倉俣史朗のデザイン ──記憶のなかの小宇宙(その5)
「倉俣史朗のデザイン ──記憶のなかの小宇宙」では、
図面や写真の展示もあった。
山荘Tという図面と写真があった。
裾広がりの階段の写真と図面である。
その平面図を見ると、ホーン型スピーカーのように見えてくる。
そして、次の瞬間おもったのは、これって、もしかして──だった。
山荘Tの「T」とは、この山荘の持ち主のイニシャルではないのか。
そうだとしたら、田中一光氏の「T」なのではないのか。
展示されているモノクロの写真から受ける印象が、
ステレオサウンド別冊「コンポーネントの世界 ’77」で見た別荘の写真と重なってきた。
別荘V・ハウス「ビルト・インの手法」の写真のことだ。
山中湖にある。
そこにはJBLの4341が、壁にビルトインされていた。
コントロールアンプはLNP2のほかにAGIの511もあり、
パワーアンプはマランツのModel 510M。
レコードをふくめ、これらのオーディオ機器すべて、特別誂えの収納棚にビルト・インされている。
当時、中学二年だった私は、いったいどんな人が、ここに住んでいるのだろうか、
どんな人の別荘なのだろうか、と想像してみたけれど、何もわからなかった。
それから一年後、ステレオサウンド 45号を読んで、田中一光氏の別荘だったことを知る。
このV・ハウスが、山荘Tなのではないのか。
確証は何もない。
ただそう感じただけである。
けれど、世田谷美術館で図録を購入した。
帰宅して、巻末の倉俣史朗年譜を眺めていたら、
1991年のところに、
《山中湖の田中一光氏の別荘を借り、妻の美恵子、長女の晴子とともに過す》とある。
これだけでは何の確証にもならないことはわかっている。
それでも、そうなのか、と思っている。