録音は未来/recoding = studio product(その7)
金田明彦氏と同じコンセプトを謳う録音は、市販されているもののなかにもある。
できるかぎりシンプルな信号経路と、
そうやって録音したマスターを、まったくいじることなく出荷する。
そういうコンセプトのレーベルは、いくつかある。
つまりマスターの音そのままを、できるかぎり聴き手のところに届ける、というわけだ。
そうすることで、鮮度の高い音を届けることができる──。
でも、これはstudio productといえるだろうか。
実演のコピーにしかすぎない。
私はそう考える。
もちろん人によって、このところの受け止め方、捉え方は違ってくる。
いまはデジタル時代だから、
マスターに記録されたデジタルデータそのままを、
自分のところに届けてくれれば、それこそが最高である──、
そういう捉え方はできる。
こう考える人たちは、マイクロフォンが捉えた空気の振動を、
できるだけそのままに届けてほしい、という人たちなのだろう。
いまはそれが可能になりつつある時代でもある。
そういう録音に、まったく興味がないのかと問われれば、
興味はある、とこたえるし、最新の、そういう録音を聴いてみたい、とも思っている。
けれど、それは興味本位のところが、私の場合は、強い。
私が求めているのは、実演のコピーではなく、どこまでいってもstudio productである。
studio productであるからこそ、再生側のわれわれは音量ひとつとっても、
自由に設定できるということを、
実演のコピーを求めている人たちは、忘れているのか、見落しているのか。
REPLY))
studio product…。
スタジオと言うと、英語圏の人にとってはアパートのことを言うときに使いますね。なにか日本で使われているより軽い印象があります。
プロダクトという言葉も、英語圏ではかなり軽いような気がします。作ったものが荒かろうが悪かろうが単にプロダクトと言ってしまうところがあるようですし、動詞はプロドュースになりますが、こちらの意味合いも日本で使われるそれとは比べ物にならないくらいその意味は軽く、かつ広義です。
どうも、海外ではアパートにマイクとデッキを置いているだけでも録音部屋(レコーディオング・スタジオ)と言ってしまえるようなのです。いえ、無論、そういった物理的なことを宮崎さんが仰られたいわけではないことも理解できます。こんなことは非常に表面的なことです。
ただ、もともとの英語の感じだと、優劣やクオリティとは無関係にstudio productと名乗っていいような印象を受けるのです。
私の好きなシンガーソング・ライターにグライムスという人がいるのですが、彼女はDTMもなしに、物凄く安いマイクや機材を使って目も覚めるような未来的な音楽を作り出してしまいます。つぶさに観察して聞いてみると分かるのですが、テープ速度を上げて高域特性を伸ばしたり、それによってタイム感を逆算してスローに演奏したりと、機材ではなく人体のほうでトリックを作り出していることに気がつきます。
彼女は物凄く貧乏で、椅子も無い部屋で床に座って録音していたというんです。ところが、聞くと作品のクオリティは信じがたいほどに高い。彼女は実際にスタジオ(アパート)で録音していたので、これもスタジオ・プロダクトと言えると思うのです。
ただそうすると、ペアマイクのばかちょん録りとの違いというのを、どのようにとらえようか・・・と思ってしまったのです。私の場合、英語圏の人にこれをどう伝えようという考えもあるものですから、それで色々悩んでしまったのです。
宮崎さんのいうstudio productが理解できるだけに、何か違った、もっと狭義の言葉にシフトできないだろうか・・・そんな風に考えています。