Archive for category TANNOY

Date: 6月 16th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その72)

4ウェイといっても、そのシステム構成の考え方はひとつではない。
3ウェイのスピーカーシステムに、スーパートゥイーターもしくはサブウーファーを足すかたちのものもあれば、
2ウェイのスピーカーシステムをベースに、高低域両端に専用のユニットを追加するかたちもあり、
JBLの4343やアルテックの6041、タンノイのKingdomは後者である。

3ウェイをベースにスーパートゥイーターを加えるものだと、
ユニット構成は、国産の3ウェイスピーカーシステムの多くの例からすれば、
コーン型の採用はウーファーだけ、ということも十分ありうる。

同じ3ウェイ・ベースでもサブウーファーをつけ足すのでは、コーン型ユニットは最低でも2つ使われることになる。
2ウェイ・ベースでもそれは同じ。コーン型ユニットが、最低でもウーファーとミッドバスに使われる。

これから書くことになにひとつ技術的な根拠はない。
感覚的な印象ではなるが、コーン型ユニットがウーファーとミッドバスに使われた場合、
このふたつのユニットの口径比は4ウェイ・システムの成否に深く関わっているように思う。

ウーファーに対してミッドバスの口径が大きすぎる(もしくは小さすぎる)と感じられるスピーカーシステムと、
うまくバランスがとれていると感じられるスピーカーシステムがある。

ウーファーに対して大きすぎる口径(小さすぎる口径)のミッドバス、
反対の言い方もとうぜん可能で、ミッドバスの口径に対して大きすぎる口径(小さすぎる口径)のウーファー、
──そんなものは人それぞれの感覚によって違ってくる、とは思っていない。

ここにはひとつの最適解がある、はずだ。

黄金比がある。
計算してみると、18インチに対しては11.12インチとなる。46cmで計算すると28.43cm。
15インチでは9.27インチとなり、38cmでは23.49cm、となる。

Date: 6月 10th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その71)

Kingdomと同じ18インチ口径のウーファーの4ウェイ・システムにJBLの4345があるが、
Kingdomは規模としては、4345というよりも4350に相当する、といってもいい。

4350の外形寸法はW1210×H890×D510mmで、重量は110kg。
横置きスタイルの4350を縦置きにしてみてならべてみると、横幅(4350の高さ)が狭いだけで、
あとはKingdomのほうが大きいから、その大きさがより実感できると思う。

ミッドバスを受け持つユニットの口径は12インチで、4350もKingdomも同じ。
低域は4350は15インチ口径が2発、Kingdomは18インチ口径が1発だから、
振動板の面積は4350のほうが大きいが、振動体積という点からみれば、
15インチ2発と18インチ1発は、ほぼ同じくらいのはずだ。

4350はJBL初の4ウェイ・システムであり、Kingdomはタンノイ初の4ウェイ・システムであり、
システムの規模のほぼ同じといえる。

JBLは4350の1年後に4341(4340)を発表している。
タンノイもKingdomの翌年に、Kingdom 15を出している。

この4341(4343といっていい)とKingdom 15が、
4350とKingdomと同じように、対比できる、ほぼ同じ規模のスピーカーシステムとなっている。

4343は15インチ口径のウーファー、10インチ口径のミッドバス、
Kingdom 15は型番が示すようにウーファーが15インチになり、同軸型ユニットは10インチと、
Kingdomよりもひとまわりちいさくまとめられている。

このウーファーとミッドバスの口径比は偶然なのだろうか、と思えてくる。

Date: 6月 5th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その70)

1996年に、タンノイ創立70周年モデルとしてKingdomが登場した。
バッキンガムの登場からほぼ20年が経過して、やっと登場した、という思いがあった。

バッキンガム、FSM、System215と、
同軸型ユニットとウーファーの組合せに(あえてこういう表現を使うが)とどまっていたタンノイが、
トゥイーターを追加して4ウェイのシステムを手がけた。

しかもFSMやSystem215と違う、大きな点は、その時点でのタンノイがもつ技術を結集した、
といいたくなるレベルで、Kingdomを出してきてくれたことが、なにより嬉しかった。

瀬川先生は、JBLから4350、4341が発表されたときに、
「あれっ、俺のアイデアが応用されたのかな?」と錯覚したほどだった、と書かれている。
Kingdomが出たときに、さすがにそうは思わなかったけど、
それでも同軸型ユニットを中心とした4ウェイ構想は間違っていなかった、
それがKingdomで証明されるはず、と思ってしまった。

Kingdomは12インチの同軸型ユニットを中心に、
下の帯域を18インチ口径のウーファー、上の帯域を1インチ口径のドーム型トゥイーターで拡充している。

Kingdomの外形寸法はW780×H1400×D655mmで、重量は170kg。
タンノイのこれまでのスピーカーシステムのなかで、もっとも大型でもっとも重い体躯をもつ、
このスピーカーシステムこそ、私はオートグラフの現代版として捉えている。

同時に、アルテックの6041の行きつく「形」だとも思っていた。

Date: 5月 24th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その57)

オートグラフの設計思想は、バッキンガムに生きている、ということについては、
頭では理解できても、心情的には納得できない、ものたりなさを感じるところが、
オーディオマニアとしては、ある。

この時代のタンノイはハーマン傘下になっていた。
だから、とは断言できないものの、バッキンガムの同軸型ユニットの前面にとりつけられた音響レンズに、
時代におもねっているような印象を拭い去れないし、
エンクロージュアのつくりがすごいのはわかっていても、スピーカーシステムとしてとらえたときに、
ここがこうなっていたら、とか、あそこはこうしたら、とか(こういったことは素人の戯言であっても)、
そんなことをいいたくなってしまう。

バッキンガムのあとに、タンノイはスーパーレッドモニター(SRM)というモニタースピーカーを出す。
往時の同社のユニット、モニターレッドを思い浮ばせる名称のついた、このシステムは、
アーデンのエンクロージュアを、よりしっかりと作ったもの、といえる。

バッキンガムの音響レンズは、当時売れに売れていたJBLの4343の影響かしら、と勘ぐりたくなるし、
SRMは、タンノイのユニットを強固なエンクロージュアにおさめ、
タンノイ純正のシステムでは出しえない、味わえない、
そんなタンノイの同軸型ユニットの魅力を引き出したロックウッドの二番煎じ、というふうに受けとれなくもない。

どちらもすこし意地の悪い見方ではある、と自分でも思う。
けれど、オートグラフをつくっていた会社なのだから……、と心の奥底でタンノイには期待しているからこそ、
こんなこともいいたくなってしまう。

がんばってはいる、けれど……という印象がどこかに残っていたタンノイは、
1981年にハーマン傘下から独立し、GRFメモリーを発表する。

Date: 5月 24th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その56)

    ここで話は、この項の(その30)から(その36)にかけて書いているバッキンガムのことにもどる。

    ステレオサウンド別冊の「世界のオーディオ」のタンノイ号掲載のリビングストン氏のインタビューの中に、
    「オートグラフとGRFを開発した時と同じ思想をバッキンガム、ウィンザーにあてはめているわけで、
    オートグラフ、GRFの関係をそっくりバッキンガム、ウィンザーに置き換えられるようになっているんです。」
    と語っている。

    つまりオートグラフの思想を現代技術で受けつぎ、生きているスピーカーシステムがバッキンガム、ということだ。

    バッキンガムの構成については前に書いてるのでそちらをお読みいただきたいが、
    形態的にはオートグラフとバッキンガムは大きく異っていて、
    その思想も、短絡的に捉えてしまえば、同じとはいえない、といえそうである。

    1978年にオートグラフもバッキンガムも同時に開発されたスピーカーシステムだとしたら、
    このふたつのスピーカーシステムはまったく異るスピーカーシステムといえる。

    だがオートグラフは1953年に、バッキンガムは1978年に登場したスピーカーシステムだ。
    25年の隔たりが、オートグラフとバッキンガムのあいだには存在する。
    この間には技術は進化し、スピーカーシステムを置く聴き手側の環境も変化している。
    プログラムソースの変化も、いうまでもなく、大きいものとしてある。

    これらの変化が反映された結果が、
    オートグラフから25年目に登場したバッキンガムだ、と受けとることもできるはずだ。

    同じことがオートグラフとウェストミンスターにもいえる。
    オートグラフと1982年登場のウェストミンスターとのあいだには、29年の隔たりがある。
    オートグラフとウェストミンスターは同じ時期に開発されたスピーカーシステムではない、ということ。
    このことが、オートグラフとウェストミンスターの形態的には似ているけれど、
    設計思想においては、必ずしも同じものではない、ことにつながっていく。

Date: 4月 28th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その55)

菅野先生が、ウェストミンスターは60Hz以下の低音は諦めている設計だと言われた理由も、
菅野先生に「なぜウェストミンスターは、あんなに大きいの低音が出ないのか」と相談された方がそう感じた理由も、
ウェストミンスターのバックロードホーンが受け持つ、この構造ならではの量感の独特の豊かさが、
実のところ、それほど低い帯域まで延びていないためだと思っている。

ウェストミンスターが、もしオートグラフと同じコーナーホーン型であったら、
あの豊かで風格を築く土台ともなっている低音は、もう少し下まで延びていく、と考える。
でもウェストミンスターはエンクロージュアの裏側をフラットにして、コーナーに置くことをやめている。
コーナー・エフェクトによる低音の増強・補強を嫌った、ともいえる。

その結果として、ウェストミンスターはオートグラフよりも、使いやすくなったスピーカーシステムといえる。
堅固なコーナー、しかも5m前後の壁の長さを用意しなくてもすむ。
設置の自由度もはるかに増している。

ステレオサウンドの試聴室ではじめてウェストミンスターを聴いたときも、
五味先生のオートグラフとの格闘の歴史を、何度もくり返し読んでいただけに、
拍子抜けするほどあっさりと鳴ってくれたのには、驚いた。
これがスピーカーの進歩かもしれないけど、反面、物足りなさも感じていた。

オートグラフでは、まず設置の難しさがある。
それだけに理想的なコーナーと壁を用意できれば、
あの当時のスピーカーシステムとしては低域に関してもワイドレンジだといえる(はずだ)。

ウェストミンスターは、そんな設置の難しさはない。
それだけに低域に関しては、ワイドレンジとはいえないところがある。

このことは、私にとって、以前「タンノイ・オートグラフ」で書いたこと、
オートグラフはベートーヴェンで、ウェストミンスターはブラームス、ということにつながっていく。

Date: 4月 28th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その54)

エソテリックのサイトではなくタンノイのサイトで、ウェストミンスターのスペックを見ていて気づくのは、
CROSSOVER Frequency(クロスオーバー周波数)のところに、
200Hz acoustical, 1kHz electrical とあるところだ。

1kHzに関しては説明は必要ないだろう。内蔵のネットワークによる。
200Hzは、ウェストミンスターのエンクロージュアの構造によるもので、
200Hz以下はバックロードホーンが受け持つ帯域となる。
オートグラフは、350Hz以下をバックロードホーンが受け持つ、とカタログにあったと記憶している。

ウェストミンスターにしてもオートグラフにしても、
このバックロードホーンの開口部はエンクロージュアの左右に設けられており、面積にするとかなり広い。
スピーカーユニットに同軸型を採用し、音源の凝縮化をはかっているのに、
200Hz(もしくは350Hz)以下の低音に関しては反対の方向をとっているといえる。

これが、ほかのスピーカーシステムでは得られない
オートグラフ(ウェストミンスター)ならではの音の世界をつくっている要素になっているわけで、
オートグラフでは20Hzまでバックロードホーンによるホーンロードがかかっているように、
カタログからは読みとれる。

ただいかなる条件下において20Hzまでホーンロードがかかっているのかというと、はっきりしない。
おそらく実際に堅固なコーナーにきちんと設置して、
しかも壁の一辺が十分な長さを持っているときに限るのではないか、と思う。

正直、この辺になると実際にコーナー型(それもコーナーホーン型)のスピーカーシステムを、
自分の手で、しかも部屋の環境を変えて鳴らした経験がないため、推測でしかいえないもどかしさがあるが、
コーナーホーン型が理屈通りに壁をホーンの延長として使っているのであれば、間違いはないはずだ。

結局、このところがオートグラフとウェストミンスターの、(少なくとも私にとっては)決定的な違いである。

ウェストミンスターの低域が-6dBではあるものの18Hzまでレスポンスがあるのは、
タンノイがスペックとして発表している以上、疑うことではない。
ただそれはレスポンスと測定できることであって、果してウェストミンスターのバックロードホーンが、
18Hzまでホーンロードがかかっていることの証明にはなっていない。

Date: 4月 26th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その53)

18Hz〜22kHzとあっても、それがどのレベル差の範囲でおさまっているのかは、
エソテリックが出しているカタログには載っていない。

タンノイのサイトで調べると、18Hz – 22kHz -6dB、とある。
同じく15インチの同軸型をバスレフ・エンクロージュアに収めたカンタベリー/SEの周波数特性は、
28Hz – 22kHz -6dBとなっている。
カンタベリーのエンクロージュア・サイズはW680×H1100×D480mm、内容積は235ℓ。
容積的にはウェストミンスターの、ほぼ半分程度だ。

どちらも同じ-6dBということだから、
カタログ上ではウェストミンスター・ロイヤル/SEのほうが低域が下まで延びていることになる。

ウェストミンスターは1982年に登場した。
ステレオサウンドの試聴室で何度となく聴く機会があった。
翌日の取材の準備を終えた後、夕方、試聴室でひとりで聴いたこともあった。

そのときの印象から言えば、ウェストミンスターの低域は、カタログ・スペックほど延びてはいない。
もっと高い周波数までという感じがする。
菅野先生は、(たしか)60Hz以下の低音は諦めている設計だと言われていたのを思い出す。

中低域から、この周波数あたりまでは、独特のプレゼンスをもつ量感の豊かさがあって、
低音「感」に不足を感じるどころか、
堂々たる風格で響いてきたアバド/ブレンデルによるブラームスのピアノ協奏曲は、いまも思い出せるほどだ。

その響きに不足は感じない。
けれど、カタログ・スペック通り18Hzという非常に低いところまで十分なレスポンスが感じられたかというと、
決して、そうとはいえない。

でも、だからといってよく出来たブックシェルフ型スピーカーシステムのほうが、
レスポンス的にはウェストミンスターよりも、もう少し下の帯域まで延びている印象はあるが、
そのことが音の風格につながっているか、となると、また別問題だ。

Date: 4月 25th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その52)

言葉のうえでは、オートグラフとウェストミンスターは、
どちらも15インチの同軸型ユニットを使用、
エンクロージュアはフロントショートホーンとバックロードホーンの複合型、と同じだ。

ウェストミンスターを最初にみたとき、ランカスター、ヨークにコーナー型とレクタンギュラー型が、
バックロードホーン型のGRFにもレクタンギュラー型があったように、
ついにオートグラフにもレクタンギュラー型が登場した、というふうに受けとられたかもしれない。

オートグラフを手に入れたくても、理想的なコーナーをそのために用意することがかなわない。
それであきらめていた人にとっては、
レクタンギュラー・オートグラフは、待ちに待ったスピーカーシステムだったもかもしれない。

しかし、ウェストミンスターは、レクタンギュラー・オートグラフではない。
ウェストミンスターは、あくまてもウェストミンスターであって、オートグラフではない。

オートグラフはコーナー型ゆえに、エンクロージュア後部は90°の角をもつ。
ウェストミンスターの後部は、通常のエンクロージュア同様、フラットになっている。
コーナー・エフェクトによる低音の増強を嫌ってのことである。

ウェストミンスターは、その後、ウェストミンスター/R、ウェストミンスター・ロイヤル、
ウェストミンスター・ロイヤル/HEと改良されていくときに、
エンクロージュアの寸法も多少変更されている。
カタログ上では初代ウェストミンスターはW1030×H1300×D631mmだったのが、
ロイヤルからW982×H1400×D561mm、ロイヤル/HEはW980×H1395×D560mmとなっている。
内容積もそれにともない521ℓから545ℓ、530ℓとなっている。

細かい差はあるけれど、ウェストミンスターとほぼ同じ500ℓをこえるエンクロージュアを、
バスレフ型、もしくは密閉型で作れば、かなり自然に低域を伸ばすことができる。

そのためか、ウェストミンスターの大きさだけから判断して、
うまく鳴らせばかなり低いところまで再生できる思われる方がおられるようだ。

菅野先生は、ウェストミンスターよりも、
よくできたブックシェルフ型のほうが周波数特性的には低域が延びている、と言ったり書かれたりされているし、
実際に何人かのオーディオマニアの方から、あんなに大きいの、なぜ低音が出ないんですか」
と相談を受けたことがあると話されていた。

エソテリックによるタンノイのカタログには、現在のウェストミンスター・ロイヤル/SEの周波数特性は、
18Hz〜22kHzとなっている。

Date: 4月 25th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その51)

とはいうものの、五味先生がオートグラフを存在を知り、
その高価さに、半信半疑で新潮社のS氏にされ、そこで返ってきた
「英国でミスプリントは考えられない。百六十五ポンドに間違いないと思う。そんなに効果ならよほどいいものに違いない。取ってみたらどうだ。かんぺきなタンノイの音を日本でまだ誰も聴いた者はないんじゃないか」
という言葉に、「怏怏たる思いをタンノイなら救ってくれるかも」と思い、
オートグラフを取り寄せるきっかけとなったHiFi year bookは、1963年度版だから、当然ステレオになっている。
その時代に、オートグラフは、スタジオ・モニター用として、と明記されていたわけだ。

正直、オートグラフがモニター用スピーカーシステムとして使われた実例があるのか、
なぜHiFi year bookはスタジオ・モニターとしたのか、
はっきりとしたことは──以前からずっと疑問に思ってきたことだが──、あいからわずなにひとつない。

ひとついえることは、オートグラフが登場した1953年においても、
五味先生のもとにオートグラフが届いた1964年においても、
ワイドレンジを志向したスピーカーシステムであることだ。

五味先生が書かれている。
     *
S氏にすすめられ、半信半疑でとったこのタンノイの Guy R. Fountain Autograph ではじめて、英国的教養とアメリカ式レンジの広さの結婚──その調和のまったきステレオ音響というものをわたくしは聴いたと思う。
     *
オートグラフのコーナー・エフェクトを利用したバックロードホーン形式をどう捉えるかは、
人によって多少異なる面があるけれど、私は、ウェストミンスターとのはっきりとした違いがここにあり、
開発当時で、できるかぎりのワイドレンジを狙ったものだと私は思っている。

Date: 4月 24th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その50)

HiFi year bookにスタジオ・モニター用と明記されていても、
それはタンノイがいっていることをそのまま載せたのか、それとも編集者がそう判断したのか、
それとも実際に使用例があるのかを確認してなのか、そのへんのことははっきりしない。

それにタンノイ・オートグラフが、
実際にスタジオでモニタースピーカーとして使われた例があるのかどうかはわからない。

ただ一部の人が、コーナー型スピーカーををスタジオモニターとして使うわけはない、ということはない。
いまの感覚からすれば、たしかにスタジオモニター用としてコーナー型スピーカーシステムを採用することは、
ないと断言してもいい。

けれどオートグラフは1953年に登場したスピーカーシステムである。
この時代、スタジオではどんなふうにスピーカーを設置していたかというと、
BBCモニターのLSU/10(LS5/1以前のスピーカー)がおかれている写真をみたことがあるが、
ミキシングコンソール(というよりも調整卓といったほうがぴったりくる)の横、
部屋のコーナー近辺に1台設置してある。

モノーラル用だからモニタースピーカーは1台。その1台をミキサーにとって真正面におくと、
録音ブースとのあいだをしきるガラス面をふさぐかっこうになり、まずい。
だからというわけでもないだろうが、比較的に邪魔になりにくいコーナー近辺に置かれたのだろうか。

この時代のスタジオの写真が他にもあれば、当時のスピーカーの設置状況がもうすこしはっきりとしてくるのだが、
少なくともミキサーの正面に置かれることはなかったといえよう。

そしてこの時代は調整卓の幅も狭い。スタジオのコーナーは自由に使えたのかもしれない。
となると、コーナー型のモニタースピーカーというのが、実際にあっても不思議ではない。

スタジオモニターにコーナー型はありえない、というのは、あくまでもいまの感覚にすぎない。

Date: 4月 19th, 2011
Cate: TANNOY

タンノイとハーマンインターナショナルのこと

タンノイは1974年にハーマンインターナショナルの傘下に入っている。
この年から、アーデン、バークレイ、チェビオット、デボン、イートンなどの、
いわゆるアルファベット・シリーズを発表し、
これらの価格は、従来のランカスター、レクタンギュラー・ヨークなどよりも低く抑えられていた。

しかもこの年、創業者のガイ・R・ファウンテン引退、3年後の77年、77歳で逝去。

1981年、タンノイと日本の輸入元のティアックが協力して、ハーマンインターナショナルから下部を買い戻し、
GRFメモリーを発表する。
往年のタンノイ・ファンにとって、やっと満足できるタンノイの久方ぶりの登場でもあった。
翌82年にはウェストミンスターとエジンバラ、83年にはスターリングと、
現在のプレスティージ・シリーズにつながっていくスピーカーシステムを続けて発売し、
タンノイの名声は回復していった──、
そんなふうに受け止められていることだろう。

1974年から81年までを、人によっては、タンノイの暗黒時代、とまでいう。
もしあのままハーマンインターナショナルの傘下だったら……、
いまのタンノイとはまったく異るタンノイに成り果てていただろう、ともいう人もいる。

GRFメモリーが最初に見たときは、私も、タンノイの復活だ、と思っていたし、
ハーマンインターナショナル傘下から離れたからこそ出てきたスピーカーシステムだとも思っていた。

でも、いまは違う見方をしている。

1974年は、火災によってコーン・アッセンブリー工場を失っている。
それにアルファベット・シリーズのつくりの合理化についてあれこれいう人がいるが、
すでにその前から、タンノイのスピーカーシステムのつくりには変化が生じていて、
タンノイという会社の経営が順調ではないことを感じさせてもいた。

もしハーマンインターナショナルがこのときタンノイを傘下に収めていなかったら、
もしかしたらタンノイという会社はなくなっていたかもしれない。

タンノイに歴史にふれた文章を読むと、ハーマンインターナショナルという固有名詞を、
あえて出さずに、この時代のことにふれているのがある。
ハーマンインターナショナルに遠慮してのことだろうが、
むしろそういう変な気の使いかたをするくらいなら、
もう少し違う視点から、このことを捉えてみることのほうが大事なはず。

私は、結果としてハーマンインターナショナルはタンノイに救いの手を差し延べた、と思っている。

Date: 4月 19th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その49)

タンノイのデュアルコンセントリックのオリジナルモデル(つまりモニターシルバーの前にあたる)は、
1947年に生れている。

もともとタンノイのスピーカーユニットは、
当時製造していたマイクロフォンの校正用音源として生れたものから発展してきたものだときいている。
いわば、この時点から、その時代におけるワイドレンジを目指していたものであり、
タンノイの解答が、高域にコンプレッションドライバーによるホーン型を採用し、
ウーファーのコーン紙をカーブさせることで、中高域のホーンの延長とするデュアルコンセントリック型である。

デュアルコンセントリックが発表された年の9月、ロンドンで、第二次大戦後初のオーディオショウが開催され、
注目を浴びることになるのだが、偶然というべきか、タンノイのブースの前に、デッカのブースがあった。
デッカは、すでにSPレコードで、
高域の限界再生周波数を従来の8kHzから14kHzあたりまでに拡張することに成功していた。
デッカの、このシステムこそがffrr(full frequency rahge recording)であり、
第一弾としてすでに発売されていたのが、アンセルメ/ロンドン・フィルによる「ペトルーシュカ」だ。

デッカのffrr、この広帯域録音システムを開発したのは、同社の技師長アーサー・ハディであり、
この技術の元となったのは、
第二次大戦初においてドイツの潜水鑑を探索する水中聴音兵器のトレーニング用レコード製作の委嘱である。
12kHzまでの広帯域録音が要求されたものらしい。

タンノイとデュアルコンセントリックとデッカのffrrが、1947年のオーディオショウで出逢う。
そして、デッカのデコラ(モノーラルのほう)への採用が決り、
デッカの録音スタジオスタジオモニターとしても採用されていく。

Date: 4月 18th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その48)

タンノイ・オートグラフは、1953年のニューヨークオーディオショウにて発表されている。

1953年は、まだステレオLPは登場していない。
オートグラフはモノーラル時代の、つまり1本で聴くスピーカーシステムである。

翌54年にはヨーク(これもコーナー型、ただしバスレフ)、
55年にはオートグラフからフロンショートホーンを省き、いくぶん小型化したGRFが出ている。
いうまでもないことだが、GRFもコーナー型だ。

ヨークは、のちにコーナーヨークと呼ばれるようになったのは、
1960年代にはいり、一般的な四角い箱のレクタンギュラーヨークが出て、はっきりと区別するためである。
GRFにも、ご存知のようにレクタンギュラー型がある。
ヨークを小型化したランカスター(1960年発売)も、コーナー型とレクタンギュラー型とがある。

ステレオLPの登場・普及、
それにARによるアコースティックサスペンション方式のブックシェルフ型スピーカーの登場、
スピーカーのワイドレンジ化ということもあいまって、
コーナー型のスピーカーシステムは次第に姿を消していくわけだが、
オートグラフが登場した頃は、イギリスだけでなく、
アメリカにおいても大型の高級スピーカーシステムの多くはコーナー型が占めていた。

オートグラフはフロアー型のなかでも大型に属するスピーカーシステムだ。
しかもコーナー型で、複合ホーン型。
この手のスピーカーシステムを、ほんとうにスタジオモニターとして開発・設計されたといわれても、
ステレオが当り前の世代には、にわかには信じられないことだ。

だがオートグラフが登場した頃は、くりかえすが、モノーラル時代である。
スピーカーシステムは1本のみの時代である。

このことに注目すると、この時代、コーナー型のタンノイがスタジオモニターとして使われていても、
そう不思議ではないことかもしれない。

Date: 8月 23rd, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ
2 msgs

ワイドレンジ考(その45・続×五 補足)

約5mの壁面いっぱいに左右に拡げて設置されたオートグラフが、
「五メートル幅の空間をステージ」する。

想像でしかないが、五味先生のオートグラフは、壁面いっぱいに拡がる音を響かせていたのだろう。
左右のスピーカーの内側に展開するステージ(音場感)ではなく、
スピーカーの外側まで──といっても、コーナーに設置されているから、
エンクロージュアの外側の縁まで、ということになるのだろうが──拡がるステージを、
五味先生は聴いておられたし、感じとられていたのだろう。

だから、私の中では、5mの壁面に置かれたオートグラフが、「五メートル幅の空間」を描き出すことも、
五味先生がオートグラフの間隔を約5mとされたのも、納得のいくことである。