会って話すと云うこと(その21)
先日、ある人と話をしていた。
瀬川先生の話が出た。
「瀬川先生に会いたかったなぁ」と実感のこもった感じでいわれた。
私より六つ上の人で、
西新宿にあった山水のショールームで定期的に行われていた「チャレンジオーディオ」、
行かれたことがある,という。
けれど、当時はオーディオはまだまだブームだった。
瀬川先生の「チャレンジオーディオ」は盛況だったときいている。
実際、すごい人の多さだったらしい。
その人は、その人のあまりの多さにめげてしまって、
そのまま帰ってしまったそうだ。
定期的に行われていたから、また行ける、という気持があってのことだろう。
その機会が訪れることはなかった。
だからこその「瀬川先生に会いたかったなぁ」という後悔である。
瀬川先生が亡くなられて今年の11月で38年が経つ。
それほどの月日が経ってもなお「瀬川先生に会いたかったなぁ」という気持が、
強くその人の心には残っている。
「瀬川先生に会いたかったなぁ」ということばを聞いた日に、
私はステレオサウンド 210号を読んだ。
黛健司氏の「菅野沖彦先生 オーディオの本質を極める心の旅 その1」を読んだ日である。
「瀬川先生に会いたかったなぁ」と話してくれた人は、
ショールームの奥の端っこでいいから、その場に残っておくべきだった──、
という後悔が残る──、
そのことを強く実感していた。