マリア・カラスとD731(その2)
《カラス至上のレコードは、彼女の最初の〈トスカ〉である。ほぼ二十五年経った今も、イタリア歌劇のレコード史上いぜんとしてユニークな存在を保っている。》
ウォルター・レッグは「レコードうら・おもて」でそう書いている。
カラスは、ヴィクトル・ザ・サバータ/ミラノ・スカラ座と1953年に、
その後、ステレオ時代に入ってからプレートル/パリ音楽院管弦楽団と1964年に録音している。
いまはどうなのか知らないが、1980年代までは、「トスカ」の名盤といえば、
カラスの、この二組のトスカがまず挙げられていた。
CD化されたのは、デ・サバータとのモノーラル盤のほうが先立った。
このこともウォルター・レッグのことばを裏づけていよう。
「トスカ」もかけようと考えていた。
けれど、四時間もカラスばかりかけていたにも関らず、
「トスカ」からは「歌に生き、愛に生き」だけしかかけなかった。
19時からの始まりで、最初にかけたのは「椿姫」。
EMI録音のサンティーニ/RAI交響楽団とによるものは、
カラスひとりだけ素晴らしくても……、とおもわざるをえない。
黒田先生が、以前どこかで書かれていたが、
「椿姫」のヴィオレッタの理想は、絶頂期のマリア・カラスであろうが、
それでもカラスのEMI盤は、名盤とは思えない。
なのに最初に、その「椿姫」をかけたのは、
19時の直前までかけていたのが、ローザ・ポンセルの「椿姫」だったからである。