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Date: 1月 10th, 2014
Cate: 純度

純度と熟度(その3)

あるオーディオマニアが自分のためのアンプをつくる。
それが仲間内で、音がいい、と話題になり、
メーカーを興したらどうか、ということになり、オーディオメーカーをつくった。

こんな話が、以前はよくあった。
1970年代だけに限らない。

マランツにしても、最初はこれと似たようなところからのスタートである。

まわりにいるオーディオの仲間というのは、
どんなに多くの人がそこにいようとも、
実際に会社を興し市場に乗り出すことに比べれば、圧倒的に小人数でしかない。
それは小さな世界での評価であり、
それがいきなり大きな世界に参入するということは、
どんなに仲間内で評価が高くとも、必ずしも成功するとは(高い評価をえるとは)いえないし、
仲間内での評価よりもずっと高い評価を得ることだってある。

自国ではそれほどではなくとも、他の国では高く評価されることだってあり得る。

自分が欲しいと思うアンプ、自分が理想と考えるアンプ、
とにかくそういうアンプを製品化することで世に問うわけで、
評価とともに、仲間内では得られなかった指摘もフィードバックされる。

仲間内とは、往々にして好みの合う人たちの集団であったりするのだから、
そこでの音の評価は多少の違いはあっても、大筋では一致していても不思議ではない。

だからそこでの評価にどっぷりと浸ってしまうのか、
そこから抜け出して、広い世界からの評価に飛び込んでいくのか。
それをどう受けとめ、どう次の製品にいかしていくのか。

それによって、「音」が変っていく。

Date: 1月 10th, 2014
Cate: 純度

純度と熟度(その2)

ガレージメーカーという言い方がある。
オーディオでは、1970年代ごろから盛んに使われるようになってきた。

この時代、アメリカでは、アンプメーカーを中心として、
ガレージメーカーというしかない規模のオーディオメーカーがいくつも誕生していった。

マークレビンソンのそのひとつであり、GAS、AGI、DBシステムズ、クレル、スレッショルド、
カウンターポイント、コンラッド・ジョンソン、ビバリッジ、スペイティアルなどがある。
思いつくまま書き並べていって、すくにこれだけ出てくるし、
あまりブランドだけを書いていってもあまりここでは意味がないのでこのへんにしておくが、
雨後の筍といえるほど、多くのガレージメーカーが生れ、消えていったメーカーも多い。

このころよく引き合いに出されていたのが、マークレビンソンの成功であり、
マークレビンソンに刺戟されて、というメーカーも実際にあったようだ。

マーク・レヴィンソンというひとりの男(オーディオマニア)が、
自分のつくりたいアンプをつくり、世に問い成功した。
ならば、同じように自分のつくりたいアンプをつくり世に問う人が、レヴィンソンに続いた。

1970年代のオーディオは、ベンチャー企業でもあった。
だから企業した人すべてがオーディオマニアだったのかどうかは断言できない。
電子工学を学び、とにかく成功したい、ということでオーディオのメーカーを興した人がいても不思議ではない。

でも多くのガレージメーカーの主宰者(創業者)は、オーディオマニアだった、と私は思っている。

Date: 1月 9th, 2014
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(Saxophone Colossus・その6)

だが、まだビリー・ホリデイのLady Dayはかけずに(かけられずに)いる。
理由は特にない。
ただ、まだ鳴らすには早いような気がしているだけだ。

Date: 1月 9th, 2014
Cate: 程々の音

程々の音(その21)

何もコーネッタとほぼ同時代のアンプにこだわっているわけではない。
いいアンプであれば時代は問わない。
にも関わらず、私の中ではコーネッタを鳴らすアンプとして、
トランジスターならスチューダーのA68、真空管ならマイケルソン&オースチンのTVA1が、まずある。

ではコントロールアンプはなんなのか。
スチューダーは業務用ということもあってコントロールアンプはない。
TVA1には一応あることにあるけれど、クォリティ的にTVA1と合わない。

瀬川先生は「コンポーネントステレオの世界 ’77」ではマークレビンソンのLNP2を、
A68と組み合わされているわけだし、LNP2とA68、確かにいい組合せとも思う。

TVA1には瀬川先生はアキュフェーズのC240をもってこられている。
これもいい組合せだし、どちらがいい組合せということも決めるようなものではない。

ただLNP2は、ここでの組合せにはやや高すぎる。
A68の、ほぼ倍の価格である。
となると、C240とA68の組合せはどうだろうか。
合うような、うまくいかなそうな、なんともいえないけれど、候補としては残しておきたい。

LNP2が高すぎるから、といって候補から外しておきながら、
コーネッタの価格からすれば、C240とTVA1、C240とA68にしても、
アンプにシステム全体からすれば重きをおきすぎている。

このふたつのアンプの組合せを高すぎるとしたら、
いっそのことプリメインアンプでまとめたほうがいい気もする。

──こんなふうにコーネッタの組合せを、頭の中で組み立てている。
人はどうなのかわからないけれど、私は組合せをあれこれ考えていくのを楽しみとしている。

オーディオ機器の中には、こうやってこちら側の想像を逞しくしてくれるモノが、
いつの時代にも存在している。

Date: 1月 9th, 2014
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その29)

演奏会で前の方で聴きたいから、ということで、
タンノイからジェンセンのG610Bにスピーカーを替えられた長島先生にとって、
ESLのトリプルスタックもまた、演奏会での前の方で聴く音だった。

長島先生は前の方で、山中先生の聴き方もそうだと思っている。
だが、クラシックを聴く人のすべてが前の方で聴きたい、と想っているわけではなく、
中ほどの席で聴きたい人もいるし、天井桟敷と呼ばれるところで聴きたい、という人もいる。

いわば音源との距離をどうとるのか。
ここでの音源とは、スピーカーと聴き手の距離のことではないし、
スピーカーのどの位置に音像を結ぶのか、その音像と聴き手との距離のことでもなく、
そういった物理的な距離とは異る、
スピーカーそのものが本来的に持つ鳴り方に起因するところの、音源との距離感ということになる。

1980年ごろまでのイギリスのスピーカーは、概ね、やや距離を置いた鳴り方をする傾向が強かった。
BBCモニター系のスペンドール、ロジャース、KEFなど、
アメリカや日本のスピーカーほど音量を上げられないということも関係して、
ひっそりと鳴る感じを特徴としており、そのひっそりと鳴るということは、
眼前で楽器が鳴っているという感じとは結びつかない。

このことは録音の場における、楽器とマイクロフォンとの位置関係にも関係してくることであり、
ピアノの録音にしてもオンマイクで録るのかオフマイクで録るのか、で、
楽器との距離感には違いが出るのと同じである。

Date: 1月 9th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(ホーンのこと・余談)

ウーファーだと、15インチ・ウーファーとか38cmウーファーという言い方をする。
振動板の口径とユニットの種類を組み合わせているわけだ。

最近ちょっと気になっていることがある。
2インチ・ドライバーとか、1インチ・ドライバーという言い方・書き方である。

これでも通用するといえばそうなのだが、
私もこんな言い方をする人に対して、もうあえて訂正しないようになってしまったが、
通常スピーカーユニットの場合、サイズは振動板の口径のことである。
だが、2インチ・ドライバー、1インチ・ドライバーの場合、
2インチ、1インチが示しているのはドライバーのダイアフラムの口径ではない、
ドライバーの前面、つまりホーンとの取り付け面に開いている穴の口径である。

正しくは2インチスロート、1インチスロートというべきところを、
昨今のなんでも略したがる傾向が、こんなところにまでおよんで、
2インチ・ドライバーという、へんてこな表記になってしまっている。

最近ではオーディオ雑誌でもドライバーとホーンの組合せの記事が載っているわけではない。
市場にも、昔のような各社からドライバーやホーンがあるわけでもない。

そういう時代だから、こんなこまかいことをいっても、
多くの人にとってはどうでもいいことになってしまっているのかもしれない。

けれど、このままにしておけば、
ますます2インチ・ドライバー、1インチ・ドライバーなどという言葉の方が残っていくような気もする。

Date: 1月 9th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(続々続々ホーンのこと)

1980年ごろ、ヴァイタヴォックスからスロートアダプターが登場した。
A-S、A-H、S-Aである。

A-SはヴァイタヴォックスのホーンCN481に、
JBLの1インチスロートのコンプレッションドライバー2410、2461、2470、2420、LE175、LE85、
アルテックの同じく1インチスロートの802-8D、802-8Gの取り付けるためのものである。

A-HはヴァイタヴォックスのCN481に、
JBLの2インチスロートのコンプレッションドライバー2440、2482、375を取り付けるためのもの。

S-AはヴァイタヴォックスのコンプレッションドライバーS2、S3を、
JBLのホーン、2390、2395、2356、2311、2328に取り付けるためのもの。

これが好評だったのか、
さらにP4536、P4469が追加された。

P4536はヴァイタヴォックスのカットオフ周波数220HzのマルチセルラホーンCN123に、
JBLの2インチスロートのドライバーを取り付けるためのもの。

P4469はヴァイタヴォックスのホーンCN121に、
JBLの2インチスロートのドライバーを取り付けるためのもの。

CN121もCN123と同じカットオフ周波数220Hzのマルチセルラホーンだが、
セルの数が10から8になっている。

スロートアダプターといえば、ウェストレックスの時代に、
T550Aホーンにアルテックの288Bドライバーを取り付けるためのものもあり、
ウェストレックスの16型スピーカーシステムは、このドライバーとホーンの組合せを中高域に使っている。

1970年代には神田オーディオセンター(と記憶している)が、
288-16Gを537-500に取り付けるためのスロートアダプターを製品化していた。

きちんとした設計・製造のスロートアダプターがあれば、
メーカーが異るホーンとドライバーの組合せが可能になり、
つまりはヴァイタヴォックスのS2とJBLの537-500の組合せもできるわけだ。

ヴァイタヴォックスはロンドン・ウェストレックスの親戚のような会社である。
ということはS2を537-500に取り付けることは、いわば正統的な組合せともいえる。

この組合せは家庭用としても、クラシックを主に聴く人にとっても、
魅力的なホーンとドライバーの組合せではないだろうか。
すくなくとも私にとっては、もっとも聴いてみたい組合せだ。

Date: 1月 9th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(続々続ホーンのこと)

ウェストレックスの劇場用スピーカーシステムとして、T501Aがある。

T510Aウーファーを二発、フロントローディングホーン付のエンクロージュアに収めたもので、
さらに幅224cm、高さ228cmのバッフルがつく。

中高域を受け持つのが、T530AとT550Aである。

かなりの大きさの劇場用である。
これだけのスピーカーシステムをそなえる映画館ともなれば、
30フィート以上の距離まで音を届けなければならない。

奥行きが30フィート(9.144m)しかないような劇場にT501Aは設置されないはず。
だとすればT550Aホーンには、
JBLの他の音響レンズ付のホーンのような、30フィートという使用条件はついていなかったと見て間違いない。

T501AのネットワークはT507Aで、
これもふくめてすべてのユニットには、
Westrex by JAMES B. LANSING SOUND INC.
とはいっている。

537-500(蜂の巣)ホーンは、劇場用としても使われていた。
となると、ここで妄想が浮ぶ。

Date: 1月 8th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(続々ホーンについて)

JBLの音響レンズ付ホーンの、使用可能距離に制限がついていたことは、
実はステレオサウンド 25号の瀬川先生の「良い音とは、よいスピーカーとは?」にも書かれている。

ここで、537-500はどうだったろのだろうか、とも書かれている。
537-500はのちのHL88のことであり、あの蜂の巣ホーンのことである。

同じ蜂の巣(パーフォレイテッドプレート型)でも、1217-1290が1インチスロート用に対して、
537-500は2インチスロートであり、大きさも重量もずいぶん違う。

このふたつのホーンを並べて置いてみると、
ひとつひとつを見ているよりも違いの大きさに驚くかもしれない。

537-500も使用条件として、30フィートまでという制約があったのか。

これははっきりといえるが、なかったはずだ。

ウェストレックスのコンプレッションドライバーにT530Aがある。
T550Aとホーンがある。

これらのドライバーとホーンを製造していたのは、JBLであり、
T530Aは375、T550Aは537-500に相当する。

Date: 1月 8th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(続ホーンについて)

JBLのプロフェッショナル用スピーカーのカタログには、
コンシューマー用スピーカーのカタログには記載されていない注意書きがある。

Where the length of throw does not exceed 30 feet.
30フィートを越える距離には放射できない、とある。

30フィートは9.144m。

この注意書きがあるのは、Acoustic Lenses Family に関してである。
つまり音響レンズ付のホーンに関しての注意書きである。

2305(コンシューマー用の1217-1290のプロ用、LE175DLHのホーン/レンズ)、
2391(HL91ホーンのプロ用)が、それにあたる。

9.144mといえば、家庭内で聴くとき、
これ以上スピーカーとの距離が長くなることは、よほどの広さの部屋でしかありえない。

つまりコンシューマー用ホーンに音響レンズしかラインナップしていなかった理由のひとつが、
ここにあると考えていいだろう。

プロフェッショナル用に、音響レンズ付ホーンと、
なしのラジアルホーンやディフラクションホーンが用意されているのは、
プロフェッショナルの現場として、録音スタジオとコンサートホール・映画館という、
スペースが大きく異る空間があるためだろう。

Date: 1月 8th, 2014
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その28)

ステレオサウンドにいたころ、ESLを買ったことを長島先生に話した時、
スイングジャーナルでのトリプルスタックの音について話してくださった。
そして、こういわれた。

「スイングジャーナルに、まだあの時のフレームがあるはずだよ」

あの時のフレームとは、 QUAD・ESLのトリプルスタック用のフレーム(スタンド)のことを指している。
つまり、私にESLのトリプルスタックをやってみなよ、ということであった。

あのころであれば、まだESLの程度のいいモノをあと二組手に入れるのは、そう難しいことでもなかったし、
費用もそれほどかからなかった。
その面では特に障害はなかったけれど、
さすがにトリプルスタックをいれるだけの天井高のある部屋に住んでいたわけではなかったから、
住居探しをまずやらなければならなくなる。

音は、長島先生が熱く語られていたことからも、良かったことはわかる。
かなりいい結果が期待できる──、とはいうものの、
背の高いスピーカーに対する強い拒否反応はないというものの、
トリプルスタックのESLの高さとなると、話は違ってくる。

天井高が十分にあり、広さも十分にとれる部屋にいたとしても、
トリプルスタックに挑戦したか、というと、なんともいえない、というのが正直なところである。

それでもトリプルスタックの音だけは、一度聴いてみたかった。

Date: 1月 8th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(その14)

ラックスのSQ301の写真は、もしかすると以前もみていたと思う。
こんな曖昧な書き方をするのも、数年前に見た写真のインパクトが大きかったからである。

私が、「これは瀬川先生のデザインだ」とほぼ瞬間的におもってしまったSQ301の写真とは、
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」シリーズのラックス号において、である。

カラーグラビアページがある。
「思い出のラックス製品」というページだ。
扉には昭和10年に発売されたテスター、LUX-2005が載っている。
次の見開きにはトランス、ロータリースイッチ、ノブなどのパーツが並んでいる。
その次の見開きには、ピックアップ、マイクロフォン、ホーンが、
その後の見開きには、ラジオ受信機LUX-667、アンプLUX-753が出てくる。

このあたりからアンプメーカーとしてのラックスの製品が登場してくる。
さらに見開きは続いて、KMR5とKMV6、MA7Aのページ、
SQ5B、SQ38D、SQ77、SQ11といったプリメインアンプが、
30H112、S2 Miniといったスピーカーシステムをバックにしたページがあり、
その次の見開きにSQ301が登場する。

この見開きはSQ301の上にSQ77Tを、少し角度をつけた写真が載っている。

この写真こそが、私が「瀬川先生のデザインだ」とおもってしまった写真である。

この記事の写真は、おそらく亀井良雄氏の撮影のはずだ。

Date: 1月 8th, 2014
Cate: オーディオ評論, 瀬川冬樹

オーディオ評論家の「役割」、そして「役目」(300Bのこと・補足)

ステレオサウンド 8号に掲載されている瀬川先生のステレオギャラリーQの300B/Iの記事、
読みたいという希望をありましたので、the Review (in the past)で公開しました。

ステレオサウンド 8号には、池田圭氏による「300A物語」も掲載されている。

Date: 1月 7th, 2014
Cate: オーディオ評論

オーディオ評論家の「役割」、そして「役目」(300Bのこと・その5)

ウェスターン・エレクトリックの劇場用アンプで、91型アンプがある。
このアンプが、伊藤先生の300Bシングルアンプの、いわば原器である。

Sound Connoisseurにて、伊藤先生は91型アンプについて書かれている。
     *
音質が抜群に優れ、故障が少なく、維持費が低廉なため小劇場向きに高評を得ていたが、プリアンプを省いてメインアンプのゲインを高めたため、入力側の結線に細心の注意が必要であり、光電管側の出力トランスの断線が唯一の悩みの種であった。
終段に三極管を用い三段増幅で、よくもこれだけのゲインを稼げたものと思える設計である。負帰還を本格的に用いてフィルム録音特性に対応させた回路をメインアンプに備えたものとして、当時は目を瞠らせたものである。東京地区では歌舞伎座の向い側、いまはない銀座松竹映画劇場に在って僅か8Wの出力で十分に観客を娯しませていたのを憶い出す。
      *
300Bのシングルアンプが、楚々とした日本的な美しい音という枠だけにとどまった音しか出せないのであれば、
「僅か8Wの出力で十分に観客を娯しませ」ることは無理なのではないか。

映画ではさまざまな音が流される。
人の声もあれば、音楽も流される。
それ以外にも効果音と呼ばれる類の音も欠かすことができない。

スクリーンに映し出されるシーンに応じた音が求められ、スピーカーから流される。
そういう場で使われ、観客を娯しませてきた300Bシングルアンプ(91型)である。

300Bについて、
しかもオーディオ評論について書いている項で書いているのか、
察しの良い方は、ここまで読まれて気づかれているだろう。

Date: 1月 7th, 2014
Cate: オーディオ評論

オーディオ評論家の「役割」、そして「役目」(300Bのこと・その4)

300Bはトーキー用のアンプに使われる出力管である。
このことを思い出してほしい。

しかもアメリカの映画館で使われていたアンプの出力管である。

サウンドボーイのOさんから聞いたことがある。
「300Bシングルは、いわゆる日本的なシングルアンプの音ではない」と。
Oさんは続けて「トーキー用アンプの球なんだから」とも。

1982年のステレオサウンド別冊 Sound Connoisseur(サウンドコニサー)に、
伊藤先生の300Bについての記事が載っている。
この記事(というよりサウンドコニサーそのもの)の担当はOさんだった。

この記事のタイトルは、「真空管物語」。
さらにこうつけ加えられている。
「ウェスターン・エレクトリックの至宝 極附音玻璃球」である。

極附音玻璃球は、きわめつきおとのはりだま、と呼ぶ。
300Bのシングルアンプ、それも伊藤先生のアンプを聴いたことのある者には、
この「極附音玻璃球」こそ300Bのことだと、頷ける。