JBL 4320(その8)
ステレオサウンド 100号には、こう書かれている。
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しばらくして『ステレオサウンド』の試聴室でアクースタットに出会う。声を聴いたときの独特の生々しさ、ある色っぽさにほろっとまいってしまった。すこし潤んだような目で見つめられたような感じであった……きつめの女につき合ってきて、すこし疲れていたのかもしれないし、僕のほうもエネルギーが落ちていたのかもしれない。
だが、これは「暗い」というか、「うつむきかげん」というか……聴くものも完全にそっちへ振られてしまった。あの時代、聴いていたのは圧倒的に歌と弦、ジャズはあまり聴かなかった。ポップスを聴いても女性ヴォーカル、なにか音に淫してしまうようなところがあった。
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黒田先生がアクースタットと出会われたのは1982年だから、
1938年1月生れの黒田先生は44歳。
40代の後半をアクースタットという「うつむきかげん」のスピーカーで、
歌と弦を圧倒的に聴かれていたことになる。
このとき、黒田先生にとっての「怒る勇気を思い出し、怒るという感情の輝きを再確認」する音楽である、
チャールス・ミンガスは聴かれていたのだろうか……。
「音楽への礼状」で、
「ぼくは、怒ることを忘れるほどに疲れたとき、これからもずっと、あなたの音楽をききつづけます。」
とまで書かれている。
アクースタットでは、ジャズはあまり聴かなかった、とある。
ここでのジャズにミンガスは、きっと含まれている。