アンチテーゼとしての「音」(その17)
清潔な音をめざし、清潔な音を出している──、
そう自負している者は、
清潔であることを損う音は、一切出したくなかった。
つまり聴きたくなかったわけだ。
汚れた音、不清潔な音、雑な音──、
そういった類の音はいっさい出したくない(聴きたくない)。
そのため、そういった類の音を排除するようにつとめる。
けれど、ほんとうに排除できるのか。
本人は、排除できると思っていたであろうし、
排除できていた、と思い込んでいた。
でも、それは清潔な、と本人が思っている音で、覆い隠していただけかもしれない。
いくらは排除できていたとしても、残っていたのが、
澱のようにその奥(底)に、溜っていたようにも感じることがあった。
ほんとうのところは、清潔な音をめざしていた本人も、
その音を幾度となく聴いた私にもわからないのかもしれない。