音を聴くということ(体調不良になって・その6)
これも十年前だったか、菅野先生が
「自分が惚けてしまったら、どういう音を出すのか、それを聴いてみたい」といわれたことがあった。
認知症と「音は人なり」。
その時、オーディオマニアはどういう音を鳴らすのか。
もちろん認知症になってしまっているのだから、
冷静にその時の音を聴くことはできないわけだが、
それでも知的好奇心として、その音を聴いてみたいといわれる菅野先生、
いわれてみれば聴けるのであれば、私も自分が惚けてしまった音を聴いてみたい、と思った。
バイアスを取り除いて聴く、ということを考えていて、
このことを思い出した。
バイアスを完全に取り除くとは、惚けてしまった状態なのかもしれない。
バイアスを取り除いて聴く。
身も蓋もない話だが、無理なことなのかもしれない。
オーディオでいくつもの体験をしていく。
それらが経験値として、その人の中でバイアスを形成していく、ともいえる。
オーディオに関する知識を身につける。
これもまたバイアスといえよう。
オーディオマニア、人それぞれ使いこなしのノウハウ的なことを持っているだろう。
それもまたバイアスではないだろうか。
オーディオのシステムは複雑で多岐にわたる。
だからこそバイアスもさまざまな種類がたまっていくのではないか。
オーディオ歴が長いほど、バイアスは溜っていくのだとしたら、
惚けてしまわない限り、バイアスを完全に取り除くことは無理なのかもしれない。