モノの扱い(その1)
数時間前、新宿のディスクユニオンにいた。
欲しかったCDが見つかりレジに並んでいた。
隣のレジでは私より先の客が店員とやりとりしていた。
アナログディスクについて店員に訊ねていた。
このディスクはモノーラルなのか、ステレオなのか、と。
どうもステレオと表記してあったようだ。
けれど実際はモノーラルで、客はそのことを知っていたようで、店員に訊いていたし、
別の店員がモノーラルです、というと、安くなります? とまた訊いていた。
値引きしてもらうつもりだったようだ。
でも、店員は値段は変りません、と答えていた。
じゃ、買うの止めます、と客。
いっしょに買うつもりだったCD数枚も、買わずに店を出た。
中古CD、中古LPの買い方の基準は人によって違う。
このディスクならば、この値段ならば買うけれど、というのが、
その人なりにある程度は決っているのだろう。
その客は、そこから外れていたから買わなかったのだろう。
そのことは別に構わない。
買うつもりだったCDも買わないのも構わない。
なのにこんなことをここに書いているのは、
その客のLPの扱いが、あまりにもひどかったからだ。
検盤していたのが見えた。
盤面は艶があり、隣にいた私の目にはかなりコンディションがよさそうに見えた。
なのに、この客は、盤面を平気で指で触れていた。
ディスクの縁を両手ではさむのではなく、
指で両盤面をはさんでいた。
しかもごていねいに両手の指で、だから、
盤面には常に四本の指が触れている。
その客は、私よりもひとまわりほど下の女性だった。
40代半ばごろのようにみえた。
この世代だと、音楽を10代のころに聴き始めたとすれば、
すでにCDで、だった可能性はけっこうある。
それにしても、LPの扱いを知らないのか。
自分のディスクであれば、ぞんざいに扱おうと、その人の勝手であり、
第三者の私がとやかくいうことではない。
けれど、今日見たのは、商品である。
店に並べられている商品であり、その客のモノにはまだなっていない段階での、
この扱いをみてしまうと、書きたくなってしまう。
店員はクリーニングをやらなければ思って見ていたことだろう。
昔ながらの昭和のガンコおやじがやっている店で、
こんなことをやったら、怒鳴られていたはずだ。
この客は何も知らないうえに、そういう経験もおそらくないのだろう。