使いこなしのこと(認識の違い)
もう十年くらい前のことだ。
ある人のリスニングルームで音を聴かせてもらった。
ちょっと意外な感じがした。
口には出さなかったけれど、聴かせてくれた人はそのことを感じとっていたのかもしれない。
数ヵ月後、連絡があった。
「聴きに来ませんか」だった。
自信ありげな口調のような気がした。
数ヵ月前に感じていた意外な感じは見事に消えていた。
いい音になっていた。
システムのどこかが変っていたわけではない。
CDプレーヤー、アンプ、スピーカーも同じままだ。
ラック、ケーブルの類も前回と同じだった。
変ったのは、スピーカーの位置と角度だけだった。
だから感心した。
彼は私だけでなく、もうひとりにも連絡していた。
そのもうひとりとは、私といっしょに聴きに行った人である。
彼が連絡した時に、もうひとりはこういった。
「何を変えたんですか」と。
彼はがっかりした、と私にいった。
そうだ、と思う。
音が良くなった、だからその喜びを誰かと共有したい。
できれば音、オーディオのわかっている人と。
システムはいっさい変更せずに、使いこなしだけでそうした場合にはよけいに、そう思う。
なのに「何を変えたんですか」である。
結局、もうひとりを誘うのを彼はやめてしまった。