ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その29)
ステレオサウンド 56号に、PM510は、瀬川先生の文章によって登場している。
これによって、PM510を知ることになり、読み進むにつれてPM510をとにかく一日でも早く聴きたい、
と思うようになり、このときの瀬川先生と同じように、いつかはJBLの4343とPM510──、
このふたつのスピーカーシステムを鳴らしたい、と思っていた。
この記事で、瀬川先生は、EMTの927Dst、マークレビンソンLNP2L、スチューダーのA68という組合せで、
一応のまとまりをみせた、と書かれている。
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とくにチェロの音色の何という快さ。胴の豊かな響きと倍音のたっぷりした艶やかさに、久々に、バッハの「無伴奏」を、ぼんやり聴きふけってしまった。
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ぼんやり聴きふけることのできる音、でもそれだけでは満足できないような気持があった。
PM510を聴く機会はすぐにはなかったから、何度も何度もくり返し読む。
読めば読むほど、瀬川先生には4343という、PM510とは対極の性格のスピーカーシステムがある。
それをマークレビンソンのアンプで鳴らされている。
プレーヤーはマイクロの糸ドライブに、オーディオクラフトのトーンアーム、
それにオルトフォンのMC30、そういうシステムで鳴っている音があるからこそ、
PM510を、ぼんやり聴きふけることのできる音にもっていくことができるのではないんだろうか。
オーディオ機器をそろえることを最優先にした生活を送ったとしても、
そうたやすく4343とPM510の両方を所有することなんてできないことはわかっている。
どちらかを手にいれるのだって、
さらにそれを鳴らすにふさわしい組合せを構築していくのだって大変なことなのに、
それにもしふたつのスピーカーシステムを手にすることができたとしても、
それをふさわしい組合せを持てたとしても、
これだけ性格の異るふたつのスピーカーシステムをきちんと鳴らし込む能力が、まず、そのときの私にはない。
……おそらく購入できるとしたら、価格的なことを含めてPM510であろう、
そのPM510から、4343のもつ良さを、ほんのすこしでも鳴らすことはできないものだろうか、と考えていた。
それが「凄さ、凄み」であった……。