A CAPELLA(その2)
“A CAPELLA”が、私にとってシンガーズ・アンリミテッドの最初の一枚だったし、
それも自分のシステムではなく、友人のシステムで聴いている。
「ぼくのベストバイ これまでとはひとあじちがう濃密なきき方ができる」で、
黒田先生が取り上げられているの、テクニクスのコンサイス・コンポである。
音質追求、性能追求のあまり、大型化してきていたアンプにおいて、
パイオニア、テクニクス、ダイヤトーン、それにオーレックスが、
コンパクト化を図ったアンプ、チューナーがほぼ同時期に登場したのが、ちょうどこの時期である。
黒田先生はテクニクスのコンサイス・コンポに、
ビクターのS-M3という、小型スピーカーを組み合わせてのシステムを、
キャスターつきの白い台にセッティングして聴かれた五時間について、書かれている。
そのなかに、こうある。
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それぞれの装置の呼ぶレコードがある。カートリッジをとりかえた、さて、どのレコードにしようかと、そのカートリッジで最初にきくレコードは、おそらく、そのカートリッジを選んだ人の、そこで選ばれたカートリッジに対しての期待を、無言のうちにものがたっていると考えていいだろう。スピーカーについても、アンプについても、同じことがいえる。ともかく、あのカートリッジを買ってきたら、このレコードをきこうと、あらかじめ考えていることもあり、カートリッジを買ってきてしまって、後から、レコードを考える場合もある。いずれにしろ、最初のレコードをターンテーブルにのせるときは、実にスリリングだ。
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黒田先生にとってテクニクスのコンサイス・コンポとS-M3の組合せの呼ぶレコードが、
シンガーズ・アンリミテッドのレコードだったわけだ。
私がシンガーズ・アンリミテッドの“A CAPELLA”を最初に聴いたのは、
ロジャースのLS3/5Aで、だった。
偶然にも、小型スピーカーで聴いている。
黒田先生は最後に、こうも書かれている。
《オルネラ・ヴァノーニの歌を、スクリーンにうつすのではなく、ビューアーでみるように、キャスターのついた白い台の前で、きくことにしよう。》と。