ワイドレンジ考(余談・300Bのアンプのこと)
300Bのシングルアンプの出力は、300Bをどう使うかにもよるけれど、
私の場合は、300Bシングルとは伊藤先生の300Bシングルであり、
それはウェスターン・エレクトリックの91型アンプということになるわけで、
そうなると出力は8Wということになる。
伊藤先生の300Bシングルアンプ3130Aはセルフバイアスでカソード抵抗は880Ω、負荷抵抗は2kΩだから、
おそらく出力は10W近く出ているはず。
300Bの定格表をみれば、シングルでももう少し出力を取り出せる。
300Bシングルをアンプを作っている人の中には、ごくごく少数なのだろうが、
20W以上の出力を取り出している──つまり300Bにそれだけ無理をさせている──例もあるときいている。
たしかにウェスターン・エレクトリックが発表している300Bの動作例の中に、17.8Wと数字がある。
ただしこれはMaximum Operating Conditionsとして発表されているもので、
プレート電圧450V、グリッドバイアス-97V、プレート電流80mA、負荷抵抗2kΩでの17.8Wである。
20Wの出力を300Bのシングルで実現するには、これ以上のプレート電圧、プレート電流をかけることである。
又聞きなので、そのアンプの詳細ははっきりしない。
話をしてくれた人も真空管アンプ、さらには300Bに対する深い知識は持ち合わせていない人だったこともある。
その人によると、その動作でも300Bはヘタらない、らしい。
実はいま市場に多く出回っているウェスターン・エレクトリックの300Bのほとんどは
驚くほどタフな真空管でもある。
なぜなのかは、その300Bがどういう用途で造られたのかを知れば納得のいくことだ。
直熱三極管ということで、繊細で無理な動作は絶対にできない球というイメージをもたれている方もいると思うが、
そういうイメージをくつがえすほどに300Bはそうとうにタフである。
ただし、ここに陥し穴があって、だからといってそうそう動作をさせているアンプに、
さらにいい音を求めようとして初期の300B、300Bの刻印のモノ、とか、300Aを挿したら、どうなるか。
その結果については、あえて書かない。
ウェスターン・エレクトリックが発表しているデータシートには、No.300-A & 300-B VACUUM TUBESとある。
これがどういう意味を持っているのかについて考えることが出来れば、
300Bのシングルアンプで20W前後の出力を取り出そうとは思わないはずだ。
300Bという真空管に特別な思いいれを持たずに、
数ある出力管のひとつ、さらにはトランジスターを含めて厖大な数の増幅素子のひとつとしてだけ捉え、
真空管は切れても交換が容易だから、そういう動作をさせて何が悪い、音が良ければいいだろう──。
けれど私は伊藤先生には及ばないものの、300Bには思いいれがある。
だから300Bを、そんな使い方はしない。
それに300Bを並列にして使うことはしたくない。
300Bでできるだけ出力を得たい。
でもプッシュプルにはしたくない、だから300Bを2本並列のシングル動作で出力をかせぐ。
そういう使い方をしている人、アンプがあるのは知っている。
でも私は300Bシングルで出力が足りなければ、プッシュプルにする。
これは考え方の違いだから、並列シングルに文句をつける気はないし、
市販されているアンプでそうしているものに対してとやかくいう気はない。
ただ私自身が300Bのアンプを作るとしたら、シングルかプッシュプルかであって、
並列のシングル、並列のプッシュプルには絶対にしない、ということだ。
トランジスターの並列使用には抵抗感はない。
真空管アンプでも市販品の並列使用のアンプにも特に抵抗感はない。
300Bを4本使い、並列のプッシュプルにすれば定格内の使い方であっても50Wの出力が得られる。
でも、それが自分で作るとなると違ってくる。
それに300Bを使用した市販アンプでまともなモノは、ひとつもない。
つまりは自分で作るしかないのだ。
(そう思うのは300Bへの思いいれがあるためなのはわかっている……)