それぞれのインテリジェンス(その8)
紀伊國書店で、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトらの教育法、
子育てについて訊ねていた女性は、想像するに幼い子供の母親なのだろう。
その子供が音楽に関心を示し、才能の片鱗を感じさせたのだろうか。
母親として、子供の音楽の才能をのばしたい、
モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトのような音楽家に育ってほしい。
そのためにはどういう子育て、教育法が求められるのか。
それを知りたい一心での問合せだったような気がする。
品のいい女性だった。
年の頃は三十前後か。
おそらく彼女は、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトが、
どういう家庭環境で育ったのか、まったく知らないのだろう。
(その7)で引用した五味先生の文章にあるようなシューベルトを想像していたのだろう。
モーツァルトもベートーヴェンも同じような感じでの想像だったのだろう。
《映画なんかでは、大へんロマンティックな恋をする音楽青年が登場して、伝記風にその生涯が描かれてゆくが、本当は、一度のロマンスにもめぐまれなかったシューベルトは青年》、
まさか梅毒に罹って、苦しみ抜いた青年、
そんなふうにはまったく思っていなかったのだろう。
勝手な、これは私の想像でしかないのだが、
育ちのよさそうな女性の横顔をみていると、そんな気がしてならなかった。