Date: 6月 21st, 2020
Cate: High Resolution
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MQAで聴けるギレリスのベートーヴェン(その1)

エミール・ギレリスというピアニストの演奏を、
若いころ、なんとなくさけていた。

特に理由もなく、いそいで聴かなくてもいいや、なんて思っていた。
ギレリスよりも先に聴きたいピアニストがいた、ということは理由としてあったけれど、
それ以上の理由はなかった。

まったく聴いていなかったわけではなかったけれど、
聴いていなかった、といったほうがいいくらいの聴き方でしかなかった。

そんな私が、襟を正して聴く、というのは、
こういう演奏に対してなのか、とおもったのが、
ギレリスの最後の録音となったベートーヴェンの30番と31番をおさめたディスクだった。

たまたまステレオサウンド試聴室に、ギレリスのCDがあった。
なぜあったのかは、もうはっきりと思い出せない。

誰かが試聴のために持ってきて、
試聴は数日続くから試聴室に置いていかれたのか。

とにかくステレオサウンドの試聴室で聴いた。
このCDのジャケットのギレリスの表情をみれば、
聴かずにいられる人はいないだろう。

ギレリスの享年は68。
撮影の日時の正確なところは知らないが、録音と同時期なのだろう。
ぞっとする写真だ。

この写真を撮った人は、どう感じたのだろうか。

グレン・グールドのゴールドベルグ変奏曲のジャケットの写真と、
どこか共通するものを感じる。

グールドの写真は、49歳のもののはず。
グールドはなにを眺めていたのか、と、
演奏を聴いたあとでは、誰もがおもうのではないのか。

ギレリスも、なにを眺めていたのか。

吉田秀和氏は、「ギレリス/ピアノ・ソナタ第30番、31番」で、
《こちらを眺めている写真は、もう、これを眺める私たちを通りこして、「死を見つめている」ようなのだ。》
と書かれている。

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