ハイエンドオーディオ考(その12)
《あまりにも大がかりな装置を鳴らしていると、その仕掛けの大きさに空しさを感じる瞬間があるものだ》、
瀬川先生のことばだ。
空しさを感じない人だけがハイエンドオーディオの道を進んでいけるのか。
空しさを感じるからこそ、埋めよう埋めようと、さらに突き進んでいくのか。
《あまりにも大がかりな装置を鳴らしていると、その仕掛けの大きさに空しさを感じる瞬間があるものだ》、
瀬川先生のことばだ。
空しさを感じない人だけがハイエンドオーディオの道を進んでいけるのか。
空しさを感じるからこそ、埋めよう埋めようと、さらに突き進んでいくのか。
ラ・フォル・ジュルネのウェブサイトを見ていたら、
逸品館が5月3日から5日までの三日間、
東京国際フォーラムのガラス棟G404で、
「LFJで体験しよう! ハイエンド・オーディオの世界」というイベントを行うという。
どんな試聴イベントなのかは、
リンク先からさらに逸品館のサイトに行けばPDFでわかる。
応援したくなるような企画だ。
四季豊かな日本といわれていたのは、いつまでなのだろうか。
まだまだそうなのだろうと思うながらも、
四季が二季になりつつある意見も、目にするようになってきて、
そういえるけれど──、といったところもある。
今年も4月に夏日を記録している。
今夏もかなりの猛暑になるのだろうし、その夏が長いのだろう。
冬が短くなり、夏が長くなる。そんなふうになっていくのか。
そしてそれが加速していくのか、それともどこかで転換する時がくるのか。
しばらくは加速していきそうな感じなのだが、そうなったときにオーディオと四季、
音と四季について考えることも消えていってしまうのか。
別項で何度か書いているように、井上先生は四季の変化によって、
聴きたい音も変化していくことを、よくいわれていた。
真夏に、A級アンプや真空管アンプの音はあまり聴きたいと思わないし、
寒くなれば、そういう音を求めるようになるとも。
このことに同意する人もいれば、そんなこと関係ないという人もいる。
これには人それぞれということもあるけれど、
仕事柄ということも関係していたのかもしれない。
井上先生の仕事、オーディオ評論家として、
メーカーの試聴室やオーディオ雑誌の試聴室に行っては、
さまざまな音を聴く。
それは仕事であり、そこに季節感というものはなかったのかもしれない。
だからこそ、よけいにプライベートな音に、四季を感じさせる、
四季と連動していく音を求められていたのかもしれない。
「「音楽性」とは(を考えていて思い出したこと・その6)」で書いたことも、
このことには関係してくるのかも──、とも思うようになってきた。
「味わい」と四季についてである。
音楽は自由だ──、
そんなことを目にしたり耳にしたりする。
ずっと以前から、いわれてることだ。
音楽は、確かに自由なのだろう。
それでも完全に自由なのか──、ともどこかで思ってしまう。
それでも音楽は自由だ、としよう。
では、その音は自由なのか。
そんなことを考えてしまう。
その音といっても、演奏の場での音、つまり楽器から発せられた音と、
再生の場での音、スピーカーから発せられた音とがある。
どちらの音も自由なのか。
ハーベスの輸入元が、
エムプラスコンセプトからサエクコマースに4月1日づけで移管になった。
ハーベスの輸入元がかわる、というウワサは耳にしていたから、
サエクコマースなのか、という程度で驚きはないのだが、
エムプラスコンセプトは、どうなるのか……、とちょっと思ってしまう。
2003年からハーベスだけを取り扱ってきた会社だ。
会社を畳むのだろうか。
そんなことをおもったりするのだが、
サエクコーマスになったことで、OTOTENで聴けるようになるはずだ。
全生新舎の野口晋哉さんの新企画。
アルテックのA5C(マンタレーホーン)をメインスピーカーとする音楽鑑賞会、
“Listening Practice Friday”に行ってきた。
始まるまでの時間、
757Aのエンクロージュアと、そのレプリカのエンクロージュアを叩いてみた。
その音が近いことに、ちょっと驚く。
もちろんまったく同じというわけではないが、けっこう近い。
近いから同じ音、そっくりの音が鳴ってくる──、とは思わないし、
言わないけれど、期待は芽ばえてくる。
レプリカのユニット構成、
ウーファーは不明だが、JBLの2420+2397という中高域からすると、
なんとなくジャズを主に聴くためのシステムかのようにも思えなくもないが、
野口晴哉氏はクラシックが主で、ジャズはほとんど聴かれなかったとも聴いているから、
ジャズのためのシステムではなく、757Aの再現を目指してのシステムなのだろう。
2月、3月、4月のaudio wednesdayでは、
スピーカーシステムがコンデンサー型とリボン型ということで、
部屋を縦長で使っての音出しだったが、
今回は1月と同じように部屋を横長で使う予定でいる。
ウェスターン・エレクトリックの757A。
なぜ757Aが二台(ステレオペア)でないのか。
野口晴哉氏の時代、このスピーカーシステムを二台手に入れるのは、かなり困難だったはず。
1980年代に入ると、ウェスターン・エレクトリックを扱う業者も増え、
アメリカの倉庫や映画館などを捜してまわる人たちも出てきて、
お金さえ積めば二台手に入れることも可能になったことがある。
757Aのペアの音を聴いたことがあるのかときかれれば、一応ある、というふうに答えている。
あるところで聴いてはいる。
でも、757Aの真価をそこで聴いたとはまったく思っていない。
鳴っているのを聴いた、そのレベルであった。
757Aよりも、他のスピーカーユニット、たとえば594A、555を聴く機会のほうが多かった。
野口晴哉氏は、757Aをペアで揃えたかった──、
私は勝手にそう思っている。
でも叶わなかった。
だから757Aのレプリカを作られたのだろう。
野口晴哉氏の真意を知る人は、もう誰もいない。
その音を聴いて探っていくしかない。
探っていきたい。
探っていける音を出していきたい。
ウェンターン・エレクトリックの2ウェイのスピーカーシステム、757A。
野口晴哉氏のリスニングルームに、一基ある。
その両脇には、JBLのユニットを用いてのレプリカといえる2ウェイのスピーカーシステム。
ホーンは2397、ドライバーは2420。
ウーファーが何かはエンクロージュアを開けてみないと確認できないので、
いまのところ型番は不明。
ネットワークはウーファー用にはオイルコンデンサー、
2420用にはフィルムコンデンサーがあてられていて、
コイルの取りつけ方法は、ウェスターン・エレクトリック的でもある。
5月1日のaudio wednesdayでは、このスピーカーシステムを鳴らす。
昨年5月28日に開催された野口晴哉記念音楽室レコード鑑賞会。
前半はウェスターン・エレクトリックの594Aを中心とした大型のシステムで、
後半は、このJBLの2ウェイ・システムが鳴っていた。
今回は、この2ウェイにスーパートゥイーターを加えて鳴らす予定だ。
エラックの4PI PLUS.2だけでなく、JBLのUT405もある。
どちらにするかは当日の音で判断する。
audio wednesdayでは、必ず最後にカザルスの無伴奏チェロ組曲をかける。
今回も、もちろんかける。
ただしJBLの2ウェイ+スーパートゥイーターではなく、
757Aのコンディション次第では、こちらで鳴らしたい。
バッハの無伴奏チェロ組曲だけでなく、
ルドルフ・ゼルキンとのベートーヴェンのチェロ・ソナタもかけてみたい。
このベートーヴェンのチェロ・ソナタもモノーラルだが、
マイクロフォンにはウェスターン・エレクトリック製が使われている。
録音における音の入り口、
再生における音の出口、
どちらもウェスターン・エレクトリックということになる。
757Aを鳴らしてみれば、
野口晴哉氏の、このスピーカーへのおもいがなにかしらつかめるかもしれない。
レコード芸術の、1980年代後半の名曲名盤で、
ディーリアスの管弦楽曲集のところで、黒田先生が書かれていたことをおもいだす。
黒田先生は、ビーチャム、バルビローリ、マリナーの演奏(録音)に点を入れられていた。
手元に、もうその本はないので正確な引用ではないが、
ビーチャム、バルビローリ、マリナーの順に録音はよくなるが、
演奏の味わいは、録音がよくなっていくことと比例しない──、と。
1980年代はディーリアスの録音は少なかった。
そのなかで、ビーチャム、バルビローリ、マリナーは、
それぞれの時代の代表的な演奏といえたけれど、
黒田先生のいわれたことは、たしかにそうだ、と感じるところがある。
演奏の味わいとは、そのことについて、短いコメントのなかでは説明されていないが、
演奏の味わい、これだけで黒田先生がいわんとされたことは伝わってくる。
ここで、演奏の味わいは、音楽性と置き換えられるのか。
耳の記憶の集積こそが、音楽に対する「想像と解釈」に深くつながっていく。
再生音に存在しないものについて考えるのは、
再生音に必要なものについて考えることでもある。
フルトヴェングラーの「音楽ノート」のなかにある。
*
肝要なことは、精神の豊かさでもなければ、深い感情でもない。ひとえに正しいもの、真実なものである(私は六十にしてこのことを記す)。
*
音も、まさしくそうである。
5月26日(日曜日)開催の野口晴哉記念音楽室レコード鑑賞会、
その二回目の前売り券は完売とのこと。
10日からの申し込みだったから、五日ほどで完売。
昨年よりも早いペースのはず。
アポジーのDuetta Signatureに、
エラックの4PI PLUS.2を追加したことの静かな昂奮はいまも残っていて、
あれこれ妄想している。
瀬川先生の砧のリスニングルームが、
FM fanに掲載されたカラー写真では、KEFのLS5/1Aの上にパイオニアのPT-R7があった。
ただ置かれていただけなのか、試されているところだったのか、
本気に導入されようとされていたのか、
そのへんのことははっきりとしないが、とにかくPT-R7がLS5/1Aの上にあった。
いまだったら、エラックだっただろうな、とおもっている。