Archive for category JBL

Date: 6月 5th, 2014
Cate: 4345, JBL

JBL 4345(その5)

4345は1981年に登場している。
だからというわけではないが、瀬川先生のステレオサウンド 58号の文章を読んで強く感じたのは、
4345はJBLの1980年代のスタジオモニターである、ということ、
そして4343は1970年代のスタジオモニターなのだ、ということだった。

4343だけではなく、4350もやはり1970年代のスピーカーシステムなんだな、ということを思っていた。

瀬川先生が書かれている4345の音の表現は、それまでの4343、4350の音の表現とは違うように感じたからである。
そのことは4345について書かれた文章だけでなく、
SMEの新型トーンアーム3012-R Specialについて書かれた文章と併せて読むことで、いっそう強く感じる。

JBLのコンシューマー用スピーカーシステムにあらわれはじめてきた音が、
プロフェッショナル用スピーカーにもあらわれてきたんだ、と思い、
4345の記事、3012-R Specialの記事を何度も読み返した。

JBLのコンシューマー用スピーカーとして、4345の少し前に登場したモデルにL150がある。
ステレオサウンド 54号のスピーカーシステムの特集記事に出ている。
瀬川先生の試聴記を引用しよう。
     *
 少し前までのJBLは、かなり高額にならないと、音の質やバランスに納得のゆかない製品が多かったが、最近はローコストのほうも作り方が巧みで、一本筋が通ってきた。L150も近ごろちょっと感心した。たとえばブルックナー。コンセルトヘボウにしてはちょっと明るいきらいはあるにしても、相当に上質で滑らかで、本もののオーケストラの味わいが確かに鳴る。音量を絞っても音像がくっきりしていて、音の細やかさが損なわれない。ピアニシモでひっそりした印象を与えるのは、相当に優秀なスピーカーである証拠といえる。フォーレのヴァイオリン・ソナタでも、JBLでこんなにしっとりした雰囲気が? と驚きながら、つい聴き惚れてしまう。ここまできてようやく、テスト用以外のレコードを次々と聴きたい気持にさせ、しかもどのレコードを聴いても裏切られないスピーカーが出てきた。一枚一枚について細かく書くスペースのないのがとても残念だ。アンプ、カートリッジも選り好みせずそれぞれの魅力をよく生かす。
     *
「JBLでこんなにしっとりした雰囲気が?」と書かれている。
58号にも、同じ表現が出てくる。

Date: 6月 3rd, 2014
Cate: 4350, JBL

JBLのユニットのこと(2440と2441のこと、4350のこと)

いまでは話題にする人はいなくなってしまったようだが、
JBLから2441(376)が登場してからしばらくは、
4350のドライバーを2440から2441にしたら良くなるのか、という話題がときどき出ていた。

2440(375)と2441(376)の違いはダイアフラムのエッジだけである。
2440(375)はロールエッジ、2441(376)は、日本の折り紙からヒントを得たダイアモンドエッジ。
違いはこれだけである。

だが実測データを比較してみると、高域の延びに関してはけっこうな違いがある。
2440はエッジの共振点を9.6kHzに設定してあるため、
10kHz以上はネットワーク(ハイカットフィルター)なしでも急峻にレスポンスが低下している。
その反面、10kHz以下の帯域に関してはレスポンスをできるだけ得られるようになっている。

2441はダイアモンドエッジとすることでエッジのスティフネスを高め、共振点を2440よりも高く設定。
そのため4kHzあたりからなめらかにロールオフする周波数特性となっている。
2440にみられる10kHz付近の肩の張った特性ではなく、素直な特性ともいえる。

つまりトゥイーターなしで2ウェイで使用した場合、
2440ではイコライザーで10kHz以上を補整しても効果的ではない。もともと出ていないのだから。
2441では高域のイコライジングが容易になる、という違いがある。

その一方で5kHzから10kHzにかけてのレスポンスは2440の方が高い。

どちらが優れているのかは、それぞれを単体で鳴らすわけではなく、
ウーファー、さらにはトゥイーターと組み合わせてシステムを構成しての評価となるため一概にはいえない。

4350の2440を2441に交換したとする。
やったことはないが、あまりうまくいかないように思える。

4350の2440はローカットに12dB/oct.のネットワークがはいっているが、
高域(ハイカット)に関しては10kHz以上はフィルター無しでもレスポンスが急峻に低下するため、
フィルターが入っていない。

そういうネットワークの4350に10kHz以上もロールオフしながらもレスポンスがのびている2441に交換しても、
おそらく2405とのつながりがうまくいかないと思えるからだ。

4350のネットワークまで変更するのであればうまくいく可能性は高くなるが、
そのままでは2441への交換を考えない方が無難である。

Date: 6月 2nd, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(2397の匂い)

昨年12月、JBLの2441と2397が我家に来た。
未使用のまま、しかも梱包されたままずっと保管されていた2441と2397。

開梱してすぐに気づくのは、JBLのスピーカーシステム(というよりエンクロージュア)に共通する匂いである。
一度でもJBLのスピーカーシステムか木製のホーンを使ったことのある人なら、
ほら、あの匂い、でわかる、独特の匂いがある。

この匂いも、JBLの製品の魅力のひとつ、と私は思っている。

この匂いは、なぜ漂ってくるのか。
何の匂いなのか、ということは、JBLの関心のある人たちのあいだでときどき話題になっていた。
話題になっても、誰もほんとうのところは知らないから、あまり話は発展していかないのだが、
JBLのスピーカーが好きな人で、少なくとも私が出会った人の中に、この匂いが嫌い、という人はいなかった。

この匂いは、防虫剤の匂いだ、ということが10年くらい前にわかった。
木に虫がつかないように、だからエンクロージュアと木製のホーンから同じ匂いがするわけである。

アメリカでは割と一般的な匂いでもあるらしい。
残念なことに、最近のJBLの製品には、この匂いがないモノも増えてきている。

2397がやって来たとき、この匂いが部屋に満ちていた。
あれから半年、鼻が慣れてしまったのか、それとも匂いが薄れてしまったのか、
あまり匂いを意識しなくなっていた。

ここ数日、東京はかなり暑い日が続いている。
気温が高くなってきたせいなのだろう、また2397から、あのJBLの匂いがしてくるようになってきた。

Date: 5月 26th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・4435のウーファー)

4430のウーファーは2235H、4435のウーファーは2234H(二発)と書いた。
けれどステレオサウンドを注意深く読んできた人の中には、あれっ? と思われる方もいると思う。

ステレオサウンド 61号での紹介記事のページに掲載されている4435のスペックには、
ウーファー:38cm×2(2234H、2235H)、とあるからだ。

マスコントロールリングをもつ2235Hを200Hz以下を再生するサブウーファーとして使っている。
ちなみに235Hのマスコントロールリングの重量は100g。

この仕様の4435は61号で紹介された、いわばサンプルだけのようで、
ステレオサウンド 62号掲載の井上先生による「JBLスタジオモニター研究」には、こう書いてある。
     *
4435には、振動系は2235Hと同じだが、マスコントロールリングのない2234Hが2本使用されている。なお、4435の最初に輸入されたサンプル(編注=本誌No.61の新製品欄で紹介したもの)では、低域は2234Hと2235Hの異種ウーファーユニットの組合せであったが、正規のモデルは2234Hが2本に変更されている。
     *
なぜJBLが4435の仕様をこれだけ早く変更したのか、その理由ははっきりとしない。
ステレオサウンド別冊「JBL 60th Anniversary」にも、4435のウーファーは2234Hとあるだけで、
サンプルでの2235Hとのスタガー接続についての記述はどこにも書いてない。

菅野先生が61号に書かれた4435の音──、
《一言にしていえば、その音は私がJBLのよさとして感じていた質はそのままに、そして悪さと感じていた要素はきれいに払拭されたといってよいものだった。私自身、JBLのユニットを使った3ウェイ・マルチアンプシステムを、もう10数年使っているが、長年目指していた音の方向と、このJBLの新製品とでは明らかに一致していたのである》
これはあくまでも2234Hと2235Hのスタガー使用の4435の音である。

では市販された4435の片側のウーファーを2235Hに交換すればサンプルと同じになるかといえば、
正規モデルの4435では100Hz以下で2234Hをもう一本加えている形なのに、
サンプルの4435では200Hz以下という違いがあるから、うまくいくかもしれないし、そうではないかもしれない。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その3)

この新しいバイラジアルホーンを搭載した、ふたつの4400シリーズ。
4430は15インチ口径のウーファー2235Hを一発、4435は15インチ口径の2234Hを二発搭載している。

2235Hは4300シリーズに採用されてきた2231の改良型である。
そのためコーン紙の根元にマスコントロールリングが使われている。
2234Hは、このマスコントロールリングを取り外したものである。

となると当然振動系の実効質量は軽くなり、その分F0は高くなる。
低域の再生能力は多少狭まることになるけれど、4435では100Hz以下ではダブルウーファーとして動作させ、
100Hzより上の帯域ではホーンの真下に取り付けられているウーファーのみが鳴る。
こうすることでマスコントロールリングがないことによる低域のレスポンスの低下をカバーしている。

ここところが同じ15インチ口径のダブルウーファーでも、4350、4355とは違う点であり、
この4435のウーファーの使い方は、4435の25年後に60周年モデルと登場したDD66000に生きている。

この点に注目して、4435とDD66000を見ていくと、
DD66000の原型は4435ではないか、と思えてくる。

それはウーファーの使い方だけではない。
ホーンに関しても共通するものがある。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その2)

アルテックとJBLの新しいホーン。
共通するところがあると同時に、そうでないところもある。

まずアルテックのマンタレーホーンMR94は奥行き71.1cm、開口部は86.4×161.0cmという、かなり大型である。
JBLの4430、4435に搭載されたバイラジアルホーンは、かなり短い。正確な寸法はわからないが、
写真を見ても、その短さはかなり特徴的ですらある。

バイラジアルホーン(マンタレーホーン)以前のホーンでも、
アルテックとJBLのホーンを比較すると、JBLはショートホーンであることが多い。
4350に搭載されているホーン2311-2308は短い。
2308がスラントプレートの音響レンズの型番で、2311がホーンの型番で、2311の奥行きは11.7cmしかない。
これでカタログに掲載されているクロスオーバー周波数は800Hzとなっている。

同じ時期のアルテックのホーンでクロスオーバー周波数が800Hzになっている811Bの奥行きは34.0cmある。

JBLのホーンが短い(短くできる)のにはわけがある。
そして短くしたことによるメリットとして、ホーンにつきまとうホーン臭さの要因でもあるホーン鳴きは、
当然、長いホーンよりも抑えられるわけだ。

JBLはバイラジアルホーンでも、このメリットを活かしている。
もっともその後JBLから単体ホーンとして登場したバイラジアルホーン2360、2366の奥行きは、
それぞれ81.5cm、139.0cmとかなり長い。

同時期のバイラジアルホーン2380、2385の奥行きは、どちらも23.6cm。
このホーンのカットオフ周波数は400Hzで、推奨クロスオーバー周波数は500Hzとなっている。

Date: 5月 25th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(4400series・その1)

ステレオサウンド 61号の新製品紹介のページに、JBLの4430と4435が取り上げられている。
菅野先生が書かれている。

4345に関しては半年ほど前に、4345という4343の上級機が登場するというアナウンスがあったのに対して、
4430、4435は型番からもわかるように、まったく新しいスタジオモニター・シリーズあるにも関わらず、
そういった事前のインフォメーションはまったくなく、いきなり登場した。

しかもその姿、システム構成のどちらも、それまで4300シリーズを見てきた者には驚く内容だった。
まず2ウェイであること。中高域はホーン型が受け持つが、そのホーンの形状がいままでみたことのないものだった。

バイラジアルホーンと呼ばれる、そのホーンは、注意深くみていくと、
前号(60号)の特集に登場したアルテックの、
これもまた従来のホーンとは大きく異る形状のマンタレーホーンと共通するところが見いだせる。

ホーン奥のスリットがどちらも縦に細長い。
音響レンズつきJBLのホーンの場合、ドライバーの取り付け部の形状は丸。
ドライバーの開口部も丸だから、そのまま取り付けられる。
JBLのホーンでもディフラクションホーン、ラジアルホーンはドライバー取り付け部は四角なため、
ドライバーとホーンとの間に丸から四角へと形状を変化させるスロートアダプターが必要となる。

つまりバイラジアルホーン以前のホーンでもホーン奥のスリットは長方形だった。
だが同じ長方形でもバイラジアルホーン以前は約1:3ほどの縦横比だったのに対し、
バイラジアルホーンではそうとうに細長くなっている。

ステレオサウンド 60号に載っているアルテックのマンタレーホーンをみると、
その細長いスリットがかなり奥に長い。開口部の広がり方もいままでのホーンを見慣れた目には特異にうつる。

くわしいことはわからなくとも、60号のアルテックのマンタレーホーン、61号のJBLのバイラジアルホーン、
新しいホーンが登場したことははっきりとわかった。

Date: 5月 24th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その14)

「サンチェスの子供たち」と同時期のレコードで、すぐに浮んでくるのは、
フィリップスから出ていたコリン・デイヴィスによるストラヴィンスキーの「春の祭典」と「火の鳥」がある。
これらも試聴レコードとして登場していた。

ステレオサウンド 53号の瀬川先生の4343の記事にも「春の祭典」は出てくる。
〈「春の祭典」のグラン・カッサの音、いや、そればかりでなくあの終章のおそるべき迫力に、冷や汗のにじむような体験をした記憶は、生々しく残っている。〉
何度も読み返しては、その音を想像していた。

国産ブックシェルフの、25cmウーファーでも、
「サンチェスの子供たち」、「春の祭典」、「火の鳥」の録音がいいことははっきりとわかったし、
低音の凄さは伝わってくる。
とはいってもプリメインアンプで鳴らし、音量もけっこう出せた環境とはいえ、
4343、4350Aでこれらのディスクを鳴らしたのと比較すれば、違いは大きいのはわかっていても、
どのくらいの違いなのかは、はっきりとわからなかったころでもあり、
よけいに想像を逞しくしていた。

これらのディスクを4343で聴く機会はわりとすぐにあった。
瀬川先生が熊本のオーディオ店に定期的に来られていた時期があったからだ。
4343を内蔵ネットワークで鳴らして、これだけの音が鳴るのだから、
4343をマークレビンソンのML2のブリッジで低域を鳴らしたときの音はいったいどういうレベルなのか、
さらに4350Aを、やはりML2のブリッジで低域を受け持たせたときの凄さとは、いったいどういう音なのか。

本を読み、その音を想像し、
そのディスクを買ってきて自分のシステムで鳴らし、4343、4350Aでの音を想像する。
4343で同じディスクを聴けば、ML2のブリッジで鳴らした音を想像する──。

Date: 5月 24th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その13)

瀬川先生のスイングジャーナルでの4350Aの組合せ記事、
ステレオサウンド 53号での4343のバイアンプの記事、
どちらにもチャック・マンジョーネの「サンチェスの子供たち」が出てくる。

「サンチェスの子供たち」は黒田先生も、ステレオサウンド 49号で、
「さらに聴きとるものとの対話を」で取り上げられている。

このころからステレオサウンドの試聴用レコードとしてもでてくようになってきた。

チャック・マンジョーネのレコードは一枚も持っていなかった私も、
ステレオサウンドをみて「サンチェスの子供たち」を買った。
輸入盤を買った(たぶん輸入盤しかなかったようにも記憶している)。

「サンチェスの子供たち」は二枚組だった。
いわゆるサントラ盤である。

一枚目の一曲目から聴いていく。
ギターを伴奏にドン・ポッターが、チャック・マンジョーネの詩による「サンチェスの子供たち序曲」を歌う。
歌が終ると、曲調は一変する。
ここが、実にスリリングである。

この序曲を4350Aで聴いたら、さぞかしスリリングだと思う。

当時はLPで聴いていた。
いまはCDで聴けるようになっている。

30年以上前のレコード。
当時はブックシェルフ型スピーカーだった。ウーファーの口径は25cmだった。
それからいろんなシステム(スピーカー)で、このディスクを聴いてきた。
その度に音は変る。

その意味で、レコードにおさめられている音楽は、決して不動でも不変でもない、といえる。
けれど、LPにしろCDにしろ、レコードそのものは変っていない。

30数年前、まだ高校生のころ買った「サンチェスの子供たち」のLP(いまも実家にある)は、
ジャケットに多少傷みはあるけれど、何かが変ったわけではない。

レコード(LP、CD)とはそういうものであり、
そういうものだからこそ、思い出させてくれる存在でもある。

Date: 5月 24th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その12)

スイングジャーナルの4350Aの組合せの記事、
ステレオサウンド 53号での4343のバイアンプの記事、
これらと前後して当時西新宿にあったサンスイのショールームでも、
4350AをML2を六台使って鳴らされているから、
ステレオサウンド、スイングジャーナルの編集者以外でも、
その音の凄さを耳にされた方はいる。

記事だけで想像をふくらませた人、
実際の音を聴いた人、
その中には、その凄さを自分のものとしたくて、4350Aを手に入れた人もいよう。

「ピアニシモでまさに消え入るほどの小さな音量に絞ったときでさえ、音のあくまでくっきりと、
ディテールでも輪郭を失わずにしかも空間の隅々までひろがって溶け合う響きの見事なこと」とも書かれている。

4350Aを大きな音量で鳴らさなくとも、こういう音が聴ける──、
それだけでも、これだけの大がかりなシステムに挑戦してみよう、とも思う。

そういう熱にいわば感化されて4350Aを買う。
それが1980年ごろとして、いまは2014年。もう34年経っている。

当時30歳だった人は64歳になっている。
25くらいで買った人でも59歳、還暦目前。

それだけ歳をとり、まわりも変化してきている。
そうなると若いころには、4350Aの「狂気をはらんだ物凄さ」を抽き出そうとしていた人も、
いまでは違う鳴らし方をしているのが当然といえる。

けれど、そうやってたどりつき、いま鳴らしている音が「角を矯めて牛を殺す」的な音になってしまうのは、
それは違うのではないか、とどうしてもいいたくなる。

Date: 5月 24th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その11)

瀬川先生の、このときのスイングジャーナルに書かれたものは、ここで公開している。

このとき4350Aをドライヴしたアンプはすべてマークレビンソン。
パワーアンプはML2を六台。
4350Aはバイアンプ仕様なので、低域にはML2をブリッジ接続で使用している。
ここまで書けば、この記事を読んでいない人でも、
ステレオサウンド 53号での、瀬川先生による4343のバイアンプで鳴らした記事を思い出されることだろう。

53号でもMl2を六台使われている。
低域にブリッジで使うためである。

4343のウーファーは2231Aが一発だからインピーダンスは8Ω。
ML2をブリッジ接続したときの出力は100Wになる。
4350のウーファーは2231Aが二発だからインピーダンスはは4Ω。
このときのML2ブリッジ接続の出力は200Wになる。

ML2はシングル(通常使用)での出力は8Ωで25W、4Ωで50W、2Ωで100Wと、
2Ω負荷までリニアに出力は増していくことから、ブリッジ接続で4Ω負荷ならば200Wの出力を保証できる。

ML2一台の消費電力は400W。
六台あれば2400Wの電力を常時消費する。
発熱量もかなりのものになる。

そうやって得られる音はどういう音なのか。
瀬川先生はスイングジャーナルに、次のように書かれている。
     *
250Hz以下で鳴らす場合の、低域の締りの良いことはちょっと例えようのない素晴らしさだ。ブリッジ接続による十分に余裕ある大出力と、4350をふつうに鳴らした低音を聴き馴れた人にはウソのように思えるおそろしく引き締った、しかし実体感の豊かなというより、もはやナマの楽器の実体感を越えさえする、緻密で質の高い低音は、これ以外のアンプではちょっと考えられない。
     *
これとほぼ同じことは、ステレオサウンド 53号でも書かれている。

Date: 5月 23rd, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その10)

JBLの4350Aで、1981年に出たふたつのマーラー、
ショルティ/シカゴ交響楽団による第二交響曲とカラヤン/ベルリンフィルハーモニーによる第九交響曲を聴きたい。
けれど、角を矯めて牛を殺す、というたとえのような音で聴きたいわけではない。

4350Aをそんな音で鳴らしところで、私がここであげたふたつのマーラーから聴き取りたいものはきこえてこない。
どんな音で聴きたいのか。

瀬川先生がスイングジャーナルで4350Aの組合せをやられたときの文章がいまも記憶に残っている。
     *
 本誌試聴室で鳴ったこの夜の音を、いったいなんと形容したら良いのだろうか。それは、もはや、生々しい、とか、凄味のある、などという範疇を越えた、そう……劇的なひとつの体験とでもしか、いいようのない、怖ろしいような音、だった。
 急いでお断りしておくが、怖ろしい、といっても決して、耳をふさぎたくなるような大きな音がしたわけではない。もちろん、あとでくわしく書くように、マークレビンソンのAクラス・アンプの25Wという出力にしては、信じられないような大きな音量を出すこともできた。しかしその反面、ピアニシモでまさに消え入るほどの小さな音量に絞ったときでさえ、音のあくまでくっきりと、ディテールでも輪郭を失わずにしかも空間の隅々までひろがって溶け合う響きの見事なこと。やはりそれは、繰り返すが劇的な体験、にほかならなかった。
     *
私にとってJBL・4350Aの音、それも最良の音とはこういう音のことである。
こういう音で鳴った時、4350Aは角を矯めることなく鳴ってくれる(はずだ)。

カラヤンのマーラーの第九は、一言で表せば精緻ということになる。
ショルティのマーラーの第二は、精確とでもいおうか。

マーラーの交響曲といっても、第二番と第九番とでは、曲そのものがずいぶん違う。
そんなふたつのマーラーの、ふたりの演奏を比較することに無理があるのはわかっているが、
カラヤンのマーラーにはショルティのマーラーにはない要素があるし、
ショルティのマーラーにはカラヤンのマーラーにはない予想がある。

にも関わらず、このふたつのマーラーを4350Aで聴きたい。
4350Aならば、劇的なひとつの体験としてショルティの第二交響曲もカラヤンの第九交響曲も聴ける、
という確信が私にはあるからだ。

Date: 5月 21st, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor, 型番

JBL Studio Monitor(型番について・余談)

D/Aコンバーターを自作しようと考えたことのある人、
そこまでいかなくとも市販のD/Aコンバーターの内部に興味のある人にとって、
シーラス・ロジック(CIRRUS LOGIC)の名前は聞いたことがあることだろう。

仮になかったとしても、CS8412といった型番は記憶のどこかにあるとおもう。

シーラス・ロジックはD/Aコンバーターのチップもつくっている。
このシリーズの型番は43ではじまる。
CS4341、CS4344、CS4345、CS4348、CS4350、CS4365と、
JBLのスタジオモニター4300シリーズの型番と重なるものがある。

こういう型番を見ると、単純に嬉しい。

シーラス・ロジックの場合、電子部品だからあまり馴染みはないだろうが、
ソニーの1970年代半ばの製品には、PS4350(アナログプレーヤー)、
TC4350SD(オープンリールデッキ)があった。

オーディオとはまったく関係ないけれど、4300シリーズの数字をよく見かけるものとして、
アメリカのドラマ「デスパレートな妻たち」がある。
登場人物が住む家には、それぞれ番地が大きく表示されていて、ほとんどが4300番台なのだ。
4355という家も登場する。

単なる数字でしかない。
シーラス・ロジックの製品が43から始まるのは単なる偶然だろうし、
デスパレートな妻たちの番地もたまたまなのだろう。
それでも、もしかすると……、と考えるのが馬鹿馬鹿しいのはわかっていても楽しかったりする。

Date: 5月 21st, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その9)

ショルティとカラヤンのマーラーが出た1981年ごろは、
このふたりの指揮者の録音にはあまり関心をもっていなかった時期でもある。

カラヤンに関しては、五味先生の書かれたものを読んできた影響がどうしてもあった。
ショルティは、特にこれといった理由はなかった。
ただなんとなく敬遠していた。

4350に関しても同じだった。
このころの私は4350ではなく、4343に夢中だった。
そして4343の後継機である4345に対しても高い関心をもっていたけれど、
4350は(4343、4345でさえ遠いのに)、もっとずっと遠い存在であったため、
それまでにも何度かオーディオ店で聴く機会はあり、
満足のゆく鳴り方ではなくとも、4350ならではの凄さの片鱗は感じとっていた。

まずは(とにかく)4343だ、という気持が圧倒的に強かったからだ。

4350をステレオサウンドの試聴室で聴く機会はなかった。
4355は聴いている。
このふたつのJBLの旗艦モデルは、1980年代後半から1990年代前半にかけて、
個人のリスニングルームで聴く機会は意外にあった。
でも、カラヤンの第九交響曲もショルティの第二交響曲のどちらも聴いていない。

それをいまになって聴きたい、と思っている。

Date: 5月 21st, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その8)

1981年には、カラヤンのマーラーの第九交響曲も出ている。
1979年、80年にかけての録音で、ベルリンフィルハーモニーとである。

カラヤンのマーラーの九番といえば、
1982年のベルリンフィルハーモニーとによるライヴ録音を誰もがあげるだろう。
真摯にマーラーの、この交響曲を聴いてきた人ならば、カラヤンの、この演奏を聴いて、黙ってしまった、と思う。
カラヤンに否定的な態度をとる人でも、沈黙してしまうのではないだろうか。

このディスク(CDのみの発売)で聴けるカラヤンのマーラーは、そういう演奏である。

再録音に積極的だったカラヤンにしても、こんな短期間での再録音は他にない。
なぜ、カラヤンは再録音を行ったのか。
しかもオーケストラはどちらもベルリンフィルハーモニーである。
1982年のライヴ録音では、ウィーンフィルハーモニーであれば、なんとなく理由もわかるような気もするが、
そうではない。

演奏時間を比較してみても、旧盤と新盤とでは大きな違いはない。
ほとんど同じといっていいくらいである。

ただ旧盤はスタジオでのアナログ録音で、新盤はデジタルによるライヴ録音。
この間における録音の進歩。
結局、それが僅かな期間で再録音をした理由であり、だからこそLPを出さずにCDのみの発売だった理由でもあろう。

1982年のライヴ録音の陰にかくれてしまった感のあるスタジオ録音による旧盤の九番。
このディスクも、4350で聴きたいマーラーである。