Archive for 9月, 2022

Date: 9月 7th, 2022
Cate: ディスク/ブック

ヘルマン・プライの「冬の旅」(その1)

シューベルトを集中的に聴いていることは、
別項で聴いているとおりだ。いまもシューベルトを、まず聴くようにしている。

ここ一週間ほどは、シューベルトの歌曲をよく聴いていた。
「美しき水車小屋の娘」、「冬の旅」、「白鳥の歌」も聴いている。

これまで「冬の旅」がとくにそうなのだが、
ディートリッヒ・フッシャー=ディスカウを主に聴いていた。

他の歌手による録音をまったく聴かなかったわけではないが、
それで比率としてはかなり少なかった。

ディートリッヒ・フッシャー=ディスカウだけを聴いていれば、それでよし、とは、
もちろん思っていないけれど、そうなっていた。

実を言うと、今回初めて、ヘルマン・プライの「冬の旅」を聴いた。
1971年の録音、ピアノはサヴァリッシュである。

エンゲルのピアノによるプライの「冬の旅」も聴いていなかった。
私が聴いたことがあるのは、デンオン録音、ビアンコーニによるピアノの「冬の旅」である。

さほど期待していたわけではなかった。
それでも素晴らしい歌唱は、そんなバイアスをきれいに吹き飛ばしてくれる。

Date: 9月 6th, 2022
Cate: 録音

ショルティの「指環」(その17)

昨日(9月5日)、クラシック好きの人は、
ショルティの「ニーベルングの指環」の2022年リマスター盤登場のニュースに、
いちばん驚いた(もしくは喜んだ)のではないだろうか。

SACDが登場したときから、ショルティの「ニーベルングの指環」は、
いつSACDとして登場するのだろうか、と思っていた。
ながらく出なかった。

結局、2009年12月に、エソテリックから発売になった。
やっと出た、買おう、と思ったけれど、
その値段を見てすぐにあきらめた。

はっきりとは憶えていないが、確か六万円ほどだった。

そして2012年9月に、デッカから新たなリマスターCDが登場した。

十七枚組のCDにDVD、30cm×30cmのブックレット、
それとは別の冊子などのほかに、この限定盤の最大の目玉(特典)といえるのが、
ブルーレイディスク一枚におさめられた96kHz・24ビットによる音源である。

こちらも価格はもう忘れてしまったが、エソテリックとは違い納得のゆくものだった。
ならば買ったのか、というと、こちらも買っていない。
Blu-Ray Audioの再生環境を持っていなかったからだ。

それに少しだけショルティの「ニーベルングの指環」に対しての熱も冷めかかっていた。

いまはどうか、というと、MQA(44.1kHz)で聴ける。
e-onkyoでも発売しているし、TIDALでも配信されている。

そこに今回の2022年リマスター盤の登場である。

Date: 9月 6th, 2022
Cate: モーツァルト

続・モーツァルトの言葉(その6)

その2)で、
バーンスタインの晩年の演奏にある執拗さは、
バーンスタインの愛なんだろう、と思える。
それも、あの年齢になってこその愛なんだ、とも思う、
と書いている。

老人の、執拗な愛によるマーラーを聴きたい──、
そう思う一方で、執着と愛は違うわけで、
執着と愛をごっちゃにしてしまうほど、こちらももう若くないわけだが、
では、執拗と執着は、どう違うのか、と考える。

執拗を辞書で引くと、
しつこいさま、とある。
それから、意地を張り、自分の意見を押し通そうとするさま、ともある。

しつこいを引くと、
一つのことに執着して離れようとしない,とある。
ここに執着が出てくるからといって、執拗と執着が同じとは思っていない。

辞書には、しつこいの意味として、もう一つある。
(味・香り・色などが)濃厚である。不快なほど強い、とある。

私がバーンスタインのマーラーを、
《老人の、執拗な愛によるマーラー》と感じたのは、まさにこれである。

執着とは、辞書には、
ある物事に強く心がひかれること、心がとらわれて、思いきれないこと、とある。

バーンスタインの晩年のマーラーを聴けば、わかる。
執着と愛は違う、ということが。

老人(バーンスタイン)の、執拗な愛によるマーラーは、
人によっては不快と感じるのであろう。

Date: 9月 5th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その12)

50CA10のヒーターは、50V、0.175Aとなっている。
これは50CA10を二本直列にすることで、AC100Vに直接接続できる。

電源トランスから出力管用のヒーター巻線を省ける。
そういうメリットがある。

50CA10の単段シングルアンプでは、50CA10を左右チャンネルで二本使うわけだから、
その二本を直列にすればいいわけだが、
ではどちらを上にするのか、という問題が生じる。

50CA10のプッシュプルアンプならば、四本になり、
二本、二本の直列接続は、左チャンネルの二本、右チャンネルの二本とわけることで、
左右チャンネルを同条件にできる。

それでもプッシュプルの上の球を、ヒーターの配線ではやはり上にするか、
それとも意図的に下にもってくるのか──、
まだ試していないが、それによる音の違いはあるはずだ。

それがシングルアンプとなると、片方の50CA10を上にするということは、
どちらかのチャンネルの50CA10を上にするわけで、
どちらを上にするか(下にするか)は、左右チャンネルの音に影響をもたらす。

50CA10のシングルアンプで、ヒーター配線をどう処理するか。
私は抵抗を介しての接続を考えている。

こうすることで、ヒーターの寿命も多少はのびるはずだからだ。

Date: 9月 5th, 2022
Cate: ディスク/ブック

音響道中膝栗毛(その2)

(続)音響道中膝栗毛」には、
ステレオサウンドに連載されたものがおさめられている。

伊藤先生の文章とは、伊藤先生のアンプ記事よりも先に出あっている。
中学生のころから読みはじめたステレオサウンドには、伊藤先生の連載があった。

そのころは、伊藤先生がどういう人なのかは全く知らなかったが、
それでも書かれたものを一つでも読めば、
中学生であっても、伊藤先生がどういう人なのかは、直観的につかめていたところがある。

だから、この人の書くものは、きちんと読もう、と思った。
伊藤先生の書かれたものに、最新のオーディオ機器のことは登場しない。

古いオーディオ機器のことが書かれてあるかというと、
こちらもウェスターン・エレクトリックやシーメンスのことがたまに出るくらいで、
そういう文章ではない。

けれど、伊藤先生の文章はオーディオについての文章だった。
伊藤先生の文章を、いつ読むのか。

大人になってから、老いてから読んでもいい。
けれど10代のころに読んでいるのといないのとでは、その後に違いがあるはずだ。

私は運が良かった、とオーディオに関してはそう思う。
オーディオに関心をもつ大きなきっかけが「五味オーディオ教室」だったし、
その後すぐに、伊藤先生の文章を、その時代に読めたからだ。

Date: 9月 4th, 2022
Cate: ステレオサウンド

3.11とステレオサウンド(その4)

その2)で触れている「ステレオサウンドは、なぜ変らないんですか」という問い。
これを発した人にとって、そのころすでにステレオサウンドはつまらなく感じていて、
それゆえの「ステレオサウンドは、なぜ変らないんですか」だった。

ステレオサウンドは変っていっている。
おそらく私に「ステレオサウンドは、なぜ変らないんですか」と訊ねた人も、
そう感じている。

そうであっても、その人は「ステレオサウンドは、なぜ変らないんですか」と訊く。
くり返すが、それはステレオサウンドがつまらくなっていて、
そのことが変らないからである。

ステレオサウンドがつまらない──、
そういう人もいるし、そうでない人もいる。
面白い、という人ももちろんいる。

223号の「オーディオの殿堂」を、オーディオの歴史の勉強にもなる、
そんなふうに高く評価している人が、ソーシャルメディアにいた。

そうなのかぁ……、としかいえないのだが、
受けとり方は人によって大きく違うのだから、
「ステレオサウンドは、なぜ変らないんですか」が、
ステレオサウンドはつまらなくなったまま、という捉え方も、
その人個人のものでしかないわけだ。

それでも、その人は私に、そう訊ねてきたのは、
その人は私もそう感じていると思ったからなのだろう。

私は、どう感じているのか。
ここ十年のステレオサウンドを眺めて思っているのは、
つまらない、とか、変らないなぁ、とか、そういったことではなく、
ダサくなった、である。

Date: 9月 4th, 2022
Cate: ディスク/ブック

音響道中膝栗毛(その1)

誠文堂新光社から出ていた伊藤先生の「音響道中膝栗毛」が、
復刊ドットコムから復刊される。

音響道中膝栗毛」と「(続)音響道中膝栗毛」の二冊ともである。

この二冊を熟読しても、伊藤先生のアンプが作れるようになるわけではないし、
真空管アンプを設計できるようになるわけではないが、
ほんとうに熟読すれば、感じるところはそうとう多くある筈だ。

Date: 9月 3rd, 2022
Cate: モニタースピーカー

モニタースピーカー論(家庭用スピーカーとは・その3)

アルテックのModel 19に深い思い入れはないのだが、
ふと何かの機会で思い出す存在であることは確かだ。

私は、ステレオサウンド 43号の特集ベストバイで、
瀬川先生が書かれていることを読んでから、である、このスピーカーに関心をもつようになったのは。
     *
 周波数特性のワイド化と、ユニットやエンクロージュアの無駄な共鳴音や夾雑音の類をできるかぎり抑え込むというのが新しいスピーカーの一般的な作り方だが、アルテックの新型は、周波数特性こそ従来の同社製品からは考えられないほど広帯域化しながら、キャビネットやホーンの共鳴音も適度に残してあって、それが何ともいえず暖かくふくよかな魅力ある音に聴こえ、新型であってもどこか懐かしさのようなものを感じさせる一因だろう。
     *
45号のスピーカーシステムの総テストでも、評価はよかった。

Model 19と同時にModel 15も登場していた。
型番からいっても、同じシリーズの兄弟機のように感じられるが、
アピアランスは随分違っていて、Model 15には魅力を感じなかったし、
Model 15のオーディオ雑誌での評価はあまりよくなかった。

アルテックもそのことは感じていたのだろう。
しばらくしてModel 14を発表している。
型番からすればModel 15の下のモデルのようであるが、
Model 15が当時189,000円(一本)に対し、Model 14は195,000円だった。

そして大事なことは、アピアランスはModel 19のそれと同じである。
Model 14は12インチ口径のウーファー搭載と、やや小型化されているが、
ホーンに関しては、
アルテックのコンシューマー用モデルとしてはいち早くマンタレーホーンを採用している。

Model 19のアピアランスの完成度はけっこう高い、と思っている。
決して、当時としての最新のスタイルではないが、見飽きないのだ。

いまから十数年前、あるオーディオ店にModel 19の中古が並んでいた。
ひさしぶりに見たModel 19だった。

その時も、やっぱりいいなぁ、と感じていた。

瀬川先生が、「続コンポーネントステレオのすすめ」でこう書かれている。
《私個人は、アルテックの鳴らす音の世界には、音の微妙な陰影の表現が欠けていて少しばかり楽天的に聴きとれるが、それでも、アルテックが極上のコンディションで鳴っているときの音の良さには思わず聴き惚れることがある。》

このことも思い出して眺めていた。

Date: 9月 2nd, 2022
Cate: モニタースピーカー

モニタースピーカー論(家庭用スピーカーとは・その2)

モニタースピーカーについて考えていくのであれば、
コンシューマー用スピーカー、つまり家庭用スピーカーについて考えていくのも、
一つの手であるから、このテーマで書こうとは、
モニタースピーカーをテーマにした時から考えていたことだ。

なのにいまになって書き始めたのは、
マジコのM9が登場したことがきっかけになっているといえば、そうである。

ペアで一億円を超えるM9。
今年1月ごろから、M9が登場するというニュース、
そして日本では一億円を超えそうだということは伝わっていた。

価格もだが、M9の重量もすごい。454kgと発表されている。
当然ペアで使うわけだから、908kg。ほぼ1tである。

このM9はいうまでもなくスタジオモニターではない。
その意味では家庭用スピーカーであるわけだが、
M9を家庭用スピーカーと言い切っていいのだろうか。

もうそんなことでスピーカーを考える時代ではない──、
そういう考えもできるけれど、
JBLのモニタースピーカーやUREIの813、BBCモニター、
K+HのOL10など、そういった1970年代後半のモニタースピーカーに憧れてきた世代の私は、
そういう捉え方をしてしまうところが残っている。

そして、もう一つ。
アルテックのModel 19のことを最近思い出すことが増えてきた。
このことも、このテーマで書き始めたきっかけである。

Date: 9月 1st, 2022
Cate: モニタースピーカー

モニタースピーカー論(家庭用スピーカーとは・その1)

いまも続いているJBL 4300シリーズの全盛期は、1970年代後半といっていい。
4343があり、4350もあり、
4333、4331、4311、4301などがラインナップされていて、
そのどれもが、4343ほどではなかったけれど、よく売れていたし、
このうちの一機種か二機種、もしくはそれ以上が、
オーディオ販売店に展示してあったし、聴く機会も少なくなかった。

この時代のJBLは、
これらのモニタースピーカーをベースにしたコンシューマー用モデルも用意していた。

4331の家庭用がL200、4333はL300、
4343の場合はL400(残念ながらプロトタイプで終ってしまった)などがあった。

アルテックはどうだったか、というと、
Model 19があった。

ウーファーが416-8C、ドライバーが902-8B、ホーンが811Bからなる2ウェイ・フロアー型。
15インチ口径ウーファー搭載のフロアー型といっても、
サイズはW76.2×H99.0×D53.3cmである。

縦に長くスマートな印象の外観ではなく、
愛矯のあるズングリしたプロポーションともいえるが、
スピーカーの場合は、安定感にそれはつながっていく。

Model 19はステレオサウンド 45号のスピーカーシステムの総テストにも登場している。