いい音、よい音(その5)
M&KのSatellite-IA + Volkswooferを、
ごくふつうに鳴らした音は、品位に欠ける音、とまず言いたくなる。
使用されているユニットのクォリティがそれほど高くないのだろうか、
最初に鳴ってきた音を聴いた瞬間は、
なぜこのスピーカーが、アメリカで売れているのか、理解できなかった。
コンセプトとしては、おもしろいスピーカーシステムといえる。
サブウーファーに関しては、フィルターの信号処理、
内蔵アンプの高効率化など、1980年のころとは大きく変化している。
BOSEの501は、M&Kに近いスタイルのスピーカーでもあった。
とはいえ、スピーカーは出てくる音がすべて、ともいえる。
出てくる音は、スピーカーの能力だけでなく、鳴らし手の能力も深く関係してるのはいうまでもない。
井上先生の手にかかると、M&Kのスピーカーから品位ある音が聴けるようになるわけではない。
それでもSatelliteスピーカーの結線をあれこれ試して、
Volkswooferの位置、レベルなどを調整されていくと、
不思議と、楽しいスピーカーシステムなんだ、と思えてくる。
聴いていると楽しい、と思う。
オーディオの面白さは、単にクォリティの追求だけではないことが、
井上先生の鳴らすM&Kのスピーカーの音を聴いていると感じる。
オーディオには遊びの要素もあることに気づかされる、ともいえる。
けれど井上先生が鳴らされるM&Kと同じ音を当時、私一人で鳴らせるかといえば、無理だった。
ステレオサウンドの試聴室では、
基本的なセッティングは編集部がやるし、
試聴しながらのチューニングも、井上先生の指示で編集部がやる。
体を動かしていたのは編集部(つまり私)だったけれど、
一度システムをバラして、もう一度セッティングし直して、同じ音を出す自信はなかった。
つまりM&Kのスピーカーを楽しむことを、一人ではできなかった。
いまはどこも輸入していないのだから試しようがないけれど、
M&Kのスピーカーシステムのもつ楽しさを抽き出す自信はある。
そうなると、この項のテーマについても、
20代前半のころといまとでは違っているところも出てきている。