Archive for category 平面バッフル

Date: 10月 28th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その9)

5日前(10月23日)、こんな記事をインターネットで見かけた。
タイトルには「BALMUDA 風を発明した男」とある。
WIREDの記事だ。記事は5ページある。その4ページ目には、こうあった。
     *
「人間が自然の力や電気の力を利用して、自然界と類似の現象を再現することが機械の役割だとすると、自然の風を再現することこそが、これまでにない扇風機をつくるヒントになるんじゃないかと思いました。自然のそよ風は気持ちいいけれど、扇風機の風にずっと当たっていると、疲れますよね。それは、軸流ファンで空気を前に送り出すため、どうしても空気が渦を巻いてしまうからなんです。それに対して自然の風というのは、大きな面で移動する空気の流れなんです。これを、どうにかして扇風機で生み出せないかと考え始めました」

このとき、またしても寺尾を助けたのが春日井製作所であった。ここの職人たちが、扇風機を壁に向けて使っているのを、思い出したのである。

「職人さんたちは、快適な風を生み出す方法を、長年の経験から知っていました。風を一度壁にぶつけることで空気の渦成分が壊れ、面で移動する空気の流れに変わるわけです。確かにそうしてみると、風が柔らかくなるんですよ。やるべき方向性が見つかりました。あとは、どうやってそれを、『扇風機』のなかに落とし込むかでした」
     *
このところを読んだ瞬間、私の頭の中に同時に浮んできたのは、
エレクトロボイスの30Wの使い方だった。

扇風機が送り出す渦を巻いている風が、
ピストニックモーションによる低音だとすれば、
扇風機の風を一度壁に当ぶつけることで、その渦成分がくずれて風が柔らかくなるのであれば、
ピストニックモーションの低音が壁にぶつかることで、どうなるのか、
それを想像してしまった。

そして、この想像は、モノーラル時代の大型スピーカーシステムの構造へと飛ぶ。
エレクトロボイスのパトリシアン・シリーズ、ヴァイタヴォックスのCN191、JBLのハーツフィールドなどである。

Date: 10月 28th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その8)

2002年、インターナショナルオーディオショウのタイムロードのブースにて、
ジャーマンフィジックスのThe Unicornを聴いて以来、
ジャーマンフィジックスのDDD型ユニットの音、The Unicornの音に惹かれるとともに、
ピストニックモーションに対する疑問が少しずつ大きくなってきている。

いま市場にあるスピーカー、
これまで登場してきたスピーカーのほぼすべてはピストニックモーションによって音を出している。
これまでは考えられてきた発音原理の多くもピストニックモーションの追求から生れてきている。

ピストニックモーションを完璧にすることがスピーカーの本当の理想像なのか、と思う。
完全なるピストニックモーションが実現できたとしたら、
その音に、音楽を聴いて何を感じるんだろう……とも思う。
正直、予測できない面もあり、もしかすると……と思う面もある。

でも、そういうことは完全なピストニックモーションが世に出てきたときに、
やっぱりそうだったのか、か、間違っていたな、とか、判断すればいいことと思いながらも、
DDD型ユニットのベンディングウェーヴという、非ピストニックモーションの発音原理のもつ可能性のほうに、
私の関心は、2003年からずっと、そこにある、といっていい。

現在のところ、低音域に関してはそれほど下まで再生はできないものの、
いちおうフルレンジ的に使えるスピーカーユニットとしては、
どちらもドイツ製の、DDD型ユニット、マンガーユニットがある。

ジャーマンフィジックスはDDD型のウーファーユニットを開発している、といっているものの、
いまだ登場しないところをみると、
実現は可能でも製品化が難しいのか、それとも実現困難なのか、はわからないが、
いまのところベンディングウェーヴで十分な低音域まで再生することは望めない。

そうなるとウーファーに関しては、現時点ではコーン型ユニット、
いいかえればピストニックモーション型のウーファーの助けを借りることになる。

ピストニックモーションのウーファーに、ベンディングウェーヴのフルレンジという組合せは、
竹に木を接ぐ的なところを感じなくもないが、実際にはこの手法しかないし、
それに菅野先生のリスニングルームでは、
竹に木を接ぐ的な面はいっさい感じさせない見事さが実現されていることを何度も耳にして体験しているだけに、
それほどウーファーの非ピストニックモーションにこだわることもない、とは思いつつも、
それでも非ピストニックモーションで、
ピストニックモーションのウーファーと同程度の低音再生ができないのか、とは考えてはいた。
それも無理すれば家庭におさまる範囲内で、である。

Date: 10月 27th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その7)

エレクトロボイスに、以前は30Wという、その名の通り30インチ(76cm)口径のウーファーがあった。
パトリシアン800にも搭載されているウーファーで、
1970年代には15インチを大きくこえる大口径のウーファーといえば、
この30Wかハートレーの224HS(24インチ・60cm口径)ぐらいだった。
フォステクスの80cm口径のウーファーFW800が登場するのは、もう少し後のこと。

これら3つの大口径ウーファーのなかで、やや異色なのは30Wである。
224HSもFW800も、ダイレクトラジェーター型としての使用が前提である。
30Wはパトリシアン800に採用されていることからもわかるようにホーンロードをかけることが、
ほぼ絶対条件ともいえる設計のウーファーである。

私自身は、これらの大口径ウーファーを使ったことはないけれど、
井上先生によると、30Wはかなりの空気負荷をかけないと、ボイスコイルを擦ってしまうことがあり、
さらにコーンの振動板は一般的な紙ではなく、発泡ポリスチレンを使っているためもあって、
カサカサという附帯音が出てくる、とのことだ。

30Wは大口径だから、大きな内容積をもつエンクロージュアにいれて、
たとえばリスニングルームの隣りの部屋をエンクロージュア代りに使い、
30Wは聴き手の方を直接向いている、というのは、決して正しい30Wの使い方とはいえない。

30Wを導入しようとする人は、
一般的な大口径、つまり15インチのウーファーでは無理な領域の低音を再生したいがためであって、
それだけ低い周波数までホーンロードをかけて、ということになると、
低音ホーンの長さ、開口部の大きさは相当なものになり、ごくごく一部の人しか使えないことになってしまう。

現実的な方法としては、適度な内容積の密閉型エンクロージュアにおさめ、
30Wを壁に向けて鳴らす、ということになる。
壁と30Wの距離を10cmから20cmくらいのあいだで調整していくわけだ。

こうすることでボイスコイルが擦ることもなく、カサカサという附帯音も気にならなくなる、ということだ。

これはあくまでも、ホーンロードがかけられないときの使い方であると思っていたのだけれど、
実はそうではなくて、低音再生において、つまり30Wの使い方ということだけではなくて、
この使い方には大きなヒントがあることに気がついた。

Date: 8月 10th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その6)

どうしても私の中には、
バッフル・イコール・スピーカーユニットを取り付ける面という意識が強くて、
だからバッフル・イコール・平面ということになってしまいがちである。

エンクロージュア型のスピーカーシステムにおいても、
バッフルということになるとスピーカーユニットが取り付けられるのがフロントバッフル、
その対向面がリアバッフルであり、
フロントバッフルで軽く曲面を描いているものがあって、それは平面の一種だとしてとらえてしまう。

そういう感覚のもとでは、ホーンバッフルという言葉は、
ずっと以前から使われているのは知っていたけれど、ずっと違和感を感じていたし、
ホーンバッフルという言葉自体、古い表現だとも思っていた。

けれど平面バッフルに放射状に4本の切れ込みをいれて、
スピーカーユニット前面に向けて傾けると、それはホーンになる。
そう考えると、ホーンバッフルという言葉に、一転納得してしまう。

そういえば古いスピーカーの教科書的な本には、
エンクロージュアについて書かれた頁に、まず平面バッフルがあり、
そのままでは大型のままなので、少しでも小型するためにバッフルを後方に折り曲げて後面開放型とする、
さらに後面開放型を完全に閉じてしまうことで密閉型となる……、
そういった解説がなされていたのが、いくつかあった。

ホーンバッフルとは後面開放型を反転させて、すこし形状を変えたもの、という見方ができるということに、
オーディオをやり始めたころは、どうしても気がつかなかった。

とはいってもホーンバッフルと後面開放型は同じではないし、
当然ホーンバッフルそのものを前方ではなく後方にもってくると、どうなるか。
それはバックロードホーンということになる。

ホーンバッフルがユニットの前方にあれば、ユニットは当然奥に位置し、
ホーンバッフルがユニット後方にあれば、ユニットは前面に突き出した格好になる。
どちらもこのままでは設置場所をとりすぎる。

平面バッフルよりも縦横は小さくなっても奥行きは長くなってしまう。
ならば後方ホーンバッフルを折り曲げてしまえば、
これはもう従来からあるCWバックロードホーンへとなっていくわけだ。

「バックロード・ホーンは優れたバッフルだ。」
──岩崎先生の、この言葉を思い出す。

Date: 8月 9th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その5)

平面バッフルから立体バッフルへ──、
そんなことをときおり考えていた。

平面バッフルの良さは、聴いた人でないとなかなかわかってくれないのかもしれない。
大きさの割に低音域はそれほど低いところまで出るわけではないし、
どうしてもある程度の面積のバッフルを必要とし、
このバッフルの大きさが、音場感情報の再現には不向きとされている。

平面バッフルはもっとも簡単な構造であるから、
板を買ってきてユニットの取りつけ穴を開け、脚をつければ、そこに難しい木工技術は要求されない。
その気になれば、誰でも実験・試聴することはできるものにもかかわらず、
意外にも平面バッフルの音は聴いたことがないという人が少なくない。

スピーカーの自作経験のある人でも平面バッフルは試していない、という人がいる。
これは、やはり低音を出すにはかなりの大きさが必要となることがいちばんのネックなのか。

いまの時代、10cm口径のウーファーでもかなりの大振幅に耐えることができ、
アンプの出力も家庭で使うことに関しては上限はない、といえるようになってくると、
いわゆる小型高密度型のスピーカーシステムのほうが、
平面バッフルはより低いところまで再生可能になっているだから、
好き好んでより大型の平面バッフルを選択する人が少ないのも理解できることではある。

ではあるものの、平面バッフルに良質のフルレンジユニットを取りつけた音は、
これから先、時代がどう変っていこうとも色褪せない魅力が、確実にある。

だから、平面バッフル、立体バッフルということを、いまも考え続けているわけだが、
そういえば、と思い出したことがある。
バッフルがつく言葉に、ホーンバッフルがある、ということに。

Date: 5月 13th, 2011
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その4)

「立体バッフル」という言葉が浮んできたとき、
われながら、うまい表現だな、と気持と、あぁ、いまのいままで、平面バッフルの「平面」という言葉に、
これまでの発想はどこかしらとらわれていた気持も味わっていた。

「立体バッフル」という言葉が出てくるまでは、言葉にとらわれていた、という意識はなかった。
けれど、実際には違っていたし、そのことを気づかせてくれたのも、またやはり「言葉」だった。

平面バッフルといっても、バッフル自体には厚みがある。
私が使っていたのは19mm厚の米松合板に80mmの補強棧がつくので、
トータルの厚みは99mm、約10cmあるから、この厚さの分だけ立体といなくもないわけだが、
ここでいう、「立体バッフル」とは、とうぜんそんなことからは離れているものだ。

結局、「平面」ということから解放されなければ、バッフルのサイズを縮小していくことはできない。
といって囲ってしまう方向にいけば、それはエンクロージュアにいく。

とにかく、いま私のなかには、「立体バッフル」という言葉がある。
けれど、まだ具体的にはどうするかまでには至っていない。
ただ「立体バッフル」という言葉があるだけだ。

ここから、「立体バッフル」という言葉にただとらわれてしまうだけなのか、
「立体バッフル」という言葉から、以前夢見ていたけれども、どうしても思いつかなかったことに、
今度はたどりつけるのか。

Date: 5月 12th, 2011
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その3)

その他にもいくつか案を考えていた。
でも、結局、どれも試すことなく、平面バッフルからはなれて、セレッションのSL600にした。

平面バッフルに関しては、だから不完全燃焼で、いまも、また挑戦してみたいという火がくすぶりつづけている。
それに手もとにアルテック604-8Gがある。
エンクロージュアにするのか、平面バッフルにするのか、そのどちらにも興味がある。
だから、平面バッフルについて、またあれこれ思いをめぐらしていた。

そんなところに、昨夏、偶然に見つけたのが、ギャラリー白線のano(アノ)だった。
正直、目からウロコが落ちたような印象を、その写真をみたときにおぼえた。

こういう手があるのか、と思った。
ちょうど試聴会も行われるということで、阿佐谷にあるギャラリー白線で聴いてきたのが、ほぼ1年前のことだった。

昨日、anoの各辺を60%に縮小したsono(ソノ)を、
イルンゴ・オーディオの楠本さんとの公開対談で聴くことができた。
スピーカーユニットも変更され、こまかい調整も行われていて、
anoの素朴な味わいとは、また異り、個人的にはサイズも含めて、sonoに魅力を感じる。

昨夜は、このスピーカーの製作者であり、ギャラリー白線の主宰者の歸山(かえりやま)さんも来てくださった。

歸山さんの話されるのをきいていて、ある言葉が浮んできた。

私は、anoを人に紹介するとき、折曲げバッフルだと、昨夜までは言っていた。
昨日浮んできた言葉は、「立体バッフル」だった。

Date: 5月 12th, 2011
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その2)

いくつか考えていた。
ちょうど、そのころアクースタットのコンデンサー型スピーカーのバリエーションのひとつとして、
Model 1というモデルが出た。

黒田先生が導入された最初のアクースタットは Model 3。
型番末尾の数字が、コンデンサーのパネルの数を表している。
Model 3は3枚の縦に長いパネルを配置してる。
Model 1は、Model 3の1/3の横幅の、細長い形状のコンデンサー型スピーカーだった。
アクースタットにはさらにModel 1+1というのがあり、
これはコンデンサー・パネル2枚を横に、ではなく、縦に積み重ねたもので、異様に細長い。

これらをみて、バッフルの横幅を、使用ユニット幅ぎりぎりまでつめて、細長くしたらどうか、と考えたり、
そのころちょうど高速道路の防音壁の上部に円筒状の物が取りつけられはじめたころでもあったことからヒントを得て、
バッフルの周囲に吸音材を配置することで、なんとかサイズを小さくできない、とも考えた。

この防音壁に取りつけられた吸音材による効果は、
防音壁をまわりこむ音を吸音することで、高速道路から周囲への騒音を減らすためのものである。
ただ高速道路の近くでは、その効果はあまりなく、距離が遠ざかるほどに騒音の減衰量は増えていくものだった。
だから同じように平面バッフルにとりつけても、比較的近距離で聴く場合には効果は望めないから、
なんらかの工夫が必要になる。

そのあとQRD(当時はRPG)の音響パネルが登場したときは、
これを裏表逆にして平面バッフルに使えないだろうか、とも考えた。

Date: 5月 12th, 2011
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その1)

シーメンスのコアキシャルは平面バッフルにとりつけていたことは、すでに書いた。
このときの平面バッフルは、ウェスターン・エレクトリックのTA7396という、
18インチ・ウーファーTA4181Aを4年とりつけた大型のシステムの両側につけられていたバッフルを、
ほぼデッドコピーしたもので、サイズはW100×H190cmの、米松合板によるもので、
補強棧のいれかたもTA7396そのままである。

これを6畳もない、そんなスペースに、文字通り押し込んで鳴らしていた時期が、私にはあった。

音場感再現を重視する人の中には平面バッフルに否定的な意見をもつ方がいる。
バッフル面積が広いだけで、音場感が阻害される、ということだ。

そういうひとにとっては無限大バッフルなんて、悪夢でしかない存在になるだろうが、
平面バッブルの行きつくところは、無限大バッフルであり、
疑似的にでも無限大バッフルを実現するため、スピーカーを広い砂浜に埋め込み、
そのスピーカーの特性を測定するということが、昔は行われていた。

実際のリスニング環境では無限大バッフルは、どうやっても実現はできない。
だからか、2.1m×2.1mのバッフル・サイズがひとつの実現できる理想値のひとつのようになっている。

このサイズの平面バッフルを置いて、さらに左右のバッフルの間を開けることができる部屋となると、
そんな贅沢を空間を用意できる人はごく限られる。

だからもしすこし現実的なサイズと横幅がまず縮められる。
それでも私が使っていた平面バッフルのように高さが1.9mもあると、
それが2本、比較的近い距離にあると、そびえ立っている感が強い。
となると、高さも縮めることになり、最低限のサイズと1m×1mがある。

あらためていうまでもなく、サイズ(面積)が小さくなれば、低域のそんなに低いところまで出てこなくなる。
もうすこし低いところまで、ということになると、サイズは増していくしかない。

平面バッフルを使っていたとき、この音のまま、
それは無理なことはわかっているから、できるだけこのままで、もうすこしサイズを縮小できないものか、
いいかえれば見た目の圧迫感を減らせないものか、とあれこれ考えた。