世代とオーディオ(その4)
ナカミチのカセットデッキが、いったいどれだけの機種数があったのか数えたことはない。
カセットデッキの専業メーカーといっていいほどのナカミチだっただけに、かなりの数があった。
にもかかわらず半速の録音・再生可能な機種は680ZXだけだった。
オープンリールデッキではテープスピードの切替えは、当然の機能としてついている。
音質優先であれば速いテープスピードで、音質よりも録音時間を優先するのであれば半分のテープスピードに。
それがカセットテープに関しては4.75cm/secの1スピードだけだった。
テープスピードが落ちれば高域の録音・再生限界周波数は、標準速に比較して低くなる。
もともと制約の多いカセットテープにおいて、テープスピードを半分にすることは、
音質的なことを考えるとデメリットが多すぎる。
ナカミチの680ZXは標準速で30kHzまでカバーする再生ヘッドを搭載、
自動アジマス調整機能などにより、半速でも15kHzまでカバーしている。
音質的なことを抜きにして考えれば、FM放送の高域限界も約15kHzであるから、
680ZXの半速の録音・再生の周波数は、これをカバーしている。
680ZXを聴くことはなかったから、はっきりしたことはいえないものの、
半速での音質も、そう悪くはなかった、と思える。
録音・再生時間が倍になっても、あまりにも標準速での録音・再生より音質が悪くなれば、
半速での録音・再生機能は意味をもたないわけだが、
このあたりは、専業メーカーらしいナカミチのカセットデッキだといえよう。
カセットデッキに半速仕様がつくことで、カセットテープの楽しみ方は増す。
その楽しみ方を、当時はあれこれ想像していた。
680ZXは238000円(1980年)していた。
けっこうな値段であるし、高校生には手の届かないカセットデッキだったから、
もうすこし普及価格帯──、
あまり安いモデルでは半速での音質的に満足できないだろうからそこそこの値段にはなるだろうけど、
そういう製品を期待していたし、他社からも出てこないだろうか、と期待もした。
けれど半速のカセットデッキは680ZXで終ってしまった。