Date: 7月 13th, 2012
Cate: High Fidelity
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ハイ・フィデリティ再考(続×二十六・原音→げんおん→減音)

ネルソン・パス主宰のパス・ラボラトリーズのパワーアンプの新作はXs300。
300Wの出力をもつAクラス動作モノーラル仕様、しかも電源部は別シャーシー。
つまり2チャンネル分で、W48.3×H29.7×D71.2cmという、そうとうに大型の筐体が4つ必要となる、
いかにもアメリカ的な規模を誇る。
重量はアンプ部が59kg、電源部が76.2kgと発表されている。

Xs300の規模はシャーシーの大きさと重量からも推測できるように、
内部に使われているパーツの数も、ファースト・ワットのSIT1とは、もう比較にならないほど大がかり、ともいえる。

輸入元のエレクトリの資料によると、出力段にはMOS-FETを18並列使用。
この出力段に対して、定電圧ソースを用意しており、ここにもMOS-FETが使われ、
アンプ内で使われているMOS-FETの数は72個と、STASIS1と思い出されるほどの多さである。
しかも電源部には定電流ソースのために40個のMOS-FETを使っているため、
アンプ部とトータルで112ものMOS-FETを使っていることになる。
これだけではXs300の回路は成り立たないから、電圧増幅段の半導体の数を含めると、
これまで市場に登場したアンプの中でも、もっともトランジスター、FETの使用数の多いアンプの筆頭格のはずだ。

ファースト・ワットのSIT1は、何度も書いているように、型番にもなっているSITをわずか1石のみ、である。

こんな両極端なパワーアンプを、ネルソン・パスはほぼ同時期に開発している。
ネルソン・パスが、どういうオーディオ観をもっているのかは知らない。
けれど、このふたつのアンプの存在からいえることは、
ネルソン・パスというひとりの男の中に、SIT1を生み出した、いわば諦観といえる考え、
Xs300を、現在のところ頂とする、いわば諦観なんていうものとまったく無縁の考え、
このふたつが二重螺旋のように存在している──、ということである。

この二重螺旋はネルソン・パスの中だけに存在するものではないはずだ。
私の中にも、はっきりとある。
おそらく、ほとんどすべてのオーディオマニアの中に、この二重螺旋はある、と私は信じている。

そして、この二重螺旋こそが、「減音」へとつながっていっている、と確信している。

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