オーディオ評論家の才能と資質(その3)
サプリーム 144号に皆川達夫氏も書かれている。
そこから、ここでのテーマに関係してくるところを引用しておく。
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どう仕様もないぐらい鳴りの悪いスピーカーが、あなたの手にかかるとたちまち音楽的なものに生まれ変ってゆく現場をみて、わたくしのような素人にはそれがひとつの奇蹟のように思えたものでした。それもそんな大騒ぎするのではなく、アンプのツマミをふたつ、みっつさわり、コードを2、3回はめ直すだけで、スピーカーはまるで魔法がかかったように生きかえってゆく。そんなことはわたくしだって何回もやっていたのに、どうして瀬川さんがさわるとちがってしまのうだろうと、どうにも納得がゆかなかったのです。
そうした表情のわたくしに、あなたは半分いたずらっぽく半分照れながら、「これはあまり大きい声では言えませんが、オーディオの専門家だからといって誰にでも出来るというものではないんですよ」と、心に秘めた自信のほどを冗談めかしに垣間見せてくださったのも、今ではなつかしく、そして悲しい思い出になりました。
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オーディオ店のイベントに招かれるオーディオ評論家と呼ばれている人たち。
満足のいく音で鳴っていることは、そんなに多くはない、ときいている。
そういうときに、瀬川先生ならば、皆川達夫氏が書かれているように、
《アンプのツマミをふたつ、みっつさわり、コードを2、3回はめ直す》ことで、
スピーカーの音を生き返らせたはずである。
アンプをFMアコースティックに替える、なんてことは、
オーディオ評論家、オーディオの専門家でなくとも、できることだ。
瀬川先生がいわれている、
《オーディオの専門家だからといって誰にでも出来るというものではない》と。
その意味では、アンプをFMアコースティックにかえるという手を選択した人は、
自分の力量を正確に把握している、ともいえるし、
それはプロフェッショナルとしての最低条件でもある。
アンプを替えずに、スピーカーの音をよくしていくことができないことを自覚しているのだから、
オーディオのプロフェッショナルといえるのかもしれない。
だとしても、オーディオの専門家として、
瀬川先生とは違うところに立っているオーディオの専門家でしかない。