ワグナーとオーディオ(その9)
夜おそく、ひとりでワグナーをヘッドフォンで聴いていると、
ふとした拍子に、ルートヴィヒ二世よりも、
われわれ現代人は贅沢かもしれない──、とおもう。
ルートヴィヒ二世はワーグナーの作品の上演のためだけの劇場、
バイロイト祝祭劇場の建築を全面的に援助したバイエルン国王なのだが、
そのバイロイト祝祭劇場で、
たったひとりでワグナーを聴くことはかなわなかったのではなかろうか。
特等席といえるところで、周りに人を寄せ付けずにワグナーを聴いていただろうが、
それでも劇場には多くの人がいる、それらの人が視界に入ってくるし、
人の気配も感じてしまう。
ルートヴィヒ二世は、たったひとりでワグナーを聴きたかったのではないのか。
そんなことをふとおもってしまう。
そうおもうと、たとえヘッドフォンであったとしても、
たったひとりで好きな時間にワグナーを、たったひとりで聴ける。
このことは、とても贅沢なこと、そのことに気づく。