現代スピーカー考(その24)
平面振動板のスピーカーと一口に言っても、大きく分けると、ふたつの行き方がある。
1980年頃から日本のメーカーが積極的に開発してきたのは振動板の剛性をきわめて高くすることによるもので、
いわば従来のコーン型ユニットの振動板が平面になったともいえるもので、
磁気回路のなかにボイスコイルがあり、ボイスコイルの動きをボイスコイルボビンが振動板に伝えるのは同じである。
もうひとつの平面振動板のスピーカーは、振動板そのものにはそれほどの剛性をもつ素材は使われずに、
その平面振動板を全面駆動とする、リボン型やコンデンサー型などがある。
ピストニックモーションの精確さに関しては、どちらの方法が有利かといえば、
振動板全体に駆動力のかかる後者(リボン型やコンデンサー型)のようにも思えるが、
果して、実際の動作はそういえるものだろうか。
リボン型、コンデンサー型の振動板は、板というよりも箔や膜である。
理論通りに、振動箔、振動膜全面に均一に駆動力がかかっていれば、振動箔・膜に剛性は必要としない。
だがそう理論通りに駆動力が均一である、とは思えない。
たとえ均一に駆動力が作用していたとしても、実際のスピーカーシステムが置かれ鳴らされる部屋は残響がある。
無響室ではスピーカーから出た音は、原則としてスピーカーには戻ってこない。
広い平地でスピーカーを鳴らすのであれば無響室に近い状態になるけれど、
実際の部屋は狭ければ数メートルでスピーカーから出た音が壁に反射してスピーカー側に戻ってくる。
それも1次反射だけではなく2次、3次……何度も壁に反射する音がある。
これらの反射音が、スピーカーの振動板に対してどう影響しているのか。
これは無響室で測定している限りは掴めない現象である。
1980年代にアポジーからオール・リボン型スピーカーシステムが登場した。
ウーファーまでリボン型ということは、ひとつの理想形態だと、当時は考えていた。
それをアポジーが実現してくれた。
インピーダンスの低さ、能率の低さなどによってパワーアンプへの負担は、
従来のスピーカー以上に大きなものになったとはいえ、
こういう挑戦によって生れてくるオーディオ機器には、輝いている魅力がある。
アポジーの登場時にはステレオサウンドにいたころだから、聴く機会はすぐにあった。
そのとき聴いたのはシンティラだった。
そのシンティラが鳴っているのを、見ていてた。