537-500におけるVery Near Field(その2)
以前、オーディオクラフトの試作スピーカーシステムAP320について書いた。
BBCモニターの音に惹かれていて、
ロジャースのPM510が欲しくて欲しくてたまらなかった当時の私には、
非常に気になるスピーカーシステムだった。
結局試作品だけで終ってしまった。
このAP320のことはステレオサウンド 65号掲載のオーディオクラフトの広告ぐらいしか情報がない。
AP320は、ソフトドーム型のトゥイーターを二基搭載している。
縦に一列、横に一列といった配置ではなく、前後に一列という、
おそらくそれまで例のない使用法である。
パッと見た目は手前のトゥイーターだけが目に入り、
後に配置されているトゥイーターにはすぐには気がつかないかもしれない。
手前のトゥイーターの周囲は、いわゆるバッフル板ではなく、
孔がいくつも開けられている。
パンチングメタルか、パンチングメタルのようなものである。
つまり後方のトゥイーターが発する音は、この孔を通して放射されるわけである。
二基のトゥイーターがどれだけ離されているのかはわからない。
10cm程度だとしても、それだけの時間のズレ、位相のズレは生じる。
ただ単に二基のトゥイーターを前後に配しただけでは、デメリットのほうが多いように思う。
けれど、そこに一工夫、いくつもの小孔を通して後方のトゥイーターの音は、
小孔の位置が仮想音源ともなる。
つまり実音源が前後にひとつずつあり、
手前の実音源の周囲に仮想音源がある。
たとえば小孔が開けられているものが、
537-500のようなパンチングメタルを何枚も重ねたものであったら、
そこにVery Near Fieldができるのではないのか。