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Date: 2月 26th, 2012
Cate: iPod

「ラジカセのデザイン!」(その2)

私が自分のモノとしたラジカセはモノーラルだっただけでなく、スピーカーもフルレンジだけだった。
そのころ2ウェイのラジカセは存在していたのだろうか。
もしあったとしても高価なラジカセだったろう。まだこのころはフルレンジが主流だった。口径も大きくなかった。

モノーラルでフルレンジのラジカセは、
私の世代にとって学生時代のパーソナルなオーディオ機器といえなくもなかった。
そういう世代はどのへんからどのへんまでなんだろうか。
ラジカセもしばらくするとステレオが当り前になっていったし、
スピーカーもフルレンジ1発からトゥイーターを加えた2ウェイが登場し、
量販店の店頭に並んでいるラジカセをパッと見た感じでは、2ウェイの方が多いように感じた時代もあった。
そして大型化していったようも感じている。

ラジカセがそんなふうに変っていったのには、いくつかの理由があるのだろうが、
ひとつにはソニーのウォークマンの登場も大きく関係しているように思える。
カセットを聴くためだけで、それもヘッドフォンのみ。そのかわり小型・軽量で手軽に持ち運べる。
外で音楽を聴くための道具としてのラジカセの役割は、ある程度ウォークマンにとって代られたのではないのか。
だからあれほど大型になっていった……。

これは、あくまでもラジカセへの興味をほとんど失っていた者が横目でちらちら見ていての感想にすぎないのだが、
モノーラル・フルレンジのラジカセを使っていた私などには、
ある時期のステレオ・マルチウェイの大型ラジカセは、大きすぎる物体であって、
中学生だった頃、目の前にラジカセをおいて、しんみりグラシェラ・スサーナの日本語の歌を聴いていた、
あの頃の心境には、なれそうにもないと感じてしまう。

たしかにステレオのラジカセが欲しい、と思っていた。
それはあくまでも、
そのとき使っていたラジカセより少し大きい程度でステレオになったモノが欲しかったのであって、
大きすぎるラジカセが欲しかったわけではない。

音量にしてもそうだった、ことを思い出す。
バカでかい音を出せていたわけではない。
だからラジカセを野外に持ち出してガンガン鳴らそうという発想はまったくなかった。

そんなふうにラジカセと接してきた。

Date: 2月 26th, 2012
Cate: 川崎和男

一度だけの……

オーディオのことで、たった一度だけ神頼みしたことがある。

「音は人なり」だから、神頼みしたところでどうにかなるものではないことは重々承知している。
けれど、あのときだけは「どうか、いい音で鳴ってください」と心の中でお願いしていた。
音が鳴りはじめるまで、何度も何度もそう神頼みしていた。

かけてもらったCDの前奏が流れてきた。
それまでの2曲とは、鳴り方が違う、と感じていた。
私だけが感じていたのか、そのとき、あの場所にいた人たちみながそう感じていたのかは確認していない。
とにかく安堵した。これならば、絶対に絶対にうまく鳴ってくれる、そう確信できた。

カレーラスの歌がきこえてきた。
「川の流れのように」をホセ・カレーラスがうたう。
このCDから、この曲を選んでよかった、と、やっと思えた。

後にも先にも、神頼みしたことは、この一回きりである。
これから先のことはわからない。
けれど、このとき、神はいるのかも……と想っていた。

いまから10年前の7月4日のこと。

Date: 2月 25th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その6)

ステレオサウンド 47号には、前号(46号)の特集、モニタースピーカーの測定結果が掲載されている。
この測定結果も実に興味深いものだが、ここではその一部、つまり2405に関することだけを書く。

47号には10機種(アルテック602A、キャバス・ブリガンタン、ダイヤトーンMonitor1、JBL・4333A、4343、
K+H・O92、OL10、スペンドールBCIII、UREI・813、ヤマハNS1000M)の実測データが載っている。
これらのデータで首を傾げてしまったのが、4333Aと4343の超高域周波数特性だった。
いうまでもなく4333Aと4343のトゥイーターは2405。
なのに実測データをみると、同じトゥイーターが付いているとも思い難い違いがあった。
4333Aと4343ではLCネットワークに違いはあるというものの、2405に関してはローカットだけであり、
47号に掲載されている超高域周波数特性の、
それも20kHz以上に関してはLCネットワークの違いによる影響はないもの、といってよい。
なのに、47号のデータはずいぶん違うカーヴを描いている。

もしかすると2405のバラツキなのかも……、と思ったりしたが、確信はなかった。
ステレオサウンドで働くようになって、2405はバラツキが意外と多い、という話も耳にした。
このときはそうかもしれないぁ、ぐらいに受けとめていた。

ステレオサウンドを離れてけっこう経って、ある方からある話を聞いた。
実はNHKはJBLのスタジオモニターの導入を検討していたことがあった、という話だった。
最終的にはJBLは採用されなかったのだが、その大きな理由が2405の、予想以上のバラツキの大きさだった。
導入台数が1ペアとか2ペアといったものではなく、
ひじょうに大きな台数であっただけにバラツキの大きさは無視できない問題となった、ときいた。

結局、2405の、それもアルニコ時代のものは、
クサビ状イコライザーとダイアフラム間の精度(工作精度、取付け精度)にやや問題があり、
周波数特性でのバラツキが出ていた、らしい。
(おそらく、この問題はシリアルナンバーが近いから、連番だから発生しない、ということではないはずだ。)
この点は後期のものでは改良されたようで、
それがいつごろからなのかははっきりしないものの、
少なくともフェライト仕様の2405Hでは解消されている、ときいている。

もちろん2405のアルニコ・モデルすべてに大きなバラツキがあるわけではないけれど、
バラツキのまったくないスピーカーユニットというのも、少し極端な言い方をすれば、ひとつもない、といえる。
スピーカーユニットは、大なり小なりバラついているモノである。

この事実を、どう受けとめるかは、結局はその人次第のはずだ。

Date: 2月 24th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続×五・ある記事を読んで)

1981年の週刊FMだっと記憶しているが、瀬川先生の連載が始まった。
カラー見開き2ページの記事で、瀬川先生が惚れ込んでいるオーディオ機器について書かれたもので、
マークレビンソンのML2が取り上げられていたのは、いまでもはっきりと憶えている。

そこにはML2の保護回路についてふれられていた。
なんでもML2の保護回路はアンプ本体にけっこうな量の水をかけても、
瞬時に保護回路が働きスピーカーを保護する、と。
実際に試したことのある人はいないだろうが、
当時 ML2の内部写真を見るたびに、この基板はなんだろう、と思っていたことがある。

ML2の内部はフロントパネルのすぐ裏に電源トランスがあり続いて平滑用の電解コンデンサー、
そしてプリント基板が2枚、垂直にメイン基板に挿さっている。
このうち1枚は電圧増幅用のものだとすぐにわかる。
でものこる1枚はいったいなんなのだろうか、とML2が登場したときから考えていた。
それが瀬川先生の記事を読んで、やっとわかった。2枚目のプリント基板は定電圧回路と保護回路である。
ML2はそれだけ、音だけではなく安全面でも完璧を目指したモノであった。

ML2の出力は8Ω負荷で25W。Aクラス動作で、消費電力は常時400W(片チャンネル)。
たいへんな無駄飯食いなアンプだが、4Ω負荷では50W、2Ω負荷で100Wと、理論通りに出力が倍々と増えていく。
ML2が登場したとき、4Ω負荷でも8Ω負荷時の出力の2倍になるもの、ごくごく一部のもので、
そういったアンプでも2Ω負荷では頭打ちになってしまっていた。
ML2はそれだけの電源の余裕とともに、それに見合ったアンプ回路の設計、
そしてアンプの動作を見守りスピーカーを保護する回路のバランスが見事にとれていたからこそ、
あれだけのパフォーマンスを実現していた、ともいえるだろう。

日本のアンプで、ステレオサウンド 64号の測定で保護回路が働いてしまうアンプは、そのへんはどうだったのか。
保護回路が働くアンプはどれだったのかは64号を読めばわかるようになっている。
ローコスト機ではなく、意外にもコストをかけたアンプで保護回路が働いている。
とうぜん、これらのアンプはそのブランドのトップモデルであったりして、
電源部も余裕のある設計を謳っているし、それに出力段もきちんとしたものであるにもかかわらず、
8Ω/1Ω瞬時切替えでは、出力を上げると保護回路が働くということは、
出力段のトランジスターに流れる電流を検出していて、
ある一定値以上になると保護回路が働くようになっているのだろう。

電源部には出力段が要求する電流を供給するだけの余裕がある、
出力段は負荷が要求する電流を供給できるだけの設計になっている、のは、
保護回路を外した状態での測定結果、その音質からも容易に想像できることだ。
なのに、その実力を保護回路で抑えつけてしまっている、と私は見ている。
だから、もったいないことだ、と思うし、
ML2のように3つのバランスがとれたアンプではない、ともいいたくなる。

Date: 2月 23rd, 2012
Cate: iPod

「ラジカセのデザイン!」(その1)

青幻舎という京都の出版社から「ラジカセのデザイン!」という本が出ていることを、今日、Twitterで知った。
出先だったけれど、iPhoneからfacebookグループのaudio sharingに、
こういう本が出ています、とだけ投稿したら、興味をもってくださった方が私が思っていたよりも多かった。

ラジカセはラジオ・カセットレコーダーの略称だろうが、
いわゆるラジカセと呼べるモノがピークだった時代は、
青幻舎のページにもあるように1970年から80年にかけてである。
80年代半ば以降になると、ラジカセはCDラジカセと呼ばれるようになっていく。
そしてラジカセと呼ばれていたころの形と、CDラジカセと呼ばれるようになってからの形は、
けっこう変っていったように記憶している。

「ラジカセのデザイン!」は、こういう本が出ている、ということを知っているだけで本を手にしたわけではない。
それに80年代にはラジカセへの興味も薄れていたので、市場に出ているラジカセを丹念に見ていたわけではない。
それでも80年代終りから90年はじめにかけてのCDラジカセが、量販店の店頭にずらりと並んでいる様は、
私がラジカセが欲しくてたまらなかった時代とはすっかり変っていた、
のではなく変り果てていた、といいたくなる。
(私ひとりだけのことかもしれないけれど、見ていて気持ちのいいものではなかった。)

中学生のとき、ラジカセは自分専用の音楽を聴くための機器だった。
その意味ではオーディオ機器ともいえる。
私が住んでいた田舎では中学生のアルバイトできなかった。
だから月々の小遣いと親の手伝いをしてもらうお駄賃(といっても100円程度である)を、
それ小学生のときからこつこつ貯めてやっとラジカセを買った。モノーラルのラジカセである。
当時ステレオのラジカセもあったのかもしれないが、大半のラジカセはモノーラルだったし、
中学生がそうやって貯めた金額で購入できたのはモノーラルのラジカセしかなかった。
(そういえばマランツ・ブランドのラジカセもあった、と記憶している。)

ステレオ放送のFMを録音してもモノーラル、ミュージックテープを買ってきて聴いてもモノーラル。
これがステレオになったら、どんなふうに鳴るんだろうかと想像することもあったけれど、
自分専用のラジカセで聴くのは、それでも楽しいものだった。

Date: 2月 23rd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続々続々・ある記事を読んで)

保護回路がアンプを保護するのは悪いことではないし、いいことではある。
けれど、その保護回路が音を悪くしていたとしたら、
それも軽微ではなく、かなり音に影響を与えていたとしたら、どうだろうか。

保護回路が入っていない、もしくはまともな働かないパワーアンプが異常を来したら、
最悪スピーカーの破損につながる。さらにひどい場合にはスピーカーのコーン紙を燃やしてしまうことすらある。
そんなことを未然に防ぐためにも、保護回路は必要なものではある。
けれど、アンプの回路設計が各社様々であるように、保護回路の設計も各社様々である。
そしてアンプの音質とは、アンプの回路設計と保護回路の設計、ともに優れていなければならない。
どんなに優れたアンプであっても、保護回路が、そのアンプの動作を抑圧するようなものであったら、どうなるか。

ステレオサウンド 64号の測定では、国産アンプの保護回路の在り方を、
間接的にではあったが知ることが出来たと思う。
あくまでも安全面を優先したアンプでは、1Ω負荷に対して、保護回路が働いてしまう。
1Ω負荷なんてものはあり得ない、という考え方からなのかもしれないし、
そういう非常に低いインピーダンスが負荷となることがおかしな状況と、設計者が判断してなのか、
それとも会社の方針としてなのか、そのへんは外部の人間にははっきりとしないが、
がちがちの安全面の保護回路の動作をみると、ついルンバを作れない(作らない)、
日本の家電メーカーと共通する因子がオーディオ専門メーカーにもあるように思えてしまってならない。

実は64号の測定のとき、あるメーカーの技術者に協力していただき、
そのメーカーのアンプの保護回路を外して測定している。
誌面に載せているデータは保護回路付きのものであるが、
保護回路を外したときのデータは、誌面に載っているデータよりもずっといい結果だった。
ひじょうに優れた結果でもあった。
つまり、そのアンプはそれだけの能力を持っている、にもかかわらず、その良さをそうとうにスポイルしている。

それは特性面のことだけではない。
実際に保護回路を取り外した状態の音は、そのアンプに感じていた個人的不満を見事に解消していた。
こんなに瑞々しい音を出してくれるのか、そして、なんともったいないことなのか、と、
おそらく保護回路付きの音、保護回路なしの音を聴くことができた人なら、全員がそう思うはずである。

Date: 2月 22nd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続々続・ある記事を読んで)

8Ω/1Ωの負荷インピーダンス瞬時切替え時の波形の理想は、きれいなサインウェーヴである。
だが実際には1/4波ごとに8Ω/1Ωと切り替わるためサインウェーヴのプラス側のピーク、マイナス側のピークで、
波形のズレ(落込み)が生じるものが大半である。

といっても出力が低い(8Ω負荷6.125W時)場合には、ほとんどでアンプで波形のズレはあまり目立たない。
優秀なアンプでは10%以内ですんでいる。それ以上の落込みのあるアンプもある。
出力を増した状態での波形となると、6.125W時とほとんど変らないアンプもあれば、
ズレが大きくなるアンプも出てくる。
ここで問題となったのは国産アンプいくつかは保護回路が働いてしまう、ということだった。

8Ω負荷6.125Wでは問題なく測定できても、
8Ω負荷の最大出力と同じ値を1Ω負荷で出そうとして測定すると保護回路が働くと測定できない。
出力に波形が出てこないからだ。
それで保護回路が働かないぎりぎりのところまで出力を下げて測定している機種がいくつかある。
これは、記憶に間違いがなければすべて国産アンプで生じた現象である。

このことが、国内家電メーカーがルンバを作れない(作らない)理由とかぶさってくる。

パワーアンプには、とくにトランジスターアンプにはほぼどんなアンプにも保護回路がついている。
この保護回路は、何を保護するものだろうか。
パッと浮ぶのは、スピーカーの保護である。
アンプになんらかの異常が起った時、スピーカーの破損を防ぐためのものが保護回路という印象が強いが、
保護回路はアンプそのものも保護している場合(そういう設計)もある。

64号の測定で出力が落とさなければ保護回路で働いてしまうアンプは、
どうもアンプを保護する意味あいの強い保護回路のような気がしてしまう。

Date: 2月 22nd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続々・ある記事を読んで)

負荷インピーダンスを1/4波ごとに8Ω/4Ωを瞬時に切り替える状態での高調波歪率は、
そのグラフを見ると、こうも違うものかと驚く。

ステレオサウンド 52号、53号での測定結果はすでに知っているわけだから、
ある程度の予測はしていたものの、実際に測定器に示される値をグラフにしていくと、
差の大きなアンプでは二桁近い歪率の悪化が見られる。

高調波歪率のグラフには3本の線が描かれている。
1本目は8Ω負荷、2本目は4Ω負荷、3本目が8Ω/4Ω切替え負荷である。
念のためいっておくが、すべて抵抗負荷である。52号、53号で使われたダミースピーカーではない。
アンプにとって、もっともいい数値を出しやすい抵抗負荷の8Ωと4Ωに瞬時に切替えるだけで、
アンプによっては驚くほど歪率が悪化(そのカーヴも大きく異る)するのがある一方で、
ここでも52号、53号でのダミースピーカーでの歪率が抵抗負荷とほぼ同じ歪率を示すモノがあったように、
ほぼ変化しないアンプがあるのも、また事実である。

64号では高調波歪率はあくまでも参考データ扱いで、掲載されているのは9モデル分で、
国産アンプと海外アンプの区別はつけてあるものの、どれがどのアンプかは明記していない。
もっとも丹念に見ていけば、どのアンプなのかはおおよその見当はつく。

64号の測定のメインは、瞬時電力供給能力のほうである。
こちらもやはり1/4波ごとに抵抗負荷の8Ωと1Ωにトライアックで自動的に瞬時に切替えて、
そのときの電流波形を写真で捉えている。
掲載されている写真は2枚で、1枚は8Ω負荷時での出力が6.125W時(つまり1Ω負荷時で50Wになる)のもの。
もう1枚は1Ω負荷時に8Ω負荷時の最大出力となるもの(8Ωで100Wのアンプであれば、8Ω負荷12.5Wとなる)。
さらに棒グラフでどの程度供給能力が低下するのかをパーセンテージで示したものも掲載している。

この測定結果は全アンプ掲載されている。

Date: 2月 22nd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続・ある記事を読んで)

ステレオサウンド 64号には、特別寄稿として、
「現代にはびこる特性至上主義アンプの盲点をつく──これでもアンプはよくなったといえるのだろうか」という、
長島先生による7ページの、今回の測定に関する記事がある。

ステレオサウンドは52号、53号で抵抗負荷での歪率測定だけでなく、
アンプ測定用のダミースピーカー(三菱電機によるもの)を負荷としたものも測定している。
たいていのアンプ(特に国産アンプ)は、抵抗負荷時の歪率のほうが低い。
アンプによってはかなり差が出ているものがあった。
抵抗負荷時には逆レの字型の歪率のカーヴを描くのに、
ダミースピーカーが負荷となると歪率が違うだけでなくカーヴそのものも変化するものも多い。

海外アンプはというと、おもしろいことに抵抗負荷時よりもダミースピーカー負荷時の歪率ほぼ同じというモノ、
さらにダミースピーカー負荷時の歪率のほうが低い、というモノも数は少ないながらも存在していた。

サインウェーヴを入力してアンプの負荷に抵抗を接続した状態の物理特性を、一般に静特性というが、
実際にアンプがシステムに組み込まれると、入力信号はサインウェーヴではなく音楽信号に、
負荷も抵抗からスピーカーシステムへ、となる。
この状態での物理特性を動特性とすれば、
聴感とより密接に結びつくのは静特性よりも動特性であることは容易に想像できるものの、
それでは動特性をどう測定するかは難しい問題でもある。

ステレオサウンドがダミースピーカーを使ったのは、
少しでも動特性を測定するための工夫であり、
64号での負荷インピーダンスを瞬時に切り替えるというのも、そういうことである。

実際の測定はサインウェーヴの山が一番高くなった時点で負荷インピーダンスを8Ωから1Ω(もしくは4Ω)に、
トライアック(双方向性スイッチング素子)を使い瞬時に切り替える。
サインウェーヴが0Vにきたところでまた切り替え8Ωにし、今度はマイナス側の山のところでまた1Ω(4Ω)にする。
つまり半波の半分、1/4波ごとに負荷インピーダンスを自動的に瞬時に切り替えて、
パワーアンプの瞬時電力供給能力の実態を視覚化するとともに、
いくつかのアンプでは高調波歪率も測定している。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: ジャーナリズム, 正しいもの, 測定

測定についての雑感(ある記事を読んで)

10日ほど前の産経新聞のサイトに、
日本の家電メーカー各社がルンバ(掃除ロボットと呼ばれている製品)を作れない理由、
といった記事が公開されていた。

記事には、パナソニックの担当者の発言として「(ルンバを作る)技術はある」としながらも、
商品化しない理由として、「100%の安全性を確保できない」ことをあげている。

たしかにアイロボット社のルンバも、使っている人にきくと完璧なモノではないらしい。
それでも便利なモノで、結局は使っている、とのこと。
けれど、日本のメーカーは、産経新聞のサイトによると、
掃除ロボットが仏壇にぶつかりロウソクが倒れると火事になる、とか、
階段から落下して人にあたる、とか、
よちよち歩きの赤ちゃんの歩行の邪魔して転倒させる、とか、
こういったことがクリアーされないと、日本の家電メーカーは商品化に及び腰になる、と読める。

この記事を読んでいて思い出したのは、ステレオサウンドで行ったアンプの測定のことだった。
64号の特集は「スピーカー相性テストで探る最新アンプ55機種の実力」で、
プリメインアンプとセパレートアンプを、
ヤマハのNS1000M、タンノイのArden MKII、JBLの4343B、
この3種のスピーカーシステムで試聴する内容。
測定も長島先生によって行われている。

64号では1機種当りのページ数は2ページ。
ページのゆとりはあまりないけれど、ここでの測定は、それまでとは違い、
負荷インピーダンスを測定中に瞬時に切り替えるというものだった。
パワーアンプの瞬時電力供給能力を測定する、というものだ。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その5)

JBLのトゥイーター、2405を最初に写真で見た時、
ホーン型といわれてもすぐにはどういう構造なのか理解できなかった。
JBLのホーン型トゥイーターの075は写真を見れば、すぐにわかる。
それに較べると2405は、不思議な形をしているものだ、と感じた。

仮に075が2405と同じ周波数特性をもっていたとして、
4343のトゥイーターとして075(そのプロ仕様の2402)がついていたら、
4343の印象とずいぶんと違ったものになっていたことは間違いないし、
そうだとしたらステレオサウンド 41号の表紙を見た時に、これほど強くは魅かれなかった可能性もある。

2405は、075とは違う系統のトゥイーターのようにも思えていた。
だとしたら、2405はどうやって生れてきたのか。

10年ほど前か、2405は最初オーディオ用のトゥイーターとして開発されたものではなくて、
警察がスピード違反を取り締まるため、その測定用のモノとしてつくられ、
聴感上も特性上も好ましいモノだったので、のちにオーディオ用として使われていった、という話を聞いた。

この話をしてくれた人も細部の記憶があやふやで、それが事実なのかはっきりとはしなかった。
075の形、2405の形を見れば、それも頷けるものの、もっとはっきりとしたことが知りたかった。

スイングジャーナル 1978年6月号にJBLproのゲイリー・マルゴリスのインタヴュー記事が載っている。
そこに24045のことが語られている。
     *
最初このツイーターは、ある鉄道会社の依頼で列車の連結台数を数える超音波の発信器として作ったのですが、これが特性的にも聴感的にも優れたもので、現在2405と呼ばれるものです。
     *
2405についての話は細部は違っていたものの、
もともと測定用の超音波発生器として開発されたものであることは事実だった。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: ベートーヴェン, 正しいもの

正しいもの(その6)

断わるまでもなく私はオーディオ・マニアである。気ちがい沙汰で好い再生音を希求してきた人間である。大出力アンプが大型エンクロージュアを駆動したときの、たっぷり、余裕を有って重低音を鳴らしてくれる快感はこれはもう、我が家でそういう音を聴いた者にしかわかるまい。こたえられんものである。75ワット×2の真空管アンプで〝オートグラフ〟を鳴らしてきこえる第四楽章アレグロは、8ワットのテレフンケンが風速三〇メートルの台風なら五〇メートル級の大暴風雨だ。物量的にはそうだ。だがベートーヴェンが苦悩した嵐にはならない。物量的に単にffを論じるならフルトヴェングラーの名言を聴くがいい。「ベートーヴェンが交響曲に意図したところのフォルテッシモは、現在、大編成のオーケストラ全員が渾身の力で吹奏して、はるかに及ばぬものでしょう。」さすがにフルトヴェングラーは知っていたのである。
     *
上に引用した文章は五味先生の書かれたものだ。
「人間の死にざま」に収められている「ベートーヴェンと雷」の中に出てくる。
だから第四楽章アレグロとは、交響曲第六番のそれである。
75ワット×2の真空管アンプは、説明する必要はないだろうが、マッキントッシュのMC275のこと。
テレフンケンとは、テレフンケン製のS8のスピーカーシステム部のことで、
8ワットは、300Bシングルのカンノ・アンプのことだ。

この項の(その4)で引用した中野英男氏の文章の中に、
「シャルランはあのレコードの存在価値を全く認めていなかったのである」と。
あのレコードとは、若林駿介氏の録音による、
岩城宏之氏指揮のベートーヴェンの交響曲第五番とシューベルトの未完成のカップリングのレコードのこと。
中野氏は、「日本のオーケストラの到達したひとつの水準を見事に録音した素晴らしいレコード」と書かれている。
そのレコードを、シャルランは全く認めなかったのは、
結局のところ、引用した五味先生の文章が語っていることと根っこは同じではなかろうか。

どんなに素晴らしい音で鳴ろうが、交響曲第六番の四楽章をかけたとき、
それが「ベートーヴェンが苦悩した嵐」にならなければ、それはベートーヴェンの音楽ではない。

シャルランが言いたかったことは、そういうことではないのだろうか。

Date: 2月 20th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その4)

ページ数が以前のようにとれないのであれば、
製品の写真を小さくして、測定データも小さい扱いでもいいから、という意見はあるだろう。
けれどステレオサウンドが測定を始めたころと時代は大きく違っている。
測定データのグラフは、小さな扱いでは細かいところまで読み取りにくくなるから、
どうしてもある程度の大きさは必要となってくる。

ステレオサウンドは、なぜ測定を始めたのか。
それは、当時はメーカー発表の測定値(カタログに載っているデータ)にいいかげんなものが少なくなかった、から。
カタログに発表されている値がほんとうに出ているのかどうかを検証するために始めた、というふうに聞いている。

測定をはじめた当初は、ずいぶんメーカーの発表値とステレオサウンドでの実測値が違うモノがあったそうだ。
つまりカタログに載っている値を満たしているものは、わずかだったらしい。
そうなるとメーカーの信頼にも関わってくることなので、カタログに載っているデータは正しいものとなってきた。
そういう時代があったわけだ。

そうなってくるとステレオサウンドが測定をする意義も変化していくことになる。
それまでのようにただメーカーの発表値のチェックだけでは意味のないことであり、
そういうものを誌面を載せるのこそ、無駄であるから。

メーカーがやっていない(もしくはやっていたとしてもカタログに発表していない)測定を行なうのも、
ステレオサウンドが測定を行なう(続けていく)意義となる。

Date: 2月 20th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その78)

リークもQUADも、
コントロールアンプも交流点火としているのは、パワーアンプの入力感度の高さが関係しているようにも思う。

真空管アンプの時代もそうだったし、
トランジスターアンプが主流になってもしばらくはイギリスのパワーアンプの入力感度は全般的に高かった。
アメリカのパワーアンプが入力1Vで最大出力が得られるのに、
イギリスのパワーアンプは50mV、100mVという値だった。10倍から20倍、感度が高い。
つまりアメリカのアンプでコントロールアンプでゲインを稼ぎ、
イギリスのアンプはパワーアンプでゲインを稼いでいた、ゲイン配分といえる。

ただ、なぜイギリスはこういうゲイン配分としたのか、その理由は正直よくわからない。
もしかするとBBCの規格がそうだったのかもしれない、とは思うのが確証はない。

リーク、QUADが交流点火だったのは、
スピーカーシステムの能率が低いせいではないか、と思われる人もいるかもしれない。
たしかにQUADのESLは低い。
けれどリークやQUADと同時代にはタンノイ、ヴァイタヴォックスの大型システムが存在していた。
これらのスピーカーシステムと組み合わせられることもイギリスでは多かったはず。

事実、五味先生がタンノイにオートグラフを発注された時、
タンノイに「いかなるパーツを使用すべきや」と問合せされたとき、
タンノイからの回答は、カートリッジはデッカ、トーンアームはSME、アンプはQUADであった、と
「オーディオ巡礼」(ステレオサウンド刊)所収の「わがタンノイ・オートグラフ」に書かれている。

オートグラフの能率であっても、QUADの22のS/N比で特に問題はない、ということだろう。
となると、イギリスのメーカーが交流点火でも実用的なS/N比を確保できていたのは、
アメリカ勢(マッキントッシュ、マランツ)に使われていた真空管の製造メーカー、
イギリス勢(リーク、QUAD)に使われていた真空管の製造メーカーの違いが、
理由としてはいちばん大きいのではなかろうか。

アメリカ勢とイギリス勢では、直流点火と交流点火という違いがあり、
アメリカ勢のマッキントッシュとマランツはどちらも直流点火ではあるものの、
まったく同じとはいえない違いがある。

Date: 2月 19th, 2012
Cate: 五味康祐

続・長生きする才能(その3・思い出したこととある映画のこと)

ジャクリーヌ・デュ=プレは1987年10月19日に亡くなっている。
このころは、まだ新聞を購読していた。デュ=プレが亡くなったことは新聞記事で知った。
大きなショックはなかった。けれど、デュ=プレが多発性硬化症だと知った時に、
治療法を見つけ出してやろうと思っていたことを、ずっと忘れていたことをデュ=プレの訃報記事は思い出せた。

もしもオーディオにのめり込まず違う道を選択していたとしても、
1987年の時点では私はまだ24歳だった。多発性硬化症の治療法なんて見つけ出せるはずがない。
土台無理なこと……。

デュ=プレが亡くなってから10年数年経ったころ、ある映画を観た。
「ロレンツォのオイル/命の詩」(原題:Lorenzo’s Oil)を観た。
この映画が日本で公開されたのは1993年、私はDVDになってから、この映画のことを知り観た。

実話に基づく映画である。
多発性硬化症ではないけれど、ここでも副腎白質ジストロフィーという難病が出てくる。
映画のタイトルのロレンツォは、主人公のひとり息子の名前。副腎白質ジストロフィーの患者だ。

ロレンツォの両親は医者ではない。医学知識を持った人たちではない。
だから最初は治療法(というより医者)をとにかく探し求める。けれど見つからない。
そして自力で治療法を見つけようとする。ロレンツォを助けるためにあきらめない。

結論を書いてしまうと、治療法を見つけ出す。
タイトルからもわかるように、ある特定のオイルがそれである。
映画のエンディングには、
ロレンツォのオイルで副腎白質ジストロフィーから回復した子供たちの写真が映し出されていた。

ロレンツォの両親の、治療法を見つけ出すまでの行動こそ、死に物狂いというのだろう。
ロレンツォの両親の、そういう姿を見ていて、また昔のことを思い出していた。

デュ=プレが多発性硬化症だと知った時に思っていたことだ。

ようするに私は死に物狂いになれなかった。
つまりは他人事でしかなかったわけだ。
どれほどジャクリーヌ・デュ=プレのエルガーのチェロ協奏曲に感動した、と言ったり書いたりしていても、
遠いイギリスに住む人の、他人事だったから、死に物狂いになる、そのずっと手前のところにしかいなかった。

「続・長生きする才能」を書き始めて、そのことを思い出していた。