ワイドレンジ考(その5)
スピーカーに関して言えば、周波数、ダイナミックレンジの他に指向特性の広さも、
ワイドレンジの実現に密に関係してくると考えている。
たとえ話として、スピーカーにとって理想の振動板ができたとする。
高剛性で軽量で、内部音速が、従来の素材とは比較にならないほど速いもので、
コーン型フルレンジをつくったとする。
低域も十分カバーするために口径は38cmとする。
理想の振動板なので、高域の再生限界周波数は20kHzをこえている。
帯域内にピークもディップもない。
これでいい音が聴けるかというと、おそらくだめであろう。
コーン型スピーカーの場合、
振動板の最外周の長さと、音の波長の長さが等しくなった周波数あたりから、
それ以下の周波数ではきれいに球面上に広がっていたのが、
それ以上の周波数になると、周囲に広がらなくなってしまう。
38cmのコーン型スピーカーなら、コーンの実際の直径は33cm前後で円周は約1m。
波長1mの周波数は、約340Hz。
つまり、38cmのコーン型のスピーカーでは、
400Hz以上の周波数になると、指向性が徐々に狭まってくる。
どんなに理想の振動板を用いても、これでは良質なステレオ再生は望めない。