冗長と情調(その4)
SMEの最初の製品は、よく知られているように3012であり、
このロングアームは、これまたよく知られているようにオルトフォンのSPU-Gのためのトーンアームである。
ここで考えたいのは、なぜSMEのアイクマンはロングアームとしたのかである。
私にはアイクマンが16インチ盤を再生するために、12インチのサイズを採用したとは思えない。
一般的なLPである12インチ盤を再生するためのトーンアームとして、
そして当時アイクマンが愛用していたSPU-Gを、
オルトフォンのトーンアームよりもよりよい存在として追い求めた結果が、
あのサイズ(ロングアーム)だと思えてならない。
もちろんオルトフォンのトーンアームを意識していたのであろうから、
オルトフォンのトーンアームがロングアームだったから、
ということも考慮しなければならない要素ではある。
事実イギリスのグラモフォン誌の1959年9月号に載ったSMEの最初の広告、
ここには3012のプロトタイプの写真が、なぜだか掲載されている。
この広告は1983年のステレオサウンド別冊「THE BRITISH SOUND」に載っている。
この広告の写真からわかることは、
3012は軸受けがナイフエッジだがプロトタイプはピボット方式で、
バランスウェイトの上部に針圧印加用のスプリングがある。
つまりオルトフォンのRMG309を意識したものであることがわかる。
3012は1959年に登場している。
標準型である3009も続いて登場した。
ちなみに3012のイギリスでの当時の価格は27ポンド10ペンス、
3009は25ポンドとなっている。
うがった見方をすれば、SPU-G愛用者、それもオルトフォンのトーンアームを使っている人たちに対して、
買い替えをうながすためのロングアームした、ともいえなくもない。
けれどアイクマンは、あくまでも自分のためのトーンアームとして製作している。
そのプロトタイプが、彼のまわりにいるオーディオ業界の友人たちのあいだで好評になり、
商業生産にふみきった、といわれているのだから、
やはり3012のサイズは、アイクマンにとってSPU-Gを十全に鳴らすために必要なものであった、といえよう。