはインライン配置なので、
2405だけがこういうふうになるのは気にする人にとっては、すぐにでも変更したくなる点である。

そうなるとミッドバス、ミッドハイ、
2405の三つのユニットを取り付けているバッフルをエンクロージュアから取り外して、
2405の位置を片チャンネルのみ変えることになる。

特に難しい作業ではないけれど、面倒な作業と思う人もいるだろう。

それにしても、なぜ4343は最初から左右対称のユニット配置で出荷しなかったのだろうか。

Date: 5月 2nd, 2014
Cate: audio wednesday

第40回audio sharing例会のお知らせ(アクースタットのこと)

今月のaudio sharing例会は、7日(水曜日)です。

テーマについて考えていた。
ブログの記事の本数が4300本をこえたので、いまはJBLの4300シリーズのことを主に書いている。
4320のことについても書いている。
そのなかでアクースタットのスピーカーについてふれた。

これだけだったらほかのテーマにしようと思っていたところに、
昨晩友人が知らせてくれたリンク先で、
スティーヴ・ジョブスの1982年当時のオーディオ機器について、これまでよりも詳細について知ることができた。

スピーカーがアクースタットのModel3なのは、一目両線ですでに知っていたことだ。
それでもアクースタットのスピーカーについて書いていたときに、こういう記事が公開された偶然に、
今回のテーマはアクースタットについて語ろう、と決めてしまった。

アクースタットのスピーカーについては、ステレオサウンド 43号の新製品紹介のページで知った。
当時の輸入元はバブコ。
ACOUSTATの表記はアコースタットだった。

このときの製品はAcoustat Xだった。
縦長の振動板を三枚使用し、
電圧増幅段はトランジスター、出力段のみ真空管を採用した専用アンプを搭載していた。

コンデンサー型スピーカーの駆動には高電圧が必要となる。
通常のコンデンサー型スピーカーにはトランスが使われるが、
Acoustat Xはもともと高圧を扱う真空管の出力段からトランスを省き、
つまりOTL構成とすることで、ダイレクトに振動パネルを駆動するというものだった。

このころの私はコンデンサー型、
それもフルレンジのコンデンサー型こそがスピーカーの理想に最も近いと考えていた。
そんな私にアクースタットの登場は、理想に近いスピーカーの登場のように映った。

けれどステレオサウンドの特集にアクースタットが登場することはなかった。
44号、45号はスピーカーが特集にもかかわらず、だ。

次にアクースタットのスピーカーがステレオサウンドに登場するのは、
またも新製品紹介のページで、49号である。
Monitorという型番に変り、振動パネルも四枚に増えていた。
専用アンプ搭載、その構成は前作と同じである。
このMonitorも特集記事に登場することはなかった。

このアクースタットのスピーカーが、ずっと気になっていた。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。

場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 5月 2nd, 2014
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(続×六・バッファーアンプについて)

パワーアンプの選択ということでもうひとつ思い出すことがある。
スチューダーのA68とルボックスのA740のことである。

スチューダーとルボックスの関係を知っている人ならば、
A68とA740という、このふたつのパワーアンプについて知らなくとも、どういう関係がそこにあるのか想像がつく。

最初に登場したのはスチューダーのA68であり、
しばらくしてA68をベースにルボックスがコンシューマー用パワーアンプとして登場させた。

A68はプロフェッショナル用であるから、入力端子はXLR端子のみ。
もちろんバランス入力となっていて、さらにはトランスが挿入されている。
フロントパネルにはメーターはない。
基本的にブラックパネルで、左右の入力レベル調整が独立してついているのと電源スイッチくらいである。

A740にはパワーメーターがついている。それから入力レベル調整にも、割と大きなツマミがつけられている。
それからスピーカーの切替機能を新たに設けられている。
入力端子はRCA端子の他にXLR端子もついているが、A68とは異りバランス入力でもなくトランスも挿入されていない。

A68とA740は見た目からして、プロフェッショナルとコンシューマーの違いをはっきりと打ち出している。

両機の回路図はインターネットで探せば比較的簡単に見つかる。
電圧増幅段、出力段はA68をベースにしているから、A740も同じだが、
A68はプロフェッショナル用として不要な帯域に対しての扱いが、A740ともっとも異る。
入力トランスがバンドパスフィルターであるし、その後にRFフィルターも設けられている。

機能的にはA740のほうが豊富といえるが、
アンプの回路としては、A740の方がシンプルともいえる。

このふたつのパワーアンプ、
瀬川先生はA740が登場したころは、A68とよく似ているとしながらもA740をA68よりも高く評価されていた。
それがあとになってA68を高く評価されている。

この変化にはリスニングルームの変化が関係している──、
と私はおもう。

Date: 5月 2nd, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その10)

JBLの4320から4343、4343からアクースタットへのスピーカーの移り変りについて、
つまり「スピーカーが変ってきた背景では、音楽の状況そのものも変ってきた」とされ、
オリジナル楽器による演奏が増えたきたこと、そして、いまもJBLであったなら、
「ああいう変則的な倍音を使った楽器の音が、あそこまでおもしろいとはおもえなかったかもしれない……」
とも書かれている。

こういうふうに「音楽とハードが持ちつ持たれつ変っていく」わけである。
だから黒田先生は「幾つになってもXとYを可変の状態においていたい」とされている。

変るのは音楽の状況とスピーカー(ハードの変化)だけではない。
聴き手もまた変っていく。変っていくスピードは違っていても。

このことはなにも聴き手側・再生側だけの話ではない。
送り手側・録音側にもいえることであり、
この送り側にはレコードという送り手とオーディオ機器という送り手がある。

送り手にも可変のXと可変のYが存在する。
スピーカーシステムの製作者にも可変のXと可変のYがあり、
このふたつが掛け合されるところでスピーカーが生まれてくる、ともいえよう。

しかもこのことはコンシューマー用スピーカーよりも、
録音の現場で使われるスピーカー(プロフェッショナル用スピーカー)のほうが、
可変のXと可変のYを無視するわけにはいかない。

JBLの4320とほぼ同じといえるユニット構成である4331、
同じJBLのスタジオモニターでも4320と4343の違いを語るとき、
可変のXと可変のYを抜きにしては、だから無理である。

Date: 5月 1st, 2014
Cate: iPod

ある写真とiPhone(追補)

二年半ほど前に「ある写真とiPhone」を書いた。

先ほど友人からのメッセージが届いていて、そこにジョブスのオーディオについての記事へのリンクがあった。
以前見た写真でははっきりしなかったことが、この記事でわかる。

Date: 5月 1st, 2014
Cate: 香・薫・馨

便利であっても(その11)

グラシェラ・スサーナの日本語の歌を聴いて、まず驚いたのは情景が浮んでくる、ということだった。
グラシェラ・スサーナの歌う、すべての日本語の歌がそうとはいえないけれど、
かなりの数の歌で、歌詞が描いている情景が浮んでくる。

グラシェラ・スサーナが歌って情景が浮んできた日本語の歌を、
もともと歌っていた人の歌唱で聴いても、必ずしも浮んでくるわけではなかった。
これは歌唱力の巧拙だけではないことはわかる。

では、情景が浮ぶのか(または浮ばないのか)。

言葉という具象的なものの中で、日本人にとってもっとも具象的な日本語で歌われるわけだから、
歌詞を含めて、その曲そのものが描こうとしている情景が、他の言語の歌よりも浮びやすいというところはある。
ならば、より正確できれいな日本語の発音による日本語の歌の方が、
歌唱力がほぼ同等であれば、情景は浮びやすくなる──、といえるのか。

少なくとも私の場合、そうとはいえない。
何が情景を浮び上らせるのか。私の中で情景が浮んでくるのか。

結局は、薫り立つものが、そこでの歌に感じられるかどうか。
私の場合はどうもそのようである。

気になっている(その3)

玄人とは辞書には、一つの物事に熟達した人。専門家。本職、とある。
英語ではprofessional、specialist、expertとなる。

オーディオの玄人とはオーディオの専門家、もしくはオーディオを本職とする人と、まず考えられる。
オーディオを本職とする人──、
つまりオーディオを仕事として対価を得ている人ということになる。

オーディオメーカーに勤めている人が、それにあたる。
何もメーカーの技術職の人だけでなく、営業関係の人もオーディオを仕事にしているわけだから、
オーディオの玄人ということになる。

輸入商社の人にも同じことがいえる。

他にもオーディオ店で働いている人。
彼らもまたオーディオを仕事としているわけだから、オーディオの玄人であるわけだ。

それからオーディオ雑誌の編集者もそうなる。
オーディオメーカーの技術職だけでなく営業関係の人もオーディオを仕事にしているのと同じように、
オーディオ雑誌を出版している会社の、
編集部以外の部署の人たちもオーディオの玄人と言おうと思えばいえなくもない。

とはいえ現実にはオーディオメーカーの営業関係の人たち、
出版社の編集部以外の人たちを、ここで無理に含める必要はない。

そしてオーディオ評論家、と現在呼ばれている人たちも、またオーディオの玄人ということになる。

こういう人たちがオーディオの玄人として挙げられるが、
果してオーディオを仕事にしているだけでオーディオの玄人と呼べるのだろうか。

Date: 4月 30th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その9)

「音に淫してしまうような」のところを読んで、
あの当時、アクースタットの世界にまいってしまった者のひとりとして思い出すことがある。

ある試聴のとき、アクースタットのことが話題になった。
よく出来ているコンデンサー型スピーカーとして認めるけれども……、とある人がいわれた。
これは記事にはなっていないし、誰の発言なのかにはふれない。

そう、こんなことをいわれた。
「女だと思って服を脱がしてみたら男だった。そういうところがアクースタットの音にはある」

このとき他の方も同席されていて、「たしかにそういうところがある」と同意されていた。

そのころの私はアクースタットにまいっていたものの、
もうひとつ買う決心がつかないままでいた。
そこに、この発言だった。

これに対して、半分は反論したかった気持と、それが決心を鈍らせていたのかも、と思った。

何もスピーカーは擬人化で女性である必要はない。
男性的であるスピーカーもあるし、いい音であるならば男性的なスピーカーにだって惚れる。

けれどアクースタットのように性別が不明、とでもいおうか、
そういう性格の音に対しての敏感さは、当時の私にはまだなかった。

「音に淫してしまうような」アクースタットの音は、そういうところなのかもしれない。

念のため書いておくが、だからといってアクースタットの音を否定したいのではない。
いまふり返ってみて、アクースタットの登場は、
あきらかにそれまでのアメリカのスピーカーということにとどまらず、
ヨーロッパのスピーカー、日本のスピーカーにもなかった性格を持っていた、ということがはっきりとしてくる。

Date: 4月 30th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL 4320(その8)

ステレオサウンド 100号には、こう書かれている。
     *
 しばらくして『ステレオサウンド』の試聴室でアクースタットに出会う。声を聴いたときの独特の生々しさ、ある色っぽさにほろっとまいってしまった。すこし潤んだような目で見つめられたような感じであった……きつめの女につき合ってきて、すこし疲れていたのかもしれないし、僕のほうもエネルギーが落ちていたのかもしれない。
 だが、これは「暗い」というか、「うつむきかげん」というか……聴くものも完全にそっちへ振られてしまった。あの時代、聴いていたのは圧倒的に歌と弦、ジャズはあまり聴かなかった。ポップスを聴いても女性ヴォーカル、なにか音に淫してしまうようなところがあった。
     *
黒田先生がアクースタットと出会われたのは1982年だから、
1938年1月生れの黒田先生は44歳。
40代の後半をアクースタットという「うつむきかげん」のスピーカーで、
歌と弦を圧倒的に聴かれていたことになる。

このとき、黒田先生にとっての「怒る勇気を思い出し、怒るという感情の輝きを再確認」する音楽である、
チャールス・ミンガスは聴かれていたのだろうか……。
「音楽への礼状」で、
「ぼくは、怒ることを忘れるほどに疲れたとき、これからもずっと、あなたの音楽をききつづけます。」
とまで書かれている。

アクースタットでは、ジャズはあまり聴かなかった、とある。
ここでのジャズにミンガスは、きっと含まれている。