何を欲しているのか(その7)
ブレーキは、スピードをつねに抑えるためにあるものではないはずだ
(車は運転しないので想像が多分に含まれている)。
すくなくともオーディオにおいて菅野先生の言われていた「感覚の逸脱のブレーキ」は、
つねにブレーキを効かせながら安全に、という意味ではない。
オーディオは己の装置で、変化をとことん味わう必要が、必ずある。
なにも常に変化させる必要があるというわけではなく、ある一時期であったり、周期的にでもあったり、
とにかくありとあらゆる変化を経験しておくことは、絶対に無駄にはならない。
だが少しずつの変化なら、元に戻そうと思えばすぐにもどせるだろう、という意識から、
大胆になれない人もいるだろう。いい音を求めたい……、けれど大きく変化させてしまって、
それにより音が以前より悪くなったら、せっかくうまいとこ鳴っていたのに、もう元には戻せそうにない……。
つい臆病になることは、誰にでもあることだろう。
そういう意識が、行動にブレーキをかけてしまっている。
行動だけではなく、考えにもブレーキをかけているかもしれない。
けれどヘッドフォンという「感覚の逸脱のブレーキ」があれば、ときに大きく逸脱してしまったとしても、
修整はそう困難なことではなくなる。
ヘッドフォンは行動のブレーキではない、あくまでも「感覚の逸脱のブレーキ」である。
そのちがいをはっきりと認識したときに、
オーディオへのとりくみは、しずかではあろうが確実に変っていくはずだ。