「ルードウィヒ・B」(その1)
「ルードウィヒ・B」は手塚治虫氏の未完となった3作品のひとつであり、
タイトルから想像できるとおり、ベートーヴェンを主人公とした作品である。
紙からは音は出てこない。そんな平面の世界──制約だけの世界──で、
一瞬たりとも立ち止まることのない音楽を、どう表現するのか。
手塚治虫の答えが、「ルードウィヒ・B」には、いくつか提示されている。
バッハの平均律クラヴィーアを描いた1コマは、圧巻と言うしかないだろう。
物語がどういう展開になるのかは、もう誰にもわからない。
「ルードウィヒ・B」はおそらく、まだ全体の4分の1くらいのところだったのではないか、
そんな気がしてならない。
ハ短調交響曲を、手塚治虫はどう描き切るのか、
「第九」は……、後期のピアノ・ソナタは……、そのなかでも作品111は、どうなっていっただろうか。
回を追うごとに、手塚氏の表現力は増していっただろう。
私の想像が追いつくことはこないだろう。
それでも、想像をめぐらすしか、他にない。
「ネオ・ファウスト」も「グリンゴ」も続きが読みたかった。
「ルードウィヒ・B」は読みたいだけでなく、せめて1コマでいいから見たかった作品である。