ハイエンドオーディオ考(その2)
瀬川先生は、ステレオサウンド 56号、
トーレンスのリファレンスのところで、最後にこう書かれている。
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であるにしても、アーム2本、それに2個のカートリッジがついてくるにしても、これで〆めて358万円、と聞くと、やっぱり考え込むか、唸るか。それとも、俺には無縁、とへらへら笑うことになるのか。EMT927までは、値上げになる以前にどうやら買えたが、「リファレンス」、あるいはスレッショルドの「ステイシス1」あたりになると、近ごろの私はもう、ため息も出ない、という状態だ。おそろしいことになったものだ。
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56号は1980年に出ている。
そのころの3,580,000円は、ほんとうに高価だった。
1980年は、3,000,000円を超えるオーディオ機器がいくつか登場した年ともいえる。
それまでは2,580,000円あたりが、価格の上限のように思えてただけに、
値段もだけれど、その威容もふくめて、すごいモノが登場したきた、と感じた。
リファレンスは、瀬川先生が熊本のオーディオ店に来られた時に聴く機会があった。
ほんとうにすごい音だった。圧倒された。
高校生の時だった。もちろんすぐに買えるわけではないが、
いつかはリファレンス、と思ってもいた。
そんなふうに思えたのは、
新聞配達のアルバイトでしかお金を稼いだことのない高校生ゆえだったのかもしれないが、
リファレンスは買えるようになるまで、現役の製品でありつづけてくれる──、
そんなふうに勝手に信じ込んでいたからでもある。
それから四十数年。
現在のオーディオ機器の、それぞれのジャンルの最高価格の製品は、
いつかは──、なんて思いもしない。
《ため息も出ない、という状態》なのだが、
それ以上に、そういう非常に高価なオーディオ機器は、
生産台数が最初から決っている。限定のオーディオ機器である。
お金をいま以上に多く稼げるようになって、
買えるようになるくらいにまでなれたとして、
その日には、そのオーディオ機器はすでに製造中止になって久しい。
非常に高価で、しかもごく少数の生産。
そういうオーディオ機器は、それらをポンと買える人にとっては、
まさにトロフィーオーディオである。
でも、そこに、いつかは──、という夢は存在しない。