Author Archive

Date: 7月 6th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(続×二十・原音→げんおん→減音)

傅さんから聞いた話だと記憶しているが、
ネルソン・パスは1970年代の終りごろに、スピーカーの開発を行っていた。
コーン型ユニットを使ったモノでもなく、コンデンサー型やリボン型でもなく、
金属線を張り、そのまま振動させて音を出す、というものだったらしい。

つまりリボン型スピーカーのリボンを金属線にしたようなものだろう。
信号は、この金属線を流れる。

いわゆる振動板のない構造の、このスピーカーはどう考えても能率の低いものだろう。
かなりのパワーを必要とすることは容易に想像できる。
そしてパワーを入れれば入れるほど金属線の温度は増していく。

温度が増していけば、金属は膨張し弛んでいくことになる。
弛めば音は変化していく。
だからパスは金属線の温度が上昇しないようにヘリウムガスで冷却するという手段をとったらしい。
大掛かりなスピーカーだ、と思う。

かなり以前に聞いた話だから記憶違いもあると思うが、
パスはこのスピーカーの実験のために1kWの出力のパワーアンプまでつくったそうだ。
それでも、満足すべき音量は得られなかった、らしい。
私の勝手な想像だけれども、おそらく能率は80dBよりもっと低かったのだろう。
70dB/W/mにも達していなかったのかもしれない。蚊の鳴くような音量しか得られなかったのか……。

パスは、この金属線スピーカーの開発にどのくらいの期間、とりくんでいたのだろうか。
ヘリウムガスまでもちこんで、
アンプも当時としては、どのメーカーも実現していなかった1kWの出力のモノまでつくっているのだから、
なんらかの可能性を感じていたはず、パスが求める音の片鱗を聴かせていたはず……、と思う。

結局、この金属線スピーカーは実用まで到らなかったのか。
パスがマーチンローガンのコンデンサー型スピーカーを使っていたのは、
この流れからすると自然なことであり、だからこそアルテックのA5へと切り替えたパスをみていると、
日本のベテランのオーディオマニアが遍歴のすえに、
高能率のスピーカー(ラッパ)を直熱三極管のシングルアンプで鳴らす境地に辿り着くのと、
共通するなにかを感じてしまう。

ALEPHのアンプ、それに現在のファーストワットのSIT1は、
どこか直熱三極管のシングルアンプ的でもあるからだ。
SIT1は、どこか、どころか、はっきりと直熱三極管のシングルアンプ的である。

Date: 7月 5th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(続×十九・原音→げんおん→減音)

ネルソン・パスによる、ふたつのアンプの動作。
ステイシス回路とALEPHの非対称回路。
どちらが、より理想的なのか、どちらが優れているのか、どちらが音が良いのかは、
決められるような性質のものではない。

ネルソン・パスはパス・ラボラトリーズではいまXシリーズ、XAシリーズを出している。
Xシリーズは、Super Symmetric回路を採用している。
この方式がどういう構成なのかははっきりしないが、
Symmetricとついているわけだから対称動作であることは間違いないはず。

いまパス・ラボラトリーズのラインナップにはALEPHはなくなってしまったが、
ネルソン・パスのもうひとつのブランド、ファーストワットのパワーアンプが、
そのかわり的な存在として、ある。

現在のパス・ラボラトリーズのラインナップは、いわばスレッショルド時代のラインナップ的ともいえよう。
ALEPHやファーストワットのアンプと比較の上でいえば、
アンプ単体での理想動作を追求している設計方針といっていいだろう。
アンプの規模も、以前のSTASIS1を超えるモノもラインナップされている。

パス自身、どちらかひとつに絞っているわけではない。
大きくみて、ふたつの方向から、アンプの理想を追求している、と私は感じている。

パワーアンプが鳴らすスピーカーシステムには、
アルテックのA5のような古典的な高能率のアンプもあれば、正反対の性格のスピーカーシステムもある。

スピーカーはからくりだ、と、よく井上先生はいわれていた。
その通りだ、と思う。
これまでにいくつものからくりのスピーカーが存在してきたし、存在している。
そのからくりが、一番なのかは、誰が決められようか。

結局、いまの自分にとって最適のからくりを選ぶしかない。
そして、そのからくりをうまく動かしてくれるパワーアンプを選ぶしかない、ともいえる。

Date: 7月 4th, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(余談・300Bのアンプのこと)

300Bのシングルアンプの出力は、300Bをどう使うかにもよるけれど、
私の場合は、300Bシングルとは伊藤先生の300Bシングルであり、
それはウェスターン・エレクトリックの91型アンプということになるわけで、
そうなると出力は8Wということになる。

伊藤先生の300Bシングルアンプ3130Aはセルフバイアスでカソード抵抗は880Ω、負荷抵抗は2kΩだから、
おそらく出力は10W近く出ているはず。

300Bの定格表をみれば、シングルでももう少し出力を取り出せる。
300Bシングルをアンプを作っている人の中には、ごくごく少数なのだろうが、
20W以上の出力を取り出している──つまり300Bにそれだけ無理をさせている──例もあるときいている。

たしかにウェスターン・エレクトリックが発表している300Bの動作例の中に、17.8Wと数字がある。
ただしこれはMaximum Operating Conditionsとして発表されているもので、
プレート電圧450V、グリッドバイアス-97V、プレート電流80mA、負荷抵抗2kΩでの17.8Wである。

20Wの出力を300Bのシングルで実現するには、これ以上のプレート電圧、プレート電流をかけることである。
又聞きなので、そのアンプの詳細ははっきりしない。
話をしてくれた人も真空管アンプ、さらには300Bに対する深い知識は持ち合わせていない人だったこともある。
その人によると、その動作でも300Bはヘタらない、らしい。

実はいま市場に多く出回っているウェスターン・エレクトリックの300Bのほとんどは
驚くほどタフな真空管でもある。
なぜなのかは、その300Bがどういう用途で造られたのかを知れば納得のいくことだ。
直熱三極管ということで、繊細で無理な動作は絶対にできない球というイメージをもたれている方もいると思うが、
そういうイメージをくつがえすほどに300Bはそうとうにタフである。

ただし、ここに陥し穴があって、だからといってそうそう動作をさせているアンプに、
さらにいい音を求めようとして初期の300B、300Bの刻印のモノ、とか、300Aを挿したら、どうなるか。

その結果については、あえて書かない。
ウェスターン・エレクトリックが発表しているデータシートには、No.300-A & 300-B VACUUM TUBESとある。
これがどういう意味を持っているのかについて考えることが出来れば、
300Bのシングルアンプで20W前後の出力を取り出そうとは思わないはずだ。

300Bという真空管に特別な思いいれを持たずに、
数ある出力管のひとつ、さらにはトランジスターを含めて厖大な数の増幅素子のひとつとしてだけ捉え、
真空管は切れても交換が容易だから、そういう動作をさせて何が悪い、音が良ければいいだろう──。

けれど私は伊藤先生には及ばないものの、300Bには思いいれがある。
だから300Bを、そんな使い方はしない。

それに300Bを並列にして使うことはしたくない。
300Bでできるだけ出力を得たい。
でもプッシュプルにはしたくない、だから300Bを2本並列のシングル動作で出力をかせぐ。
そういう使い方をしている人、アンプがあるのは知っている。

でも私は300Bシングルで出力が足りなければ、プッシュプルにする。
これは考え方の違いだから、並列シングルに文句をつける気はないし、
市販されているアンプでそうしているものに対してとやかくいう気はない。

ただ私自身が300Bのアンプを作るとしたら、シングルかプッシュプルかであって、
並列のシングル、並列のプッシュプルには絶対にしない、ということだ。

トランジスターの並列使用には抵抗感はない。
真空管アンプでも市販品の並列使用のアンプにも特に抵抗感はない。
300Bを4本使い、並列のプッシュプルにすれば定格内の使い方であっても50Wの出力が得られる。
でも、それが自分で作るとなると違ってくる。

それに300Bを使用した市販アンプでまともなモノは、ひとつもない。
つまりは自分で作るしかないのだ。
(そう思うのは300Bへの思いいれがあるためなのはわかっている……)

Date: 7月 3rd, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その82)

どういう音をもとめるかにもよるけれど、
実際にクロスオーバー周波数が100Hzのスピーカーシステムのコイルに空芯タイプを使うことはない。
もっと直流抵抗を低くする必要があるから、Jantzen audioのラインナップから選ぶとすれば、
鉄芯入りの5160ということになる。
5160の直流抵抗は0.83Ω。

0.83Ωという、それでもまだ高い直流抵抗と感じるけれど、
18mHというコイルの大きさからすれば、この直流抵抗はそうとうに低い値といえる。

このコイルがパワーアンプとウーファーのあいだに介在しているわけだ。

しかも18mHはあくまでも12dB/oct.の遮断特性での値であって、
18dB/oct.となるとコイルはさらにもうひとつ増える。これも直列に入る。
このとき19.1mHと6.4mHとなる。
24dB/oct.となると、コイルの値はさらに増す。24.08mHと12nmHである。

しかもネットワークはコイルだけでは成り立たない。
コンデンサーも必要となる。
クロスオーバー周波数が低いと、コンデンサーの容量もやはり大きくなってしまう。
12dB/oct.では141μF、18dB/oct.では265μF、24dB/oct.では316.25μFと69.63μFとなる。
コンデンサーはウーファーの場合(ローパスフィルター)は並列に入る。
そのため直列に入るコイルほどには音質に与える影響は少ないように感じられるが、
アンプの負荷としてネットワークを見た場合には、どうなるのか。

これだけ考えてもKingdomは、そうとうにパワーアンプにとっては厳しい負荷となるスピーカーシステムだろう。
公称インピーダンスは8Ωと、一般的な値であるし、
世の中にはもっと低いインピーダンスのスピーカーシステムは数多い。
けれど、100Hzというクロスオーバー周波数の低さは、
むしろインピーダンスは低くてもクロスオーバー周波数の高いスピーカーシステムよりも、
また違う意味でアンプを選ぶところがある、といっていいだろう。

Kingdomをいくつものアンプで鳴らした経験がないので断言こそできないものの、
私の感覚としては、300Bシングルアンプで鳴らすスピーカーシステムではないわけだ。

Date: 7月 3rd, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その81)

スピーカーを自作した人、
自作していなくてもネットワークを定数を計算したことのある人なら、
クロスオーバー周波数が100Hzということが、
どれだけネットワークの製作(実際にはコイルの製作といっていい)が大変か理解されることだろう。

タンノイのKingdomのネットワークの回路がどうなっているのかわからないので、
一般的な値でいえば、クロスオーバー周波数100Hzで12dB/oct.の場合、
ウーファーに対して直列にはいるコイルの値は18mHとなる。
そうとうに大きな値となってしまう。

実際にどの程度大きなコイルになってしまうのか、を知るには、
スピーカーのネットワーク用のコイルを製造しているメーカー、
デンマークのJantzen audioコイルのカタログをダウンロードしてみれば、すぐにわかる。

Jantzen audioのコイルは0.01mHから700mHまで、実に幅広く、しかも細かく対応している。
インダクタンス値が小さいコイルでは空芯だが、値が大きいものでは空芯と鉄芯入りの両方が、
値がそうとうに大きいものではほとんど鉄芯入りとなっている。

このカタログで18mHのところをみると、6種類のコイルが用意されている。
空芯と鉄芯入れ、それにコイルの巻線の太さが異るからである。

100Hz用のネットワークで使うコイルを空芯でいこうとすると、1699と1717の2つがある。
この2つのコイルの違いは、巻線の太さで1699は0.7mm径、1717は1.2mm径。
重量は1699が440g、1717が1341gと大きな差がある。

巻線の太さ、重量の違いはコイルの直流抵抗の差となっても現れている。
1699の直流抵抗は5.76Ω、1717は2.4Ωで、
1699の5.76Ωは8Ωのウーファーのボイスコイルの直流抵抗値とほぼ同じ値である。

この直流抵抗はアンプの出力インピーダンスにプラスされるわけだから、
その分スピーカー(ウーファーユニット)から見たパワーアンプの出力インピーダンスはその分高くなる。

Date: 7月 2nd, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(続×十八・原音→げんおん→減音)

マーチンローガンのコンデンサー型スピーカーとアルテックのA5は、
見た目からしてずいぶん異るスピーカーシステムである。
それでも、このふたつは、アンプからの電気信号を音に変換する器械(スピーカー)である。
用途に多少の違いはあるものの、どちらもいい音を聴き手に届けるためにつくられた器械である。

より正確なピストニックモーション、もっといえば完璧なピストニックモーションこそスピーカーの理想である。
そう考えて、完璧なピストニックモーションを実現するために振動板を改良したり、
駆動源になる磁気回路の改良、その他さまざまなところを改良していくことで、
スピーカーの理想像を実現していく。

ピストニックモーションの追求は、
スピーカーとしての理想動作の実現がスピーカーの理想像を具現化する。
そういう考え方なんだろう。

当然、こうやって生れたスピーカーシステムを鳴らすアンプも、アンプとしての理想動作を追求することになる。
スレッショルドのステイシス回路は、
いわばアンプにおけるピストニックモーションの追求だ、というふうに私は受け止めている。

当時のスレッショルドの謳い文句には、
トランジスターを一定電圧、一定電流で動作させることで増幅素子のもつ非直線的なところを取り除き、
いかなる負荷に対しても安定した動作を保証する──、
そういったことだったと記憶している。

こういうステイシス回路とALEPHの回路を比較すると、
マーチンローガンのコンデンサー型スピーカーとアルテックのA5の比較と重なってくるところがある。

ネルソン・パスがALEPHで目指したアンプの理想像とは、
アンプ単体での理想動作ではなく、スピーカーを含めて、さらに部屋(その空気)、
そして人間の鼓膜(これもまた動作は非対称である)をひっくるめたものを俯瞰しての動作の追求にみえてくる。

Date: 7月 1st, 2012
Cate: audio wednesday

第18回audio sharing例会(2002年7月4日)

今月のaudio sharing例会は、7月4日(水曜日)です。
今回のテーマは、2002年7月4日のことです。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 7月 1st, 2012
Cate: 情景

情報・情景・情操(音場→おんじょう→音情・その1)

中学、高校のときは、音場を「おんば」と呼んでいた。
現場を「げんば」と呼ぶし、磁場は「じば」と呼ぶから、「おんば」なんだと思っていた。

おんじょう、と呼ぶようになったのは、ステレオサウンドで働くようになってからだ。
音場は「おんじょう」か「おんば」か、どちらが正しいのか。
現場は、「げんば」とも読むし「げんじょう」とも読む。
現場という単語が使われる状況によって「げんば」であったり「げんじょう」であったりする。

音場は、オーディオの世界ではすくなくとも「おんじょう」と読まれることが圧倒的に多い。
だから、それにしたがって、「おんじょう」と読んでいるわけだが、
「おんじょう」と読むことによって、
原音(げんおん)を「げん」と「おん」に分解して漢字変換したのと同じように、
「おん」と「じょう」に分解して変換することができる。

こんな当て字を思いついた。
「音情」だ。

Date: 7月 1st, 2012
Cate: 挑発

スピーカーは鳴らし手を挑発するのか(その1)

伊藤喜多男先生のことば──
スピーカーを選ぶなどとは思い上りでした。良否は別として実はスピーカーの方が選ぶ人を試していたのです。

ステレオサウンド 72号に載っている。
記事ではなく、上弦(かみげん、と読む。シーメンス音響機器調進所)の広告に載っている。

72号は1984年の秋号。
私はシーメンスのコアキシャル・ユニットを平面バッフルにつけて聴いていた。
それもあって、この伊藤先生のことばは印象深く残っていて、今日ふいに思い出してしまった。

1984年9月に、この上弦の広告をみたときは、ふかく首肯いた。
首肯きはしたものの、それほど実体験としてふかく理解していたわけではかった。

頭だけでなく実感をともなうものとしてふかく理解できるようになるには、それだけの年月がどうしても必要だった。

「スピーカーを選ぶなどとは思い上り」と「スピーカーの方が選ぶ人を試して」いる、
このふたつのことのうち「スピーカーの方が選ぶ人を試して」いることの方が、
若いときに実感できていた。

それはステレオサウンドで働くことが出来ていたからでもある。
本当の意味での使いこなしは、スピーカーに試されているところが実に多い、と感じていたからだ。
だから、私にとってより時間が必要だったのは、「スピーカーを選ぶなどとは思い上り」のほうだった。

スピーカーを何を使うかは、つまりは何を買うか、でもある。
買うためには、それだけのお金が必要でそのお金を出すのは、
たいていの場合、そのスピーカーを欲している本人である。

スピーカーは決して安い買物ではない。
値段の幅は広い。相当に高価なスピーカーもある。
それにすでに製造中止になっていて、程度のいいモノの入手がきわめて困難な場合だってある。

だから場合によっては、ほんとうに欲しいスピーカーをあきらめなければならないこともある。
もしくは先延ばしにするときだってある。

そういうときでも、私たちはスピーカーを、何か選ぶ。
これは主体的な行為であって、やはりスピーカーは選ぶものという気持が、1984年当時の私にはあった。

Date: 6月 30th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(続×十七・原音→げんおん→減音)

音楽信号は、確かに正弦波と違い上下(プラス・マイナス)では非対称である。
けれど、この非対称波形の音楽を信号を正しく増幅するには、
アンプそのものの動作が非対称のほうがいい、という理屈は無理がある。
入力された非対称波形の電気信号を正確に増幅し出力するには理想的な対称動作のほうが理に適っている。

けれどパスが考えたのは、その先のことではないだろうか。
アンプが鳴らすのはスピーカーであり、そのスピーカーが鳴らすのはある限られた空間の中の空気である。
そしてその空気が振動させているのは鼓膜。
これらは対称動作をしているのだろうか。

たとえばスピーカー。
一般的なコーン型ユニットをエンクロージュアに取り付けて鳴らすのであれば、
コーン紙の前面にある空気と後面にある空気の量には大きな違いがあり、これは圧力の違いでもあるはず。
平面バッフルに取り付けたとしても、
コーン型ユニットのフレームの構造、それにコーン型という振動板の形状が前後で非対称であるから、
ここでも対称性はくずれている。
ドーム型ユニット、アルテックA5に搭載されているコンプレッションドライバーになると、
この非対称性はより大きくなる。
しかもA5はコーン型ユニットの515の前面にはフロントショートホーンをつけている。
コンプレッションドライバーにもホーンを取り付けている。

ここがパスが以前使っていたコンデンサー型のマーチンローガンと大きく違いところのひとつである。

コンデンサー型はコーン型やコンプレッションドライバーにくらべると、
ずっと前後の条件は対称性をもっている、といえる。

マーチンローガンの振動膜は指向性改善のためカーヴを描いているけれど、
それ以外は振動膜の前後で異る要素は見つけられない。
いわば対称性の高い発音方式であり、スピーカーである。

こういうスピーカーシステムを部屋のほぼ中央におけば、対称性はより高くなる。
アルテックのA5はもともと非対称性の高いスピーカーシステムであるだけに、
部屋の中央に設置して鳴らしたところで、部屋の空気に対する対称性にはあまり影響はないだろう。

Date: 6月 30th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(続×十六・原音→げんおん→減音)

ネルソン・パスがいつごろからアルテックのA5を使い出したのか、その正確な時期については知らない。
パスのスピーカー遍歴についても、ほとんど知らない、といっていい。
けれど、おそらくパス・ラボラトリーズからALEPHを出す、
つまりALEPHを開発している時からA5を鳴らしはじめただろう、と私は思っている。

つまりアルテックのA5というスピーカーシステムがあったからこそ、
ALEPHという、スレッショルド時代とは大きく方向性の違うパワーアンプを生み出せたのではないだろうか。

ネルソン・パスが800Aを開発していたころのデイトンライトのXG8、
1980年代にパスが自宅で使っていたマーチンローガンのコンデンサー型などが、
対象とするスピーカーシステムであったなら、ALEPHは生れてこなかったか、
もしくは相当に規模の異ったパワーアンプとなっていたと思う。

A5は低音域にはオーバーダンピングの515をフロントショートホーンのエンクロージュアと組み合わせ、
中高音域には288-16Gコンプレッションドライバーと大型ホーンとの組合せ。
お世辞にもワイドレンジとはいえない、ナローレンジの高能率のスピーカーシステムである。

パスがなぜA5にしたのか、そのきっかけがなんなのか、については知らない。
どういう心境の変化がパスにあったのかはわからない。
とにかくパスが、それまでとはまったく異るスピーカーシステムに変えた、という事実だけがはっきりとしている。

ALEPHについて、パスは非対称動作をうたっている。
この非対称動作については、パスが書いた詳細なものがあればぜひ読んでみたいと思っている。
非対称動作についての是非は判断が難しいところだし、対称がいいという理屈もわかるし、
パスが言いたいこともわかる。結局、出てくる音が良ければ、それで良しとするしかない。

だから私は非対称動作か対称動作、どちらが正しいか、ということよりも、
なぜパスが非対称動作という考えに到ったのか、その過程にこそ興味がある。

そのひとつがアルテックのA5の存在でないか、と思うのである。

Date: 6月 29th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その17)

ダンピングファクター可変機能を搭載したアンプとして、
しかもここではタイトルに「D130」とつけているのだから、
絶対に忘れてはならないアンプにはJBLのパワーアンプがある。

ここでいうJBLのアンプとはいうまでもなく1960年代に登場した
SE401、SE400S、SE460といった一連のシリーズのことである。

これらのアンプにはイコライザーカードが用意されていた。
SE401用は左右チャンネルを1枚にまとめていた。
SE400Sからは左右チャンネルが分けられるようになって、
カードの型番はM11からM25までとF65の計16枚が用意されていた。

これらイコライザーカードを挿し込むことで、
スピーカーシステムに応じた周波数特性、ダンピングファクターが設定される、というものである。
具体的には、どの程度特性が変化するのか、
そのへんに関する資料を私は持っていないので詳しいことは書けないけれど、
これらのアンプと一緒に出ていたプリメインアンプのSA600の出力インピーダンスは0.35Ω、
そのパワーアップ版のSA660が025Ωだから、SE401、SE400Sの出力インピーダンスもこの値といっていいはず。

ということは0.35Ωで8Ω負荷だとダンピングファクターは22.8になる。
16Ω負荷だと、その倍の45.6になる。

このころのJBLのスピーカーシステムは推奨ダンピングファクターが発表されていて、
その値は意外に低いものだったと記憶している。
ただ手元に資料がないし、旧い記憶ゆえ間違っている可能性もあるけれど、
たしかパラゴンは1から4(もしくは1から8ぐらい)だったはずだ。

ただし、このパラゴンがどの時代のパラゴンかははっきりしない。
最初の150-4Cをウーファーとしたパラゴンなのか、途中からのLE15に変更されたパラゴンなのか。

もっとも、この推奨ダンピングファクターが、すべてのアンプに対してあてはまるというわけではなく、
やはり当時のアンプに対しての値であるものだし、
さらにはJBLのパワーアンプを使って、ということとみることもできる。

あくまでも目安のひとつでしかない、と受け止めるべき、この推奨ダンピングファクターではあるけれど、
D130が生れた当時のアンプのダンピングファクターは、決して高い値ではなく、
むしろ低い値、おそらく1から4ぐらいまでだった、と推測できる。

となると、D130をマランツの管球式パワーアンプ、JBLのパワーアンプとイコライザーカードの組合せ、
ヤマハB4といったアンプで鳴らしてみたら、どういう変化をみせるのか──、そんなことを考えているわけだ。

Date: 6月 28th, 2012
Cate: 「本」

オーディオの「本」(Retinaディスプレイ)

facebookページ機能を利用して「オーディオ彷徨」となづけた岩崎先生のページを公開していることは、
ここで何度か書いているとおりで、その「オーディオ彷徨」では岩崎先生の文章だけでなく写真も公開している。

主にスイングジャーナルでの試聴風景の写真で、カラー写真はほんのわずかでほぼすべてモノクロといっていい。
しかも紙質のよくないモノクロページに掲載された写真をスキャンして、というものだから、
最初からクォリティは期待できないことはわかっていた。

紙が薄いので裏側の写真や文字が透けてスキャンされることもあるし、粒子も粗い。
それでも写真が伝えてくれるものが、ある。
だから、公開している。

ステレオサウンド編集部にいたころは、実は試聴風景の写真は、
私が担当しているページには、あまり載せたくない、というのが本音だった。
正直、試聴風景の写真の必要性をほとんど感じていなかった。

それがいまではスイングジャーナルの試聴風景の写真が(それが粗い、クォリティの高くない写真であっても)、
伝えてくれるものに、試聴風景の写真の必要性を強く感じている次第である。

試聴風景の写真も形だけでは面白くない。
ほんとうに試聴中のワンショットであれば、そこから読み取れることは意外にも多い。
だからせっせとスイングジャーナルに掲載された写真をスキャンしているところである。

とはいえ、やはり写真が粗い。お世辞にも美しい写真とはいえない。
せめて元の紙焼き写真をスキャンできればずっとクォリティは高くなるけれど、それは無理。
それにスキャンすれば、どんなに注意深く、その作業を行っても、
スイングジャーナルに載っている写真のクォリティよりも良くなることはない、と思っていた。

そう思い込んでいたから、パソコンのディスプレイで「オーディオ彷徨」の写真を見ていた。
iPhoneで見ることは、実はつい先日までしてこなかった。

iPhone 4SのディスプレイはAppleがRetinaディスプレイと呼ぶ、高い解像度をもつものだ。
「オーディオ彷徨」で公開している写真は、一応300dpiでスキャンし、そのまま公開している。
そうやって公開している写真をretinaディスプレイで見ると、
元の、スイングジャーナルに掲載された写真を見るよりも、美しく感じられる。
意外だったけれど、嬉しい驚きでもあった。

Retinaディスプレイの解像度の高さと、液晶ディスプレイのバックライトの存在によるものだろう。
iPhoneだからディスプレイそのものは大きくない、けれどRetimaディスプレイによって、
「オーディオ彷徨」の写真を見るのが楽しくなった。

いま発売されているiPadもRetinaディスプレイになっている。
まだ、新しいiPadで「オーディオ彷徨」の写真を見てはいない。
けれど期待通りの美しさだ、と思っている。

新しいiPadのディスプレイ品質でもう充分というわけではないが、
やっとここまで液晶ディスプレイが来た、という感じがしている。
それも片手でもてるiPadで、この高解像度を実現している。

今年の暮までには、また電子書籍の形で公開を予定している本がある。
いままではePUB形式で公開してきたけれど、次からはiPadのみに、あえて絞っていく。

プラットホームを限定するなんて、時代に逆行している、と思われる人のほうが多いだろう。
でも、電子書籍をよりよいものにしていくには、プラットホームを限定していく必要性を、
私はいまのところ強く感じている。
(といいながらも、私自身、まだ新しいiPadにはしていない……)

Date: 6月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その16)

ヤマハのB4の出力インピーダンス可変機能に、
真空管アンプ時代のときのダンピングファクター可変機能と同じようにプラスしていくだけでなく、
-1Ωという、マイナスしていくようにしたのは、スピーカーケーブルの抵抗成分を打ち消すためである。

B4は1978年の新製品である。
このころはスピーカーケーブルで音が変ることがすでにひろく常識となりつつあったころである。
そしてケーブルによって音が変化するというのであれば、
ケーブルの理想はケーブルが、つまりは存在しないこと、長さ0mということであり、
それに近づけるためにオーレックスとトリオはリモートセンシング技術を応用して、
スピーカーケーブルまでもNFBループに含めてしまった。

オーレックスの方式はクリーンドライブ、トリオはシグマドライブと名付けていた。
これらの技術はB4よりも約2年あとに登場している。
たしかフィデリックスもリモートセンシングは採用していた、と記憶している。

クリーンドライブは通常のスピーカーケーブルのほかに1本ケーブルを追加、
シグマドライブは2本追加することになる。

スピーカーケーブルまでがNFBループに含まれるということは、
NFBループが長くなってしまう、ということでもある。
アンプの中だけの済んでいたNFBループがアンプの外にまで拡がってしまい、
そのためループの大きさはスピーカーケーブルの長さによっては、
アンプ内だけのときと比較すると何倍にもなってしまう。

クリーンドライブは聴く機会がなかったけれど、シグマドライブは何度か聴く機会はあった。
確かに、その効果はあるといえばある。理屈としては間違っていない、と思う。
ただ、スピーカーケーブルの種類、その長さ、引回し方、それとスピーカーケーブルをとりまくノイズ環境、
これらによって、ときとしてシグマドライブにしてもクリーンドライブにしても不安定になることも考えられる。

その点、ヤマハのB4はスピーカーケーブルの抵抗成分だけを、
アンプの出力インピーダンスをマイナスにすることで打ち消し、
ケーブルの長さ0mに疑似的に近づけようとしているだけに不安定要素は少ない。

もっとも抵抗成分を打ち消しても、ケーブルのパラメータとしてはほかの要素がいくつも絡み合っていて、
それらに対してはクリーンドライブやシグマドライブのほうが有効といえる。

ヤマハにしてもオーレックス、トリオにしても、
このとき、これらのメーカーはスピーカーケーブルをアンプ側に属するものとして捉えていた、ともいえる。
別項「境界線」で書いていることとも関係している。

Date: 6月 27th, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その80)

タンノイのウェストミンスターを300Bのシングルアンプ(それも伊藤先生製作のアンプ)で鳴らしたい、
ということは、この項の追補でもある「ワイドレンジ考(ウェストミンスターとブラームス)」に書いたとおりだ。

ではKingdomを鳴らすアンプとして300Bシングルを持ってくるかといえば、
いちどは興味本位で試してみたい気持はあるけれど、ここで使いたいアンプは新しいパワーアンプである。
それも出力もある程度以上のものであってほしい。

Kingdomの出力音圧レベルは92dB/W/mと発表されている。
オートグラフやウェストミンスターと比較するとけっこう低い値だ。
聴く音楽をかなり限定し、音量もそうとうに控え目であれば300Bシングルでも鳴る、といえても、
その限定された枠内でKingdomがもつ能力が十二分に発揮できるかといえば、
実際に試してみないことにはもちろん言い切れないことではあっても、やはり無理だと思う。

五味先生はオートグラフを鳴らすアンプに、さまざまなアンプを試された上でマッキントッシュのMC275を選ばれ、
カンノアンプの300Bシングルもそうとうに気に入られていた。
オートグラフであれば、ウェストミンスターと組み合わせるのとはすこし違う意味で、
私だって300Bシングルをもってきたい。これはもう興味本位の組合せではない。

けれどKingdomは、私の中ではタンノイにおけるオートグラフの後継機種ではあっても、
スピーカーとしての性格がオートグラフ、ウェストミンスターはラッパと呼びたくなるものであるに対し、
Kingdomはラッパと呼ぶことは、ない。
そういう違いがはっきりとオートグラフとKingdomにはあり、
その違いが組み合わせるアンプの選択に直接関係してくる。

Kingdomのウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は100Hz。
JBLの4343では300Hzだった。
LCネットワーク式のスピーカーシステムで100Hzという値はそうとうに低い周波数であり、
組み合わせるアンプの範囲の狭さと難しさを、このスピーカーを使おうと思っている者に意識させてしまう。