冗長と情調(その6)
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」タンノイ号で、
オートグラフについて井上先生が語られていることが、ここに関係してくる。
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(オートグラフは)安直に使ってすぐに鳴るようなものではない。現実に今日鳴らす場合でも、JBLとかアルテックなどとは全然逆のアプローチをしています。つまりJBLとかアルテックの場合、いかに増幅段数を減らしてクリアーにひずみのないものを出していくかという方向で、不要なものはできるだけカットしてゆく方向です。ところが、今日の試聴ではLNP2のトーンコントロールを付け加えましたからね。いろいろなものをどんどん付けて、それである音に近づけていく。結局、鳴らすためにこちらが莫大な努力をしないと、このスピーカーに拒否される。これはタンノイの昔からの伝統です。これが使いづらいといわれる点ですが、しかし一つ決まったときには、ほかのものでは絶対に得られない音がする。
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ここで井上先生がいわれている「今日の試聴」とは、
「タンノイを生かす組合せは何か」というタイトルの記事で、
オートグラフの組合せをつくられた試聴のことを指す。
最初井上先生はオートグラフを鳴らすアンプとして、マークレビンソンのML2を選ばれている。
コントロールアンプは、管球式のプレシジョンフィデリティのC4。
ML2の出力は25W。
このため、《これはこれで普通の音量で聴く場合には一つのまとまった組合せ》と評価しながらも、
大音量再生時のアンプのクリップ感から、マッキントッシュのMC2300に替えられている。
MC2300は出力にオートフォーマーをもつ300Wの出力のパワーアンプ。
ここで音像に《グッと引締まったリアリティのある立体感》が加わり、
音場感も左右だけでなく奥行き方向へのパースペクティヴの再現がかなり見事になり、
一応の満足の得られる音となる。
そこでさらに緻密な音、格調の高さを求めてコントロールアンプを、
C4と同じ管球式の、コンラッド・ジョンソンのアンプ、
それから、これもパワーアンプ同様、方向転換ともいえるマークレビンソンのLNP2を試され、
LNP2とMC2300の組合せに決る。
これが井上先生の《LNP2のトーンコントロールを付け加えましたからね》につながっている。