Date: 1月 17th, 2021
Cate: 終のスピーカー
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無人島に流されることに……(その10)

五味先生が、「音痴のためのレコード鑑賞法」で、こんなことを書かれている。
     *
 ハイドン(一七三二—一八〇九)もバッハにおとらず沢山の作品がある。ことに交響曲と弦楽四重奏曲はモーツァルト、ベートーヴェンなどに多くの教化を与えたもので、秀作も多い。だが、初心者には交響曲を聴くことをすすめる。一般には「軍隊」や「時計」「驚愕」「玩具」など標題つきのものが知られているが、もし私が、百五曲のハイドンの交響曲で何をえらぶかと問われれば、躊躇なく「情熱」(交響曲四九番)と第九五番のシンフォニー(ハ短調)を挙げるだろう。この二曲には、ハイドンの長所がすべて出ているからで、初心者にも分りやすい。
「ハイドンは朝きく音楽だ」
 と言った人があるほど、出勤前などの、爽快な朝の気分にまことにふさわしい音楽である。そしてあえて言えば、ハイドンは男性の聴く音楽である。
     *
無人島に流されることになったら、ハイドンに関しては、
私は交響曲も弦楽四重奏もいらない。
グレン・グールドのハイドンがあればいい。

「ハイドンは朝きく音楽だ」はそのとおりだ、と思う。
けれど、ここでの「朝」は毎日訪れる朝だけでなく、
別の意味の「朝」もあるように、入院している時に感じていた。

退院間近になって、治り始めていることを実感できるようになったときに、
グレン・グールドのハイドンを口ずさんでいた、ということが、そうなのだろう。

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