バッハ 平均律クラヴィーア曲集(その1)
リヒテルの平均律クラヴィーア曲集を聴いたのは、
ステレオサウンドの試聴室でだった。
誰かが試聴レコードとしてかけたわけではなく、
試聴室後方のレコード棚に、それはあった。
といっても存在に気づいてかけたわけではなかった。
サウンドボーイの編集長のOさんの「聴いてみろ」というすすめがあったからだ。
日本ビクターから発売されていたLPだった、と記憶している。
そのころの私にとって、平均律クラヴィーア曲集といえば、
グレン・グールド、ほぼ一択に近かった。
リヒテルの平均律クラヴィーア曲集は、大きく違っていた。
演奏については、いまさらいうまでもないだろう。
素晴らしい、と思いつつも、その音が気になる、といえば、そうだった。
何も知らずに聴いていたものだから、スタジオ録音で、
たっぷりとエコーをかけている、と思ってしまった。
まさか教会で録音したものとは思わなかった。
少なくとも、私がその時聴いた音は、教会の長い残響によるものとは感じられなかったからだ。
でも演奏は素晴らしいから、輸入盤を見つけたら買おう、と思っていた。
日本ビクターのLPを買おうとは、そんな理由から思わなかった。
そんなに熱心に探していたわけではなかったこともあって、
輸入盤とであうことはなかった。
そんなことをしているうちに、CDで出たのを買った。
日本ビクターのLPを、まず買っておけばよかったかなぁ、とちょっとばかり後悔した。