Date: 7月 8th, 2012
Cate: High Fidelity
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ハイ・フィデリティ再考(続×二十四・原音→げんおん→減音)

直熱三極管のシングルアンプの音として、
私は、いかにも日本的な音の世界というイメージが根底にある。

けれどアンプの歴史をふりかえってみると、最初のアンプはシングルアンプである。
アメリカでつくられている。
プッシュプルプが登場するのは、もう少し先のことである。
プッシュプルアンプが主流となって時代に、
ウェスターン・エレクトリックは91という300A(300B)のシングルアンプをつくっている。

何度も書くけれど、伊藤先生の300Bシングルアンプは、
このウェスターン・エレクトリックの91型アンプを範とされている。
だから、つまりシングルアンプ・イコール・日本的な音の世界、と捉えるのはおかしい、といえばそういえる。

けれど、ウェスターン・エレクトリックの25Bや91が登場した時代と、
現在とではオーディオの状況は様変りしている。

当時は大出力アンプといえども数10Wクラスがせいぜいだった。
そのかわりスピーカーの能率が、いまとは比較にならないほど高く、
91型アンプの8W程度の出力でも中程度の規模の映画館であれば充分な音量が得られていた、ときいている。

もちろん、このころのスピーカーの周波数レンジは狭い。
いまのスピーカーシステムのような周波数特性の広さのまま、
当時の高能率を両立させることはそうとうに困難なことであり、
スピーカーシステムの周波数レンジが広くなるとともに能率は低下し、
その低下分を補うかのごとくアンプの出力は増していく一方である。

いまでは500W以上の出力を安定して得られる時代になっている。

そういう時代に直熱三極管のシングルアンプを使うということは、
25Bや91といったアンプが登場した時代に使うのとは意味あいが違っていて当然である。

当時は当り前の数字であった数Wの出力は、いまではきわめて小さな出力である。
しかもプログラムソースのダイナミックレンジも、周波数レンジとともに拡大している。
そうなると、いま直熱三極管のシングルアンプと高能率スピーカーとの組合せは、
スピーカーシステムの規模が大きかろうと、ある種の諦観が聴き手に要求される。
これを、私は日本的な音の世界と捉えているのである。

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