Archive for category ジャーナリズム

Date: 6月 20th, 2012
Cate: ジャーナリズム

附録について(その1)

昨年末に出たステレオ誌は附録が話題になった。
Dクラスアンプの完成基板とACアダプターがついてきたわけで、
しかもDクラスアンプはラックスの開発によるものだから、
これだけのものがついてきて、いつもの定価よりは倍程度になっていても、お得な買物といえるだろう。
売り切れた書店も多かったようだ。

ステレオはその前からスピーカーユニットを附録としていたことがあった。
今夏もまたスキャンスピーク製のスピーカーユニットが附録となる。
ステレオを出版している音楽之友社では音楽の友にもバッグを附録としている。

附録がついている、ついてくるのは音楽之友社の出版物ばかりでなく、
いま書店に並んでいるオーディオベーシックにはインシュレーターが附録となっているし、
夏に出るDigiFi(ステレオサウンド)には、USB入力のDクラスアンプが附録となる。
ステレオサウンドではHiViにUSBケーブルを附録にする予定。

女性誌の附録の流れが、ついにオーディオ雑誌にも波及してきた、という感じで、
附録のおもしろさを喜ぶ人もいれば、附録に対して否定的な受け止め方もする人もいよう。

オーディオ雑誌の附録は、Dクラスアンプにしても、スピーカーユニットにしても、安いものではない。
本よりも高いものが附録となっている。
だから附録がついている号は、通常の定価よりも高くなる。
それでも附録そのものを欲しいと思っている人にとっては、充分お得な買物だから、通常の号よりも売れるだろう。

でも附録を必要としない人のために、附録なしでも売っているのか、と気になる。
いま売っているオーディオベーシックは、共同通信社のサイトをみるかぎりは、附録なしでは売っていないようだ。
通常1500円のオーディオベーシックを、
今号に限っては附録は要らない、という人でも2000円出して購入しなければならない。
わずか500円の差だから、ともいえる。

でもアンプやスピーカーユニットが附録となると500円程度の差ではなくなる。
DigiFiは通常1300円が2980円になる。これは附録なのか、と思ってしまう。

附録の波は、いまのところステレオサウンド誌にはまだ及んでいないように見える。
でも、オーディオ雑誌で──私がオーディオ雑誌を買うようになってから、ではあるが──最初に附録をつけたのは、
ステレオサウンドだった。
1978年12月に出た49号に、1979年の卓上カレンダーがついていた。
それまでのステレオサウンドの表紙からいくつかを選んでカレンダーに仕上げたものだった。
本の定価は1600円と、いままでと同じだった。

こういう附録は素直に嬉しいものである。
こういう附録の方が私は附録らしくて好感が持てるし、いまもつけてくれたら、と思う。

Date: 5月 31st, 2012
Cate: ジャーナリズム

あったもの、なくなったもの(その4)

なにがあったもので、なにがなくなったもの、と私が感じているのについてあえて書かないのは、
なにももったいぶって書かないのではない。

岩崎先生の文章や対談、座談会を読めばわかることだから、書かないだけのこと。
その岩崎先生の文章、発言はaudio sharingで「オーディオ彷徨」を公開しているし、
「オーディオ彷徨」の電子書籍(ePUB形式)にしたものもダウンロードできるようにしている。
まだまだすべてではないにしても、
かなりの数の個々のオーディオ機器について書かれたものはthe Review (in the past)で公開している。
それ以外の文章、座談会、対談はfacebookページの「オーディオ彷徨」を利用して公開しているのだから、
私が読んできた岩崎先生の文章、発言に関してはすべて読めるようにしている。
これから先も公開していく文章は増えていく。

だからこれらを読めば、すぐには無理かもしれないがいつの日か、はっきりとわかるはずである。
1回読んだだけでわからなければ、
それでもなにがあって、なにがなくなったのかを知りたければ、くり返し読めばいい。
集中して読むことで見えてくるものは、必ずある。
人によって、その時間は半年だったり、1年だったり、もしくはそれ以上かかるかもしれない。

それでもわからない人もいるかもしれない。
でも、それは「読んでいない」からだ。
そういう人に限って、「いまさら岩崎千明なんて」「岩崎千明なんてたいしたことない」などという。

そういう人は、もともと大切なものがなかった人だ、いまもない人だ。

Date: 5月 30th, 2012
Cate: ジャーナリズム

あったもの、なくなったもの(その3)

昨年後半から、岩崎先生の文章の入力を中心にあれこれ作業している。
facebookの「オーディオ彷徨」でそれらは公開しているし、試聴風景の写真もスキャンしては公開している。

写真に関しては紙質のあまりよくないページからスキャンだし、
写真自体も小さな扱いのことが多いから、画質はよくないものが多い。
それでもある程度数がまとまってきたのを、岩崎先生の文章とあわせて眺めていると、
オーディオ雑誌にあの時代にあったもの、いまの時代になくなったもののひとつが、私の中でははっきりしてきた。
(なくなった、は少し言葉が過ぎる気もするが、もうほぼなくなりつつある……)

はっきりしてきた「目」で、いまのオーディオ雑誌はそっちの方向へつき進むように見えてしまう。
この方向性は、これからも変ることなく、ますますそっちの方向へと行くのであろう。

Date: 3月 14th, 2012
Cate: ジャーナリズム

あったもの、なくなったもの(その2)

いろいろなことがらで、あったもの、なくなったものについて考えることが少しずつ増えてきたように感じている。
オーディオは13歳のときからだから、この秋で36年になるわけで、
この36年のあいだに、あったもの、なくなったものがある。

なにがなくなったものなのか、を見つめ直すだけでなく、なかったものはなんだったのかを手探りしている。

Date: 3月 11th, 2012
Cate: ジャーナリズム

1年経ち……

今日で1年が経った。
1日前の昨日、ステレオサウンドの春号が書店に並んでいる。
まだ読んでいない。ステレオサウンドのサイトで公開されている記事のタイトルを見ただけである。

ステレオサウンドはオーディオの本である。
オーディオは趣味のことだから、趣味の雑誌であるステレオサウンドに、
1年が経ったことは関係ないということなのだろうか。
記事のタイトルを見て、予測していたこととはいえ、どうしてもそうおもってしまう。

そういうステレオサウンドの編集方針を、否定はしない。
いまのステレオサウンドの編集方針は、そうなのだから。

だがステレオサウンドは、敗戦後の焼け野原にたたずんだ男の心の裡で鳴ったベートーヴェンが、
大事な根っこになって誕生したものである。

世の中は変化する。
ステレオサウンドも変化する、ステレオサウンドを取り囲む状況も変化している、──その編集方針も変化する。
その変化の中で、ステレオサウンドは大事な根っこのひとつを喪くしてしまった。

Date: 2月 24th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続×五・ある記事を読んで)

1981年の週刊FMだっと記憶しているが、瀬川先生の連載が始まった。
カラー見開き2ページの記事で、瀬川先生が惚れ込んでいるオーディオ機器について書かれたもので、
マークレビンソンのML2が取り上げられていたのは、いまでもはっきりと憶えている。

そこにはML2の保護回路についてふれられていた。
なんでもML2の保護回路はアンプ本体にけっこうな量の水をかけても、
瞬時に保護回路が働きスピーカーを保護する、と。
実際に試したことのある人はいないだろうが、
当時 ML2の内部写真を見るたびに、この基板はなんだろう、と思っていたことがある。

ML2の内部はフロントパネルのすぐ裏に電源トランスがあり続いて平滑用の電解コンデンサー、
そしてプリント基板が2枚、垂直にメイン基板に挿さっている。
このうち1枚は電圧増幅用のものだとすぐにわかる。
でものこる1枚はいったいなんなのだろうか、とML2が登場したときから考えていた。
それが瀬川先生の記事を読んで、やっとわかった。2枚目のプリント基板は定電圧回路と保護回路である。
ML2はそれだけ、音だけではなく安全面でも完璧を目指したモノであった。

ML2の出力は8Ω負荷で25W。Aクラス動作で、消費電力は常時400W(片チャンネル)。
たいへんな無駄飯食いなアンプだが、4Ω負荷では50W、2Ω負荷で100Wと、理論通りに出力が倍々と増えていく。
ML2が登場したとき、4Ω負荷でも8Ω負荷時の出力の2倍になるもの、ごくごく一部のもので、
そういったアンプでも2Ω負荷では頭打ちになってしまっていた。
ML2はそれだけの電源の余裕とともに、それに見合ったアンプ回路の設計、
そしてアンプの動作を見守りスピーカーを保護する回路のバランスが見事にとれていたからこそ、
あれだけのパフォーマンスを実現していた、ともいえるだろう。

日本のアンプで、ステレオサウンド 64号の測定で保護回路が働いてしまうアンプは、そのへんはどうだったのか。
保護回路が働くアンプはどれだったのかは64号を読めばわかるようになっている。
ローコスト機ではなく、意外にもコストをかけたアンプで保護回路が働いている。
とうぜん、これらのアンプはそのブランドのトップモデルであったりして、
電源部も余裕のある設計を謳っているし、それに出力段もきちんとしたものであるにもかかわらず、
8Ω/1Ω瞬時切替えでは、出力を上げると保護回路が働くということは、
出力段のトランジスターに流れる電流を検出していて、
ある一定値以上になると保護回路が働くようになっているのだろう。

電源部には出力段が要求する電流を供給するだけの余裕がある、
出力段は負荷が要求する電流を供給できるだけの設計になっている、のは、
保護回路を外した状態での測定結果、その音質からも容易に想像できることだ。
なのに、その実力を保護回路で抑えつけてしまっている、と私は見ている。
だから、もったいないことだ、と思うし、
ML2のように3つのバランスがとれたアンプではない、ともいいたくなる。

Date: 2月 23rd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続々続々・ある記事を読んで)

保護回路がアンプを保護するのは悪いことではないし、いいことではある。
けれど、その保護回路が音を悪くしていたとしたら、
それも軽微ではなく、かなり音に影響を与えていたとしたら、どうだろうか。

保護回路が入っていない、もしくはまともな働かないパワーアンプが異常を来したら、
最悪スピーカーの破損につながる。さらにひどい場合にはスピーカーのコーン紙を燃やしてしまうことすらある。
そんなことを未然に防ぐためにも、保護回路は必要なものではある。
けれど、アンプの回路設計が各社様々であるように、保護回路の設計も各社様々である。
そしてアンプの音質とは、アンプの回路設計と保護回路の設計、ともに優れていなければならない。
どんなに優れたアンプであっても、保護回路が、そのアンプの動作を抑圧するようなものであったら、どうなるか。

ステレオサウンド 64号の測定では、国産アンプの保護回路の在り方を、
間接的にではあったが知ることが出来たと思う。
あくまでも安全面を優先したアンプでは、1Ω負荷に対して、保護回路が働いてしまう。
1Ω負荷なんてものはあり得ない、という考え方からなのかもしれないし、
そういう非常に低いインピーダンスが負荷となることがおかしな状況と、設計者が判断してなのか、
それとも会社の方針としてなのか、そのへんは外部の人間にははっきりとしないが、
がちがちの安全面の保護回路の動作をみると、ついルンバを作れない(作らない)、
日本の家電メーカーと共通する因子がオーディオ専門メーカーにもあるように思えてしまってならない。

実は64号の測定のとき、あるメーカーの技術者に協力していただき、
そのメーカーのアンプの保護回路を外して測定している。
誌面に載せているデータは保護回路付きのものであるが、
保護回路を外したときのデータは、誌面に載っているデータよりもずっといい結果だった。
ひじょうに優れた結果でもあった。
つまり、そのアンプはそれだけの能力を持っている、にもかかわらず、その良さをそうとうにスポイルしている。

それは特性面のことだけではない。
実際に保護回路を取り外した状態の音は、そのアンプに感じていた個人的不満を見事に解消していた。
こんなに瑞々しい音を出してくれるのか、そして、なんともったいないことなのか、と、
おそらく保護回路付きの音、保護回路なしの音を聴くことができた人なら、全員がそう思うはずである。

Date: 2月 22nd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続々続・ある記事を読んで)

8Ω/1Ωの負荷インピーダンス瞬時切替え時の波形の理想は、きれいなサインウェーヴである。
だが実際には1/4波ごとに8Ω/1Ωと切り替わるためサインウェーヴのプラス側のピーク、マイナス側のピークで、
波形のズレ(落込み)が生じるものが大半である。

といっても出力が低い(8Ω負荷6.125W時)場合には、ほとんどでアンプで波形のズレはあまり目立たない。
優秀なアンプでは10%以内ですんでいる。それ以上の落込みのあるアンプもある。
出力を増した状態での波形となると、6.125W時とほとんど変らないアンプもあれば、
ズレが大きくなるアンプも出てくる。
ここで問題となったのは国産アンプいくつかは保護回路が働いてしまう、ということだった。

8Ω負荷6.125Wでは問題なく測定できても、
8Ω負荷の最大出力と同じ値を1Ω負荷で出そうとして測定すると保護回路が働くと測定できない。
出力に波形が出てこないからだ。
それで保護回路が働かないぎりぎりのところまで出力を下げて測定している機種がいくつかある。
これは、記憶に間違いがなければすべて国産アンプで生じた現象である。

このことが、国内家電メーカーがルンバを作れない(作らない)理由とかぶさってくる。

パワーアンプには、とくにトランジスターアンプにはほぼどんなアンプにも保護回路がついている。
この保護回路は、何を保護するものだろうか。
パッと浮ぶのは、スピーカーの保護である。
アンプになんらかの異常が起った時、スピーカーの破損を防ぐためのものが保護回路という印象が強いが、
保護回路はアンプそのものも保護している場合(そういう設計)もある。

64号の測定で出力が落とさなければ保護回路で働いてしまうアンプは、
どうもアンプを保護する意味あいの強い保護回路のような気がしてしまう。

Date: 2月 22nd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続々・ある記事を読んで)

負荷インピーダンスを1/4波ごとに8Ω/4Ωを瞬時に切り替える状態での高調波歪率は、
そのグラフを見ると、こうも違うものかと驚く。

ステレオサウンド 52号、53号での測定結果はすでに知っているわけだから、
ある程度の予測はしていたものの、実際に測定器に示される値をグラフにしていくと、
差の大きなアンプでは二桁近い歪率の悪化が見られる。

高調波歪率のグラフには3本の線が描かれている。
1本目は8Ω負荷、2本目は4Ω負荷、3本目が8Ω/4Ω切替え負荷である。
念のためいっておくが、すべて抵抗負荷である。52号、53号で使われたダミースピーカーではない。
アンプにとって、もっともいい数値を出しやすい抵抗負荷の8Ωと4Ωに瞬時に切替えるだけで、
アンプによっては驚くほど歪率が悪化(そのカーヴも大きく異る)するのがある一方で、
ここでも52号、53号でのダミースピーカーでの歪率が抵抗負荷とほぼ同じ歪率を示すモノがあったように、
ほぼ変化しないアンプがあるのも、また事実である。

64号では高調波歪率はあくまでも参考データ扱いで、掲載されているのは9モデル分で、
国産アンプと海外アンプの区別はつけてあるものの、どれがどのアンプかは明記していない。
もっとも丹念に見ていけば、どのアンプなのかはおおよその見当はつく。

64号の測定のメインは、瞬時電力供給能力のほうである。
こちらもやはり1/4波ごとに抵抗負荷の8Ωと1Ωにトライアックで自動的に瞬時に切替えて、
そのときの電流波形を写真で捉えている。
掲載されている写真は2枚で、1枚は8Ω負荷時での出力が6.125W時(つまり1Ω負荷時で50Wになる)のもの。
もう1枚は1Ω負荷時に8Ω負荷時の最大出力となるもの(8Ωで100Wのアンプであれば、8Ω負荷12.5Wとなる)。
さらに棒グラフでどの程度供給能力が低下するのかをパーセンテージで示したものも掲載している。

この測定結果は全アンプ掲載されている。

Date: 2月 22nd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続・ある記事を読んで)

ステレオサウンド 64号には、特別寄稿として、
「現代にはびこる特性至上主義アンプの盲点をつく──これでもアンプはよくなったといえるのだろうか」という、
長島先生による7ページの、今回の測定に関する記事がある。

ステレオサウンドは52号、53号で抵抗負荷での歪率測定だけでなく、
アンプ測定用のダミースピーカー(三菱電機によるもの)を負荷としたものも測定している。
たいていのアンプ(特に国産アンプ)は、抵抗負荷時の歪率のほうが低い。
アンプによってはかなり差が出ているものがあった。
抵抗負荷時には逆レの字型の歪率のカーヴを描くのに、
ダミースピーカーが負荷となると歪率が違うだけでなくカーヴそのものも変化するものも多い。

海外アンプはというと、おもしろいことに抵抗負荷時よりもダミースピーカー負荷時の歪率ほぼ同じというモノ、
さらにダミースピーカー負荷時の歪率のほうが低い、というモノも数は少ないながらも存在していた。

サインウェーヴを入力してアンプの負荷に抵抗を接続した状態の物理特性を、一般に静特性というが、
実際にアンプがシステムに組み込まれると、入力信号はサインウェーヴではなく音楽信号に、
負荷も抵抗からスピーカーシステムへ、となる。
この状態での物理特性を動特性とすれば、
聴感とより密接に結びつくのは静特性よりも動特性であることは容易に想像できるものの、
それでは動特性をどう測定するかは難しい問題でもある。

ステレオサウンドがダミースピーカーを使ったのは、
少しでも動特性を測定するための工夫であり、
64号での負荷インピーダンスを瞬時に切り替えるというのも、そういうことである。

実際の測定はサインウェーヴの山が一番高くなった時点で負荷インピーダンスを8Ωから1Ω(もしくは4Ω)に、
トライアック(双方向性スイッチング素子)を使い瞬時に切り替える。
サインウェーヴが0Vにきたところでまた切り替え8Ωにし、今度はマイナス側の山のところでまた1Ω(4Ω)にする。
つまり半波の半分、1/4波ごとに負荷インピーダンスを自動的に瞬時に切り替えて、
パワーアンプの瞬時電力供給能力の実態を視覚化するとともに、
いくつかのアンプでは高調波歪率も測定している。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: ジャーナリズム, 正しいもの, 測定

測定についての雑感(ある記事を読んで)

10日ほど前の産経新聞のサイトに、
日本の家電メーカー各社がルンバ(掃除ロボットと呼ばれている製品)を作れない理由、
といった記事が公開されていた。

記事には、パナソニックの担当者の発言として「(ルンバを作る)技術はある」としながらも、
商品化しない理由として、「100%の安全性を確保できない」ことをあげている。

たしかにアイロボット社のルンバも、使っている人にきくと完璧なモノではないらしい。
それでも便利なモノで、結局は使っている、とのこと。
けれど、日本のメーカーは、産経新聞のサイトによると、
掃除ロボットが仏壇にぶつかりロウソクが倒れると火事になる、とか、
階段から落下して人にあたる、とか、
よちよち歩きの赤ちゃんの歩行の邪魔して転倒させる、とか、
こういったことがクリアーされないと、日本の家電メーカーは商品化に及び腰になる、と読める。

この記事を読んでいて思い出したのは、ステレオサウンドで行ったアンプの測定のことだった。
64号の特集は「スピーカー相性テストで探る最新アンプ55機種の実力」で、
プリメインアンプとセパレートアンプを、
ヤマハのNS1000M、タンノイのArden MKII、JBLの4343B、
この3種のスピーカーシステムで試聴する内容。
測定も長島先生によって行われている。

64号では1機種当りのページ数は2ページ。
ページのゆとりはあまりないけれど、ここでの測定は、それまでとは違い、
負荷インピーダンスを測定中に瞬時に切り替えるというものだった。
パワーアンプの瞬時電力供給能力を測定する、というものだ。

Date: 2月 20th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その4)

ページ数が以前のようにとれないのであれば、
製品の写真を小さくして、測定データも小さい扱いでもいいから、という意見はあるだろう。
けれどステレオサウンドが測定を始めたころと時代は大きく違っている。
測定データのグラフは、小さな扱いでは細かいところまで読み取りにくくなるから、
どうしてもある程度の大きさは必要となってくる。

ステレオサウンドは、なぜ測定を始めたのか。
それは、当時はメーカー発表の測定値(カタログに載っているデータ)にいいかげんなものが少なくなかった、から。
カタログに発表されている値がほんとうに出ているのかどうかを検証するために始めた、というふうに聞いている。

測定をはじめた当初は、ずいぶんメーカーの発表値とステレオサウンドでの実測値が違うモノがあったそうだ。
つまりカタログに載っている値を満たしているものは、わずかだったらしい。
そうなるとメーカーの信頼にも関わってくることなので、カタログに載っているデータは正しいものとなってきた。
そういう時代があったわけだ。

そうなってくるとステレオサウンドが測定をする意義も変化していくことになる。
それまでのようにただメーカーの発表値のチェックだけでは意味のないことであり、
そういうものを誌面を載せるのこそ、無駄であるから。

メーカーがやっていない(もしくはやっていたとしてもカタログに発表していない)測定を行なうのも、
ステレオサウンドが測定を行なう(続けていく)意義となる。

Date: 2月 11th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その3)

新製品紹介ページの大幅な、ステレオサウンド 56号からの変更は、読者として諸手をあげて歓迎だった。
56号以前でも、注目すべき新製品がどれなのかはきちんと伝わっていた。
その機種が特集での登場まで待てば、詳しいことが掲載される。

とはいうものの読者としては、とくに地方在住の、身近なところにオーディオ専門店がない者にとっては、
特集記事で取り上げられるまでの期間が、実に長い。
ステレオサウンドは季刊誌だから3ヵ月に1度、年に4冊しか出ないわけだから、
登場するタイミングの悪い製品だと、特集で取り上げられるまで、それこそ1年近くかかることだってありうる。

待てないわけではない、待つしかないのだから。
でも、できれば、もう少しでいいから注目すべき新製品に関してはページ数を増やして欲しい、と、
ステレオサウンドに夢中な読者となっていた私はずっと思いつづけていた。
それが56号で、いわば叶ったわけだ。
ステレオサウンドがますます理想のオーディオ誌に近づいてくれた、そうも思っていた。
そんな時期があった……。

56号からはじまった新製品紹介のやり方は、まだ10代で世間のことはほとんど知らない読者だった私にとっては、
歓迎すべきことで、この方向をもっともっと徹底してやっていてほしい、と思うだけですむのだが、
編集を経験してきた者としては、難しい面ももっている、といえる。

当り前すぎることだが、一冊のステレオサウンドにはページ数の制限が存在する。
定価が高くなってもいいからページ数を増やして欲しい、と思われる読者もいるだろう。
たとえ定価を高くしても、コストだけの問題ではない。
製本の問題があって、ページ数はそう簡単に増やしていけるものではない。

しかも56号(1980年)とこの10年(20年といってもいいかもしれない)とでは、
新製品の数も大きく違っている。

ページ数の制約があって新製品の数が増えている、ということは、
つまり新製品紹介のページを充実させていけば、その分、ほかの記事のページ数があおりを喰うことになる。

この項の(その1)でふれたステレオサウンド 42号のプリメインアンプの特集記事と、
ここ数年のステレオサウンド、どの号でもいい、特集記事のページ数を数えてみればわかることだ。
もう42号のときのように1機種あたりに5ページも割くことは、難しいことではなく、無理なことになっている。

Date: 2月 10th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その2)

ステレオサウンドの新製品紹介のページは、
56号以前は井上先生と山中先生がふたりで担当されていた時期が続いていた。
ずっと以前のバックナンバーまで遡ればそれもまた違ってくるのだが、
私が読みはじめたステレオサウンド 41号では井上先生と山中先生、ふたりの担当だった。
それでも少しずつ記事の構成には変化があったものの、
基本的には海外製品を山中先生、国内製品を井上先生となっていた。

記事はすべてモノクロでページ数も32ページ前後。
それが大きく変ったのは、上に書いたように56号からである。
この56号から新製品紹介のページが2本立てになった。
カラーページの「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」と、
モノクロページの「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」になり、
井上・山中両氏だけではなく、他の筆者による記事が載るようになった。
いまのステレオサウンドの新製品紹介の原型・始まりともいえるのが56号である。

カラーページのトップを飾っていたのは、56号の表紙でもあったトーレンスのリファレンスだった。
書かれていたのは、瀬川先生。リファレンスに割かれているページ数は8ページ。
読みごたえのある文章だった。何度も読み返したものだった。
当時、リファレンスの価格は358万円。
「近ごろの私はもう、ため息も出ない、という状態だ。」とリファレンスの記事を締めくくられているように、
このころの358万円はそうとうな価格だった。

──こんなふうに書いていくと話は逸れていくばかりなので、元に戻そう。
56号にはモノクロページでロジャースのPM510も、これもまた瀬川先生の文章で載っていた。
だからとということもあって、56号の新製品の記事の変化は、読者としてすごく印象深いものとなっている。

それ以外にも56号には、
瀬川先生によるパラゴンの記事(Big Sound)と組合せの記事(これは連載となる予定だったもの)があり、
さらに黒田先生の「異相の木」も載っている。
38号とともにくり返し読んだ回数の多いステレオサウンドである。

Date: 1月 11th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その1)

「40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏)」で測定のことについてふれていることもあって、
facebookの機能を利用して行っているaudio sharingという非公開のグループで、
昨夜、なぜステレオサウンドだけでなくオーディオ雑誌は測定をやらなくなってきたのか、というコメントがあった。

ステレオサウンドだけでなく、他のオーディオ雑誌も、あきらかに測定はやらなくなっている。
ステレオサウンドが155号、156号でスピーカーシステムの測定を行なったとき、
それだけで話題になっていたぐらいだから、
技術系の雑誌以外では測定データを見る機会は減った、というよりもなくなった、といいたくなるほどだ。

なぜ、測定をやらなくなったのか──、
その理由は、いくつものことがからみ合ってことである、と私は思っている。
なにかひとつ、これだ、という理由があるわけではない。

私が41号に続いて買った、ステレオサウンド 42号はプリメインアンプの特集号だった。
35機種のプリメインアンプが取り上げられている。
この特集は65ページから始まっていて、最終ページは392である。
途中途中に広告ははいっているものの、このボリュウムは最近のステレオサウンドからはなくなっている。
ひとつの特集記事が一冊のステレオサウンドの半分以上を占める。
42号の編集後記が載っている奥付は、536ページである。

なぜこれだけのボリュウムなのか。
いまのステレオサウンドでは1機種あたり、見開き2ページで取り扱うのが当り前となっている。
42号ではプリメインアンプ1機種に5ページを割いている。
測定データもほぼ1ページ使っている。
5ページという物理的なページ数があるからこそ、できる内容である。

44号、45号はスピーカーシステムの特集号で、こちらも1機種あたり4ページを割いている。
その一方で、新製品紹介のページ数は42号では32ページと、いまのステレオサウンドからみるとかなり少ない。