ハイ・フィデリティ再考(続×七・原音→げんおん→減音)
ステレオサウンド 54号は1980年3月の発行だから、私は17ということもあり、
54号に登場された長谷川氏のリスニングルームの写真、それに記事本文には圧倒された、というよりも、
なにか感慨深いものを受けていた。
とはいえ、当時はそれがどういうものなのかははっきりとはわからずにいたけれども、
音楽の聴き手としての、オーディオマニアとしてのバックボーンの深さのようなものを、視ていたのかもしれない。
伊藤先生のアンプ、それに927Dstという組合せは、
オイロダインにとってはひとつのスタンダードな組合せともいえる。
そういう感じは、記事から伝わってきた。
この組合せは、ひとつの終着点のようにも感じていた。
いつか私も、歳をとったら、それまでにあれこれ遍歴を重ねてきたら、
やはりこういう世界に行き着くのだろうか……、そんなことさえも思っていた。
まぁ、でも、これだけの広さのリスニングルームでオイロダインを鳴らすことは、
たぶん無理だろうな……とも思っていたけれど。
54号の記事を読めばわかることだが、長谷川氏はこの組合せまでには、そうとうにすごいことをやられている。
たとえばアンプ。
真空管のOTLアンプ、それもそうとうに大規模なもの──、
6336Aを10本パラレル接続にして消費電力4.5kVA。
発熱量もそうとうなものだから、アンプ室は別に設けた、とある。
このころの長谷川氏はスイングジャーナル別冊 最新ステレオ・プラン(1970年号)に登場されている。
スピーカーシステムはパラゴン。
ステレオサウンド 54号の記事では、5年以上前にオイロダインを手に入れた、とあるから、
パラゴンの次がオイロダインなのだろう。
長谷川氏は言われている。
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自分で考えた部屋で、これはと思うアーティストを選んで聴くとなると、妥協ができない。もう妥協なんてなくして、取り組んでしまうんだなあ。まあこれが道楽というのかなあ。変電所のようなアンプや、いじくり廻したスピーカーで鳴らした揚句たった10Wのアンプで化物みたいなスピーカーを鳴らしているいま、考えて見るとなんだか原点に帰ったという感じだね。伊藤さんが、「私は最新式の回路も、自分で考えた工夫も絶対にやらない」と言っているから、この装置だってなにも新しいものじゃないんだね。
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長谷川氏は、はじめから、オイロダインに伊藤アンプと927Dstにされたわけではない。
手巻き蓄音器から音楽を聴き始めて、さんざん道楽した末の「原点」である。