50年(その1)
あまりというか、ほとんど話題になっていないようだが、今年はステレオLPが誕生して50年目である。
ステレオ録音のはじまりはずっと以前に遡る。
バイノーラルサウンドの発見は、1881年、フランスのクレマン・アデルによってなされている。
ステレオ録音、ステレオディスクの歴史に関しては、
岡先生の「マイクログルーヴからデジタルへ」の下巻をお読みいただきたい。
一時期絶版だったこの本も、オンデマンド出版で購入できる。
1988年、ステレオサウンドからいちばん近いレコード店は、WAVE六本木店で、週に3度は通っていた。
まだオリジナルLPが騒がれる前ということと、CD全盛の時代ということもあって、
グレン・グールドの初期LPが格安で大量に入荷して、まとめ買いしたことがある。
これだけ通っていると、めずらしいレコードを見つけることもある。
ステレオサウンドの記事で紹介したことのあるブラムラインのステレオディスクも、
WAVEで見つけた一枚である。
アラン・ドゥアー・ブラムラインは、1924年からインターナショナル・ウェスタン・エレクトリックで、
国際電話網の建設に従事した後、29年にイギリスのコロムビアに入社している。
コロムビアの研究所にはいったブラムラインは、
ベル研究所の録音用カッターヘッドがバランスドアーマチュア型なのに気がつき、
ムービングコイル型のカッターヘッドの開発・試作を行なっている。
しかもMFBによる改良も実現している。
カッターヘッドだけでなく、
ムービングコイル式(MC型)カートリッジやマイクロフォンの試作も行なっていたらしい。
MC型カッターヘッドの最初の特許は1931年12月14日に申請され、1933年6月14日、
イギリス特許第394325号として登録されている。
この特許には、バイノーラルという言葉で、
現在の45/45方式のステレオ録音と再生に関する原理特許も含まれている。
ブラムラインは、2つのコンデンサー型マイクロフォンを組み合せたMS方式のステレオマイクも開発、
1933−4年ごろ、ステレオディスクの録音・再生のテストを行なっている。
だが当時はまだSP時代だったため、商品化にはいたらなかった。
ブラムラインのステレオディスクは、そんななかの一枚と思われるもので、
ビーチャムの指揮による録音が収められていた。
レーベルはSymposium。LPではなく78回転のSPのステレオディスクである。
とうぜん再生にはSPのステレオカートリッジが必要になる。
海老沢徹氏に、「こういうレコードをみつけました」と連絡したところ、
ひじょうに興味をもっていただき、
ラウンデールリサーチのカートリッジ2118を改造した専用カートリッジをお持ちくださった。
このレコードの詳細は、1988年当時のステレオサウンドに載っている。
出てきた音は、なぜ1958年までステレオディスクが登場しなかったのか──、
解決すべき問題が、いかに多く、20年以上の年月を必要としたことがが、直ちに理解できた。