Date: 10月 10th, 2019
Cate: 四季
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さくら餅(その3)

鼻孔をくすぐる──、という。
三はし堂のさくら餅の香りは、まさしくそうだった。

三はし堂のさくら餅によって、
鼻孔をくすぐる、とはこういうことなのか、と実感したほどだった。

三はし堂の和菓子のほとんどは一度は食べている。
でも、さくら餅の香りは格別だった。

三はし堂はすでにない店だ。
もう一度食べたい、というよりも、
もう一度、三はし堂のさくら餅の香りをかぎたい、と思ってしまう日がある。

私は甘いもの好きである。
和菓子も洋菓子も、どちらも好きだ。

でも、こと香りに関するかぎりは、
鼻孔をくすぐるという経験をしたのは、和菓子だけといっていいかもしれない。

洋菓子でも、もちろんいい香りだな、と思ったことは幾度もある。
それでも鼻孔をくすぐる、とまで表現したい経験は、いますぐには思い出せないのだから、
おそらくない、といっていいだろう。

いまは秋。
やっと秋らしい感じが漂ってきている。

春が三はし堂のさくら餅ならば、
秋は中津川すやの栗きんとんである。

三はし堂のさくら餅ほど香ってくるわけではないが、
すやの栗きんとんは、秋らしい香りである。

こう書きながら、秋らしい香りとは? と自分でも考えてしまうけれど、
やっぱりすやの栗きんとんは秋にかぎたい。

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