バーンスタインのベートーヴェン全集(その12)
グレン・グールドの、シベリウスのソナチネの録音における試みは、
グールドが自身がのちに語っているように、けっして成功とはいえないものである。
アナログディスクで聴いても、1986年にCD化されたものをで聴いても、
グールド贔屓の聴き手が聴いても、やはり成功とは思えないものではあった。
それでもグールドがシベリウスの録音でやろう、としていたことは興味深いものであるし、
1976年からそうとうに変化・進歩している録音技術・テクニックを用いれば、
また違う成果が得られるような気もする。
グールドが狙っていたのは、音のズームである。
そのためにグールドは、4組のマイクロフォンを用意して、
4つのポジションにそれぞれのマイクロフォンを設置している。
ひとつはピアノにもっとも近い、いわばオンマイクといえる位置、
それよりもやや離れた位置、さらに離れた位置、そしてかなり離れた位置、というふうにである。
これら4組のマイクロフォンが拾う音と響きをそれぞれ録音し、
マスタリングの段階で曲の旋律によって、オンマイクに近い位置の録音を使ったり、
やや離れた位置の録音であったり、さらにもっとも離れた位置の録音にしたりしている。
ピアノの音量自体はマスタリング時に調整されているため、
マイクロフォンの位置による音量の違いは生じないけれど、
ピアノにもっとも近いマイクロフォンが拾う直接音と響き、
離れていくマイクロフォンが拾う直接音と響きは違ってくるし、その比率も違ってくる。
だからピアノにもっとも近い位置のマイクロフォンが捉えた音でスピーカーから鳴ってくるピアノの印象と、
もっとも遠くの位置のマイクロフォンが捉えた音で鳴るピアノの印象は異ってくる。
同じ音大きさで鳴るように調整してあっても、
響きの比率が多くなる、ピアノのマイクロフォンの距離が開くほどに、
ピアノは遠くで鳴っている、という印象につながっていく──、
これをグールドは、音のズームと言っていた。